〇
「…帝国仲介で銀連と一時停戦して、民間人解放ですか!?」
帝国側艦隊と本国の間で政治のお話がやり取りされて二日後、その姿を見据えつつも銀連側艦隊と対峙しているザフト側旗艦の司令室で、アスランはそれによる影響の報せを聞いて驚きと困惑を示していた。
「ああ、銀連側、特に足つきの内部にいる民間人にプラント側の人物もいることも分かってな。帝国の王女と共にこのままムーンレイスの銀河中心領域艦隊司令部に連れて帰るとまずいと向こうの賢明な者達が、そうでない連中に知られる前に動くのを読んで帝国側が段取りしたようだ。通信技術の進歩というのは素晴らしいな」
そのアスランを艦隊司令室に呼んでその話をしたのは、彼の驚きを楽しんでいるように見えるクルーゼであった。
「…ですがしかし…これまでの彼らの行動からして迂闊に信用は…」
「だからこそそういった連中にやらかされる口実をこちらから作るわけには行かん。君を呼んで先に教えたのはそのためだ。そのプラント側の要人というのがな…」
「…っ!? これは…!?」
アスランは当然ザフト側の視点で相手の信頼性からその問いを放つが、クルーゼから注意としてそのプラント側民間人の映像を見せられて更に驚いて言葉が一時止まってしまう。
「
「…ですがしかし…この条件では敵の足つきが銀連側ムーンレイス銀河中心領域付近艦隊総司令部に到着するのを阻止するのが著しく困難に…!」
「…君の私情よりも軍人として任務に尽くさんとする気質は理解できる。だが、その点についても心配は不要になった。これは先ほどと同様にまだ他言は無用だが…足つきにとっても
「…っ! こ、これは………かしこまりました! この旨…その時が来るまで他言は致しません!!」
「よろしい。それでは下がりたまえ」
「はっ!」
それでも数秒の沈黙の後、アスランは生来の生真面目さとそれで隠されて本人もまだ気づいてはいない
「(…全く、もう一方の奪ったGもこちらと違って奪えた同型艦と共に、更に新型MAまでそこ含めて各方面から得た技術をさっそく用いてどう使えるかまで確かめようとは…。この早さはギレン辺りか…新人類とやらも強欲からは逃れられんか…。ますます
そうして自分以外に人が居なくなった司令室で、クルーゼは自身の机上に映しだされた空中影像に映る、アークエンジェルに酷似しつつも緑基調に塗り直された巨艦、それと並ぶ三機のMS、鳥の足を思わせる脚部をした異形の大型MAを愉悦の笑みで見て、それらにアスランとその二人の幼馴染みを重ね見て喉を心底楽しそうに鳴らした。
〇
「ビラード分艦隊は楔型陣形を維持!」
「警戒を最大限張りつつも決してこちらから撃つな!」
「今の状況で再戦になったら終わりだぞ!」
クルーゼがアスランの内に潜む負の種子を見出して数時間後、彼らザフト側の艦隊と対峙している銀連側も動かせる戦力を全て動かし、その民間人解放を中心とした休戦協定を成功させようとしていた。
「…うわぁ、先遣艦隊の方にもこんなに多くの避難民が救援されていたんだ…」
その中で、各軍艦から仲介役である帝国側の艦隊へ移って、そこから各々の国へ帰ろうとしている人々とその多さに、予備戦力要員としてパイロットスーツ状態で待機していたキラは呆けていた。
彼女の視線の先には、帝国艦隊へ移れるシャトルに乗り込んでいる大勢の避難民の姿である。
「…平時は悪の独裁超大国とか星界のモンゴル恐怖帝国とか言ってるわりに、こういう時は当てにする人って多いんだな意外とー」
「帝国はこの手の約束事で自分から破談させたりすることはないですから。それに過去の民間人宇宙遭難者救出活動ではトップの信頼と実績を持っていますから…」
そうしていざという時にすぐ動ける格好をしているアークエンジェルMS隊員たちの中にリュールもいて、士官服で所属は違うがその隣りにアルテミスから脱出してアークエンジェルに救出されたE.U所属銀連兵で亡命アーヴの子孫レイラ・マルカルの姿もあった。
「この艦隊にいた民間人の大半はこれでー安全圏へようやく脱出…ザフトにとってはうっかり沈めて面倒な非難の材料を減らせつつ帝国との関係を深められ、帝国にとってはザフトと銀連両方に貸しを作れて、銀連も苦労して作ったGのデータを安全圏まで届けられる可能性が大幅に高まるってわけか…。この状況で向こうに行こうとしないのは―――」
「止めなさい! 危険だ!」
『離せ! この帝国の犬!』
