046 生死にも意味は複数ある
〇帝国暦951年10月22日朝 銀河連合 オーブ連合首長国 ヘリオス星系
ユニウス・セブンで開かれた三者協議が戦火に染まってから十ヵ月後、その火種が銀河の各所に飛び散ってBETAと共に星界の戦火を広げ続けている時の中でも、技術立国オーブを資源面で大きく支えるその地は平穏な日常が営まれていた。
「………………」
そのヘリオポリスの一角にある郊外住宅地の広い邸宅の一つの中庭で、一人のアーヴの少年がアイマスクと一体化した電脳作業向け
傍目で見れば静かに寝ているように見えるが、その
その中で、少年の意識は無数の開かれた本が何本もの水流のように流れる電脳世界の中で、漂うように佇みながら情報を選んで読み漁っていた。
『…先日にユニウス・セブンで起きた大爆発ですが、大星洋連邦高官の内部告発によって同国同盟国サード・サマリアが例のG元素使用新兵器を使用したものによる可能性が高いと…』
『どうやらブルーコスモス過激派が…』
『一方、同国大統領は今回の事件は軍内部のコーディネイター系将校とプラントによる自爆偽旗作戦との可能性を…』
まずは少年の国とは浅くはない因縁を持つ国についてのニュースが流れていき、続けては少年の国のものへ意識は通っていく。
『…先のプラント・ユニウス・セブンにおける前代未聞の事件にて、帝国政府は安全上の理由から銀河連合との難民受け入れ及び協議の無期停止を発表しました。他にも犯人グループの引き渡し以前に関係を否定する大星洋連邦との全
『…先のG元素兵器による大破壊とその流出を受けまして、帝国政府は大星洋連邦とサマリア共和国及びその同盟国に対し、技術及び輸出は機密保護の観点から過去にない制限をかけることも発表しました。これを受けましてサマリア政府はこれを人類共通の問題BETA大戦における前線国に対する死刑宣告とし、及びに帝国によるテロ被害の政治利用との非難を…』
その報道の内容は発信元のあまりの大きさから多くの人々や国々を巻き込むもので、そこから波及していく影響もまた拡大と複雑化に深化を増していく。
『…先日、プラントのアプリリウス・ワン第一星系にて先の事件調査のために派遣されてきた銀河連合第二艦隊をザフトと名乗るプラントの武装グループが撃破した模様です』
『プラントの独立派市民組織ザフトの最高評議会議長に再び就任したシーゲル・クライン氏はユニウス・セブンの大事件での犠牲者に対して哀悼の意を表明するとともに、理事国に対し徹底抗戦及び独立宣言を…』
電脳空間に映し出される時代の激動は、政治に携わる者達だけでなく大多数を占める市井の人々の日常も巻き込んでいく。
『先週にザフトが銀連の対プラント宣戦布告国家群に対して短期人工ゲート発生装置によって撃ち込まれたニュートロンジャマーですが、未だに解決の目途が立っておりません』
『大星洋連邦及びEUなど交戦各国のエネルギーの大半を占めていた核動力発電は分裂式・融合式問わず停止したままで市民生活に甚大な悪影響を…』
『さらには各星系の恒星活動にも弱体化などの異常現象が見受けられ、各国の農業にも甚大な被害が…』
『一方、オルムス周辺の中立を表明したサルース諸国はこれを機に…』
「リューにー! リューにー!!」
その中には住む場所も定かでなくなった人々、今日の食事も満足ではなくなってあばらが見えてきた人など世界の負の側に追いやられた者達の姿もあり、少年の意識がそこへ沈もうとしかけたその時、電脳空間のものではない声が邪魔してきた。
「…あ、ネーナ…」
「もうリューにー! いくら頭に大怪我した後遺症があるからって何度も呼んだのに気づくのが遅いよぉ!」
声に釣られてアーヴの少年がアイマスク部分を外して目にしたのは、小悪魔的な美貌を可愛く膨らませた、ここヘリオポリスの工業カレッジにある研究所で研究員として働くネーナ・トリニティで、そのアーヴの少年を無理やり立たせた。
『リュール・ソードリュ一級研究員、カトー教授がお呼びです。すぐにヘリオポリス工業カレッジ第十九研究室までお越しください』
そうして起こされたアーヴの少年リュールの視界に、続けて電脳技術による呼び出しメッセージが映し出されて鼓膜も揺らしてきた。
