星界の輪廻   作:oosima

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今回、ファーストの方で名を馳せたあのいかつい兄貴(の同位体)が登場します。


076 更なる戦火のための歩み

 〇C.E(コズミック・イラ)71年2月11日早朝(帝国暦952年2月11日早朝) 銀河連合 銀河中心領域付近 ダミッド・デブリベルト星系 対ムーンレイスゲート前宙域 ザフト ドズル・ザビ艦隊 旗艦バクト・デギン*1

 

「…しかし、まさかクルーゼとマネキンの二人がかりでかかって捕獲はおろか撃沈すらできなかったとはな…。帝国の姫さんの存在が偶然横やりになったとは言え…」

 

 銀河連合軍銀河中心領域付近第八艦隊司令官のデュエイン・ハルバートン中将がアークエンジェル士官チームと対面するより数十分前、その数を数千隻単位で増やしていたザフト側艦隊の旗艦で、今回の艦隊司令官を務めることになったドズル・ザビが現地宙域に到着して早々に難しそうな顔を浮かべていた。

 

「…申し訳ありません。ですが長距離間平面宇宙航行可能ゲート技術のさらなる発展で、本国からザビ提督率いる艦隊が直接ご到着されたのは心強い…」

「世辞など後からでもいい。現状の再確認だ。本国から直接来るだけでもエネルギーもその代金も馬鹿にならん。幸いにも連中にはまだ知られていないが以前より短時間で同一宙域において長距離移動ゲートを現出させられるようになったとはいえな」

 

 出迎えたクルーゼの謝罪を受けてもドズルのその表情は崩れず、やがて二人を中心の此度の艦隊で参加している各提督や各隊長が、旗艦ダクト・デギンの会議室に集って現状の確認に入る。

 

「…予定通りなら今現在もムーンレイス星系の対ダミッド・デブリベルトゲートの前で偵察中の“潜宙艦”バルザール*2からの最新の報告では、足つき含めた先遣艦隊は第八艦隊に合流した模様。ですが、その最新報告となっている十分前のそれでは、第八艦隊はムーンレイス星系司令部ではなく、その同星系12惑星付近に生じる季節性ユアノン粒子疑似ゲート嵐域帯に向かっている模様です…」

 

 そこに参加したザフト側指揮官の一人の発言を受け、ドズルの双眸は細くなる。

 

「…この動きに、バルザールから届けられた現地宙域ユアノンの数値…、連中は足つきをムーンレイス星系司令部ではなく…直接ジャブローの総司令部へ行かせるつもりか」

「!?」

「まさかそんな…!?」

 

 そして、ドズルが口にした予想に周囲の提督たちは驚き、まさかという表情になる。

 

「…いや、ありえない話ではない。むしろ向こうの司令官がハルバートンなのを考えればその方が自然だろう。あの男は従来の艦隊や小型戦闘艇中心の銀連現戦力ではBETAと我らどちらにも良くて数任せの時間稼ぎしかできないのは知っている。到着するのに何日もかかるムーンレイス司令部より、短時間だがこの時期に開く自然ゲートを通じてジャブローへ直接届けるのが確実だと踏んだのだろう」

「「「「「……………」」」」」

 

 クルーゼの補足説明を受けて周囲の提督達にも信憑性が広まるのを見て、ドズル達の意識は敵味方の戦力とこれからの作戦に向けられる。

 

「向こう側の戦力は最新のものでは、第八艦隊の一個艦隊八千隻か。前回の会戦からもう半年も経っているのに戦力回復は後回し。MS戦力は例の足つきだけか…」

「銀連では貴重なMSとMAの有効性とBETAの危険性を熟知している有能な将なのに…同情しますな」

「祈りなど戦闘が終わった後で幾らでもすればいい。現地宙域で発生するだろう“ユアノン嵐”の規模及び形状流動予想の方は?」

「戦闘開始後でもニ十分先の動きまで二十万分の一以下の誤差で予測できるようになりました。その二十万分の一はこちらと向こうの攻撃で生じる影響ですが…、そんなのはせいぜい台風に小型飛行機からダイナマイトを投げ込み続けて止めようとしている無謀な動き程度のものです」

