〇帝国歴951年1月25日夕刻
「…ふう、とりあえず今現在は予定通りに進んでんな…」
色々とカルチャーショック絡みで騒ぎが起きている中で、この世界の
別のSF時代劇漫画作品では良くも悪くも悪目立ちが多い男と重なる名と容姿を持つ地上人出身の男だが、この世界での彼は
「…うわー、今度のは火竜の花火みたいな芸が…」
「うわ! このコカトリスのから揚げ凄く美味しいー!」
「というかこういう鳥や豚みたいに普通なのがあったら初めから…」
「え? 事前にパンフレットか各員に配布されててその中にメニューの一覧が載ってますよ。そっちにも事前に送られてるはずですけど…?」
「そんなの知らないんですけど!?」
「あー、送られてたけどこっちの担当官がミスって配るのが遅れたみたいだけど…!?」
そのタイゾウの視線の先では、若さゆえどうにか持ち直した要人の子弟達が面白いイベントも絡めて懇親を深め合っていたが、そこでパーティー会場が急に照明を消されて暗闇に包まれた。
「…え!? な、何だこれ…!?」
「計器の故障か…あ!? 一か所だけライトが戻った…!?」
それに子弟達は困惑と恐れの色を見せるが、そこで水上の一角だけが照らし出されて、そこには白基調の古代ギリシア風を思わせるドレスに身を包んで微笑むジョセフィーヌ、赤基調のアオザイのような長衣に身を包んだレイカが並んでいる姿があった。
「…え、何あの子たち…?」
「うわぁ…すごく綺麗…」
「アーヴ…いや、金髪のも今はないことはないけど…?」
「隣のアーヴのあの子は確かニューヤークウォッチズの表紙に載ってた…」
レイカとジョセフィーヌの姿に国籍問わず子弟の多くは魅入られだすが、ドゥリュースやラムレルーシュを含めた少数は彼女達の背後に隠れた何かに気付く。
(…スポール宗家の令嬢やあの例のニュートン家の息女の存在感が色々な意味で大きいから気づきにくいけど、水性質魔術を微弱だが用いて姿を隠している誰かがいる…。こんな単純且つ小規模な手法でここまで気付かれにくくするなんて…)
(…この登場の仕方にこの感じ…何より、あの髪型から見える影…ま、間違いなく…!)
ラムレルーシュが感心した表情を、対照的にドゥリュースが引き攣った笑みを浮かべたその直後、照明の角度が変わってジョセフィーヌの背後にいたその何者かの姿も映し出された。
「…じょうじ!」
そう言いながら姿を現したのは、
「…え、だ、誰…!?」
「あ、あの人…まさかとは思うけど…以前にニュース画面で見た…!?」
「い、いやー…いやいやまさかそんなわけがー…」
「…あ、あのーすみません。どうしてあなたがこのような場所へそんな登場でお姿を…??」
「じじょじ、じょじょじょじょーうじじじ…」
「いやいや! そんな火星語で説明されても理解できるのはうちの母含めて超少数派ですから!!」
「「「「「!!!??」」」」」
少しして困惑や畏怖が混じる反応を見せ始めた周囲に混じって、ドゥリュースに聞かれ始めるもマイク越しに謎の言語で答えて彼が思わず突っ込んで周囲のギョッとした反応を招いたその美女のこの世界での名は、アブリアル・ネイ=ドゥブレスク・
その姿と名が示す通り、
(何か色々説明された感じがしたけどこの展開ってテラホくんとあんま大差なくない!?)
