〇帝国歴950年1月15日朝
『…先週にプラントのアプリリウス・ワン星系にあるアスカティシア学院で起きた爆弾ドリアン事故ですが、遺伝子検査の結果として銀河連合の南星洋産のものの可能性が高く、輸送中のミスで混入してしまった可能性が高いとのことで…』
『今回の事故による死者は出ていませんが、嗅覚系に軽い障害を持ってしまった生徒も確認されるようで…』
「…アスラン達の所も大変だなぁ…」
プラントにある学校の一つを襲った超強烈悪臭事故から1週間後、それについてのニュースをドゥリュースは訪問中のサンヘリオスにある星界軍施設の一室で形が歪なクッキーを口にしながら聞き入っていた。
『おい、どうしたのヘタレ馬鹿息子王子ー? あんたみたいな陰キャとも友達になってくれた菩薩メンタルの子が送ってきたクッキーを口にしてるくせしてまた陰気な顔をー?』
「…静かに味わってメンタル回復に使わせてもらってるんだから邪魔せんで下せぇ母上…」
そこで権力を使ってそのクッキーを送り付けてきたラムキースが空中に投影された映像付きのリアルタイム通信を掛けてきて、しんみりと落ち着いていたドゥリュースの眉間に少し皺を生じさせた。
「てかあんた今現在どこから通信をかけてきてるんですか?」
『あ? こっち? オーヴへの表敬訪問中で立ち寄ったヘリオポリスで向こうの記者共が揚げ足取りの似たり寄ったりな質問ぶつけてきてそれを言い負かしまくるのに飽きたからカリダちゃんの家にこっそり上がらせてもらってるところ』
「公務中に何をやっとんじゃあんた…」
『大丈夫、とっくに公務は終わらせて残りの時間を潰しに来ているだけだから』
「そういう問題じゃないだろ…ん? カリダさん?」
そして、そのラムキースの背景を見てドゥリュースは再び頭を抱えるが、その彼女の背後にて地球時代に世話になった女性が顔を俯かせて泣いているのに気づいてしまう。
『…う…ううう…あ、あのキッチンに上がるたびに食材を悉く消し炭か毒物にしかできず…調理器具も悉く駄目にして家計を苦しめ続けてきたキラが…見た目はまだあれだけどまさか普通に食べられる料理を作れるようになるなんて…!!』
『母さん…人前でそこまで嬉し泣きしなくても…』
この世界でもキラの母をしていて若い頃は何の間違いかラムキースの教え子でもあったという、紫色の髪が特徴のカリダ・ヤマトが感涙して、旦那のハルマ・ヤマトが気恥ずかしそうな様子でそれを窘めていた。
「…うわぁ…本当に相変わらずいい人だぁ…僕…ぶっちゃけカリダさん達の家に生まれたかった…」
『おい、くそ息子』
『買いかぶりすぎよリュース君、あの泣き虫でさぼり癖強すぎなキラの面倒をアスラン君と一緒に見続けてくれた君の方が優しい…何だったらーあの子をいずれはそっちに連れて行ってもいいけど?』
『だから母さん話を飛ばしすぎ』
その1週間前に起きたようなテロなどの暴力沙汰には無縁そうな一般家庭の光景にドゥリュースはマジで羨望の念を浮かべ、それをラムキースが画面越しに睨みつけ、ヤマト夫妻は惚気だした。
「あ、カリダさんすみません、僕ー…進展する可能性は砂漠に落ちた米粒を探すような可能性しかないですけど…もしかしたらこっちでお付き合いするかもしれない子がもう一人いるので…」
『え!? 本当に…?? 先週にてキラにアーヴ語やその文化を身に付けないと帝国のあなたには会いに行けないって吹き込んだら…あの子ここ最近から急に珍しくやる気になって勉強しだしてるのに…あ、でもーそっち法律上は結婚や夫婦とかはないから変わってるけど複数でってのはー出来ないわけじゃ…』
『母さん!?』
「あんたそれってあの面倒くさい子を体よくほっぽり出そうって考えてなくない?」
