〇
「…OSのロックを解除すればいいんですね?」
ニコル達がアルテミスの傘の解除を見計らって出芸してから数分後、そのアルテミス内部に囚われたアークエンジェルに収納されているストライクの前で、アルテミス側に連行されたキラが如何わしいものを見る表情で問いかけていた。
「ああ、だが君達にはもっといろいろなことが出来るだろう?」
そのキラと彼女を庇うように前に立つリュールに問いかけているのは、二人をこの場まで拘束して連れ出したアルテミス要塞司令官のガルシアだが、二人に対し値踏みを隠さない様子で問いかけてくる。
「いろいろ?」
「例えばこれを解析し、得られた技術で同様なものやそれに対し有効的な兵器を作るなど、直接的なものだけでも色々出来るだろう?」
「私たちは民間人の学生と研究員です! 軍人でも軍属でもない身でそんなことをしなくてはいけない事情なんてありません!」
まるで戦争に協力するのが当然というようなガルシアの論法に、キラは声を荒げて反論する。
「はぁ? 今さら何を言っているのよ? 裏切った後でまた裏切った連中の癖に!」
「!?」
「……」
それにアルテミス側の一人が軽蔑を隠さない表情で声を荒げ返し、キラは驚いてリュールは冷めた顔を浮かべた。
声の主は、食堂でキラに投げ飛ばされて顔を痛めた黒く長い三つ編みの少女だった。
「裏切った?」
「こっちで生まれたくせして差別が嫌だとか言って小銀河にあんなものを作らせてそこに逃がして管理をやらせてあげたコーディネイターのくせして、そのアーヴなんかに乗せられてBETAなんてのがいる状況で傀儡になって嘘くさい独立戦争なんて引き起こしたところからまた逃げ出した連中のくせして…!?」
それに戸惑うキラにますます軽蔑と苛立ちを隠さない様子で少女はまくし立てていくが、途中で肌を刺すのを通り越して骨身まで凍えさせるような冷たい殺気が突然周囲を包み込んできて、少女は怯えを隠したくても隠せない様子になり、ガルシアら他の将兵も表情が強ばって手に持つ銃が震えて今にも暴発しそうになる。
「…随分と元気でご自由なものですね。その勇気…去年のバレンタインデーでやっちゃったご友人とそれを庇った
「…っ…それは…あ、あんた達が…!?」
その殺気の根源にいるまるで絶対零度で凍り付いた水銀の人型のように冷たい双眸を向けてくるリュールに、少女が怯えをごまかすように俯きがちに睨みつけようとした時、その場が大きく揺れた。
「っ!? 何だぁ!? 何が起きている!?」
『緊急警報! 我が要塞の防御障壁圏内にザフトMSの襲撃を確認! 続けて対デブリベルトゲート方向に向かっていたザフト艦隊も進路変更して我が要塞に向かって来ています!』
「「「「「!!!!????」」」」」
只ならぬ事態にガルシア達は戸惑うが、続けて通信されてきた内容のありえなさに周囲は驚愕してしまう。
「馬鹿なぁ!? レーダー担当は何をやっていた!? MSくらいすぐに反応して傘を開けただろうに!」
『そ、それが…反応が検出された時には既に障壁圏内まで侵入されていた状態で…ああ! 次々と障壁の展開装置やメインゲート周辺の防御兵器が破壊されていっています!』
「何だとぉ!? いったいどんな手を使って懐まで…うお!?」
「うわぁぁ!?」
悪化を続ける予想の斜め上を行く状況にガルシアが混乱を深める中、彼の目の前にアルテミスの電子技術者が次々と悲鳴を上げながら落とされていく。
気付けば、調べていた最中のバルバトスのコクピットにリュールが乗り込んで電脳越しにアークエンジェルMSのOSロックを解除し始めていた。
更に、キラが乗り込んだだろうストライクは既にコクピットハッチを閉めて歩き出している。
「お、おい!? 貴様ら何をしている!」
