〇帝国歴951年1月25日夕刻
「…うわぁ、すごい…」
「水の上に…これだけ広い床板が触れずにその上を浮遊した状態で…」
ドゥリュース一行が到着して数分後、銀河系各国内外から集って来た各国政財界要人子弟達は案内されたそのパーティー会場を目にして驚きと感嘆の声を上げており、それは特に他国から来た少年少女達には顕著であった。
「…床と水面の間にある空気層を風性質魔術で固定化させて支柱代わりにして、更に床板には土性質系の重力軽減魔術を掛けて浮かせているんだな…」
「静かだが堅実且つ無駄を省くのが得意な魔術師が準備してくれたんだな…あ、水性質魔術による芸も始まったな」
それに対しアーヴ側、特にドゥリュースとラムレルーシュは冷静かつ素直な考察を示しつつ静かな賞賛を示しており、そこで後者が水面を指先で静かに触れた瞬間に、そこから多くの清水で出来た半透明上の蝶が生じ、他にも花弁や蔓などの形状をした清水の物体が生じて周囲を飛び回り始め、それらは周囲を浮かんでいる灯篭の光も反射して幻想的な光景を強め、これには低国内外問わず子供たちの多くが声を上げた。
「…うわぁ! すごく綺麗-」
「子供の頃に親の仕事の付き合いで降りた地元の地上世界での祭りでは火で出来た竜が飛び回っていたけど、これもこれで凄いなー」
「え!? アーヴが地上に降りるの!?」
「は? 地上人が宇宙に上がったらいけないなんて法律はないでしょ」
「人によって行く人にも行きたがらない人にも別れるでしょう」
「うわー! これ本当に衣はサクッとして中はクリーミーで美味しー!」
そうしてパーティーが魔術や科学を用いた演出を伴って始まり、それにつれて料理がビュッフェ形式で並んでいくと、その味の美味しさや年齢の若さや近さもあってある程度は挨拶が進んで交友が広まっていく。
「…はあ、何とか穏便に済みそうだなーこのパーティー」
「まあ、影の方では
それにドゥリュースがホッと安堵した表情を浮かべて、少し訳知りそうだがラムレルーシュも同意しておると、上手く周囲と距離を取って静かに味を楽しんでいた二人にも嗅ぎ付けた周囲が群がってきた。
「あの、ドゥリュース殿下ですか?」
「私はアルウィンのエスター公爵家に属するジェスファーというもので…、祖父は前の前の第二次大戦であなた達の父母や祖父母の方たちと共に連合国で…」
「ラムレルーシュ殿下、僕はハニアから来た葯家の長子の…」
そうした子供達は帝国外要人の子弟が多く、やけに実家の大きさや帝国とのつながりをアピールする話が多かった。
「む? ドゥリュースや姫様の所へやけに他国の子が集まってるけど?」
「あー、多分うちの
「向こうで残ってる結婚や夫婦って制度も用いてねー」
その様子を他のアーヴの子達は本音を見透かしつつも物珍しそうに見ていたが、彼らの表情は次の言葉とそれを吐いた人物によって一変する。
「すみません、一目見ての印象ですけどそちらの中にタイプの子はいないのでお引き取りしてもっと他に相性が良さそうな方とー…」
「「「「「!!!!????」」」」」」
一応アブリアル宗家に属するが地上生活の期間が長くて前世記憶も多分に残るドゥリュースが、相手のムードなど全く考えない断りを入れて、向こうの同年代、特に令嬢達をショックに追い込んだのである。
「す、すみませーん! うちの殿下はちょっとこういう場はあまり好みじゃなくてー…ちょっとドゥリュース来て!」
「おい…今の言葉はこういう場で男が女にかけて良いものじゃないぞ…」
それを見てギョッとした他のアーヴ達が、我に返って抗議や文句を言い始めた他国の子弟達からドゥリュース引き離して彼に説教を始めた。
「え、ええー…僕…そういうお世辞や嘘は得意じゃないというか―――」
「「ギャアアアアアアアアアアアアアアァアアおおおおおおおエエエエエエ!!??」」
「ハワードオオオオオオオ!?」
「イイイイイイイィザークゥ!?」
同胞たちに叱られ出しつつもドゥリュースは困惑の表情を見せるが、そこで他国の少年二名による嘔吐交じりに悲鳴が割り込んできた。
「―――あ…ってな、何なんだぁ?」
