〇
「…報告にあったザフトの“潜宙艦”ですが、対ダミッド・デブリベルトゲート付近で反応が途絶えてから他に反応は見受けられません…」
『ここまで来ればこの戦力差もあるし連中には仕掛けてこれんよ。何よりこれから向かう先は季節性ユアノン粒子疑似ゲート嵐域帯がある。下手に戦闘などすればそこから生じるユアノン竜巻状現象に巻き込まれて吹き飛ばされるか、下手すれば何処とも知れない宙域に出てしまうからな』
キラが幼馴染に不穏な気配を感じて数十分後、ハルバートン達は全長三千メートルを超す重アガメムノン級巨艦メネラオスの艦橋に戻り、副将のホフマン准将が通信越しに楽観的意見を示した。
「…それだといいが、如何せん昨今の他所での技術革新を思えばな…このままあと数十分ほどで来る反応が出ているジャブローへの季節性自然短期ゲートを通過できればいいが…」
その反りが合わない部下の見解にハルバートンに内心ではそうなってほしいという希望を抱きつつ、艦隊が近づきつつある惑星付近の軌道上に生じた巨大河川状のユアノンの集まりに意識を向ける。
この世界のゲート*1には各国が人工的に発生させるゲートの他に、細かい状態の違いはあるが自然発生で生じるゲートがあり、そのいくつかは期間限定で遠方の星系間を行き来できる近道として重宝されていた。
但し、そうした宙域で生じるユアノンの奔流には軍艦すらも破壊するものもあるので、その探知には最新の注意が払われるのが常である。
現在、第八艦隊が向かっている先にあるユアノンの集まりもそのゲートがこの時期で複数生じる宙域帯で、それを利用してハルバ―トンはアークエンジェルと残ったMSをパナマ星系ジャブローにある銀連軍総本部へ直接届けようとしているのだ。
(…如何せん、ユアノンゲートの技術でもザフトが我々よりも大きく進んでいる―――)
「報告! 対ダミッド・デブリベルトゲート付近に猛烈なユアノン放出現象を確認! 数値からしてザフトの短期長距離間人工強制ゲートのものです!」
「―――っ!?」
ハルバートンが彼我の技術差からくるその懸念を生じさせていたその時、それが悪い方向で当たってしまったことが知らされてしまう。
メネラオスの艦橋に望遠カメラで映し出されたゲートの付近に、それより一回り以上小さい新たなゲートが開き、そこから大量のザフト艦隊が姿を現し始めた。
「何だとぉ!? この状況のこの宙域で仕掛けてくると言うのか!?」
別の艦橋にいたホフマンもそれに驚くが、それから姿を現し始めたザフト艦隊の報告でそれはますます悪化していく。
「艦船反応は今現在感知できるものだけでも千以上! それ以上の後続もあると推測されます!」
「機動母艦ゴンドワナ級*2も複数確認!」
「MS発進も確認!」
そうして緊迫の度合いを強める報告の数々は当然、ハルバートンら軍人の他に文官たちにも緊張を走らせていく。
「アルスター事務次官! 報告からして十分後にザフト側射程圏内に入る模様です!」
「そんな馬鹿な!? この状況で仕掛けてくるなど誰だ!?」
「映像にダクト・デギンの姿が確認されたので恐らくドズルかと…!」
「あのユニウス・セブン・スリーの英雄が! あの男まで敵に回ってここにも来るなんて…これだから今の大統領は…ぬおおお!?」
その報告はメネラオスにて残存避難民の民間船への移動作業に携わっていたジョージ・アルスターにも届き、ザフト以上に味方であるはずの上司への恨み言が思わず出たところで、艦全体が大きく揺れた。
「っ!? この揺れは直撃ではないが大きいぞ!」
それは残りの避難民が集まって民間船が止められている区画だけでなく、メネラオス艦橋にも届いてハルバートンらを騒然とさせていた。
「先ほどのザフト側の砲撃で我が艦の右側に並んでいたネルソン級宇宙戦艦ディーマゼルが撃沈! その破片が多数我が艦に飛来! 防御磁場で直撃は防がれていますが衝撃は防ぎきれません!」
「戦艦からの砲撃か!? 馬鹿な! 敵艦からの熱源反応と照準反応で先ほどのものと同じものは感知できないぞ!」
「たった今ですがその熱源と照準の根源反応を確認できました! こ…これは……!!」
そして、艦橋の方で先の揺れの原因の姿が望遠カメラの捉えた映像で映し出される。
「……こ、これは…敵の新型MAです!!」
「…! ザフトめ…また新型か…!」
ハルバートンの眼に映しだされたそのザフトの新型MAは、鳥のような二本足を下に生やして全長50メートルを超して横に長く広い楕円形の巨体をしており、今もその身から太く長大なビーム砲を無数に放ちながら、周囲の随伴機と思わしいザクと同じ速度で彼らに近づきつつあった。
