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「…ウィンダムのこっちのパーツの洗浄が終わりましたー」
「よし、バケツの方はあっちに運んでくれー」
アルテミスがザフトのマネキン艦隊による攻略を受けてから次の日、同要塞から脱出したアークエンジェルはアルテミスとダミッド・デブリベルト星系の間の平面宇宙も抜け終えて、後者の側の通常宇宙で航行を続けており、中では先の戦闘で損耗したMSなどの点検や整備に追われていた。
その作業には大量の水が使われていたが、それらの水は再回収が徹底されていた。
「…ウゥ、この水…見た目は透明なのに…臭いが消しきれてない…」
「あー我慢して、あの要塞で補給を受けられなかったせいで水は貴重なんだから…」
作業服に身を包んでいるキラは、取水制限が掛けられているせいで臭う我が身や周囲に女性として泣きそうな顔になっており、セレーナの励ましを受けていた。
「すみませんセレーナさ…ん? 何かイカみたいな臭いがー…?」
「あ、いやー…これはー…あ! 思い出した! 司令から少しの間だけシャワールームの使用許可が下りたわ! 戦闘や整備で重作業している女子限定でだけど! 一緒に来たい人いる!?」
「「「「「!!!!????」」」」」
そのキラの疑問にセレーナは少し視線を彷徨わせるが、そこでやや苦しそうながらも思い出した内容で、他の女子達の両眼をクワっと見開かせた。
「…うわ、話を聞いた途端に自分達の持ち場をさっさと終わらせて揃ってあっという間に走り去っちゃったよ。男女平等は何処に?」
「そんなねちねちすんなよ坊主、お前さんは昨日戻ってきて早々に仕事せずにベッドにぶっ倒れたんだからその分働け。それによーあの嬢ちゃん達も今頃シャワールームでがっかりしてる頃だと思うぜ」
数分後、映像の早送りのような速度で自分達の分の整備作業を終わらせて格納庫を後にした女性達の背に、女性とフェティシズムの強さを覚えてリュールは愚痴をぼやくが、マードックに叱咤されるとすぐに自分の分へ戻った。
「「「「「………………」」」」」
その頃、シャワールームには水を張られた大きなタライと、細かな違いはあるが揃って微妙な表情を浮かべてそれを囲む女性達の姿があった。
「…え、えーーっと、セレーナさん…私たち…シャワー使えるって聞いたのに…これ…何?」
「私は
最初に言葉を取り戻したキラが震える声で発した問いは、陽気な声だが残酷な内容の答えでバッサリ切られ、それを聞いた周りの女性達はガクッと肩を落とした。
「…まあ、状況が状況だから半ば予想できていたけど…」
「改めて現実を突きつけられるとねぇ」
「もー、あたし今はこの船の医務室にいるあのアルテミスの嫌み三つ編み女を昨日ボコした時に付いた鼻血の臭いが落ちてないのにー」
「やけに生々しく血なまぐさい内容でわがまま言わないで頂戴」
「それで下着はー…う、軍の支給品だから飾り気のないシンプル通り越して子供っぽくて貧相なのがー…はまだ我慢できるけどー、サイズ的に大丈夫かしらー」
そうして女性達は愚痴りつつも、スポンジやボディタオルに洗剤も用いてこのうちに身へ付いた汚れや臭いを落とすべく動き出した。
「…ぐふふふ、どうや…聞こえるか坊主共?」
「よ、よく聞こえねえ…」
「な、なあ、やっぱやめた方が良くないかなこういうの…」
「そ、そうですよぉ」
「何を言う! これは青春の思い出っしょ!」
「その通りだ! それにこの宇宙では何が起こるかわからない! あの子達の身に突然何が起きてもすぐ駆け付けられるようにするべきだ!」
数分後、女性達のいるシャワールームのドアの廊下側の前には、下卑た雄の笑みを浮かべるアザゼルや一緒に壁へ耳を当てるトール、顔を赤くして注意ししつつもあまり積極的ではないサイ、同じく注意しつつもオズオズと耳をドアに近づけつつあった新八、それとは異なって堂々と耳をドアに当てる本名は
今現在、アザゼルは宙域を行きかう電磁波の影響で魔法陣を通り辛いとの理由で艦内に残り、若い男達を誘って今回のシャワールーム利用女子組の覗きを実行したのである。
「…えっとー、日光さん…そのー…あなたの胸ー…本当に遺伝子調整とか…整形とかしてないのよねー」
「…いや、ですから私の故郷は私が9歳の時に帝国に併合されるまでは他の星との交流がなくて、遺伝子調整とかそのような高度な技術はまだなかったとー」
「て、天然だろうと遺伝子予約済みだろうと…これは反則過ぎるわ」
「あーもー、そこは触れない方がお互いのためよー」
「ぐぬ…! エルフ式天然ホルスタイン女めぇ…!」
「ミ、ミリー…そういうのはもう…」
