〇帝国歴951年2月14日昼 銀河連合 プラント小銀河 ユニウス市 ユニウス・セブン 第二惑星クリュセ軌道上 アーヴ帝国所属移動可能機動都市ゼミーシュル 某船内通路〇
「…全く、こちらの領域なのに後付けで領土問題係争中と吹聴し続けて混乱の火種にした地球を会議先と強行し、それが身内の不始末で頓挫したとなったら…それ以上の爆弾になりつつあるここを会議予定地にするとは…」
ドゥリュースが幼馴染によって人前には見せられない醜態をしてから数時間後、帝国側から来た此度の会談の代表団は、天窓より見えるプラント小銀河所属の惑星クリュセを難しそうな表情で見上げていた。
「資料で見た時よりも開発が進んでいる惑星のようですな。クリュセは…ですが、向こうの技術水準もあってここまで早急に進めた影響で犠牲者も多いようです。こちらから招かれた人員も含めて…」
「ええ、お互いにあそこへ送り合っている“穴狐”達の調べもあってわかっておりますが、プラントもプラントで地上住民アーシアンとコロニー住民スペーシアンとで格差などで内側に火種がもう生まれだしているようですが…」
「それでその穴狐で“赤”を起こしそうな連中の目星と対処は出来ているかね?」
「…こちら側は少なくとも重要施設と防衛兵器取り扱い要員及び要人とその警護の面子に馬鹿な真似を目論む連中は事前に除かれています。プラント側はこちらから第三国経由で流した資料で組織した諜報部が今でも水面下であぶり出しが続いているようですが…、今さっきも議員団護衛に二名銀連側とのつながりが発覚して表向きは体調不良による交代で拘束を…」
「如何せん、科学技術の発展速度とその内容はこちらも目を向けるべきものがありますが、やはりそうしたのも含めた運用のための組織はまだまだですなぁ」
「ですがまあ、そのおかげで我々も列国から表の会議と違って星界随一といわれる
帝国側代表団は天窓より見えるクリュセを見上げつつもその足を進めていたが、そこはある人物達が待つとある一室へ入った。
「…お久しぶりですな議長閣下、それとEU側のモルセール閣下、日本皇国の榊外務大臣、セイラン国務相も…」
「ええ、こちらこそ…こうして直にお会いできたのは流星系での秘密調整会議以来ですなぁ…」
そこにいたのは、あろうことか銀連の今現在の盟主ともいうべき大星洋連邦を除いた、プラント理事国を中心とする銀連加盟国の代表団のメンバーが集まっている姿があった。
「…しかしまさか、
「しかも、あの国の政権の最大スポンサーに属するあなたまで来られるとはねぇ。あなたが就任する前のかの家なら想像は出来ませんでしたな…」
その中でとりわけ注目を集めていたのは、青みがかった銀髪をした二十代後半の理性的だがどこか神経質そうなその男であった。
「まだ今の文明のレベルでは生れ落ちる先を商業レベルで選べるようになるまで進んでいませんからな科学も魔術も…。故に、オルムス人もブルーコスモス副盟主もロゴスも今の私には扱いが難しい道具というのが否めない本音です」
「いいえ、あなたがこの場にいるのも我々には朗報の兆しです。どうぞこちらへ、ジブリールEU科学技術産業委員会院長殿…」
その男ロード・ジブリ―ルを加えた一行は再び歩を進めた。
〇帝国歴951年2月14日夕刻 銀河連合 プラント小銀河 ユニウス市 ユニウス・セブン 第二惑星クリュセ軌道上 アーヴ帝国所属移動可能機動都市ゼミーシュル 青葉迎賓館〇
(…また社交界のパーティー、今回もあくまでも各国の有望な若人の交流会という名目で、あちこちの要人達のボンボン達ばかり、但し今回におけるアブリアルの参加者は僕一人だけか…)
『へー、陰キャ性分ばっか目立つ学校生活や
『…礼儀作法自体は最低限のはあの母がいない間に侍女のおばさん達が拳骨込みで仕込んでくれたからねぇ…その拳骨すらも、あの母のたまに課してくる修行に比べれば楽だったし、他にもこの地球からここへ飛ばされるまでの二週間くらいの間にまた仕込み直されたし…』