「…圧倒的ですな。アドゥカーフ設計局製の最新戦略級MA…“ビグ・ザム”は…」
その様子をザフト側艦隊に属する、アークエンジェルに酷似しつつも緑基調に塗り替えられてザフト式の改修を施されたことで、アークエンジェル級二番艦“プリンシパリティ”となるはずだったのにザフト側の強襲機動特装艦にされてしまった“ソドン”の艦橋より、同艦の艦長となっているドレンは頼もしいものを見る表情を浮かべていた。
『…帝国でスローネの開発にも関係していた本人達としてはMS開発の方で成功を収めたかったようですが…、向き不向きと希望が一致するとは限らない例ですね』
それに対し、ソドンが所属しているブル艦隊の提督で大型MA“キケロガ”に搭乗している、髭が似合う紳士という風貌をした男シャリア・ブルが映像付きで通信を入れてきた。
「彼らとしても母国を抜けてまで追った夢の形を変えたられたようですな。もっとも、その執念を注ぎ込んで今も開発中の“アヘッド”は動力炉関係で大きく遅れているようですが…」
『ですが、遅れて出たものが追い越しできないという決まりはありません。その辺はご本人にお任せして我々は今の戦いに集中しましょう…シャリア・ブル、キケロガ、出ますよ!!』
そのドレンとやり取りした後、ブル艦隊に所属するゴンドワナ級パンゲアの大型MA用ハッチから、シャリア・ブルは搭乗機キケロガを発進させた。
〇
「…え? こ、ここは…?」
シャリア・ブルの出撃より十数分後、キラが目を覚ましたのはMS格納庫ではなくて避難民の残りが乗り込んでいる最中の民間船の前であった。
「あ! お嬢ちゃんも目を覚ましたか! もう少し待ってろ! 残りの坊主や嬢ちゃん達もこっちに来るからよ」
「あ、あれ…リュ、リュースは…?」
「? あのアーヴ坊主の事か? 急に意識失ったって嬢ちゃんをここに連れてきた後、忘れ物を取りに行くって言ってまた艦内へ戻っていったぜ…!?」
「!?」
そこで回復した視界に幼馴染の姿は見当たらず、キラは恐れる方向へ予想するといつもの面倒くさがり屋と違ってばね人形の如く跳ね上がった。
「ごめんなさい! 私もちょっと忘れ物があるので取りに行きます!」
「え!? ちょっと待て嬢ちゃん!」
そして、キラは周囲の制止も聞かずに連れてこられた道を取って民間船から離れていく。
「あ、お姉ちゃんいたんだ。待ってー」
「悪いけど今は急いでいるから…!?」
そこで茶色の髪をしてサスペンダー付きの服を着た小さな少女が話しかけながら紙で出来た花を見せてきて、キラを立ち止まらせた。
「パパとママは怖い人だから近づくなって言ってたけど、今まで守ってきてくれたのはお姉ちゃんでしょう。だからこれお礼のお花、ありがとう」
「…! ありがとう。貰っておくからあなたもパパとママの所に戻ってね!」
それにキラは険しさが少し緩んだ表情で受け取ると、即座に勘の奥へ再び駆け出した。
「…! あれが足つき! 見えはするけどまだ防衛線が厚いなーもー」
一方、その頃のアークエンジェル船外の宇宙空間では今も激戦が続いており、同艦が所属している第八艦隊下翼を見て、第二期GATシリーズでシャリア・ブル隊に奪われたG三機の一つであるカラミティの中から、コモリ・ハーコートが面倒くさそうな顔を浮かべていた。
「! 我が艦に敵MSが一機接近! この反応はGAT-X131 …カラミティです!」
「即座に回避しろ! あれの砲撃能力はバスター以上だ…うわああああ!?」
その姿に気付いた下翼の旗艦であるアガメムノン級ヅマズルが回避しようとするも、カラミティが持つ背部から生えた二連装長距離ビーム砲のシュラーク、プラズマバズーカ砲トーデスブロック、胸部の大口ビーム砲スキュラ、盾に内蔵された2連装衝角砲ケーファー・ツヴァイの砲口が火を噴き、同艦をあっという間にハチの巣にして轟沈させた。
「…凄い性能だな。だが、こうして敵に回ると面倒すぎるだけだ。新型MAもだがあの奪われた十機! 何としても撃墜しろ!」
その様子を左翼の旗艦より見たホフマン准将は苦虫を噛んだ表情を浮かべるが、状況の真の深刻さをまだ十分には理解できていそうにいなかった。
「…く! MSやMAの運用ではやはり向こうにまだ分があるか…!」
「報告! 上翼第二防衛線に敵機が接近しつつあります! この反応は…キケロガです!」
「いかん! “ムンゾの灰色の幽霊”だ! オールレンジ攻撃が来るぞ! 警告を出せ!」