向こう側の惚気にドゥリュースも同調し始めるが、そこでカリダが残念そうな顔を浮かべつつもすぐに奮起し直した表情でとんでもないことを言いだすと、娘をぞんざいに扱われたハルマが悲痛な声を上げ、リュースも無表情になった。
「誰がリュース君を婿にするですって!?」
「君は呼んでないから! つーかどうやってここまで来た!?」
続けてドゥリュース側の部屋の窓の一つを外から突き破って勢いよくジョセフィーヌが現れ、彼に当然の質問を怒鳴り声で上げさせた。
「あー、あの小金持ち連中が馬鹿やって起こしたデスゲーム事件の露見前に銀河連合と帝国の合同士官候補生交流会でここへ来ててさー、露見後に行動制限を課せられて缶詰喰らってるのを逆手にとって軍の監視があるあちこちの星界軍施設を回っている最中に君がここにいるのを聞いたから~♪」
「すみませーん、星界軍情報局と帝国情報省にお繋ぎ願えますかー?」
「おい! 国家権力乱用すんな!」
飛び散ったガラス片を何処からか取り出した箒で掃きながらジョセフィーヌは自慢げに言うが、ドゥリュースは乾いた表情で部屋の壁の一角にある電話を繋げようとした。
『リュ、リュースー? 聞こえるー? あ、あのークッキーどうだったー? フレイから習ったんだけどー…!?』
そうして二人が取っ組み合いをしている最中に、帰ってきたキラが話を聞いて嬉しそうに顔を画面に映してきたが、そこで何か見てはいけないものを見た表情を浮かべて怯えの色を見せ始めてしまう。
『…ひ…いいぃ…あう…』
「ん? どうしたのキラー? そんな烏に追い詰められた子猫みたいな顔をして?」
『…リュ、リュースぅぅぅぅ…う、後ろぉぉぉ…』
「…は…? 後ろ…? 何が起きて―――!?」
リュースは泣き虫属性が強い幼馴染の指に従うが、その次の瞬間に彼の疑問は解決した。
「させるかあアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアァアア!!!!」
「―――ぇっベッキー!!??」
どこぞの合体寄生獣にでも寄生されたようなアラフォー一直線婚活モンスターが、ジョセフィーヌによって破壊された窓から侵入してきたからだ。
「何で地球の租界で女体盛りをアブリアルの前に披露するという(原作なら)
「おい!? さっきレバノ…ではなくてペリシテ外交官の大型スーツケースの中から飛び出てきた不審者の足跡と臭いがこっちから検出されたぞ!」
「すみませーん! この騒ぎでさっきから言えなかったんですけど友好国からの留学士官候補生の何名かが宿泊所より姿を消してる件で連絡がー…」
「…チ、女体盛り事件で帝国から追放されて戻った皇国からペリシテに逃げている逃亡元社長な某おっさんとその自分自身の実家の伝手で、再び密入国してうちの婿を略奪しようと付け狙ってたのを捕まえたから囮に使えるって思ったのに…想定以上にうちの血は薄くなかったようねこのおばはん…」
「ジョセぇ君ぃ…! マジで覚えておけ…っひ!?」
その異常現象に戸惑い恐れるドゥリュースの耳を介して、窓の向こう側からの星界軍関係者の声や幼馴染の舌打ち交じりの小声が彼の米神を荒立たせていくが、それを近づきつつある瘴気を交えたベッキーが
「渡さん! 貴様らのような金や遺伝子など物質的なものでしか求めてこないガキどもに…その王子様は…リュース君は渡さん!」
「あんたのものにもなんないから!」
「リュース君! 君の意見は聞いていません! 先生と遺伝子を分かち合いなさい! 帝国と皇国に分かれた二つの弧状列島の再統一と星界平和のために! 何より先生自身の幸せのために!!」
「そんなので平和になるほど世界は優しくないから!!」
「そうよ! ドゥリュース君は私と共に新時代におけるアダムとイブになるんだから!」
「君もどさくさに紛れてありえんことを言うんじゃな…!?」
そして、幼馴染と昔の恩師の間でドゥリュースは胃だけでなく股間まで痛みが走るストレスに苛まれるが、そこで物理的な意味では彼女達よりもはるかに危険な懐かしさを覚える。
