〇
銀連軍の秘密兵器開発及びそれへのザフトの襲撃で、中立国オーブのコロニーであるヘリオポリスが崩壊してから数時間後、そこで銀連軍に建艦されていた宇宙戦艦アークエンジェルは、近隣星系に位置する銀連軍所属国E.Uが有する軍事要塞アルテミスに向かって航行中であった。
「どうりゃあああァアアアア!」
そのアークエンジェルで防衛の要であるMS格納庫にある、この世界で銀連軍によって開発された初の量産型MSウィンダムの一機のコクピットで、志願兵という形で日本皇国警察官(?)から銀連軍軍人に復帰した両津勘吉が気勢を上げていた。
今現在、彼はウィンダムのOS調整を兼ねた仮想戦闘シミュレーションを受けている最中であったのだ。
「…え、えーーっと…リュース…じゃなくてリュール…あのおじさん…いったい何なの…?」
その様子をキラはタブレット型端末を通してその数値と共に見ていたが、彼女の目は丸くなっていた。
「…何って…こっちが子供の頃に向こうのバイトの都合で知り合って、そのまま腐れ縁が続いている…星一つは楽に買える借金持ちな日本皇国のお巡りさん。特技はゲームと昔からのプラモ作成、趣味は漫画やゲームにギャンブル色々」
「何か色々どう反応すればいいのかわかんない単語が混じってるんだけど!? あの人って本当にナチュラル!? もうシミュレーションとはいえ既に実戦とほぼ同じ難易度まで高得点をたたき出してるんだけど!?」
それに対しリュールはいつもと同じ様子だが、彼が呼びかけて集めたという面々の多くはコーディネイターだけでなくナチュラルもいるのだが、後者はその事が信じられないMS戦闘シミュレーション式適正値を叩きだしており、キラを驚かせていた。
いくら、キラやリュール達を中心に猛烈な勢いでナチュラルでも動かせるOSを調整しながら全ウィンダムにインストールさせている最中とはいえ、まだ乗って一日目という状態でありえない速度である。
「…いやー、両さんヘリオポリスでのゲーム大会でも私らコーディネイターやリュール君みたいなアーヴに亜人の人達を相手にしてもギャグマンガみたいな強さをしていたけど…まさかMS適正まで高いとはねぇ…」
そうして乗り込んでいる臨時MSパイロット組も兼用で入っているセレーナが半ば唖然とした顔を浮かべていた。
「そうだねえ、僕のく…両親の国の提督級以上の魔術師とも素手でやり合えそうな人だし…ごめんねセレーナさん、勝手に巻き込んで…」
「いいのよ、どの道MSに乗れる人なんてこの船に乗らされた時は私たちくらいしかいないから、どうせ乗らなくちゃいけなくなるだろうなって思っていたし…。だけど、思ってた以上に乗れる人が多かったわね…。このウィンダムの性能も研究所で研究用に乗っていたアストレイより断然上だし…パイロット次第ではザクファントムとも互角に張り合えるわ―――」
「あーもー! やっぱり反応も敏捷性も索敵探知機能も遅いー! これじゃーザクでも三機くらいに囲まれたらやられちゃうわよー!」
セレーナの表情には諦観が浮かんではいたが、艦橋会議室へ紹介された時に比べて重圧からくるこわばりは減っており、話す内容にも希望的な見立ても出てきたがそれを邪魔する形でネーナのブースカとした感じの意見が大声で出た。
「無茶を言うんじゃね―よ嬢ちゃん! 帝国のスローネみたいなのと基準にすんな! こいつは量産機と言ってもまだ半分試作型みたいなもんなんだからよ!」
「けどさー…!」
それにマードックが怒鳴りつけてネーナは言い返し、また本日で何度目かになる口喧嘩が勃発した。
「―――あ…ってあーもーまたー、OSももう一応は直に完成するとはいえ余裕があるわねあの子…」
「仕方ないよ、MSの共同研究に携わっていたとはいっても、まさか他所の戦争に巻き込まれるなんてのは思いつかないだろうし…」
セレーナはやれやれとした感じでその口喧嘩を見ているが、リュールの眼差しはマードックとの口喧嘩でMSのコクピットから出てその銀連軍のピンク基調MSパイロットスーツに身を包んでいるネーナの身に向けられだした。
(…帝国も銀連もザフトも…やっぱこのパイロットスーツは体のラインがはっきり出るなぁ…。特にセレーナさん…コーディネイターどころかアーヴから見てもエキゾチックな異なる褐色ナイスバディに…明るくも芯は強いラテン系のお姉さん的な美貌が三歳差しかないというのも消し飛ばすお姉さん的な魅力が―――)