「クックっクック、いけないじゃなあい。素材を知ったくらいで今さっきまで美味しそうにモリモリ食べてたものを吐き出しちゃあ♪ それとゲロしちゃう場面はちゃんと選ばないとねぇ♪」
ドゥリュ―スがそれに戸惑って振り向くと、そこには口元をゲロで汚して白目を剥いている金髪の大星洋連邦人の少年に、おかっぱの銀髪をした少年の二人と、周囲からその二人を介抱してくる周りの子供たち、それを見て子供らしからぬ愉悦そうな笑みを浮かべた癖が強いピンク基調の体毛をしたジラルハネイ系アーヴの細身の少年の姿が見えた。
「あー、たしかあいつはジラルハネイ型アーヴで成績は優秀だけど性格に難があるって有名なハナゾノ伯爵家のカヲルって奴だ。まーた適当なのを弄って遊んでやがる…」
それを見てアーブ側の少年の一人が引き攣った顔を浮かべつつも恐れから声を掛けられずにいると、ある一人の少女が割り込んできた。
「ちょっとあなた! 二人に何をしたの!?」
「ル、ルナァ!?」
その少女はパーティー会場へ集まり始めていたところで、ドゥリュースの反応に気付いていたオレンジ色のショートヘアーが特徴なルナであった。
「二人に何をしたってねえ、その二人がここで用意されたドイサッククリームコロッケを食べつつもそれを巡ってケンカしそうになったから。止めさせようとその原材料を教えてあげただけさ」
「原材料を教えただけでこうなるはずがないでしょう!」
「いやいや本当なんだってば、君にもこの料理の素材を教えてあげよう♪」
詰め寄ってくるルナに少し困った風な笑みを浮かべつつもヒソカは
「ほら♪ これが君も含めてそっちの子達が美味しいと連呼してくれたクリームコロッケの材料である、ドイサックフトシロカイコの蛹だよ」
「「「「「…!!!!!????」」」」」
その繭の中から取り出されたジラルハネイの手と比べても大きな白い蛹の幼虫と、それに衣が塗されて揚げられていく映像に、ルナ及び他の他国の子供達は凍り付いた。
「あー、これはドイサックのマブル州生糸の生産にも用いられるマブルシロオオカイコ。道理で今回のはとりわけ美味かと思った」
それに対し、ラムレルーシュなどアーヴは地上人が普通に特上コロッケにでもありつけたように、その映像を見た後でもドイサッククリームコロッケを普通に食べていく。
この世界のジラルハネイ族はHALO原作時系列における凶暴性を食に対する貪欲さと奇妙さに変えたような種族で、それは帝国成立に伴うコヴナント併合直後でも当時の生来のアーヴのみならず他のコヴナント系からもドン引きされがちだったが、料理の腕と食材加工後術は非常に優れていたので、その食材や調理法の相当な割合が今ではアーヴ料理に相応の変化を付けながらも取り入れられていたのだ。
そのため、この世界のアーヴでは地球時代で言う昆虫食も割と普通になっていた(もちろん、帝国の地上世界では種族構成や食文化によって違うので皆そういうわけではないのでお気を付けください)。
「あ、あんた達そんなの何をそんな普通に食えてるの!?」
「いや、そんな共食いを平気でする未開な部族の食事の場面で捕まってしまったような顔で言われても…。エビやカニにウニもこれと同じ外骨格生物だろう?」
(…うーむ、さっき他所のお嬢様方に心無いことを言ったらしくて囲まれて突っ込まれまくった身だけど…、カリダさんちで最初の人生に近い食文化に何年も触れてきた身としては違和感を禁じ得ない光景だ。確かに美味しいものは美味しいから出されたら食べるけど…)
「そ、そんな…何で豚や牛は食べるのに同じ哺乳類の犬や猫は食べないのみたいな感じに言われても…!?」
その光景にドン引きしているルナなど他国の子弟を前にラムレルーシュは普通に疑問を浮かべ、それにドゥリュースは食文化による偏見混じりだと自覚しつつも(問題の中心になっているドイサッククリームコロッケを口にしながら)違和感を禁じ得なくなった直後、パーティー会場の下に広がって周囲を囲んでいる池に大きな影が写る。
「…う…ううう? な、何だぁ…!?」
それに会場の手すりに捕まってうなだれていたイザークが気づいた直後、その影は大きな水飛沫となって中から巨大なイルカを思わせる水竜が姿を現した。