「―――あ、やっぱあの国々辺りの人か…」
今回の民間人解放とそれを要とする停戦における三者の本音も絡めてリュールがぼやいていると、この流れに反発する人々とそれを抑えようとする兵士達の姿があった。
「オルムス人かそれ系のサマリア人難民か。言論の自由があるはずの国家なのに…サマリアも対地球密入国者船舶遭難者救出の依頼を何度もしているはずだけど…」
リュールが視線を移した先には、銃をしまって警棒を手に抑え込もうとする銀連兵と、“帝国は反オルムス主義を止めろ”や、“偽善的人道支援に騙されるな”と言った声を上げる難民の姿があった。
(…まあ、とりあえずここで何かをやらかされるつもりはいくら銀連側にもないだろう。Nジャマーや帝国の輸出超制限措置でスポンサーも絶賛大損中の最中で、ああした一部のあれの暴走で少なくなった生命線まで潰されるつもりはないだろうし。とりあえず、ああしたのに来られる前に本人達を説得して先に避難艇へ乗せて出したのは成功だったな。あの4人…特にお姫様二人の方は…)
最悪なタイミングで悪運を得た一部の暴走するアレのせいで死にかけた経験のあるリュールの意識は、プラントから来たピンクの歌姫と同郷から来た同族である王女に向けられていた。
「…先に乗せてもらえたのは我ながら情けないが、状況が状況故に仕方ないか…」
『ええ…、貴女様の身に何かあれば多くの人が悲しみや怒りにかき立てられます。貴女が御身を大事になされることが皆様を大事にされることに繋がりますわ』
一方その頃、先に乗せられた避難艇で帝国軍艦隊に向かうラムレルーシュは船内通信で、別の避難艇に乗せられてザフト艦隊に向かっていたラクスと別れの前の会話を楽しんでいた。
「殿下、そこまで気になさらないでください。あざとい人や浅薄な方は平気で売名と言われてもその身を率先して皆さんに見せられて先に行動することが大事です」
帝国軍艦隊に向かう避難艇には先のヘリオポリス崩壊時にて、同コロニーに滞在していた帝国人の姿も多数あり、その中には生物学的アーヴだが髪が自然色的な栗色の短髪で青い瞳をした小柄な少女の姿もあった。
「気にしてはいないよマリーカ。もっと耳に痛くて言い返しづらい言葉も向けられねばいけないからね」
ラムレルーシュの隣りの席に座っているその少女の名はソレイシィ・スューヌ=ディーマル・
祖先は“大革命”が起きる前にE.U圏内にいた欧州系貴族だが、大革命を大きく躍進させた“ボナパルトの大進撃”で故郷を追われ、今現在は
E.U系のアーヴは彼女のように生物学的アーヴでもいくらか地上人的要素を残しているものは珍しくなかった。
「…いいえ、そのような言葉を向ける者の心境は気に掛ける必要は殿下にはございませ…あ」
そうした今この世界で悲しいことにさほど珍しくなかった不幸を経験したマリーカだが、その翳は見せずに目前にいるアブリアルの少女と言葉を交わせる幸運を噛みしめていた所で、避難艇の窓を今現在の
「…スローディス、この艦隊にももうここまで配備が進んでいたのか…」
「ええ、今現在の人類宇宙にある量産型では最優の機体です。あれの配備が完了すれば
「去年のあの事件が無ければ、あれで得た技術も用いて銀連など向こう側の国々との関係改善や対
そのスローディスの編隊に喜色を見せるマリーカに対し、ラムレルーシュは複雑な色を見せるが、それと対峙している布陣を構えているウィンダムの一機が爆発した。
「!? あの爆発は何が起きたの!?」
その様子は先遣艦隊に合流したアークエンジェルの艦橋にも見え、せっかくの停戦に不吉な波紋を投じたそれにスメラギは顔を険しくさせる。
「まだわかりませんがザフトと帝国どちらからも攻撃性反応は見受けられません! 爆発したのは先遣艦隊の方に移送されたウィンダムの一機で―――!?」
『こちらウィンドリー所属MS第一小隊! 帝国軍からのものと思わしい攻撃を受けた! 即座に警告射撃に移る!』
「―――ええええ!?」
それに他のアークエンジェル艦橋クルーにも緊張が走る中、爆発したウィンダムの僚機である別のそれがその手に装備したビームライフルを帝国側に向けて、彼らの強張りを更に悪化させた。
「おい! 何処の馬鹿だあれに乗ってるのは!? 直ぐに止めさせろ!」
「駄目です! 間に合いません! ああ! その照準先に帝国王女殿下が乗られている避難艇がー!」
(…あ…もう…終わったー…!?)