『敵襲を受けている最中なんでしょう! こんなことをしている場合ですか!? リュール! 皆の機体のロックが解除できるのはどれくらい!?』
『あと一分くらい! あーアルテミス側も踏まれたくなかったらさっさと要塞に戻って! この勢いだとちんたらしてたら宇宙の藻屑になるよ!』
「ええい! くそぉ!」
それにガルシアは驚き声を荒げるがキラとリュールに正論で返されると悪態を付きつつも大きな足音でアークエンジェルを後にする。
「!? この震動は戦闘だぞ!?」
「「「「!!!???」」」」
同じ頃、アルテミス要塞内部にある客室の一つに実質閉じ込められていたアークエンジェルの指揮官達も、その場にいた両津のその叫びで攻撃を受けているのに気づいた。
「ぐあー!? さっきので壁が崩れて頭を打っちまったー!?」
「りょ、両津中尉! 何をして!?」
「きゃー! その亀裂からどんどん空気が漏れ出てるわー! 死んじゃうー!」
「今度は配線がちぎれて稲妻が出て感電死しちゃうわー!」
「ぐあー! 助けてくれー!」
そこで両津はその怪力と石頭にものを言わせて壁の一角を叫びながら壊し、ナタルは困惑しつつも止めようとするが、続けてスメラギやマリューにムウも続けて大声で嘘を叫び始める。
「おい!? 何があったんだ…あぶべぇ!?」
「よし! これで見張りも潰した! 感じからしてこの要塞も長く持たん!」
「ああ、艦に戻ろうぜ!」
「ええ、アルテミスと心中はごめんね!」
「ぐずぐずしないの!」
「え、ええーー…」
それで扉が開かれると顔をのぞかせた警備兵を両津はワンパンで気絶させて逃げ出してムウも続き、マリューとスメラギに手を引かれる形で戸惑うナタルも脱出してしまうことになる。
「…これだけ広いと足つきを探すのも一苦労ですね…っ! あれは!?」
その頃、アルテミス内部の主要港でブリッツを駆ってニコルはアークエンジェルを探していたが、そこで、主要港のメインゲートが開き始めてそこからアルテミス所属の軍艦が迎撃のため出撃しようとているのが見えた。
「メアリ!」
「ああ、既にいる! ん!!」
ニコルの呼びかけにメアリが乗るベヒモスはメインゲートに拳をめり込ませ、そこから青い稲妻が迸ってゲートを覆っていき、魔術による地形操作で開閉装置を破壊してしまう。
「先ほどメインゲート開閉装置に魔術干渉が確認されました! これ以上開きませんので艦隊を迎撃に出せません!」
「何だとぉ!? だったら速く閉めろぉ! あの隙間なら戦艦は通れんが敵のMSが通り放題だ…アアァ!?」
それは港の一角にある司令室の一つにいるガルシアからも見えており、その彼が口にした懸念通りにメインゲートの小さな隙間より艦隊から続けてきたザフトのMS部隊が続々と港に侵入し、内部へ遠慮ない攻撃を浴びせていく。
「うわ! こいつは酷い…のわああ!?」
両津達が要塞主要港区画に戻って来られたのはまさにそんな時で、途中で出くわした兵士から分捕った宇宙服に身を包んだ彼らはそのヘルメットを叩き割りそうな破片をどうにか避けつつも、まだ無傷な状態のアークエンジェルを発見した。
「まだ沈んでないし橋は係ったままね! すぐに戻るわよ…!?」
それを見てマリューが急ごうとしたところで、そこから出撃してきたウィンダムの一機が彼女達の前で降り立ってきた。
『司令に艦長! 他の皆さんもいる!?』
「セレーナさん!」
『今すぐこの手に捕まって! けれどどうしてこんなことに…!?』
「おそらくブリッツだわ! 私たちをすぐに船へ戻して! さもないとアークエンジェルまで沈められるわ!」
『わかりました! 急ぎますから掴まって!!』
マリュー達は即座にウィンダムの大きな手に乗ると猛スピードでアークエンジェルへ戻った。
「あぶぶぶー!?」
