〇
この世界のヘリオポリスはそれを設けられたわい惑星の主要構成物質の都合で重力の低さの割にサイズが大きいので、その表面の一角を重力制御機関併用巨大ドーム型シールドが占めて、その内側に大気で満たされた居住区や各種施設が存在して成り立つという攻勢をしていた。
「…ふう、これで今回の仕事も終わったな。そっちもご苦労だったなフラガ少佐」
日光がそこにあるヘリオポリス工業カレッジに到着した頃、それがあるヘリオポリスから突き出た部分に位置する宇宙港へ、民間船と思わしき姿をした大型輸送船が入港し、艦橋にて船長と金髪の二十代半ばに見える気さくな男フラガが言葉を交わしていた。
「中立ねえ、何処とも戦争をしていない以上は…何処とも商売をしようとも自由というわけですか…」
「オーブも銀連の一国、帝国も一枚岩ではないということさ。だが、そのおかげで“G計画”も大きく進められた。だが、極秘だから終わるまでうっかり口を滑らせたりするな。お前達もだぞ」
『『『『『了解』』』』』
その艦橋に映し出されている空中投影映像には数十名の見た目は作業服に身を包んだ数十名の青年達が映し出されており、彼らは敬礼すると画面上から姿を消した。
「…彼らだけで行かせて大丈夫ですかね? ゲートの向こう側の平面宇宙側には追尾してきていたザフトの艦隊がまだいますが…」
「そのザフトならなおさらここには手を出せんさ。
「後ろ盾ねぇ、うちにそのことをとやかく言う資格があるかは微妙ですけどねぇ」
フラガの表情には自嘲と皮肉が浮かんでおり、その色は船長に対しても解けることはなかった。
〇銀河連合 オーブ連合首長国 ヘリオス星系 ヘリオス・ゲート 平面宇宙側出入り口付近○
この世界の宇宙はアーヴ以外の勢力の様相が大きく異なる別の時間軸と同じく、人々が暮らす通常宇宙と各星系の行き来で用いられる平面宇宙という二種類の宇宙で構成されている。
千年以上前に起きた、原因について諸説ある天川銀河とネイ=ステリナ銀河が通常宇宙で融合して起きた“大星災”で、それ以前に使用されていた
但し、アーヴ帝国は別時間軸と同様にこの技術を独占運用していく所存であったが、確立した初期時代における混乱で外部に流出し、それが今の他の星間国家誕生の基礎となったりもした。
「……先ほどヘリオポリス内部に先行潜入した班から追加の報告が来ました。ですがよろしいのですか? 評議会からの指示が届いてからでも…?」
そうして生まれたゲートの一つの平面宇宙側出入り口付近にて、ザフトの艦隊が止まっており、その旗艦であるナスカ級高速戦艦のヴェサリウスの艦橋にて、同艦の艦長フレデリック・アデスが慎重な意見を口にしていた。
「…甘いなアデス。私の勘がそう告げているぞ」
そのアデスの問いで否定的に答えるのは、目元を白い仮面で隠した男。
今現在の第四次星界大戦の開戦前よりプラントの防衛部門で功績を上げ、開戦後は功績を重ね続けてザフトで大規模艦隊の指揮を預かる“提督”の地位まで得た男、ラウ・ル・クルーゼである。
「…此度の連合の企み。暴かねば我らはその代償を血でもって払わなくてはいけなくなるだろう。そして、帝国にせよ今の政権にとって口ぶりはどうあれ内心ではむしろ朗報になると思うがね」
その二人がいるヴェサリウス艦橋に新たな報告が寄せられてきた。
「クルーゼ提督、ヘリオポリスの周辺デブリで作業している“ご友人”から準備が出来たと」
「そうか、では全艦に伝えろ。発進だ」
そして、クルーゼが指令席に戻って手を振りかざすと、数十を超える軍艦が進みだした。
〇銀河連合 オーブ連合首長国 ヘリオス星系
「…あ、ゲートを軍艦が通過した。今度はザフトのだ」
「はあ、またか…。BETA大戦がはじまってから増えていたけど…ザフトと銀連軍の戦争が始まってからしょっちゅうだ。ゲートで平面宇宙から通常宇宙へ出る前には、通常宇宙側の宙域が他国の主権保持宙域ならそれを擁する国に事前通告するのが国際法なのに…。今じゃーどこも事後報告すらろくにしなくなって…」
ザフトのクルーゼ艦隊が動き出して数十秒後、その動きはヘリオポリス側の職員にも伝わってきたが、初めは馴れからくる弛緩した雰囲気が流れていた。
「…いや、ちょっと待て…この進路に速度…!? こっちの惑星周辺領宙域内にもう少しで入って来るものだぞ!」
「な!?」
だが、その雰囲気はすぐに試算して管制所内を警報音が鳴り響いて慌ただしくなる。
「こちらヘリオポリス支局! こちらに向けて接近中のザフト艦隊に告げる! 貴艦隊の現行動は銀河国際法に接触しつつある! 即座に進路を変えて領宙域に侵入しないようにされたし…!?」
すぐさまヘリオポリス側からザフト側に向けて警告通信が発せられるが、強力な通信障害が掛けられて酷いノイズが生じ始める。
「通信およびレーダーに広範囲かつ深刻なNジャマー反応発生! これはザフト側からのものです!」
「…馬鹿な!? 帝国側の施設もあるのに…あのザフトがここまで…何が起きてるんだ!?」