「…あ、リュール君にネーナちゃん、二人ともやっと来たのね!」
十数分後、郊外にある邸宅の一つからヘリオポリス内にある工業カレッジのある研究所の一室に入った二人を出迎えたのは、ここで先輩研究員として働いているセレーナ・フレイズであった。
「あ、帰って来たんですねセレーナさん」
「お久しぶりねリュール君、それとこれ留美ちゃんから送られてきた今週の分のOS調整の依頼ね」
「うわ、またこの量…昨日に先月渡されたあれだけのデータを終えたばかりなのに…」
「文句言わないのよー。宇宙船事故で記憶がしばらく飛んじゃうまでに怪我だらけの君の面倒を見てくれたのは留美ちゃんだし、あの子の所まで連れてきたのはネーナちゃんとステラちゃんがあの子と付き合いがあったからだし…」
「はいはい、きちんとノルマはこなしますから家の方ではゆっくりすごせるような仕事配分をよろしくお願いしますねー…!?」
リュールが疲れた表情でそのセレーナが渡してきたUSBメモリを受け取った直後、彼らの身を突風が包み込んでリュールの右側がオールバックにされたショートシャギーの青黒い髪が揺らめくが、それで露わになった耳は何か重傷を負って再移植されたような真新しい自然な形のものが生えていた。
『ほら、そんなにトホホ顔ばかりしていると男が下がるわよ』
その風の正体は、リュールの前に降り立った赤と白を基調とした二本の角を生やしたツインアイの背丈18メートル近い巨大な人型の機械で、その巨大な腕が急に伸ばされて生じたもののようなもので、その指先から生じて空中に投影された映像には二つのシニヨンで髪を結った東洋的で悪戯好きそうな美貌をした少女が映し出されてからかってきた。
少女の名は
ハニア系の富豪の中で国際的に大きな影響力を持つ王一族の現当主で、リュールの後援者でもあり、ここヘリオポリスの工業カレッジに多額の投資をしている身の一人である。
ちなみに、ネーナやステラとは自身の父母や兄がまだ生きていた時期に、彼女らの実家との付き添いで知り合って友人となった仲である。
「へー、動力や推進機が従来型のものにしてはまたうまく仕上がったじゃない」
ネーナが面白そうな顔で見上げたその人型の機械の名はM1アストレイ。
このヘリオポリスで実験中の、オーブ国防軍で正式採用予定の同国初の正式量産機型MSである。
「そうねー、動力機と電子神経及びパイロットの神経の電子魔術式疑似接続プログラムとかそこのアーヴ君が上手くやってくれたもの」
そのⅯ1アストレイの腹部にあるコクピットハッチが開かれて姿を見せてヘルメットを外したパイロットは、ノルド王国から士官候補生の交流会の一員という形で派遣されてきたステラ・ブレーメルであった。
「…まーねー、自分としては、子供の頃の誘拐されて記憶喪失してたいまだに思い出せない、何処でどんな学を誰からどういう風に学んだらこう思いつくんだって感じな時期が関わってるけどー…」
ステラの賞賛にもリュールは悩んだ表情を返すだけであったが、そこで研究所にある公共テレビから緊急ニュースが流れ込んできた。
『…特報です。ノルド王国首都星イェリングにてプラントのクライン議長と銀河連合のオルバーニ事務総長による二度目の休戦協定調整会議ですが、会議場近くで爆弾テロが起きた模様でー…』
その緊急ニュースは今この銀河をBETAと共に戦火で包み込み続けている第四次星界大戦に関連する事柄で、内容は芳しさを感じさせるものではなくてそれがリュールの顔の浮かぶ翳を増させた。
「…今度のも失敗か。BETAによる侵攻だってまだ続いている状況で…」
「それはまあ、あなたの亡くなったお父さんとお母さんがいた帝国が間に立っていた時期でも“血のバレンタイン”なんてのが起きたりしたのよ。私の国みたいに小さなところが仲介になってもこうなるのが自然だわ…」
「
「代わりに帝国の今の在り方は耐えられないとして他国へ移ったり、経済制裁なんて温いと言ってプラントに移住してザフトに入隊してるアーヴの人も増えてるっていうし…」
ステラが申し訳なさそうな顔を浮かべてネーナが口を尖らせつつも当然のことだと受け止めているのに対し、リュールの脳裏に帝国と関係のある今は亡き両親の記憶が思い浮かぶ。