「他にも、例の足つきの二番艦および奪取済みの機体も実戦及びそのデータからの調整も終了しています」

「性能は無視できん時代だがそれ以上にこの時代でも戦いは兵力だ。()()()()()()()()()()()()()()()()M()A()もだがザクは大丈夫か?」

「はい、今回の会戦にもしももう一個艦隊分の敵増援が来ても十分な戦力はあります。総数はー…」

 

 そうして進む状況確認と作戦にクルーゼは参加しつつも思考の根底は己の目論見へ向けられる。

 

(…知将ハルバートン、そろそろ退場して滅びの扉へ知らず進む愚か者共の踏み台になってもらおうか…)

 

 その時、一瞬だがクルーゼの口元に薄く歪んだ笑みが浮かべられた。

 

 

 

 

 

 〇C.E(コズミック・イラ)71年2月11日朝(帝国暦952年2月11日朝) 銀河連合 銀河中心領域付近 ムーンレイス星系 銀連軍中心領域第八艦隊 戦艦アークエンジェル○

 

「…ううー、艦隊とせっかく合流できたのにー、朝早くからまたこんな油まみれだなんてー…」

 

 そのクルーゼの歪んだ笑みが浮かんでから数時間後にして、カズイたちの元に凶報が届けられる数十分前のこと、アークエンジェルのMS格納庫にてキラが女性として悲鳴交じりの苦情を上げていた。

 

「仕方ないでしょー。この前に帝国やらプラントやらのお姫様と一緒になったりした件からしてー、何が起きてもおかしくないんだからー。ウィンダムの方はこれでもう終わりかー。問題はー…」

 

 それをリュールは窘めつつも視線はストライクとバルバトス、アージェイトに向けられる。

 

「…バルバトスとアージェイトは帝国とオーブの共同管理下だから、パナマ星系に出たら両国の艦隊に引き渡すし、その時の船で僕らも帰るとしてー。気になるのはストライクの今後だけどー…」

「まー、普通に考えりゃーお前さん達が調整したナチュラル用OSと人機複合同調装置に置き換えて、新たに来るパイロットを乗せて運用だけどー…そうなりゃーお前さん達が使っていた頃に比べていくらかダウンは避けられんだろうなー…。まー、その予定だったパイロットも先遣艦隊が受けた攻撃でほとんど失われちまったアークエンジェル用補充要員に含まれていたから当分先になったからー…」

「もういっそ、今のままでこの先もそうしてくれる人に使ってもらえればって嫌でも思うわね」

 

 その懸念を両津が口にしていると、アークエンジェル隊指揮官であるスメラギが何名かを先導する形で現れた。

 

「……まあ、軍人さんの立場ならそうしたいでしょうなー…」

「そんな嫌そうで警戒丸出しな顔をしないで。あなた達へ一緒に感謝したいって人も何人か来ているから」

「…え? 何人か来てるって…!?」

 

 ウィンダムの影に隠れてジト目を見せるリュールの前に、彼も写真や報道などで知る大物が姿を現した。

 

「おー、君がヘリオポリスで巻き込まれてこのGフレーム使用機と共に協力してくれた研究員かー」

「娘から聞いてるよー。こんなご時世じゃなくてあの子が婚約者持ちじゃなかったらお見合いでもしてほしいくらいだ」

「…! 失礼します!」

 

 この艦隊の司令官であるハルバートンと、事務次官ジョージ・アルスターが和やかな様子で現れて、リュールは即座にウィンダムの影から出てきた。

 

「…本当になー、何度思い出しても君達の動きはすごいよ。このMSも元はと言えば君達が対BETA用に開発を始めた機械甲冑機に遅れるなと言う感じで始まったのに、君達が乗るととんでもない超兵器になるようだなー」