ヘリオポリスの宇宙港全体に緊迫と混乱が広まっていく中、それは先ほど入港した大型輸送船にも伝わってきていた。
「我が艦も出るぞ! 格納庫に隠してあるメビウスも全て出せ! フラガ少佐も即座に出てくれ!」
「は! メビウス・ゼロで直ちに出ます!」
「何としても“G”と“大天使”はザフトに奪われるわけにはいかん!」
輸送船の者達も偽装がもはや通じぬ領域なのを悟ると、直ちに戦場で生きるものとして直ちに行動が慌ただしくなり始めた。
〇銀河連合 オーブ連合首長国 ヘリオス星系
オーブは中立国という立場を取っているが、昨今の情勢からして非武装中立などであるはずがなく、国の規模は小さいがコーディネイターや魔術師に亜人も受け入れる国風を反映して、技術力に重点を置いた防衛政策を取っており、領域内の各所に公表されていない軍事施設を抱えていた。
「ザフト艦隊が動き出した模様! 既にパイロットたちを送り届けてきた輸送船マルジャーヌが交戦に入った模様です!」
その内のヘリオポリスに存在する極秘軍事施設の一角で、オーブのものではない白基調の軍服に身を包んだ軍人達が慌ただしく蠢いていた。
彼らがいるその施設の中心には、白を基調として二本足が前面に向けて大きく突き出したような特徴的な形状をした大型艦が存在していた。
「…ほっほー、慌ただしくなってますなー」
「こんなバカでかいのを足元にどかどか作られているのに気づかないのも、ばれずに作られると考えるなんてのも、やっぱ間抜けだなナチュラルは」
その様子を、大型艦の上を走る無数のパイプに隠れて盗み見ている一団がいた。
彼らが来ている宇宙服は下で作業している者達のと違い、緑基調のザフトの宇宙工作部隊のものをしていたが、その中には少数の赤基調のものをした少年たちがいた。
「こっちも仕掛け終えた」
「よし、じゃー俺達も上の研究所の方へ向かうぞ。メアリとルイスが上手くお膳立てしてくれたからなアスラン、ガルマ」
「ああ」
「わかっている」
その中で、名を呼ばれたその二人は周囲の緊張しながらも何処か気楽そうなのに比べて重く構えた空気を纏っていた。
〇銀河連合 オーブ連合首長国 ヘリオス星系
「…地球起源の“悪魔”と言う負性霊次元生命体の名を冠した…というかその起源と思われる…、
ヘリオポリスの外部の宇宙空間で戦火が付きそうになり、地下区画でその煽りで不穏な蠢動がし始めていた頃、そんなことなど露知らずリュール一行はカレッジの秘密研究区画である古代兵器の研究及び解析をしており、その中でセレーナが皆の意思を代弁していた。
彼女達が取り囲んでいるのは、白と青を基調とした装甲が欠損した状態で付けられていて、見えている内部フレームはまるで人型の生物と機械が合わさったような構造をしていて時おり脈打っているように見え、頭部には金色の大きな二本のV字状の角を生やした、20メートル近い体躯をした人型の機械であった。
「…まだ動力炉あたりも解析中だからわからないことが多いけど、今わかっているだけでも二機の“エイハブ・リアクター”の現時点での瞬発的最大出力だけでも、帝国のスローネの指揮官やエース向け強化回収型の三倍はある。それでいてほぼ毎日ここヘリオポリスで使用される電力一日分のエネルギーを賄えるなんて凄いな。そのエイハブ・リアクターと一体化したコクピットブロックさえ無事な状態だと、大破してもエネルギーを自己修復に全部回せば半日くらいで基本のGフレームは全修復可能っと…。帝国の“粒子炉”とそんなのを発明して実用化させた“リューナクト”って科学者もめっちゃすごいけど…。それよりもすごいエイハブ・リアクターとそれを積んだこんなものを10万年以上前に作り出した
その人型機械の胸部にある色々と現代風な調整も施されたコクピットの中から、電脳作業向け
「…それにしても、“
一方、日光はその人型機械の装甲が剥がれて露わになったその人体を思わせる鈍い銀色のフレームに触れ、何処か懐かしそうな表情を浮かべていた。
「何か日光がそれと接していると…不思議だけど何年もずっとその子の傍にいたようなマッチ感がするわねぇ…!?」
それにネーナが妙な親近感に近い何かを感じた直後、研究所を小さくない揺れが襲い掛かった。
「ん? なにこれ…? 何か隕石でも落ちてきたかしら…?」
セレーナがそれに不穏な違和感を覚えたその時、彼女の眼前に空中投影映像で王留美の神妙な顔が映し出された。
『ちょっと皆さん、研究などは一旦おいてシェルターに避難をした方がよろしいですよ』
「は? 何で?」
『私もまだよくはわかりませんが、このヘリオポリス内部で銀連軍がザフトと交戦状態に入ったようです』
「「「「「…え!?」」」」」
その王留美が告げたこの地では本来ありえない先の震動の理由に、研究室にいた面子全員が戸惑いを見せたその時、室外だがそう遠くない場所から爆音を伴った揺れが走り抜けて彼らの身を揺らしてきた。
次回、種の方の原作主要キャラ達に視点の中心が移る予定です。