先遣艦隊旗艦であるモントゴメリーも顔を青ざめさせつつもそれを阻止させようとして、ジョージ・アルスターは無言の乾いた笑みで涙を流すが、その眼に赤紫色の特徴的なカラーリングをしたスローディスの姿が通信映像越しに映しだされた。
「「「「「!!!???」」」」」
そして、そのスローディスの側腰部装着兵装より空識覚端末兵装
『こちら帝国星界軍赤閃艦隊司令官ゼスカハ准提督。末端の一機の暴走と見受けられるが念のため確認を取りたい』
「! こちら銀連軍第八艦隊司令官エイト・スターティッグ准将! 先程の攻撃はこちらの総意ではない! MS隊及び小型戦闘艇隊! あの命令無視した機体を捕縛して爆発した機体及びそのパイロットを保護しろ!」
そして、そのスローディスから繋がってきた通信映像で映し出された、まさか機械甲冑機翔士衣装に身を包んだ帝国側司令官の姿に、銀連側は呆気にとられつつも即座に末端の暴走した馬鹿を抑えるべく即座に動き出した。
「く! くそぉ! どいつもこいつも青い化け物の機嫌ばっか…だが! その前にあの“雷魔”の娘だけでも―――!?」
その動きに気付いた暴走中のウィンダムのパイロットは再びアーヴ避難民達の乗る避難艇を狙うが、そのビームが再び撃ち放たれる前に彼が乗る機体の腕を半透明状の壁がギロチンのように振り下ろされ、ビームライフルを腕ごと切り離した。
「―――お…え…い…今のばぁ!?」
それに暴走ウィンダムのパイロットは何が起きたのかわからない顔になるが、その直後に彼の乗る機体にバルバトスの強力な蹴りが叩きこまれ、激しい衝撃でパイロットが気絶したそのウィンダムは大急ぎで出撃して現場に駆け付けたバルバトスのワイヤーとハーケンでぐるぐる巻きにされた。
『こちらアークエンジェル所属のリュール・ソードリュ臨時准尉。暴走しただろう一機は見ての通り拘束しました。とりあえずどの艦に動かせばよろしいでしょうか? それと先ほど結界系魔術で凶行を止めなさったのはどちら様でしょう? 一言お礼を言いたいのですがー…?』
「っ! こちらモントゴメリー! バルバトスは護衛が到着次第に我が艦へ暴走したウィンダムを輸送した後に直ちに予定位置に戻れ!」
それを受けて銀連側もすぐさま傷口を塞ぐべく同調して直ちに行動を起こす。
「…ギ、ギリギリで一線を越えられたが何とか後の言い訳でうやむやに出来る見込みが半分な所で踏みとどまることが出来たか…しかし、今さっきウィンダムの腕を切り飛ばした障壁はいったい―――?」
『お止めくださいクルーゼ提督。銀連側の感情に抗えない方はあの方々によって鎮められました。この状況で静まろうとする火を風で煽られるおつもりですか?』
「―――!?」
モントゴメリー艦橋で一時艇にだが数歳分老け込んだような疲労と安堵に包まれていたジョージ・アルスターの耳を、今回の避難民解放の件で聞いたあのプラント側要人の声が震わせてきた。
「!? ラクス!?」
停戦監視のためにイージスで待機状態になっていたアスランも見るその通信映像には、ラムレルーシュの乗る避難艇と同時に出たザフト行き避難艇よりラクス・クラインが少し目を細めた表情で、静かだが底知れない威圧感を宿した声で同胞に制止を呼び掛けていた。
『それとも追討慰霊団代表予定の私達がいる前で戦火を新たに始めるおつもりですか?』
「…(ち、いい具合に狂気の花火をまた打ち上げられそうだったものを…今の魔術障壁…証拠はないが恐らくこの小娘が…)デニム、シャドール、命令変更だ。避難艇防衛陣形を保ちつつ待機だ。民間人避難も予定通り続けたいと帝国側からも連絡が来た」
そのラクスの念を押す問いかけに、先ほどウィンダムの暴走を見てほくそ笑んで登場するザクファントムを高速で飛ばそうとしていたクルーゼは内心で舌打ちしつつ、事態鎮静化のために彼女に合わせた行動へ移る。