「危ない!」
「…え!?」
即座にドゥリュースの身は動いてジョセフィーヌに抱き着いた。
「甘いわぁ! この合コンで多くの若造共を道連れにして独身地獄にいざなった女体の前ではその小娘の四桁年配合ボディなんぞすぐに汚れるパイパンに過ぎん…!?」
それに独身生活から拗らせた妄想フィルターはベッキーを更なる狂気へ誘うが、その狂気はドゥリュースの身に隠されていたリアルタイム通信式空中投影映像に映し出されている拳を振りかぶったラムキースの前に引きずり出された。
「
「ひでぶ!?」
そして、ラムキースがヘリオポリスにて放った拳は何故か画面を漆黒に染めてその直後に触れていないはずのサンヘリオス側での通信画面すらもガラス片のごとく割り、そこから生じた衝撃波はベッキーを彼女の背後にある壁もろとも外部へ豪速で吹き飛ばして星に変えた。
「…ちょっと何!? 何か今さっきからここにはいないはずのあの人の戦術核顔負けな理不尽パワーを感じたんだけど…!?」
十数秒後、ラムキースの理不尽な空間跳躍攻撃で生じた土煙が晴れて破壊された壁からイェランが険しい顔で登ってくるが、そこで部屋の中を目にすると彼女の表情は久方ぶりに素で固まってしまう。
「「……………」」
部屋の中で無事に保たれているベッドの上で、何が起きたのかわからない顔になってベッドに押し倒されているように見えるジョセフィーヌと、その彼女を襲っているように見えなくもないドゥリュースが揃って固まっている顔を晒している光景があった。
「…えーーっと、とりあえずー…十分くらい周囲を止めておくからその間に身づくろいしておきなさい…」
「…って待てええ工作員! こういう場面はまず“まだ十代前半のあなた達には早いでしょ!?” とか止めに入る場面でしょこれ(つよきす原作先生ルート的な経験した身で言うのもあれだけど)!?」
「…あ、いやー…意外とアクティブ…」
「君も変な妄想を走らせるな!」
そのまま微妙に乾いた表情で去ろうとするイェラン、今の状況を察して社会的死の気配を感じたドゥリュース、意表を突かれて抜けた顔をするがまんざらでもなさそうに顔を赤らめるジョセフィーヌの間でグダグダな展開へはまっていくのであった。
『いやー! 試験中とはいえ動きだけでなく衝撃波までテレイグジスタンス出来るようになるなんて良い時代ねぇ♪ 理論考えて実用化させたのが陰キャ息子とジブリールの若白髪小僧なのが癪だけど♪ おかげで息子のピンチを防げたわ♪』
その光景をいつの間にか回復していたヘリオポリスからのリアルタイム通信映像越しに、ラムキースが一仕事終えた表情で額に描いた汗を拭っていた。
『先生、とりあえず弁償と家の立て直しをすぐにお願いします♪』
『…あ、うん…もちろん…ごめんなさい…』
但し、背後から再び姿を現したカリダが綺麗な笑みを浮かべつつも黒いオーラを放ちながら、先ほどの衝撃波の影響か窓と壁が大きく破壊されたヤマト邸を背景に迫ると、ラムキースは借りられてきた猫のようにおとなしくなり始めた。
『な、何だー!? さっき何処からともなく生じた揺れでプラント行きのマンデルブロー号船団の一隻が横転したぞー!?』
『おい待て! 今さっきぶっ壊れた船の中…プラントが勝手に取引をするのは禁止されている食料品がたくさん出てきてるぞ!』
そして、その向こう側の修羅場からの連鎖反応で起きたヘリオポリス側で露見したその事態とその深刻な影響に、双方の修羅場で巻き込まれている彼らに気付けた者は今のこの場にはいなかった。
今回、SEEDの設定年表で悪い意味で重要なイベントがギャグパートに触発されてしまいましたね。
次回は、今回のトラブル及びそれで起きたSEED 系イベントが周りに与える影響が書かれる予定です。