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「…着いたぞ。この星の首都セレウキアだ」
巨大サンドワームと神殺しの介入でザフトとの戦闘が中断になって数日後、アークエンジェルと妖怪狸レジスタンス派は戦闘で不足になった物資を補給するため、この星を支配するパルミュラ王国の首都に入った。
「…うわぁ、すごい数の人ー…うわぁ!? 突風がぁ…何なの…って帝国の軍艦!?」
その見た感じは平和で賑わいのある街に、年頃の少女らしい格好に変装したキラは集落とのあまりの差から戸惑うが、急に吹いてきた突風でスカートが大きくめくれそうになって赤くなった顔を上げると、その空を帝国の主力艦種である
「キラ、そんな珍しそうな顔をして立ち止まってると怪しまれるよ。この星には帝国の租界もあるし、二年前にこの星で開かれるのが決まったあるイベントが始まりそうな時期だから、出場選手を慣例で幾つか出すあの国の軍艦の表敬訪問もかねてついでにそれを運んだりしても不思議じゃない―――」
「はああぁぁぁぁぁあぁああ…♡」
「―――い…!?」
それを同じく変装したリュールは注意しようとするが、その途中で久しぶりに聞く親しい別の知り合いの声を聴いてギョッとしてしまう。
リュールがその声に釣られてその方向を振り向くと、麦わら帽子を被って女性らしい格好をした、リュールがまだドゥリュースと呼ばれていた時期における姉代わり的な存在で、今現在は帝国で諜報活動を取り仕切る帝国情報省に所属する殺し屋の中で十の指に入る暗殺者としての正体を隠した、ブライア・ボルジュ=イービァラ・ヨルのうっとりとゴースロスを見上げている姿であった。
「あのヨルさん、早いうちにチェックインを済ませましょうか」
「母ー、通行人がたくさんいるから早く行くー」
「…あ、申し訳ありませんロイドさんにアーニャさん」
そのヨルを現実に引き戻したのは、ロイド・フォージャーという人間白人の青年と同じ人種と思わしいがピンク色のショートヘアに緑色の瞳で少し別種族の血を引いていると思わしいアーニャ・フォージャーという娘であった。
今回、ヨルはこの時期にここで開かれるあるイベントを餌に集まってきた帝国と敵対中の勢力のスパイや殺し屋などを一人でも多く始末する任務のため、公式上は儀式結婚*1をした相手であるロイド及び彼とその前妻の娘ということになっているアーニャと三人組で、表向き大人二人それぞれの仕事の都合で訪れている最中であった。
(…え!? 何でヨルさんがここに来てるの!? もしかしてなんかまた超がつくまでに血まみれぶしゃー仕事の関係で来ているわけ!? 何かさっきの話からしてあの金髪のお兄さんとなんか結婚してるっぽいけどあのお兄さんも魔力とかの感じでヨルさんとは別方向でやばいのがしたし…もしかして裏ではどっちも今に僕たちが居候しているアークエンジェル絡みとかじゃないよね!?)
だが、その表向きの理由は知らないリュールはこの世界でのこれまでの経験から非常に嫌な予感を生じさせて顔を大きく引き散らせ始めた。
(…ここが例の大星洋連邦の新型艦が漂着したというパルミュラか…、本部からかの艦の今現在の状況確認と、あの艦と組んだというレジスタンスの亜人種で行方不明になっている
そしてリュールの勘はいくらか当たっており、ヨルの儀礼上の夫であるロイド・フォージャーはE.Uの有力加盟国の一つウェスタニアの諜報機関“WISE”の超腕利きスパイ“黄昏”が正体であった。
(…父と母…スパイに殺し屋だけど…今日は一緒に楽しんだらいいなー…)
ちなみに、表向きはロイドの前妻との娘となっているアーニャは、その正体はウェスタニアと対立する新社会主義圏の有力国の一つオストニアの極秘研究機関から脱走した魔術実験の被験者で、その心を読む能力で二人の互いに家庭でも隠している秘密を知っている存在であった。
「おい、ぼーっとするなソードリュ少尉…じゃなくて少年! 今回は彼女たちの護衛が仕事だろう」
久方ぶりの知り合いの姿を見た動揺で止まっていたリュールを思考から現実へ引き脅したのは、共にこの町へ正体を隠して来ていたナタルのお叱りであった。
「…ああ、すみません…(っと、この星…特にこの町の環境を考えて自然な格好をしているな…)」
リュールは仲間たちが乗るジープの群れに戻ると、改めて今の自分達がしている格好を確認する。
その格好は銀連圏の主要種族である人間族のほとんどには奇異に見える、帝国などの大半を占める現神教圏内で普遍的なファンタジー作品にSF要素を足したようなものをしていた。
(…この星自体が交通の要衝であるうえに、
