〇
「…とりあえずー、医療用アルコールに包帯はこれで必要分確認出来たわね。他にはー…」
「ねー坊やー、ちょっとお話しないー?」
「え、ええっとお姉さん俺はー…いででミリィ止めてー!」
キラがカガリに諭されて数十分後、物資の補給のために訪れていた卸売市場でフレイは医療系物資の確認をしているが、その脇でもアークエンジェルクルーの少年組が町中をやたら多く歩いている人間系の水商売と思わしい、それも地元系には見えない女性達に声を掛けられていた。
「…この町自体…というか、やはり…あのザフトと狸達の戦闘が行われている地域を除けば…星系自体は平和か。だとしたら…お水のお姉さんが多い理由はやはりそれがー…」
「おい! また“棺桶”が出やがった!」
そんな中、フレイ達の周囲での怪しい気配を探りつつ、リュールが先ほどと違って周囲のそうしたピンク系の話題には触れず、現地系の新聞や情報雑誌を読み漁ってこの星の状況を調べていると、近くの倉庫街より喧騒の音が伝わってきた。
「…な、何…これ…?」
倉庫街のコンテナが集まるその報せが生じてきた現場に駆け付けたキラが、顔色を青くさせて口元を手で覆っていた。
「…ひーふーみー、全員死んでんなー」
「女や子供まで含めて全員が飢えかそれが原因での病気で死んでんなー」
「肌の色からして、おそらくE.U所属の貧乏諸国の連中だな」
倉庫街で騒ぎになっているそのコンテナの一つから警察や港湾労働者達が運び出していっているのは、痩せこけてもはや息をしていない老若男女バラバラだが全員がコーカソイド系と思わしい人間族の死体の群れであった。
「…うっわ、こっちでもこういうのは最近増えてんだなー」
「仕方ないわよレヴィ、エイプリルフール・クライシスと本国が出したザルカバス宣言で、今まで安全だった後背地や銀連中枢諸国まで飢餓込みで絶賛大ピンチ中だもの」
その現場には非番故に着替えて街中を歩いて回っていたレヴィやリリアも来ており、彼女たちはそれにしかめっ面を浮かべつつ電脳や
『…私は今現在、アステカ星域のウィツイロ伯国に来ています。嘗ては大星洋連邦のテキサス星域や南星洋合衆国と繋がる
『E.U首都星系パリに来ていますが、今だに電力供給制限と食糧配給制度は続いており…ああ! 今も食料を求める人々による暴動が近づいてきていまして…』
「うちもさー最近は対
「ま、そのおかげでここみたいな中立を守れてる星系はたいていどこも景気はいいけどね。今回の大会に託けてここには
「そんでお前は捕まえた王子様の護衛という形で今日も御馳走ただ食いしに行けるってわけかごら。おい、一晩でいいから交代しろよ」
「そんな理由で交代できるわけないでしょ。主計科の友人に頼んであまりものを上手く横流しできないか話は進めてあるからー…」
そうした銀河規模でのよくなる兆しを感じさせないニュースの数々を、アーヴの少女二名は年頃らしい茶化し合いも交えて確認していた。
「…そもそもあんたたちのせいで…」
それをアークエンジェル組の少年少女組の此度の調達グループに加わっていたキルケは苦虫を噛んだ表情で睨んでいた。
〇銀河連合 旧人民主権星系連合体大星域 銀河中心領域付近 シュリア星域 パルミュラ王国 第一パルミュラ星系 某小惑星帯○
「…どうだ? アークエンジェルの反応は確認できるか…?」
一方同じ頃、アンティオキアより数百万キロ離れた小惑星帯の中より、見た目は星系間移動可能な怪獣類に扮した銀連軍の強硬偵察改造仕様ドレイク級偵察艦の一隻が、同星系での情報収集を行っていた。
「…申し訳ありません。いかんせんアーヴから輸入が出来ていた時期と違い、今はレーダーもなかなか更新が出来ませんから…」
「…例のザルカバス宣言が発せられてからだな。くそ! アーヴの傲慢さもだがサマリアの連中の被害妄想の巻き添えで困ったものだ…!」
その艦橋の中でも銀連側の苦境とそれへの不満が如実に示されていた。
昨年に起きた血のバレンタインで、サード・サマリア共和国所属のブルーコスモス系銀連兵が横流しで手に入れたG弾の被害を最も受けた帝国は、サマリアに対して大量の証拠を突き出して犯人グループの引き渡しを求めたが、サマリア側はテロ被害を名目にした帝国の半オルムス主義的過剰行動だと反発し、他の銀連の有力各国もサマリアに対しては形ばかりの非難で、むしろ帝国に対して圧力を見せた。
当然、別時間軸だと即座に武力報復に移るだろう帝国がナアナアで済ませるはずがなく、サマリアと関係諸国に対して、その宣言を出された星系の名をとって“ザルカバス宣言”という経済制裁を発令した。
BETA戦争が始まって以降、彼らの侵攻を受けつつも初期での効果的且つ大幅な前線整理で領域を全て守りながら防衛負担を最小限度に抑えることに成功した帝国は、その戦線を維持するために他国と個別に協定を結んで、兵器や物資に情報を支援する体制を構築してきた。
だが、ザルカバス宣言が発せられると、帝国の脅威と判断されたサマリアやその友好国などはその支援措置が撤廃され、帝国産の高性能兵器やその部品の入手はほぼ不可能となり、更にその部品や食料などの他の物資も横流しされている部分も計算して大幅に減らされて、他にも輸入が続いている分もそれまで防衛協力国として帝国の補助金で低く抑えられていた価格も、補助金が撤廃させられて元の価格に戻ってコストが増したのである。