「ドゥリュース、何を言ってるんだみたいな混乱が丸出しな顔だぞ…」
「…あ、失敬失敬。ここ最近は長らく友人がいる火星に戻っていたのでそこの言葉で挨拶してしまった。改めてこんばんわ、私は
「「「「「!!!!????」」」」」
ドゥリュースの前世知識からくる複雑な内心やラムレルーシュのジト目をよそに、あろうことかこの惑星に姿を現した帝国の頂点とそれを明かした言葉に、パーティー会場に集うそれ以外の全員が心臓へ氷の大剣を直に充てられたような驚愕とプレッシャーに包み込まれる。
「…先ほど其方たちの驚く顔が見たかったのが第一で使用した魔術だが、あれはあくまでも初歩的な魔術の組み合わせによるもので、こちらにいる童二人の存在を上手く取り立てて目立たぬようにしただけのものだ。だが、その結果として其方達の中で我が存在に気付けたのは、ちょうど十名しか居なかった…」
「「「「「………………」」」」」
そうして寿命が減っていくような心地に包まれた子弟達に微笑みながら、先ほどの種明かしをしていく。
「…つまり、今こうして現れたのが私ではなく褒められない行動を目論む輩で、毒なり爆ぜるものなり魔術なりを用いてきたとしても、それを防ぐべく動けた者は十名しかいなかったということだ」
「「「「「!!!!」」」」」
「「「「「!!!???」」」」」
だが、続けられていく言葉は、アーヴ側の子弟にとっては軍事力を統治の基盤とする
「…そして、そうした危険物も含め、
「「「「「「「「「「…………………………」」」」」」」」」」
だが、続けられていく言葉は教え諭すものへ変わっていき、同時に巨大すぎる意思を持って動く刃を向けられていたような重い空気は、まるで親に道理を教えられていく子供の時に戻ったような心地へ変わって子弟達の強張りをほどいていく。
「これから先の世を生きる子らよ、人が人のために生み出されたものを使うことは当然のことだ。だが、同時に人が人ではなくそれによって生み出されたもののために縛られるのは少なくとも褒められるものではないのだ。今の其方らの心中に宿している其方らの道が、其方らを縛るものではなく其方たちのため共にあるものであることに期待している。それでは、また会う機会があれば会おう…」
「「「「「「「「「「…………………………」」」」」」」」」」
それを見治めるとラマ―ジュはジョセフィーヌとレイカの二人を残して、天窓から差し込んでくる月光に溶け込むようにして消えてこの場を去っていき、その光景に誰からともなく始まった大きな拍手の波が答えた。
(…魔術に旧時代的な身分制、遺伝子調整までも用いて人類宇宙の半数を統べる帝国を築き上げた一族の宗主が、それらをあくまで“人が人のために生み出した人のためにあるもの”と言いきるか…)
拍手をしている一人である、司波達也は浅くはない畏敬を滲ませた笑みを浮かべていた。
「ちょっと―!? 陛下ー何処に行かれたのですかー!?」
「反応はこっちです!」
「む、細かい部下がもう追いついてきたな」
「…あの婆さん、また勝手に抜けてここまで来たな…」
「「「「「!!??」」」」」
その直後に、遠くの外から切羽詰まった声が響いてくると、ラマージュの面倒くさそうなぼやきが小さく漏れるが、それを受けてジト目を浮かべたドゥリュースの口から漏れ出たその言葉が(帝国側子弟を除いて)周囲をギョッとさせた。
『…お、おい!? どうしてアーヴの皇帝がこんな所に姿を見せたのだ!?』
一方、旅館内のある部屋ではある者達が大広間で起きた突然の皇帝ラマ―ジュ来訪という事態を受けて、落ち着きを失ってしまっていた。
『これまで汚れ仕事をさせてきた馬鹿なサブルム人共の帝国で活動してきた連中が、帝国内部の星間規模反体制組織と共に軒並み潰されるか降伏するかしたから…、我々がここまで来たというのに…』
『ど、どうする!? 当初の予定では火災とそれに見せた避難を装って例のアブリアル二名を拉致する予定であったが…』
『…いや、これは案外…チャンスかもしれん…。皇帝を上手く取り押さえれば…』
『待て! そもそも今回の任務自体がおかしい! 帝国の敵と見なせば皇帝含めた皇族が戦死しようとも止まらず! 挙句に人質に取られた皇帝や皇太子もろとも殲滅してきた連中相手に何故このような任務を上は…!?』
その彼らが口論している倉庫には巨大で厳重な処置が施されている巨大なコンテナがあったが、口論の最中よりそれから金属が歪曲させられるか、叩き潰される音が響いてきた。
『…え、な、何だ…!? 本部から送られてきた魔術生物兵器が入っているというコンテナから…音が…!?』
『お、おい! まだ封印の解放処置はしていないぞ!』
彼らが恐れおののき始めたそのコンテナの表面には、“T.K”と表記されていたがそれは内側から鋼板を突き破って現れた、どす黒い肌とそれから漏れ出る腐臭と禍々しい瘴気に包まれた腕によって塗りつぶされてしまう。
「…アー…ヴ…! アブリ…アル…こ…ロス…!!」
「「「「「!!!???」」」」」
そして、その生じた亀裂より腐り澱み切った瞳が姿を見せた瞬間、死体が詰まり切った汚泥の沼を思わせる瘴気が部屋にいた者達に襲い掛かった。
今回の話、最後に出てきたのは果たしてどこのベリージェラシーゴッドなのか…?
次回は、あのパラレルハーレム世界ではラスボス(…多分)をしている彼の、踏みだ…ではなくて久しぶりの活躍(?)となっています。