〇帝国歴951年1月25日夜
皇帝ラマ―ジュの急来訪というとんでもないサプライズを終えて数十分後、各国要人子弟達によるパーティーは続いていたが、ある変化が生じていた。
「…何か今さっきまでアイドル追っかけ軍団みたいになっていた他国の方々がこちらに来なくなったんですけど…?」
ドゥリュースの周囲には同じ帝国出身者ばかりとなっており、他国人たちは彼の姿を見てもヒソヒソ声しか上げなくなっていたのである。
「…あーうん、多分さっきねー陛下を堂々と“
「…あ、あれか…」
「「「「「!!!????」」」」」
それに少し可哀そうな子を見る表情でレイカがその単語を上げるドゥリュースもようやく気付くが、そこで先ほどのラマ―ジュ登場が終わった直後より彼女にその背後から近づいてきて話のチャンスをうかがっていた他国人の子弟達が再びギョッとした表情を浮かべた。
「あら? そんな人の後ろばかり歩いてきてどうなされたのかしら? 背を向けられながら話されるのが好きなんてそう多くない嗜好の持ち主ならこのままでもお話を合わせても…?」
「っ!? い、いいえ…こちらはもうこれで…」
「お、おい…これ以上関わり合いになる前に行こうぜ…」
「…あ、ああ…いくら可愛くてもあの様子じゃあ…」
顔色からしてレイカの美貌に釣られての興味九割と一割のお家の事情絡みで近づいていたようだが、彼女の話しぶりと実際に言葉を掛けられたことに予想以上に大きい衝撃を受けたのか、すごすごと遠ざかっていく。
「…あ、あの子が…あの帝国ではアブリアルに次ぐ超名門で…全銀河十大財閥の一角…スポール一族宗家の現当主の令嬢…」
「アブリアルとは記録を残さないという暗黙の密約の元で…裏で帝位を争い合ってるから仲が悪いって話を聞いたことがあるけど…」
「…いや、あの様子からして…アブリアルの弱みを握って裏から神殿勢力と共に帝国を操り続けているって聞いたけど…それ本当かも…」
「いや、何かBETAもあいつらが人類削減計画のために生み出した生物兵器って噂がー…」
((尾ひれついてるついてる…))
それで遠ざかった他国の要人子弟達は陰謀論を交えて怯えを隠せない様子のヒソヒソ話に移行するが、種族柄からくる耳の良さからドゥリュースとレイカは丸聞こえで苦笑していた。
(…あの子が深雪さんの言っていた同世代のアブリアルとスポールの子達…話で聞いていたけど、思っていた以上にイメージにあるアブリアルとは違う…)
一方、周囲の齢相応さの軽はずみさが行動に目立つ同世代の子弟らと違い、静かに二人を観察し続けている少女がいた。
ウェーブがかった黒髪とスポールほど妖艶さはないが違う方向に美麗な赤い瞳で和みやすい美貌を持った同年代と思わしき地上人の風貌をしていた。
「…ん? 何か…さっきから割と冷静にこっちを見つめてきてる子が…?」
「あー、たしか皇国における現代式魔術業界で十大名門となっている
「ああ、たしかあの3年前の星間観光船事故で死亡が確実とされてから、1年後に唯一の生還者として見つかったというあの…」
「おー、毛並みの違う可愛さが…ちょっと声かけようか…」
「ど田舎の地上世界にだだっ広い農園をしてるお前の家じゃー泊まったその日の内で逃げるだろー」
「だから私の一族の教育や勤務状況にどのような問題があるんじゃい!?」
「いや、ジラルハネイ系だから農園や開拓地中心とはいえ地上世界を回るのは別に驚かないけど、
それに気づいた何名かを中心にアーヴ側子弟達の間で、その少女七草真由美も絡めて話を豊かにしたりするが、ドゥリュースはそうした会話に表向きは混じりつつも内心では彼女の表世間では知られていない裏の情報についても思考が触れる。
(…あの人があの“
「はいはーい、ちょっとお邪魔するわねー」
「うわぁ!?」
「ってぬお!?」
(うわ! あの残念系ハイスぺ女…また面倒なぶち込み方をしやがった…!)