一方、メネラオスの艦橋で総指揮を執るハルバートンは事態の深刻さを認識しており、既に冷や汗を流していた。
「うわああああ!?」
「は、背後から撃たれたぁ!」
「今度は真横から二連装で来たぞぉ!」
そのメネラオスが位置する第八艦隊中央の上を守る艦隊上翼は、一機の大型MAであるキケロガに翻弄されていた。
「…こちらの中枢は向こうにありますか…ならばこうしましょう!」
周囲の四方八方から無数に押し寄せてくる銀連の小型戦闘艇メビウスの群れは、シャリア・ブルが操るキケロガのオールレンジ攻撃の前に数的優位を生かせず、次々と撃墜されていく。
キケロガに4機付けられている二連装大型ビーム砲は有線式制御で長大に伸ばされ、周囲の敵機や敵艦を複数方向から翻弄してビーム砲やビームサーベルで次々と轟沈させていき、とうとう上翼旗艦であるアガメムノン級アキレウスはぶつ切り状態にされて業火に包まれた。
「何だとぉ!? 開戦してから二十分しかたってないのにもう上翼と下翼の旗艦がやられたというのかぁ!?」
その報告は左翼旗艦艦橋にいるホフマンにも届いており、それまで上司に対するものも含まれていた彼の嫌味ったらしい表情にも動揺と冷や汗が流れ始めた。
「ちょっと! いつまで私達は出撃を止められているわけ!?」
戦況の急速な悪化はアークエンジェルにも届けられており、それは映像としてもMS格納庫に届けられており、そこにいたE.U所属銀連兵キルケ・シュタインホフが詰め寄っていた。
「出撃するも何もMSに乗れる連中が減ったんだからしょうがねえだろ! そもそもお前さんらはMS訓練を受ける許可も貰ってねえだろ! そもそもこの状況じゃあたかが数十機だしても焼け石に水だ!!」
「そうは言っても俺達の出撃まで止められているのは駄目だろ!」
「この戦況じゃあ全体としては焼け石に水だろうがこのままじゃあアークエンジェルも艦隊もお陀仏だ!」
キルケはマードックが抑えているが、ムウと両津は次々と轟沈されている味方艦の映像を指さして強く詰め寄っていた。
「奪われた新型による機動力に小さな穴を次々と開けられているのも痛いですけど、一番の問題はザフトが今回投入したあの楕円形の緑の大型MAですね。こっちからの大型ビーム砲や重ミサイルを真正面から弾きながら、あの巨体でザク並みの動きをしながら戦艦並みの攻撃をし続けて防衛線に大穴を開け続けているから、まずあれらを何とかしないと…」
「そうそう! あのデカブツ共を何とかせんとーーーー…ってお前さん何でここに!?」
それを理屈で後押しする若い声も手伝って両津も仕切り顔で頷くが、その声の主を見て驚く。
「っ!? あんたはの時の屁理屈アーヴ!? どうしてここに!?」
「どの道こっちはジャブロー手前に来る予定のオーブ宇宙船まではこの船を降りられないからね。一応は最後の義理立ての予定だよ」
同じくその姿を見て驚くキルケにつまらなさそうな表情で一瞥しつつ、パイロットスーツに着替えたリュールはバルバトスのコクピットに入った。
「…あの齢でこんな命が幾つあっても足りん戦場に出なきゃならんたぁ…」
「アーヴとか関係なしにこの先の人生きついぜ…」
「…じゃあ、せめて儂らが少しでもあいつが生きて帰れる確率を上げませんとなぁ少佐!」
「ああ!」
その姿に両津とムウは若者が戦場へ行くのを止められない自分達の情けなさもあって苦虫を噛んだ表情を一瞬浮かべるも、すぐに腹をくくった表情になってそれぞれの機体に向かった。
『…リュール君! 気を付けて! バルバトスにもユアノン嵐にも耐えられる防御磁場やコーティングに時空泡装置があるのはこちらでも知っているわ! けれどまだ実戦じゃ試したことは一度もないからくれぐれもゲート突入時には艦へ戻って!』
数十秒後、話を聞かされた艦橋より一番躊躇う反応を見せていたマリュー・ラミアス少佐からバルバトスに注意が発せられていた。
「…こっちだって死にたくないからわかります。それでは…リュール・ソードリュ! バルバトス出ます!!」
そして、アークエンジェルからバルバトスは出撃し、その姿はザフト側にもすぐに確認された。
「報告! 足つきよりMS一機の出撃を確認! この反応は…“水色の狂狼”です!!」
(…ほう、最も本命の一機がこの状況で出撃か。くくく、災厄のサイコロの眼はどちらにどう転ぶか…)
ヴェサリウスの艦橋よりその姿を望遠カメラ映像で見て、クルーゼは口元に薄い笑みが浮かべた。
次回、種の方の主役(の同位体ガール)の新たな動きも出てきます。