「次はどこに行こうか?」
「昨日に面白いものが並ぶ掘り出しものの市を見つけたから行こうか」
それで生じる妙な既視感にリュールが戸惑っていると、彼の近くを帝国人が非番の
(―――お、この町には帝国の租界があって、軍艦が表敬訪問してるんだから当然だよな…)
リュールがそれに懐かしいものを感じていると、彼らが入った店に設置されている空中投影式テレビの国際放送チャンネルに、この星に関係する事柄のニュースが流されてくる。
『…そういうわけで本年度のエンパイア・ワールド・コンビ・スピードリングレースまであと○日となりましたー! 今回はここパルミュラに訪問なさっている友好国アーヴから来てくださったレースクイーン達をご紹介しまーす!!』
(…レースクイーン、星界原作ではそういう人前で露出度の高い格好をするのは非常識な扱いだったけどー…あれ星界原作って何を言ってー…いや、今はそんなことはどうでもいいか。ここにいる同族で知人や知り合いがいなければ良いけどー…)
そのニュースやそれが放映されている店にいる
「…うわ! ネーナを見たけどさー…アーヴってやっぱかわいい子ばっかー」
「す、すげえお姉さまばかりっしょー!」
「おい! 俺にも見せろよ!」
そうなればリュール以外にもトールやバッチグーなどアークエンジェル組の男が多数で画面に群がってきた。
「うおー! このリリアって子は可愛いー!」
「マルタって子は藤色の髪で清楚な感じがするなー」
(皆して注目してるなー。まあ、見慣れた僕とは違って生のアーヴを見る機会なんてそうそうないだろうし…!?)
リュールはそうした男子に前をいったん譲って、画面に映し出される面子に自分を知っている人物がいないか精査しようとするが、背後からさすような視線を感じてびくっとした。
「…リュール、女の子はね…リュールが考えているよりも男の子が他の子に向けている視線には敏感なんだよ…」
「…い、いや…だって…僕の経歴からして…もしも知り合いがこのメンバーに居てもしも急に出会って気付かれでもしたらあれだし…いいぃ痛い!」
背後を振り返ると瞳からハイライトが消えているキラのドアップ顔があり、彼女に耳たぶを抓られてリュールは本来なら膂力で圧倒的に劣るはずの彼女にずるずると一行の中へ引きずり戻された。」
「トールゥ!?」
「うわァあああ!? 違うってミリィこれはァァァいでええええ!?」
「貴様らいい加減に戻らんかァ!」
「ちち違うっしょナタル少…じゃなくて先生ぇ…あああ首を絞めながら戻らな…あ、あああ♡ これはこれでいいかもぉ…♡」
それを契機にアーヴのレースクイーン達の映像に首ったけとなっていた若い野郎どもは続々と女子達の手で引きずり戻されて行ったが、それとは別に真面目な表情で画面を見やるものも何人かいた。
『ねぇネーナちゃん、リュール君のは男の子の下心が混じってたのは否めないけど…あの子が言っていた通りの危険はあるわけで…今の映し出されてる子達にあなた達の知り合いはいたりする?』
『セレーナ、今のところはあたしと知り合ってる子はー…っ…、この子は確か…』
リュールの本当の身元を知る者たちは電脳越しに密談を交わしながら画面を注視するが、そのレースクイーン達の内の一人は、画面上に映し出されたその此度の大会における最後のレースクイーンという、流れるような青黒い長髪と紅玉のような瞳をした、他の映し出されているアーヴたちと比べても明らかにレベルが違う美少女であったが、その美貌とは別で身元がネーナの警戒を掻き立てた。
「…それにしても、ここって本当に戦争があったの? 町並みはすごく綺麗で…平和で賑やかだし…オーブみたいに色んな人が行きかってて…」
数分後、幾つかに分かれた班の内の一つでいつもの調子に戻ったキラは周囲の多様な人種や種族で構成された多くの人々が、活気がありつつも穏やかな日常を営んでいる風景に安堵しつつも戸惑っていた。
砂漠や密林地帯でザフトと戦闘をしていた身として、その手が直接には及んではいないとはいえ、そのザフト関係者も出入りしている町なのに戦火の跡が見当たらないからだ。
「…半分、平和なのは真実だ。
それはカガリの幾割か複雑そうだがどこか淡々とした口調に遮られ、同時にその理由がまた姿を見せた。
「…人類の世界の半分を名実ともに統べて今の銀河の生命線そのものである国の怒りを表立って買おうというものはいない。
「………………」
先のゴースロスとは別に街の上空を堂々と、けれども他者には威圧的にその巨体で進む帝国の軍艦を、キラは息を飲んで見るしかなかった。
次回、本作主人公たちの今回の舞台での影の部分や、関係している箇所のそれらの様子が中心になります。