〇帝国歴951年1月25日夜
「…ああ、あの青い薔薇を贈った人はモンテ・クリスト伯。今ここ地球の社交界でも噂が流れ始めている持ちきりの人だ。中立諸国で有力なところでは昨年から有名になりだしていて…、何でも中立宙域の未確認領域で一山当てた成金とか、銀河の辺境で悪魔的存在と契約した怪物とか…色々噂はあるが、たしかなことはフェザーンや流星系など有力な中立諸国で既に相当なコネクションを築き上げているとか…」
謎の引き寄せられる人物との接触から数分後、ドゥリュースはパーティー会場に戻ってラムレルーシュからその人物について聞いていた。
「…あの単独星系でありながらそれに反比例過ぎる高い影響力を持つ二国家で…、すごいなぁ…」
「最近はここ地球を介して
ラムレルーシュからより詳しく聞き出そうとしていたその最中、それを遮るようにまた別の懐かしい声が鼓膜を震わせてきた。
「おーい! リュースー! リューーーースーーー!!」
「…あ、この場でも遠慮なしに声量を上げる若々しい声の持ち主は…」
ドゥリュースがその懐かしい声の一つで振り向くと、浅く焼けた肌をしたダークブラウンのショートヘアーにやや童顔気味なコーカソイド系地上人の少年が近づいてくる姿が見えた。
「今ようやくやっと着いたんだ。何か失言癖をさっき自国のお偉いさんにもやってこうして大勢から引かれてるんだって?」
「君に失言であれこれ言われたくないよアルベール」
からかうような笑みで近づいてきたその少年の名はアルベール・ド・モルセール。
ドゥリュースが幼年期にて地球へ留学させられてヤマト家に居候していた時期、居住していたコペルニクス区での諸外国子弟交流会で出来た友人の一人である。
近づいてきたアルベールには何人か知らない人物がついてきていた。
「…地球で子供の頃に出来たアーヴのお友達が王子様ってのは本当だったんだ。アルベールが珍しく詐欺師に引っかかっていなかったのね…」
「何だとぉ!?」
その内の一人で金髪をボーイッシュに整えている白人系の同年代と思わしき少女が目を丸くした様子でドゥリュースに近づいてきて、アルベールに声を荒げさせた。
「あーアルベール落ち着いて、ところでそこの子は…?」
「あ、ごめん、こっちはユージェニー・ド・ダングラール。僕の婚約者だよ」
「へー、こんな如何にも出来そうな彼女がいたとはすごい」
「親が決めたものでそんな純真なものなんかじゃないわ。あなたがここでさっき伝説を決めたってドゥリュースさんね。人間性とか大まかなことはアルベールから聞いているわ。まー今こうしてこの場で確かめるまでは王子様とかとは信じてなかったけどー…?」
紹介された少女ユージェニーは、ドゥリュース達を前にしても臆さずに気さくな様子でグイっと近づくが、そこで彼らが座るテーブルの中心にある何もない宙より青い薔薇が花開き、その中から一通の手紙が現れた。
「…手紙? 誰からだ…………!?」
魔力で危険がないことを探ってからラムレルーシュはその手紙を手に取って開くが、その差出人の名と内容に瞳が少なからず見開いた。
「…誰からのどんな内容?」
「今さっき話に上ってた人物から、この懇親パーティーが終わった後に自分で開く饗宴に私達を招きたいと…、共に連れていきたい方がいたら何人でも連れてきて構わないと…」
「「「「「………!?」」」」」
そして、そのラムレルーシュが告げたその内容に、聞き取ることのできたもの全員の目が大きく見開いた。
〇
「…うわ、この宴席は…確かこの星系を支配する帝国でも…
「まあ、普段は料金お高めだけど外部のお客様含めて一般公開されて観光スポットになってるけどね」
数十分後、舞台劇も終わって演者達が礼を述べてパーティー会場を去り、残された子弟達がお喋りと味の続きを楽しんでいた頃、目を丸くするラムレルーシュと身も蓋もないことを言うドゥリュースを含めた一行が、
「…え、えーーっとあの超やんごとない方二名まであんな顔を浮かべるなんて―――」
「ようこそ皆様、このような田舎者の宴席に興味をいただき光栄にございます。伯爵はこちらに…」
「―――えってぁあ!? は、はい!」
そこへ招待された一人のルナは普段の高い社交性も超が付く場違い感で薄れて動きがぎこちなくなっていたが、そこで招待状を出した人物の執事であるその黒人のスキンヘッドの男性に声をかけられて直立してしまう。
「…やあ、こんな私程度の誘いに応えていただきありがとうございます。初めまして、私の名はモンテ・クリスト。銀河東方部の田舎でしがない貴族をしている身です…」