「あれ!? 何かアークエンジェルの開いた出入り口から次々とアルテミス兵がトマトの出来損ないみたいな顔で飛ぶように出てくるぞ」
『あ、あー多分、ネーナちゃんと神楽ちゃんですねー。ここも人工大気層維持装置が何処まで持つかわかんないから誰か拾ってあげるといんですけどー…!?』
その途中で長い黒の三つ編みをした少女を含めた多くの兵士がアークエンジェルから大量に殴り飛ばされたような形で行き違うが、それに構わず進むセレーナが駆るウィンダムの前に、まるで空気に色が付いたかのようにブリッツが姿を現した。
『ちょ!? 何で急に!?』
「ミラージュコロイド! あれで姿を消してよここに侵入してきたんだわ! そう長くは張れないけど張られたら視覚やレーダーだけでなく魔術的にもほとんど感知出来なくな…!?」
それに驚き戸惑うセレーナ達を、ブリッツは右手に付いている攻盾システム“トリケロス”のシールドの内側に仕込まれているビームサーベルを展開して切り裂こうとする。
「ガルマのハッキングで足つきの士官なのはわかっています! 悪いですが頭はここで潰させてもらいま…!?」
ニコルがビームサーベルをウィンダムに振り下ろそうとした時、それはブリッツの右腕ごと束ねられて大型化したハーケンが超高速で飛んできて斬り飛ばした。
「!? これはあの青いの…うわぁアア!?」
それにニコルが驚きつつハーケンの飛んできた方角を見やろうとするも、その瞬間にモニターを埋め尽くしたバルバトスに蹴り飛ばされて要塞内主要港の一角に叩きつけられた。
『リュール君!?』
『すみません! MS全機のOSロックを解除するのに時間がかかりました!』
「ありがとう! 助かったわ!」
「これからアルテミス脱出戦に移ります! 私たちを直ちにアークエンジェルへ連れて行って! そこから脱出の方策を伝えます!」
そのままその場の危機を脱したマリュー達はウィンダムとバルバトスに守られてアークエンジェルに戻った。
「…それではアルテミス脱出作戦を開始します! 最大船速! フラガ少佐及び両津中尉ら宇宙小型戦闘艇・MS隊はアルテミスメインゲートの左右にあるネジ状の構造をしたメインパーツを全て破壊して! あそこを破壊すればゲートはコンダクト式だから自重を支えきれなくなって落ちて脱出口は開くわ! アークエンジェルは同箇所を攻撃しつつ宇宙小型戦闘艇・MS隊を援護!」
「!? ノリエガ司令! あそこにはE.U所属ですが味方の職員もまだ―――」
「どっちみちあのゲートを開けないとここの船が動けずじまいでなぶり殺しよバジルール大尉!」
「―――っ! 了解!」
『『『『『了解!!』』』』』
そして、スメラギ達がアークエンジェルの艦橋に戻ると同隊は即座に脱出作戦を決行する。
「足つきは何処にいる?」
「! イザーク! あっちだ!」
「ジーン!? ちょっと待て!」
だが、そうして動き出したアークエンジェルを発見したジーンの駆るザクが猛スピードで追跡しだした。
「ひ、ひひひ! 足つきめぇ! こいつで終わりだ―――!」
「邪魔ァ!!」
「―――あぶぶーーーー!!??」
そして、真後ろからアークエンジェルをオルトロスで撃ちぬいて沈めようとするも、そこでまたバルバトスに蹴り飛ばされ、軌道がずれた大型ビームはアルテミスのメインゲートの根元に直撃した。
「う、うわぁ!?」
「のわああ! ゲートのパーツが落ちて来てえ!」
「あああ! くそぉ! 帝国のせいで新しいパーツが手に入れずらいから繰り返し使ってたのがここで限界にぃ!」
「だ、だが! これで艦隊を要塞の外に出せるぞ!」
これまでの戦闘でダメージが溜まっていたのか、それでアルテミスのメインゲートは崩壊しだしてパーツは重力に引かれて落ちだし、敵味方共に驚きつつも後者は開いた出入り口を見て希望を見出した表情になる。