『あー、船の中で仕事部屋と勉強部屋に修行場、治療室を行き来していた時の顔のほとんどが疲れていたのはそのせいねー』
その周囲には護衛官や付添人役の大人の姿があり、その中に表向き
だが、先々週での地球におけるテロ事件を受けてドゥリュースの周囲は、他の要人子弟達と比べて警護が厚くなっており、更に関係が悪化した
「あらまぁ、この前と比して随分と威厳のある姿ですわね♪」
そんな状況で話しかけてくるのは、一部の親しい関係にある少数の者であった。
「あ、ステラお久しぶり。今日は修技館留学生ではなくて地元での正装なんだね。それでも他の銀連所属の国の子達よりかは浮いているけど」
ドゥリュースに硬い自嘲の表情を柔らかく崩させたその一人目はステラ・ブレーメル。
ドゥリュースとは同じ齢で、ノルド王国から
そのステラは、ノルド王国の先住民にして国民主流派であるエルフ族女性の正装である、葉や樹木の意匠が強く出た緑基調のドレスで美しく飾っており、ドゥリュースと同じ齢にしてはメリハリの利いた身と、薄い金色の短髪と青い瞳による彫像を思わせる美貌もあって、会場に集う子女の中でもとりわけ目立ち、アーヴの皇族と接しても見劣りするようには周囲には見えていなかった。
「…それにしても、前の地球でのパーティーで陛下にあれな口を聞いた後以上に…何か周りの子達の反応がどう接したらいいのかわからなくてビビってるって感じなんだけど…」
「ああ、何かさあ…あなたの一族に付いて…妙な噂が流れてるのよ」
「噂?」
「ええ、フォールィネでデスゲーム見たさに集まってきたあくどい金持ちらを逆に参加者にしたデスゲームをして見世物にした後で生き残りを向こうの警察に突き出して口封じさせたり、他にも先々週の地球のテロ事件でもテログループをわざとおびき寄せてマンハントを楽しんだりとか…」
「…………」
友人がこの場にいたことと話し相手になってくれたことにドゥリュースは嬉しそうな顔を浮かべるが、そのステラの口からと自分も関わる正しくはないが全てではないにせよ間違ってもいない噂を聞いて表情を微妙に引き攣らせた。
「…お、おい…ハワードォ…お前、本気でやるつもりかよ…」
一方で、そのドゥリュースに深い敵意や恨みを滲ませた表情を浮かべるものや、それを心配げに見るものもまたいた。
「当たり前だ! あのまま赤っ恥をかかされたままの状態で終われるかよ!」
その一人が恨みを取り巻きにぶつけていた時、天の暇つぶしか魔の姦計か定かではないがアーヴ側要人子弟の何名かがその近くで会話しながら通りかかった。
「おい! まだ極秘電波解析できないのかよ!?」
「無茶を言うなよぉ、いくら近いって聞いても実際にそんな秘密会議があるかどうかもわからないし、たとえあってもそれらしい電波には無数に防御電子情報が滅茶苦茶掛けられているんだからぁ…」
「…ん?」
「おいおい頼むぜぇ! 今現在、ここでうちのお偉いさん達が大星洋連邦除いた銀連理事国のお偉いさんにプラントの評議員達と、プラント問題の実質的な手打ちの極秘会議なんて…その情報は少しでも手に入れられればすげえ高く売れるんだからなぁ!」
「だ―からそんなのデマの可能性が高いって…」
「…!?」
それは周りの耳を気にしてか小声且つ物陰でやり取りされた言葉であったが、所詮は子供のものなので周囲の知覚から完全に遮断することは不可能であり、ましてやそれを敵の失態として待ち望んでいた同世代の食指を動かすには十分であった。
〇銀河連合 プラント小銀河 ユニウス市 ユニウス・セブン 第二惑星クリュセ軌道上 銀河連合軍第一艦隊 某戦艦一室〇
「…くっそ、アーヴの連中め…。自ら秘かに招いた火種で燃えた火災の火消しで大きな面を…」