「キラァ…それは強者の自覚ない余裕というものなの…!?」
一方、その事にはまだ気づけていない女子達の会話は思春期らしい猥談も交えだした。
「う、うおおお! 何とかドアのロック装置からハッキングして中を覗くとか!?」
「そんなのキラとその友達のあのリュールくらいにしか出来ないって―――」
「おい、お前ら何をしてるんだー?」
「―――えってのわあ!? なな何でもありませんフラガ大尉ー!!」
それはドアに廊下側から耳を当てる男子達の情欲を否応なしに煽るが、何も知らない様子のムウ・ラ・フラガが声をかけると青くなった顔で逃走しだした。
「…何だったんだぁ…ん? これは水の音…!? おい! 今は取水制限中だぞ! 誰だ勝手に!?」
ムウはそれを怪訝な顔で見送るが、そこでシャワー内部からの音声に気付いてドアをどんどんと叩きだした。
「…え? あ! フラガ少佐! 今はノリエガ中佐の計らいで整備作業をしていた子達に特別でシャワールームの使用許可が出たばかりで…!?」
「ぶげ!?」
そこで自室への帰り道の途中で通りかかったリュールが慌てて引き留めるが、そこでドアは勢いよく開いて中から手桶が飛び出てムウの鼻っ面に命中した。
「野郎どもうっさい! いい加減にしないと怒るわよ!」
「いや、もうすでに怒っているでしょ」
開かれたドアの向こう側には、バスタオルに身を包んだ女性達の姿があり、その先頭に立って手桶を投げた後のネーナと、その斜め後ろから突っ込みを浴びせるフレイの姿が目立っていた。
「いてて…! な、何をするんだよぉ…!?」
「…え!? フラガ少佐が何で…あ」
それに鼻の痛みが治まらず何が起きているのかまだわからないムウの姿にフレイが戸惑った直後、彼女は知人の一人が嫌な形で戻ってきた姿を目の当たりにする。
「ごるあぁ! 私がトイレの間に覗きに来てたうちの眼鏡を含めたゲス共をふんじばったらお前らもかぁ!?」
女子達のシャワータイムの見張り要員としてまず一人で外へ出ているも小用で一時離れていた神楽が、豪速の飛び蹴りの構えで戻ってきたのだ。
「…フ、フラガ少佐しっか…あぶべぇ!?」
「キャア!?」
「ああ!?」
「あう!?」
ムウの介抱に気を取られていたリュールはその神楽の速すぎる飛び蹴りに対処できず、後頭部へ真面に喰らって前へ勢いよく転がりまわり、何かクッションのようなものに当たってようやく止まるが女性の短い悲鳴を耳にしてしまう。
「…う、ううう…な、何で僕がこんな目に…? あ、あれ…? 何か嬉しくも…馴染んでいないあの柔らかく温かい感触が何故ここで…?」
「ぅ…ううう…リュウゥ…スぅウゥ…」
「…え!?」
リュールが痛みと心地よい感覚の二重干渉に戸惑っていると、顔を真っ赤に染めて泣きそうになっている幼馴染キラの顔が間近から見つめている姿に加えて、両掌にそれぞれ異なりつつも馴染みのある柔らかく心地よい肉の感触を覚えた。
「…え、えーっと…リュール…不本意なのはわかりますが…」
「ちょっとここは人目が…ねぇ…」
リュールがその声に釣られて顔を上げると、そこには自身に乗っかられてうるうると涙目になっているキラ、伸びている自身の右手が胸の谷間に挟まってしまって赤面してジト目を浮かべている日光、左手に胸を揉まれている形となって薄朱色に染まった頬をポリポリと搔いてしまっているステラの姿があった。
その状況にリュールが気づいて頭から血の気が引き始めた直後、彼の身に女性達の悲鳴じみた怒号と暴行が浴びせられた。
「…全く、バッチグーたちだけでなく、フラガ少佐やソードリュ特尉までこのようなことを起こすとは…」
数分後、艦長執務室にてナタル・バジルール大尉の呆れと軽蔑に羞恥の混ざった声がぼやかれていた。
「だから俺が何をしたってんだ!? 俺とリュールは巻き込まれてとばっちりを受けただけだ!」
「…い、色々不可抗力があったいえ…弁解のしようがありません…」
それにムウは心外だと叫ぶが両頬には張り飛ばされた赤い痕があり、その斜め後ろからボコボコにされた後なのが分かるリュールの消沈とした様子があった。
「…ううう! リュールめぇ…あの状況でラッキー助平をしてみせるなんて…!」
「絶対に俺はあのシンボルを揉む先に行ってみせるっしょ…!」
(ああ、フレイ…)
(ミリのを見たかったなぁ…)
(うう、ごめん…お通ちゃん…)
ちなみに、その後ろを横一列に今回の覗き事件の容疑者が並んでおり、一番星とバッチグーは怨嗟と羨望のこもった眼差しをリュールに向け、サイとトールに新八は思考がこの場から逃れていたが一様に頬には盛大な赤い手形の後があった。