「よ、よし! あの開いたメインゲートから動かせる艦を全て出撃させろ! 早くせんとこのまま押し切られ…うわアアアァアアアアァ!?」
それを主要港区画の管制塔にある司令室の一つから見たガルシアは慌てて指示を出すが、そこで蹴り飛ばされてきたジーンのザクが直撃してきて管制塔はへし折れて爆炎を上げてしまう。
「何!? メインゲートが内部から爆破されて開かれただと…!? ち…このような手で突破を図るとは…全艦! 艦隊船へ移行!」
その様子は要塞を外部から攻撃してきていたザフト艦隊にも見えており、艦隊旗艦ドルベットの艦橋より望遠カメラ越しの映像で見たマネキンは即座に対応する。
「おい! 足つきはここから出ていく艦隊に紛れて脱出しようとしてるぞ!」
「何だとディアッカ! くそぉ! ここまで来て逃がすかぁ!」
それをアルテミス内部主要港で暴れていたザフトのMS隊も見ており、イザークの駆るデュエルが原作と呼ばれる時間軸にはなかった背面に付けられしエール装備を最大限に吹かして猛追尾しだした。
「!? デュエルが追ってきます!」
「あれはエール装備!」
アークエンジェル艦橋もそれを確認して表情が強ばり、特にマリューはそれが顕著になる。
この世界のデュエルガンダムは銀連初の実用MSなのは変わらないが、その拡張性の良さからストライク完成で得たデータを生かした改修を受け、同機と同じストライカーパックが使用できるのをこの場でよく知っていたためだ。
「か、回避ー! 最大船速ー!」
「駄目! 間に合わない!?」
それに気づいたアークエンジェルもエンジンを吹かして振り切ろうとするも、その前にデュエルが眼前に躍り出て、艦橋要員たちは自分達に向けてビームライフルを向けるのを目にする。
「こいつで終わりだはァ!?」
だが、イザークも笑みを浮かべて勝利を確信したその時、真横から今度はストライクの蹴りが炸裂してジーンのザクと同様に要塞内主要港の内壁に叩きつけられてしまう。
「…もう! もう…! 私たちを放っておいてぇ!!」
そのストライクの中でキラは悲痛な叫びを上げ、彼女も含めた宇宙小型戦闘艇・MS隊はアークエンジェルと共にアルテミス駐留艦隊とマネキン艦隊の艦隊船に紛れて対デブリベルトゲートへの脱出に成功する。
「…た、助かったぜぇ二人ともぉ、お前さんたちがいなけりゃあ、あの要塞もろとも俺達はお陀仏だったよ…!?」
ゲートをくぐって平面宇宙に入ってから数分後、MS格納庫にMS隊が戻ってきたがその内の一機であるバルバトスはその手に持つアルテミス所属と思わしい脱出ポッドを無造作に放り投げた。
「お、おい! 坊主危ないだろ!」
『すみません。けれど…今は少し休ませてもらってもいいですか?』
「…え?」
それにマードックは声を荒げるが、機械越しながらゾッとするまでに冷たくもそれでも消しきれない深い疲れを滲ませたリュールの声に言葉が止まり、バルバトスを指定位置に戻して出てきたリュールを止められずその背を見送るしかできなかった。
「…リュース君…」
その背を見送る一人であるセレーナは、深い憂いを帯びた瞳と共に彼を思わず昔の呼び名で小さく読んでしまった。
『はぁ? 今さら何を言っているのよ? 裏切った後でまた裏切った連中の癖に!』
「…誰も彼も、馬鹿で弱いのをいいことに…好き勝手に縋るくせして…好き勝手に言って来て…」
数分後、その身の静かな震えとして現れつつも、一たび堰が切れればMSの装甲越しでも人を殴殺か魔術で殺せる苛立ちを抑えようと、リュールはそれを刺激した浅薄にして無謀すぎる言葉を記憶の底に沈めるべく眠りに付いた。
次回、種ガンのマガジン版で出たあの問題に絡めたシーンが出てきます。