ドゥリュース達もいる要人子弟の交流パーティーで不穏なさざ波が生じ始めてから数分後、銀連側艦隊の一隻にあるその部屋で、同軍の将校の何名かが窓より見える帝国艦隊に忌避と嫌悪に憎悪などを隠さない表情を浮かべていた。
「…サザーランド大佐! たった今にて情報部が見過ごせない情報を入手しました!」
「!? 直ぐにつなげろ!」
そこへ部下の一人が通信機器を起動して上官が受話器を手に取る。
『…おい! 繋げられるか!』
『ま、待ってよー…今やっと繋げられたんだからー…あ、やっと…』
まず受話器から聞こえてきたのはパーティー会場にいる若いアーヴ達の秘密通信解析を試みる電脳会話だが、それに交えて別の集団の密談も徐々に聞こえ始める。
『…それでは、プラントからの義勇軍兵力拠出についてはこのように…“教授”』
『代わりに、“茶髪の眷属殿”…協定締結後の自治権拡大については戦中における理事国政務官負担軽減を名目として…』
『ええ、“疲れたオルムスの学者”…氏……今後も研究分野での協力はノルド及びオーヴ、にほ…て…』
「…おい、これは…」
「…ええ、まだ少しですが恐らく穏健派が独断で…!」
そのノイズや隠語を交えた密談が進むにつれ、部屋にいる者達の表情はますます歪んでいった。
〇帝国歴951年2月14日夜 銀河連合 プラント小銀河 ユニウス市 ユニウス・セブン 第二惑星クリュセ軌道上 アーヴ帝国所属移動可能機動都市ゼミーシュル 青葉迎賓館〇
銀連側艦隊の某所である歪みが小さくも生じてから数十分後、要人の子弟達による各国懇親会の名目で開かれたパーティーが盛り上がりを見せた頃、それに気づいたのは感覚が鋭い何名かの子供であった。
「ん?」
「どうした? なんか嫌そうな感じをした顔して…?」
「…ん、んー…何かー…、外の方で宇宙船が爆発してその破片がぶつかってきたような揺れが遠くから伝わってきたようなー…!?」
その一人であるアーヴ側の何名かがそれを口にした直後、迎賓館を周囲の町ごと包み込む広く且つ重い揺れが襲いかかった。
「どわぁ!?」
「な、何だぁ!?」
「い、隕石でもぶつかったかぁ!?」
それは迎賓館にいた人々を驚かせて多くを慄かせるには十分すぎたが、続けて館内を駆け巡った放送はそれを後押しするものが流れ始める。
『緊急警告です!たった今にて船外にて銀連側艦隊がザフト側艦隊に攻撃を受けたとして反撃を開始し両軍が交戦状態に入りました! 船内に存在する民間人の方々は直ちに係員及び緊急案内板の指示に従って最寄りの避難層へ速やかな避難をお願いします!』
「「「「「ハアアアアアアアアアァアア!!??」」」」」
それを聞いた子弟達の多くは驚愕を口にして多くが恐慌状態に陥り始めた。
「! 皆さま落ち着いてください! 外で交戦が始まったといってもここは何重にも装甲や魔術障壁が掛けられた居住区の内側にありますからすぐには壊れないはずです! これから皆様を最寄りの避難区画へご案内しますので冷静な対処を…!?」
そして、その混乱を抑えようと迎賓館職員らが呼びかけをしたその時、その迎賓館室内の天井に映し出された船外で始まった交戦状態の宇宙から、深く暗い紫色の結界上の光を帯びた一発のミサイルがこちらに向けて近づき始めたのをドゥリュースは見た。
(…え!? 何…あの…すごく禍々しい感じをしたミサイルは…何処かで!?)
ドゥリュースがそれに極めて危険な意味で懐かしさに似た感覚を覚えたその直後、船内を先ほどとは比にならない揺れが襲いかかり、天窓は崩壊して幾つかの瓦礫を交えた閃光が彼の視界を覆いつくした。
それはのちに、“血のバレンタイン”と呼ばれることになる、第四次星界大戦の始まりとされた大事件で無数に起きた悲劇の一つであった。
次回から話はまた大きく進みます。
今回起きた惨状の詳細は、今後の話の展開の途中にて幾つかの回想という形で挟んでいく予定です。
それに伴い、原作の表記名も変える可能性がございます。