「…どうにか踏み越えられたけど力技で引き戻されて乱れた線は大急ぎで書き直しに取り掛かったって感じか…あのピンクの子が乗っている避難艇も大急ぎで向こうに再び進みだしてーーー…あ、もうリアルタイム通信圏内を離れたな」
『リュール! 大丈夫!?』
そうした周囲にリュールがホッと一息つこうとしたところで、キラの乗るストライクがリュールの駆るバルバトスの暴走ウィンダム護送護衛のために駆けつけてきた。
「あー大丈夫、荷物が増えたけどもうこれで他に動きそうなあれな人は出ないはず…」
『キラ! リュール! 二人とも前と同じくその機体に乗ってるんだな!』
その二人の間の通信にアスランが割り込んできた。
「ア、アスラン!?」
『キラ! リュール! さっきのでわかっただろう! 二人ともこっちに来い!』
敵方にいる幼馴染の割り込みに戸惑うキラに、アスランは懸命に自軍への逃亡を呼びかける。
『君たち二人が銀連に組しなくてはいけない理由なんか何処にある!? このままいけば遠からず使い潰されるか裏切られて消されるぞ!』
「「………………」」
その真摯な呼びかけはないとは言い切れない、寧ろ今の時代の情勢からすれば普通にあり得る未来で、二人は反論できず口籠る。
『アスラン、この状況で友思いなのは素晴らしいがあまり熟慮しているとは言えん方法だな』
「…え?」
『この声は…!?』
『提督!?』
そこで二人を弁護したのは意外にも敵方の指揮官であるクルーゼからの通信であった。
『やあ、こうして映像越しながら初めて顔を会わせるのは初めてだなリュール・ソードリュ君にキラ・ヤマト君。君たちの事はアスランから聞いている』
「「………………」」
敵艦隊司令官の思わぬ横槍にリュールとキラは思わず口籠って静かに聞き入ってしまう。
『…無知や下衆な下心で裏切りを働くような面ではないな。アスランの言葉もあるように…向こう側に置いていけない者達がいるといったところか』
「…っ…はい、向こうの船に…一緒に戦争に巻き込まれた友達が大勢いるんです…。その人達を安全な場所で船から降ろすまでは…この機体は降りられません…。戦争は嫌だけど…」
クルーゼの自分達の事情へ寄り添うような言い方に、軍人としての訓練は受けていないキラは本音を吐露する。
「(…この様子、二人とも知らないな…己の
『…はい、その言葉…今この時は信じさせていただけます。キラ…行こう』
『…う、うん…』
それを聞いてクルーゼは内心の歪んだ笑みを表の身を案じる態度で隠し、リュールとキラは機体のスラスターを吹かして暴走行為の果てに捕縛された暴走ウィンダムを連れて銀連艦隊へ向かっていく。
『クルーゼ提督! しかし…!』
「アスラン、これ以上ここで喋れば彼女達に無意味だが無害ではない疑いが係るのはわかるだろう」
『…っ! 了解しました…』
それを見て途中で食い下がるが、クルーゼは二人の安全を盾に静まらせる。
「…それに、同じ幼馴染の男子であったとしても、敵陣に身を置いて剣戟を交えてくる者よりも、味方の中にいるはずなのに孤立している状況でも同じ境遇で側にいてくれるものの方に心身の安全を委ねたいとするのは、女性として当然の反応だろう」
『…!?』
その一方で、クルーゼはアスランの心中にある二人との思い出とそれから生じる思いを、歪めさせていく楔を打ち込むのも忘れなかった。
「…!? 何かリューにーにまた別の子が急接近しそうな面倒くさいイベントの気配が…!?」
『…あのー、状況が状況ですし…色々な方が聞いてるかもしれない状況なのでそういうのは口にはー…女性として微妙な感じがしたのは同じですけどー…』
同じ頃、別の担当宙域で思いを寄せる男に別の幼馴染みが近づく姿がネーナの脳裏に浮かび、日光は同じ予感を覚えて微妙そうな表情の口から本音を混じらせつつも冷静になるように呼び掛けた。
今回、色々な意味で修羅場要素が出ましたね…(笑)。