そして、その執事の案内で不規則的な階段状に自然形成された奇岩が篝火で幻想的に照らし出されている高層石庭園を進んでいくと、招待状を送ってきた人物にしてドゥリュースの気を大きく引いたモンテ・クリスト伯爵の姿があった。
「あ! お久しぶりですクリスト伯爵! 今回は友人の紹介で来れましたけど…」
その姿を見てアルベールがやけに親しみを隠さない様子で近づいてきた。
「え? アルベールこの人とは知り合い?」
「ああ、先週に僕がフランツと共にここ太陽系の月面にあるルナのカーニバルで、不法移民の盗賊団に誘拐されかかった時に助けてくれたのがこの人なんだ」
「…へー、どんな状況だったのか気になるなー…ッ…」
クリスト伯爵と友人の意外な関係の発見にドゥリュースは目を丸くするが、そこで彼の双眸は細くなって他所の方向を見やりだした。
「え…? どうしたのドゥリュ―――」
「ちょっと待て、何かこの場に良いとは言えん他の気配がするぞ」
「―――ゥってえぇ?」
それにアルベールが妙に思うと彼を押しのけるようにして、青みがかった黒の短髪に黄色の瞳で東洋系に凛々しく整った地上人風の同年代の少女が、腰に付けた刀に手を掛け乍ら前に出てきた。
「…え? 誰だあの人?」
「ああ、あの人は日本皇国の赤を許された有力武家の一つ
ラムレルーシュがそれにただならぬ気配を覚えてドゥリュースが説明していたその最中、その乙女が目に映らない速度で居合い切りをすると、石庭の地面の大半を占める砂の海をまるでモーゼの十戒のごとく轟音と大きな砂飛沫を上げながら衝撃波が走り抜けた。
「…あぶべええ!?」
すると、その衝撃波の着弾点にいた大きな岩塊の一角が根元から大きく崩れ、そこに隠れていたと思わしきある少年が悲鳴を上げながら落ちてきた。
「ハワードォ!?」
その人間離れした技とそれで出てきた少年が知人であったことにルナは驚いた。
「は? 何であの魔術と何も縁が無さそうな子がここに?」
「ああ、どうして魔術のまの字も見当たらなさそうなあの男が…ってそれどころじゃない! 無断侵入しただろうからそれもそうだが何をするんだ乙女さん! ここは帝国の国宝遺産の一つ!」
「あ…い、いや…いつもの癖で…そのぉ…つい…?」
それにラムレルーシュが怪訝な表情を浮かべたのに対し、せっかく招待された公共の場を知人に破壊されたことにドゥリュースは狼狽を見せるが、クリスト伯爵はそれを手で制してきた。
「ドゥリュース殿下、先人方から継がれし遺産を労れるのは殊勝な心遣いですがこの場において心配は無用です。ほら」
「…え??」
そして、クリスト伯爵が荒れた石庭に向けて手をかざすと、そこから青紫色に美しい魔術式が構築され、それは文様を複雑化させながら広がっていって石庭の破損した箇所を覆っていく。
「…うわ、これは…」
「…すごい…」
すると、石庭の荒れた個所は、まるで精密な修復作業を受けた絵画の早送りのように、高速かつ精密に元来の状態へ修復されていき、それを目にした人々はその美しさに息を飲む。
「達也、今のって…?」
「ああ、あれは修繕というより…“時間の巻き戻し”に近い―――」
「アブばばばばバババア!? たたたたしゅけてええええええええ!!」
「―――い…あ、忘れてた」
それに知的好奇心も刺激された面々もいたが、そこで石庭の一角を占める泉の水面で藻掻くハワードの悲鳴が割り込んできた。
「あれ? ハワードってカナヅチだったっけ?」
「…うーーん、昔ここ地球で知り合ったアスランと同じ声なのに…ここまで微妙な意味で見た目も中身も対照的な人がいるとは思わんかったな。とりあえずほれ」
ドゥリュースはそれに微妙な懐かしさを覚えつつ、そのかざした掌中より水銀色の太い糸を生じさせると、それは長く伸びていってハワードの身を水面より引き上げた。
「ぶべぇ!?」
そして、水面から地上へ引き戻された時に打ち所が悪かったのかハワードは情けない悲鳴を上げて気絶した。
「はー、何を考えてここまで来たんだか?」
「いや、それよりもどうやってここまで来れたのかじゃないか?」
「そうだねー、吾輩たちが言うのもあれだが子供の身だけでここまで来れるなんて思えないし…!?」
そのハワードを取り囲んで少年少女達は奇妙がるが、そこで地震とは異なる揺れが彼らの身を震わせてきた。
「…ん? 何だこれは…自然のものでは…!?」
「全員動くな!!」
乙女が真っ先にそれへ反応した直後、武装した怪しい人達が高層石庭公園に姿を現し、彼女達に銃などを突き付けた。
今度はテロリストに出くわした主人公一行。
果たして、この面子を相手にしたテロリストに…失礼、この状況に出くわしたドゥリュース達に身隊はあるのか…?