その結果、今までは旧植民地国の被支配層で収まっていた対BETA戦の悪影響が、銀連中枢諸国市民での貧困層拡大と中間層没落、あげくに不法移民による非連合圏への人口流出という形で広範囲に出てしまっているのである。
そのため、これまではオルムス系が大規模メディアに大きな影響力を持っていたために抑えられていたオルムス批判が、制裁による彼らの弱体化と貧困拡大による不満増加に押され、インターネットなどの新メディアを中心に拡大し、銀連各地ではそれを支持とする極端な勢力が選挙を中心に躍進してくる状態である。
今ではこの偵察艦の内部のように、ブルーコスモスシンパが上役に居ない限りは、そのことへの不満が普通に上るようになっている始末である。
「…ですがサマリア側があのような不信を露にしたのも、元はと言えば帝国側のこちらへの傲慢且つ配慮のない発言や政策が原因では? 今現在のザフトの侵略で旧アルコント系や旧人民主権系大星域で勃発している反乱騒ぎも、もとはと言えば彼らの反民主主義色紙も辞さない無節操な進出で火種が多く撒かれていたせいでしょう。今現在、あの星で開かれている例の大会もその見本です」
その一方でアーヴに対する反発も強くあり、それは今現在のアンティオキアで開催されている例のレース大会にも触れた。
「…まぁ、今回の戦争が起きる数年前から決まっていたとはいえ、こんな時にレース大会とはずいぶん余裕があるものだ…」
「うちの財界も若い連中を多数送り込んでいるようで…それも、“雪解け”の時期に社会主義圏の連中と帝国との貿易拡大で成り上がった連中が中心のようで…」
「まあ、制限が大きく掛けられているのは帝国との直接的な取引で、中立諸国は帝国との関係にもよりますが、通商の制限は困難というほどではありませんから…」
「悪化する一方の不況とそれに比例して下がり続けている支持率を前に、不動産上がりな今の大統領も口でフェイクニュースと罵るほどには自信を保てないようで…」
「噂じゃあ別人の名義ですが、大統領のお子さんや孫も何名か大会絡みのパーティーに送り込んでいるようですよ」
「まあ、票取りや話題作りのために何でもするのがあの大統領だからな。だが、下半身スキャンダルの事情からしてその遺伝からかもしれんな…」
その会話で出てきたアンティオキアでのレース大会に出てくる帝国の要人、特に若い子弟達の姿は艦橋で映し出された映像資料では大きく映し出されていた。
〇
「…はい、皆様お疲れ様でした」
「次の召し物はこちらにー」
パルミュラへ極秘に潜入している銀連の偵察艦での言葉のやり取りから数時間後、帝国側より今回開かれるレース大会のレースクイーンに名を連ねていたアーヴ美少女達が、いろいろな団体が絡む撮影の本日の分を終えて租界に戻り、普段着や制服に戻っていった。
「…しかしさー、ここまで戻る途中でも明るい所には出なかったけど裏路地からはパパラッチや
「まー、今の情勢的に警備を付かせてもらってるって思った方が良いだろ」
「向こうからすればこっちの死体一つだけでも価値があるってことよ。その後の報復を考慮しない
「…あー、でもそうなるとーひときわ早くこの中で着替えを終えて、向こうへの接待に向かったあの子が一番危険じゃない?」
「あー言えてる」
「生まれが良すぎるのも考え物よねー…」
そうして着替えていく少女たちの中心に浮かぶ空中映像には、彼女達と共に本日のレースクイーン業務をしながらもいち早く抜け、半分は次の仕事場である社交の場へと向かったある一人の少女が映し出されており、彼女たちがそれへ向ける視線には嫉妬と羨望、同情など複雑な感情が見えていた。
「…はい、ご到着しました。先にご到着された殿下も…」
一歩その頃、同じ租界にあるクラムナーゼ迎賓館に数台の公用車が出入りしていたが、その内の一つより駐屯所で少女達が話題にしていた美少女が降りてきた。
「…おお、彼女があの帝国第二の一族の宗家の…」
「今回のレースクイーンの№1でもある…」
同じように集っていた人々は国籍を問わずその美少女に注目し、一様に息を飲んで魅入られてしまっている。
少女は170を越した身に調和した見事な曲線美を持ちつつも将来性も更に感じさせる肢体が黒を基調としたナイトドレスで固めてられており、十代半ばの面貌は紅玉を加工したような瞳を中心に少女らしい清純さとこれからなる大人の気配を感じさせる怜悧さが同居した美貌を誇り、青黒いストレートロングヘアーを魅惑的に風へ靡かせていた。
(…リュース君、今の私の子の姿を見てどう思う? 笑う? 怒る? それとも…いつも私にも向けていた…どうしようもなさそうな時に良く見せた…“しゃーなしだねー”って遠い所を見てるような笑みを浮かべる?)
「殿下達はあちらの高楼だ。我々も我々が今こなすべき務めを全うしよう。これを邪推する者たちがいつも通り邪推できる今を未来へもつなげられるように…レイカ卿…」
「…っ…はい、そうですね…タルタイ卿」
その少女、スポール・アロン=セクパト・
次回は、主人公達が臨んでいる裏取引と、今の舞台の星やレース大会との関係が中心になる予定です。