だが、ドゥリュースのその思考を遮るように、パーティーに途中参加したジョセフィーヌがその真由美を引き連れてアーヴ側子弟達の中に乗り込んできて、彼に内心で大きくひきつらせた。
「あ、あれはニュートンの娘…!?」
「結婚相手が能力や容姿はともかくキワモノばかりと聞くけど…」
「前々から今度はアーヴ辺りと交わろうとしているという話は聞いていましたが…」
「やっぱり、亜人とも交わる一族なんて…」
「うわ、この子があの一族の本家の…」
「コンビニで売られている都市伝説系情報データブックにも何度か…」
それに他国側の要人子弟の多くが嫌悪や忌避を、アーヴ側子弟の多くからは興味や困惑交じりの反応が見られる中、ジョセフィーヌはそうした反応に構わず真由美を引っ張っていって遠慮なく目当ての人物の前に進み出る。
「さーさー、七草先輩、お目当ての子と出会えたんだからささっと♪」
「ジョ、ジョセさんちょっと!?」
(…え? 他の子だけを置いて離れる?)
だが、それからすぐに離れて背を向けるジョセフィーヌに、今まで彼女にはた迷惑な行動ばかりされてきたドゥリュースは戸惑う。
「…はいはい改めて初めまして、スポールのお嬢さん」
「…え? こちらこそ…さっき陛下に会わせてもらえましたけど…初めまして…?」
そして、ジョセフィーヌが向かったのは何故かレイカの方で彼女を戸惑わせた。
(…この人がドゥリュース君とここ地球で子供の頃に出会って友達になったっていうニュートン家の…。確かにまだ感じ取れる分だけで…すごく澄んでいるのにとても深い魔力を感じさせ―――)
『気質に合っているとは言えない
(―――え…!?)
戸惑いつつもレイカが相対しているその存在に賞賛の念を覚えると、それに割り込むようにその相手であるジョセフィーヌの念話が割り込んできた。
『…あなた達の一族が生まれつき食し…あなたが特に持っているという“生命の樹の実”…どんな業がするの?』
(…!?)
そう問いかけた時のジョセフィーヌの瞳は、澄み切っているがゆえに深海の深部のような底知れない深い冷たさを宿しており、レイカは表情にこそ出さなかったが恐れと何故かそれ以上に目を離せない引き寄せてくる“何か”を感じとってしまう。
〇
(…ふーー、やっと撒けたなー。今回も回されてきたあの護衛の若人ら…更に腕を高めていたな…。面倒だがますます面白くなってきたな)
ジョセフィーヌがレイカに恐れを抱かせていた頃、その二人をパーティー会場に連れてきた当人であるラマ―ジュは旅館の客は入れないある領域を出歩いていた。
「…道中でよくわからんのにも襲われたがまー良い運動になった」
「…ヒャ…ぐ……あ…ゆ、ゆるひて……」
そして、そのラマ―ジュの片手で、巨大だが内部が腐り果ててもろくなったところを巨大な落雷を受けて黒焦げとなった老木で身が出来ているような人型の何かが引きずられており、そのほとんどが消し炭と化して崩れて原型を留めていない顔は命乞いの言葉を発していた。
それはまるで、幼少期から酷い虐待に晒された後に暴力で全てを解決しようとする思考形態にいたって、ある程度はそれを押し通せられる時間を過ごせられたものの、自分が見知って来たものとはけた違いに圧倒的な暴威に、歪んだプライドを曲げられるのを通り越して根元から引っこ抜かれて細胞の一遍残らず嬲り潰された童のようであった。
(…な、何だ!? あの暴走を起こして我々の同志の半分近くを食い殺した…魔術生物兵器を…どこからともなく現れてまるでゴミでも解体するかのように呆気なく潰した…アーヴの化け物は―――!?)
「陛下ー!? ラマ―ジュ陛下ここにおられますかー!?」
(―――!?)
それを柱の影より、この旅館の従業員に扮している何者かたちが恐怖を隠せない表情で盗み見ていたが、そこで何処からともなく割り込んできたラマ―ジュを呼ぶ声に身の震えと思考は一瞬で止まってしまう。
「…む! 思っていたよりも早く追い付いてきてしまった! ではそこの柱に隠れている者達よさらば!!」
「…あ…あーーー…」
「「「「「……………」」」」」
そして、部下達の再びの接近に気付いたラマ―ジュは片手で掴んでいる怪物を引きずりながら再び何処かへ消え去った。
「…お、おい…どうするんだ!?」
「見ただけでも…あの化け物…今の我々が連れ込めた戦力では…」
「馬鹿を言うな! 今更退けるか!」
「それにやるのはあの化け物の方ではない! まだ若く弱いアーヴのガキどもの方だ!」
「何より! 暴走はしたが先ほど捕まった呪物ウィルス感染生物兵器“カナジョー”で連中も相当に混乱している! これはむしろ天啓で…!」
数秒後、柱から姿を現した者達は恐れをほとんど隠しきれない様子となっていくが、半ばそれによる反発も加わって自暴自棄気味な空気を強め始めていった。
次回、新たなキャラの登場とそれへの主人公の絡みも加えて話は新たな段階へ入ります。