「ぎえええええええええええええ!? なななな何だよおおおおおおお!?」
水飛沫などはパーティー会場などに張られていた結界障壁で防がれたので濡れたものは出なかったが、他国から来た子弟の多くは驚き、特にもう一人の嘔吐していたハワードは涙と鼻水に失禁を今度は溢れさせて腰が抜けながらも尻伝いで高速で逃げ始めた。
「うわ! これって確かエルフ系地上世界に多く生息している白銀水竜じゃん!」
「いや! この鱗の輝きは希少な白金種系のだよ!」
「この旅館が自然公園の一部に文化遺産の一部として登録されてるから割と見やすいんだって!」
「あ! ちょ!? ルルの方に近づいてるよ」
一方のアーヴ側の子弟は驚きつつも好奇の反応が強かったが、そこで愛称を呼ばれたラムレルーシュの方に白銀水竜が首を近づけてくるとさすがに緊張が走る。
「…ふふ、こんばんわ♪ 水が綺麗な割に賑やかだから気になって来たのか?」
「くぅ♪」
だが、ラムレルーシュはそれに臆する気配は全く見せずに微笑みながらその大きな口元に手で触れると、白銀水竜はその巨躯に似合わない甲高く可愛い鳴き声を上げながら頭を彼女に摺り寄せてきた。
「…え、な、何あれ…?」
「竜という私たちの世界ではほとんど見られない“幻獣”の血を引く生物だから滅多に見られず知られてないけど、知能が高くて好奇心が強くも人には大人しい種らしいですよ」
「…あ、レイラ…」
それにルナが戸惑いを見せていると、彼女の真横に新たな少女が空中に影像を投影させて、この旅館のパンフレットに乗っている水竜など見られる種の説明欄を示しながら姿を現した。
その少女レイラは他国からの要人子弟団に属しているようだが、格好はルナたち他の少女達と違って士官候補生ながら軍の正装のもので、何よりも銀連所属国民でありながらその髪や瞳の色に風貌、何よりも額に付いている白く小さな目に見える
「…え? あの子…EUから来たくせにアーヴ…?」
「あー、たしか“マルカル家”のじゃない?」
「ああ、たしか旧姓が“ブライスガウ”っていう…物好きなお飾り連中の…」
「ち、ゲットーにでもこもってりゃいいのに…」
「…………」
そうした眼差しに添えられる言葉には双方共に蔑みや嫌悪のものが幾つか混じっており、聞こえているのかレイラの手は心なしか堅い拳になる。
「…あ、レイラこれ食べてみて! 竜田揚げって言うんだけどおいしいの!」
「…っ…ありがとうございますルナ…」
それに気づいたのかルナはレイラの手を取って他所へ連れていき始めた。
「ん? これが気になって美味しそうなのか? それでは一つ食べてみるか」
「くぅ~~~♪」
一方のラムレルーシュは白銀水竜に懐かれて、更に並んでいる料理の一つを食べさせてみたりもしていた。
「あ、ルルー、その竜田揚げ…原材料が白銀水竜のお肉みたい…」
「…え!? カレン…本当?」
「くぅ?」
「共食いかい」
「マジ!?」
「…!?」
だが、そこでラムレルーシュの近くにいた赤いストレートショートヘアの快活そうな地上人と思わしき少女が気まずそうな表情で注意してきて、ラムレルーシュはドキッとした表情を浮かべ、白銀水竜は首を傾げ、ドゥリュースは遠慮なく突っ込み、ルナの方はドギッと引き攣った笑みを浮かべて、ルナに進められてその竜田揚げを口にしていたレイラは引き攣った秀麗な唇からその一部をポロっと零れ落ちさせた。
「…く、くそぉおおおおアーヴウウゥウ…! 僕に恥をかかせやがってえええ! 絶対に泣かせてやるうううう…!」
(…何とかハワードのこのドラ息子を使用して潜入できたけど…なんかこいつを見ていると作戦が上手くいくか不安になってくる…)
一方、ハワードの方は今もうつろな表情で恨み言を吐きながらも取り巻きに肩から支えられてパーティー会場を退出させられようとしていたが、その肩を抱えている一人であるその別の少年は一瞬だが不穏な表情を浮かべた。
なんか、某無人惑星だけでなく銀河規模となった世界でもやらかしてしまいそうですねハワード少年…。
次回、ドゥリュース君の身内が新たに登場してくる予定です。