『どうしたのリュール君? んー? ヘリオポリスばらばらなっちゃう前から忙しすぎてここ最近は皆どの子もベッドを楽しめなかったから溜まってた分が戦場って極限状態でグツグツ泡立ち始めちゃったー?』
「―――ぅうってセレーナさん!?」
だが、その事で生じた野郎の下心はセレーナには見抜かれてグイっとニシシって笑みを近づけられると、リュールは言葉こそ電脳越しだが顔を赤くした。
『ちょっとリュール、こんな状況だからゴム製品はないんだからこっちもつらいけど我慢した方がいいわよー。避妊は魔術で代用できるけど性病の方は確実じゃないんだし』
『君さ彫刻みたいな顔して生臭い話いきなりするよね!?』
セレーナの接近から下世話ムードを嗅ぎ付けたのか、別のウィンダムに乗って調整中だったステラが微笑をちらっと向けながらその電脳に横やりしてきた。
『…そういうあなた自身は大人しい人柄に見えて意外と血なまぐさいエピソードが多いと思いますが…特に、留美さんの別荘で去年の夏休みを過ごした時に色々と…』
『いやね日光さぁ…』
『あら? あの頃から少なくとも私達ではタイマンだと夜の方は持ちこたえなれない益荒男ぶりだったと思いますわよ?』
『あ、あれはあの星のあの島に群生していた特殊な植物群を中心とする得意な生態系のせいで…!?』
そのままジト目の日光やからからとした笑みの王留美も加えて電脳猥談は更に混沌を深めそうになるが、途中で強いノイズがかかったように彼女達の顔は映らなくなる。
「…え!? な、なにこれ―――!?」
『ちょっと? 関係のないお喋りしすぎじゃない?』
『―――え…!?』
それにリュールが現実でも戸惑いの反応を見せたその時、電脳空間のノイズをかき分けてキラのほんのりと頬を赤くしつつも目元が暗くなってものすごいジト目を浮かべた顔がドアップで映し出されてきた。
『…アーヴの世界は法律じゃ結婚も夫婦もないから…昔の偉い人みたいに何人かと堂々と付き合うって話は結構聞くけど…この状況で浮つきすぎじゃないかなぁ?』
『ご、ごもっともで―――』
『少なくとも去年のクリスマスの時にイーリュン神殿の裏で
「―――えぐはぁ!?」
キラの目元が暗くなっていくドアップ顔付きの電脳正論パンチにリュールは返す言葉がなく、しまいには自身の痴態が幼馴染に見られていたことをその口から告げられて、現実の方でも若干の血を吐きながらぶっ倒れた。
「うわ!? 何かリューにーが倒れた!?」
「おいおい! こんな時にぶっ倒れるなんて止めろ! もうそろそろOSの調整が終わるからそれからすぐにあのねーちゃん達と共に作戦会議が始まるんだぞぉ!」
普段からしてアブリアルを通り越してアーヴらしくないリュールに呆れつつ、両津はぶっ倒れてピクピクしている彼を引きずり始めた。
「…それでは全員が揃ったようなので作戦会議を始めるわ」
数分後、どうにか再起動を果たしたリュールを含めて戦闘参加予定者が艦橋会議室に集まったところで、ノリエガ中佐が口を開く。
「今現在、我々は目的地である銀連理事国の一つE.U所属のアルテミス要を目指して予定通りなら○○時間後に向こうへ到着する位置まで進んでいます。その道中でアルテミス星系に続くヘリオス・アルテミス間ゲートを通過する予定ですが、既に先行して偵察していたボルボ特尉からの報告でその前のデブリエリアの隙間を埋める形で、クルーゼ艦隊が既に布陣を終えつつあります」
「クルーゼ…相変わらず抜け目ないこったぁ」
「あの仮面キザ野郎、相変わらず狡い手を使いやがる…」
集う全員が注視する卓上の立体空間式戦況図では、ザフト艦隊がゲートの周囲を囲む、ここヘリオス星系における宇宙開発などで出た瓦礫などスペースデブリが集合して出来たデブリエリアの隙間を埋めるように布陣しているのが見えた。
「…このようにしてアークエンジェル級の大型艦が通れるスペースは、すでにザフト側が艦およびMS部隊を配置して…」
その戦況図を事細かに解説するのは、両津に無理やりアークエンジェルに先行で搬入されていたウィンダムのパイロットに巻き込まれた、日本皇国警察官で嘗ては長らく大星洋連邦傭兵をしていたボルボ西郷である。
ちなみに、ボルボはアークエンジェルの臨時MSパイロット組の中で最も軍人経験が長いこと、先に搭乗ウィンダムのOS調整が終わって外部での運用データ収集目的もあって先に宇宙に出て、データ収集も兼ねて先に出撃して偵察していた身だ。