「「……………」」

 

 その内のジョージ・アルスターの警戒や隔意など感じ取れない穏やかな様子に、彼がブルーコスモスに穏健派ながら所属しているのをフレイから聞いていたキラとリュールはキョトンとしていた。

 

「ところでー、君の祖父母は地上出身で、彼女の両親はナチュラルなようだね?」

「…あ、はい…僕の(遺伝子上の父方である)祖父母は帝国の地上世界出身で、キラは両親がナチュラルです」

「そうかー、宇宙に何を夢見てアーヴの世界に行ったか、君達にどんな夢を託してコーディネイターにしたのだろうな…」

「「…………」」

 

 ハルバートンもその会話に加わり、キラとリュールは穏やかにその言葉へ聞き入るようになっていた。

 

「…何はともあれ、ストライクとアークエンジェル、そして皆をここまで守り届けてくれてありがとう」

「…でも、これからのこの子達とこの船はどうせ…」

「ああ、ノリエガ達と共に次の戦場だ。早くこんな内輪もめを終わらせて、さっさと本当の難敵の問題を解決せんとな」

「……あ、あの…私は…」

 

 ハルバートンからの謝意にリュールは何処か諦観を見せ、それにキラが何か思い立った様子で口籠りつつも言葉を紡ごうとし始める。

 

「それ以上は言わなくても分かる。だが、いくら魅力的だと言っても人一人だけの力で勝てるほど戦争は単純なものではない」

「それに、少なくとも戦うだけが分かたれた道を一つに結び直す方策というわけじゃない。どちらか一方の道を贄とするしか道がないというわけではない。どちらかというと私の眼だと君らはここ以外の道でこそ何か力になれると見えるよ」

「…で、でも…何か力になれるものがあるなら…それを使わないと、その力が欲しいのになくて諦めるしかない人が浮かばれないって…私はある人に習いました…」

「だからこそうぬぼれるな」

「…! うぬぼれてなんか…」

「そうしてすぐ反応する辺りまだ危うい年ごろだよ君は。だが、その分だけまだ選べる道の数と余裕はある。急いてすぐ後悔するような道を選んだら折れかねんよ」

「「…………」」

 

 その前に優しく立ちふさがり、滾々と着実且つ丁寧に諭していく二人の大人の言葉に、キラとリュールは静かに聞き入るようになっていた。

 

「閣下、事務次官、メネラオスより緊急連絡です。対ダミッド・デブリベルトゲート付近に不審なユアノン反応が…」

「…そうか、全く君たちとじっくり話せる時間もないな。それでは、運が良ければまた会おう…」

「「……………」」

 

 そして、横やりが入ってハルバートン達は惜しみながらもキラ達の前から姿を消し、リュールとキラはその背が見えなくなるまで静かに見送るしかなかった。

 

「…あなた達には口には出せない人もいるけど、思っているよりも感謝してる人は多いのよ。本当にありがとう」

「……あ、あの…!?」

 

 最後に残っていたマリューの頭を下げる姿に、キラが心残りの強まった表情を浮かべるも、その直後に彼女は嫌な意味で慣れている悪寒を隣りの幼馴染みより感じ取った。

 

『…ごめん…』

「え…ちょ…待っ…!?」

 

 悪寒に釣られてキラが隣りを見直した瞬間、その幼馴染みであるリュールの申し訳なさそうな横顔及び電脳音声での謝罪とほんの一瞬未満だが彼の左手に生じた僅かな手刀の残像を知覚した直後、彼女は後頭部に鋭くも重い衝撃を最後に意識が闇へ落ちた。

*1
バクトとはこの世界におけるジラルハネイ語由来のアーヴ語で、意味は“大いなる”など

*2
帝国暦七百年代で名を馳せたアーヴの宇宙物理学者。ステルス技術の発展に大きく貢献した




次回、種の方の主人公の心を更に曇らせる戦いのこの世界でのそれが、ついに本格的に始まる予定です。
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