「覗きにそれを押し通そうとするためのハッキング未遂行為…挙句にわいせつ行為の実行と悪性霊体の監督不届き…これらは明らかに人倫に悖る行為! 全員そろって軍法会議物の案件だ!」
「ええ!?」
「軍法会議ぃ!?」
その概ね緊張感がない男子組に対しての苛立ちも加わったナタルのその叱責も加わると、さすがに男子達から悲鳴や戸惑いが出るがそこは別の女性達によって遮られる。
「そこまで怖がらせることはないわナタル。私たちに民間人への裁判権は無いでしょう」
「ですがノリエガ司令…」
「それに、ペナルティなら彼らにはこれからこの先で行う補給作業で思いっきりしてもらうから」
「ラミアス少佐…」
上官二名の窘めにナタルは不詳そうながらも一旦受け入れるが、そこで出てきたワードにリュールが反応する。
「…え、ちょっと待ってください…補給作業って…この先にあるのは、宇宙開発や戦争で出たゴミが重力で集まって出来るデブリベルトの一つになったダミッド星系だけで銀連の基地なんて…ま!? まさか…!?」
「あー、君はこういうのは勘が良くて頭の回転も速いねー」
それにムウはいつもの軽い調子で答えるが、その表情には苦いものが混じっていた。
「死した人々の眠りを妨げようというわけじゃないわ」
「…ただ、私たちが生きるために必要なものを分けてほしいだけなの。私たちが生きるために…」
「「「「「………………」」」」」
その苦悩が隠せないスメラギとマリューの言葉に、抗えるものはこの場にはいなかった。
〇プラント小銀河 アプリリウス市 首都星系アプリリウス・ワン 短期人工ゲートステーションセンター○
銀連のプラント理事国家群各国は認めていないが、プラントが首都星系と定めているアプリリウス・ワンは、その平面宇宙や空間法則の相性の良さから、各戦線との宙域を条件付きながら超光速移動ができる人工ゲート発生装置の大規模なものが設置されていた。
「こちらクルーゼ艦隊旗艦ヴェサリウス、対ヘリオス星系一時人工ゲートを通過した。入港許可を求める」
『こちらアプリリウス・ワン管制センター。貴艦ヴェサリウスの認識コードを確認した。入港を許可する』
アークエンジェルでリュール達が叱られていた頃、プラントのその短期人工ゲートが集まる宙域の一角に、今もその一つが稲妻に縁どられた巨大な光球として現れ、そこを潜ってヴェサリウスがプラント本国に帰国した。
「…久しいな本国は。アスラン、疲れているところ悪いが君にはガルマと共に、明日の最高評議会のヘリオポリスに関する会議には銀連軍MSについての報告のため参加してもらう」
「!? ガルマもですか?」
「ああ、アルテミス攻略がもう済んでその直後に人工ゲートが好条件で出せるのが分かったので、その報告も兼ねて彼にも早く戻ってもらうことになった。まあ私もそれを聞いたのは彼らが一足早く先にここへ戻ってそれを伝えられてからだが…ああ、もうシャトルも来たから移るとしようか」
「は、はい」
その巨大な恒星を回る幾つかの惑星の周囲をまた回る形で存在する、巨大な砂時計を思わせる形状をした数百ものコロニーを中心に構成された生まれ故郷である首都の風景に、アスランは見入りかけるがクルーゼの指示で慌てて現実へ戻された。
「む、久しいなクルーゼ」
「…あ! 父う…失礼! ザラ国防委員長! それとザビ古代文明研究委員長もよくぞ…」
そして、シャトルに乗り込むとそこにはプラントの防衛最高責任者であるパトリック・ザラの姿と、
「ですがなぜお二人ともこのような場に…?」
「ザラ国防委員長はお疲れだから私が答えよう」
思わぬ二人との遭遇にアスランは驚きと疑問がわくが、それにギレンが答える。
「此度のヘリオポリス崩壊に伴う銀連軍の秘密兵器研究発覚に伴うオーブと銀連の癒着露見、そこへの帝国からの技術協力の無断流用で両国関係は大きく荒れだしている。その上で評議会もまた大きく動かせる機会になっているのだ。現在、帝国の中道右派政権はオーブと共での中立維持に見切りを付けて、外交的に我が国への緩和に動き出している。少なくとも今現在の技術者流入にかけている制限は緩むだろうな」
「…帝国が…」
「…我々もようやく戦後のことも見通して動かねばならないということだ。君らも今回の休暇はゆっくりできよう」
「………………」
ギレンの言葉に、アスランは希望を感じると共に口にした単語に関係するが今は敵の陣営にいる友の姿を思い浮かべる。
(…リュース、今…君は何をしているんだ…?)
その友の姿を思い浮かべた時、アスランの表情には消えそうにない翳が浮かび上がっていた。
次回、この世界で起きたあの惨劇の舞台がアークエンジェルクルーの前に姿を現す予定です。