その説明が経つにつれて、頭の出来も良いコーディネイター組、特に種族柄から戦闘には詳しいのが多いアーヴ組と、正規軍人組の難しい表情が更に険しくなっていく。
「…すみません。ちょっと質問をしてよいでしょうか?」
そうして沈黙が支配しそうになる中で口を開いたのはリュールであった。
「何だリュール特尉」
「発言を許可しますリュール特尉」
それにバジルール大尉が目を細めるが、ノリエガは彼女の方を制して言葉の続きを促す。
「こちらのザフト艦隊の近くに見えるこの構造物…形からして二十年前の反物質燃料生産工場ですか?」
「ええ、そのようね」
「この反応からして、まだ内部では小型コロニー級の大型燃料タンクが幾つか中身の詰まった状態であるようですが…? まあ、今は安全封印化処置をされているようですが…」
言葉が続くにつれてノリエガの表情に面白そうなものを見つけた笑みが浮かび始める。
「リュール特尉?」
「ラミアス少佐、技術士官であるあなたのお力がかなり必要かもしれません。それと魔法師や魔術師のお力も…」
「どうするつもりなんだい坊主?」
「フラガ少佐、もとからある道がザフトさん達に抑えられているなら別の道を作ればいいと思います。そのついでで出る瓦礫や土砂を彼らの出入り口に行かせればー…」
そのまま作戦会議の中心はリュールに移り、他の視線は彼一人に集められていく。
「…リュ、リュール特尉」
「コロンブスの卵ね…どうして民間のあなたが…?」
「帝国にいる家族が星界軍に務めてまして、その伝手で戦歴などのデータをよく読めているんです。まあー…表情からして似たようなことは中佐も考えられていたようですけど…」
やがて説明が終わると、バジルールが呆けた顔を見せてラミアスは素直に感心した表情を浮かべるが、リュールはアーヴの性でやや照れた感情をナヨっとした表情で隠しつつノリエガを見やった。
「ええ、そうね。これから人員の詳しい担当と詳細を決めるわ。まずはー…」
(…やっぱり根はアブリアルねぇ…)
そして、今度は不敵な笑みを浮かべたスメラギ・李・ノリエガに話の中心が移り、彼女とリュールを王留美は何度か見比べた。
「…よし! それではさっそくアークエンジェルMS隊発進準備に取り掛かるぞ!」
数時間後、MS全機の出撃準備が整ったところで、臨時ながらフラガ中佐に次ぐ指揮権を軍歴で与えられた両津勘吉の声がMSハンガーで響き渡る。
「…よし、出撃前の必要基準は全てオールクリア、あとは―――」
『はい、こちらからも出撃必要基準が満たされているのを確認しましたー』
同じくストライクのコクピットに乗り込んで機体の出撃前最終確認をしていたキラの眼前に、空中投影映像で艦橋からの通信が入るが、その画面には見知っているかが映し出されていた。
「―――ってミリアリア!? どうしてそこに!? それに何で同じ格好を…!?」
『キラとリュール君がさっき艦橋へ呼ばれていた時に外からフレイがこっそり聞いていたのよ。それで様子がおかしかったから皆で聞き出して…そんで私達も出来ることやろうって話し合ったらここで働くことになったの』
「そんな…あなた達までそんなことするのはー…」
『あ、そうそう、出撃が近づいているから医務で入ることになったフレイから伝言。薬が不足していて持病持ちの人も結構乗り込んでいるから絶対怪我しないで。それが無理だったら診なくてもいいように宇宙でパパーンってなってねって♪』
『おー、どんな怪我しても絶対戻るから皺が増えてもいいように美肌パックを次から買い込めっと伝えとけ』
それにキラの罪悪感は増えるが、返された皮肉交じりのジョークで場の空気が柔らかくなったところで、一番最初に出撃直前になったあの男の声が叱咤のようにMS全機及び環境に響き渡る。
「両津勘吉! ウィンダム! 行っきま~す!!」
『何か赤茶色の天然パーマ思い浮かべたんですけどどうして?』
その出撃と共に響いた両津の掛け声に、リュールはまだ取り戻せていない転生者としての記憶にこっそり押されてか自分でもよくわからない言葉を通信映像越しに返した。
ここまで書いておいて、やっとアークエンジェル側のMS隊の出撃で今回は終わりとなりました…。
次回はザフト側との交戦に入る予定です。