今の争乱が起きる前、宇宙と地上の“分断”と引き換えに誕生した他国よりも極めて理想に近い平穏と豊かさの中で生まれ、そこでの思い出を懐かしそうに語ってくれた両親。
けれど、もっと広く開かれた世界で生きたい、自分をそんな世界で育てたいという、さほど珍しくはない願いをこの場合は抑えきれず、帝国を捨ててオーブへと移り住んだ。
だが、その移り住んで生活が落ち着いて自分の物心がついた時、両親はブルーコスモス過激派とコーディネイター選民主義者の抗争の巻き添えで、自分をかばって死ぬというこの世界ではさほど珍しくない悲劇で別れた。
『スー♪』
そんな両親の残した思い出の品の一つで、友達でもある水色の小鳥型ペットロボットのスーが、所々でパーツを交換されて真新しい感じのする翼を羽搏かせてリュールの方に止まった。
「…あー、またどっかに行ってたな…って、また何処か行くんかい? あーもーそんなちょろちょろあちこちを田舎ものみたいに飛ぶんじゃないよー」
そのスーを愛しそうに撫でるリュールだが、スーはその感触をある程度楽しんだ風に首を動かしたのち、再び何処かへ向けて飛び立っていったのでリュールはそれを追いかけ始めた。
「…ん? あの姿は…?」
「ルイス、余所見をするな。今日の仕事部屋に向かうぞ」
「あ、待ってメアリ、何か今さっきあっちの渡り廊下から…あの時に私を助けてくれたネーナってアーヴの子と、あそこで私達を助けてくれたけど死んだ…あの帝国の王子の人の周りを飛んでた機械の小鳥を見たような…」
そのリュールに追われるスーの姿を見て、懐かしそうな顔を浮かべる研究所の研究員や職員の格好をした同年代の少女も見られたが、今この場で彼女らがリュールと関わることはなかった。
「…全く、
「本当にあの時はあれだけの御迷惑をおかけしながらここまでしてくださりありがとうございますカガリ様、ですがあの状況だと彼の本当の身分を考えても帝国側に帰すのも危険だという表向き亡くなられた先生の判断には私も賛成でしたので…。最もあの惨劇による負傷で霊体にも損傷をうけたがために記憶が失われていたとはいえまだ研究段階の霊体レベル治療に伴って記憶操作を用いるのは気が進みませんでしたが…」
一方、そのリュールの様子を別室より超高性能望遠カメラ越しに観察している面子がいたが、その面子に混じる先ほど映像越しにリュールを弄っていた王留美の近くにはカガリという少年を思わせる中性的な風貌をした同年代の少女もいた。
「…だが、こっちがいかに彼を…、火種に変えようとする者達から隠そうとしても…」
「変えようとする者達の何名かも既に探しに来ていますし、本人も…意図していなくても近づく可能性がないとは言えませんね…。帝国側の信を交わし合える人達とも関係のさらなる密を…」
その二人のリュールを見守る表情からは齢には似合わぬ憂いと聡さ、背景に抱える多くの存在の気配を感じさせた。
「…その関係に、私達も入れてくださっていると受け取らせてもらってもよろしいでしょうか?」
「! 貴女は…!」
二人がそうしているとその背後より、銀色の細やかな砂粒が生じて集まっていき、その気配と声に気付いて二人が振り向くと、そこには青い髪と長い耳をした一人のアーヴの少女がいた。
「…少なくとも、血を分けた肉親の訃報を聞いて悲しむものがいれば、それを見て自分に出来ることはないかと探したいとする慈愛と慈悲は、宇宙と地上のどちらでも変わりはありません…」
「ありがとうございます。カガリ様…」
その姿を見て二人が敬意を示すと、そのアーヴの少女は宙に映し出された映像に触れようとするかのように手を伸ばし、それに映されているそのアーヴの少年リュールのぬくもりを求めるかのようにその姿を指でなぞり始める。
「…兄様…」
リュールの映像に映し出された姿を指でなぞりつつそう呟いたアーヴの少女の頬を、悲喜が混ざり合った二筋の涙が濡らした。
果たして、今回のお話の最後に出てきた長い耳のアーヴの少女は、何ウアなのでしょうか?
次回は、星界原作の最初のあのお話と、種ファンなら知るあの始まりを元ネタにして混ぜ合った状態で、あのあんまり喜べない再会のお話に入ります。