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「おいキラ! お前はこのチリソースを選ぶだろう!」
「君ならぁこのヨーグルトソースだよねぇ!?」
「…あ、あう…え、えーーっと、えーーーっとおおおお…」
世界観が銀河規模になった時間軸においても、性別が変わっても、キラ・ヤマトは少女と男性の二人に挟まれてケバブにかけるのはどちらのソースかと迫られていた。
「…わ、私はー…リュ、リュールー…た、助け―――」
「へー、おじさん、あのすごい海賊団にいたんだー」
「古参と言っても立場はずっと平だったから大した事ねーさー。お前さんも今の抑えてる状態で凄い“覇気”をしてるよー。前にも見たけど
「―――えってちょうどよかった! リュールー! ちょっとこの二人をどうにかしてよー…え??」
そこで今は少し離れていた幼馴染の声がしてきたのでキラはさっそく潤んだ瞳でヘルプを求めるが、その隣にいた樽のような太鼓腹をした謎の大男を目にして表情が強張った。
(…え? 何このおじさん
「危ない! 伏せろ!」
「―――え…!?」
キラが嫌な懐かしさを覚えたその時、ヨーグルトソースを進めていた男が彼女の頭を掴んでテーブルの裏に引きずり込んだ。
「っ! 死ねぇ! コーディネイター!」
するとビルの屋上の一角にいた男たちがバズーカ砲を手にとって、その男めがけて砲火を撃ちはなった。
「っ! しま…間に合え…!?」
リュールが完全に不意を突かれたことに気付きつつも友を庇おうと地を蹴ったその時、彼の真上をそれ以上の速度で親しんだ人物の影が通り過ぎた。
「…
その影であるここパルミュラの古代オリエント風文化の意匠が強く出たピエロ衣装のヨルが、自身の身から茨を螺旋状に伸ばして高速で振りぬいて、広場に着弾しようとした全ての弾を天高く打ち返した。
そして、打ち返されたバズーカの弾は本来起こすはずの紅蓮の爆発ではなく、花弁を周囲へ撒く花火と化した。
「な!? 魔術師か!?」
「構わん! アーヴ共がいる今の内に“虎”を仕留めるぞ!」
それにビル屋上のバズーカを使用したグループは驚愕するが、臆せずに次々と広場を囲む建物や裏路地から次々と武装した男たちが姿を見せてきた。
「魂となって
「真の青き清浄なる世界のためにぃ!」
「なっ!? ブルーコスモスかぁ…!?」
その殺気だった男達と叫びにカガリはギョッとするが、続けて見た光景は彼女の予想の斜め上を行くものだった。
「あ、あれ…痛くない?」
「ナイフもグニョンと曲がるし…?」
「これ? 何かのイベントか…?」
驚きつつも拍子が抜けたが抜けたという感じの周囲の口からそう零れたとおり、ブルーコスモス達が撃ちはなった銃弾は誰かの皮膚にあたる寸前でポップコーンとなって地に落ち、ナイフはゴム製なのか全く人を傷つけるには至っていない。
「…(は、母あいかわらずつよい…)わ、わー…サーカスの皆さんすごいー! 目ん玉飛び出ちゃいそ―…」
「あー、サーカスのドッキリショーか」
(あ、あの子が何故ここにー…って良かった! ばれてなさそうです!)
その場にいた人々の中に、ホテルでのチェックインと客室への荷物置きを済ませて好奇心で町へ飛び出たアーニャの姿があったが、内心では明らかに気付きつつもその経歴から空気を読んでテロである真相から戸惑う周囲を言葉で引き離し、ヨルをその姿で驚かせつつも安心させる。
だが、実際ヨルに襲われているブルーコスモス側にとってすれば冗談ではない状況であった。
「ぎゃああ!? 両足の膝を外されたぁ!?」
「ち! ちくしょお! 何で爆発しないんだぁ!?」
「知るか! 魔術か何かだろぉ!」
「ちくしょお! 誰かがチクりやがったなぁ!?」
(…うーん、多分MNI*1当たりの芋づる狙いの捕縛作業で…危険物がないのは空間系操作魔術で事前に用意した安全物と適当なタイミングで交換してるんだろうな。ブルーコスモスの困惑や絶望している顔からしてこの場で代えてるんだろうけど…こういう技術は無駄に高いんだよなぁ。こんな技術があるのなら血のバレンタインだって未然に防げそうなものなのに―――)
「久々に外に出た見たら驚いたなぁ。けれどやられてる方の団員はやけに現実味があるというか…」
「―――い…!?」
阿鼻叫喚の悲鳴と怨嗟を上げていくブルーコスモス達に、リュールは感じ取れる
その人物は現神教の神官なのがわかる白基調のシスター服を着て肌の露出は少なかったが、目元のマスクを除いて見えている顔は褐色の肌に包まれて青い瞳と銀髪で凛として且つ深い知性を感じさせる、リュールより三才くらい上に見えてどこかで見たことのある気のする美女だった。
「だ、駄目だぁ! に、逃げ…ぎゃああああああ!?」
リュールの意識がその美女に向いた時、ブルーコスモス達はとうとう恐慌を起こして逃げ出すが、当然ヨルから逃げられるはずもなく、彼女の茨の鞭が巻き起こした砂塵交じりの小さな竜巻に巻き込まれて高く飛び、電灯にそれぞれ逆さ吊りとなってしまった。
「…うわー! あんだけいた暴漢役共が一斉に!」
「先のザルカバス宣言でE.Uにほとんど帝国からのサーカス団が来なくなったからここまで来たけどその甲斐があったなー!」
(…本当に知らないとはすごいなぁ…。それでエイプリルフール・クライシス下でも儲けて金と暇を持て余してる人は何処の星にも…。まあ、パニックが起きて人のドミノ倒しや金の匂いを嗅ぎつけた冒険者とかの乱入が起きるよりはましだけどー…え?)
砂塵が収まってテロ事件なのが明るみにならないまま大道芸として終わったように見えた状況に、沸き立つ周囲にリュールは少し呆然としつつも安堵の念が生じるが、そこで砂の小さな竜巻が生じる前まではいた美女の姿がいないことに気付く。
(…え? 何でこの状況で…!?)
リュールがその気配と姿の急な消え方から良くない違和感を覚えた直後、上から悪意を感じさせて少なくとも弱くはない気配を感じ取る。
「…あれは!」
上を見上げると先ほどの美女の意識を失って口元を抑え込まれている姿が、周囲の大半には気付かれない隠蔽系魔術をかけたと思わる黒のフードで全身を隠した何者かによって屋根伝いに連れ攫われている姿があり、リュールはそれに気づくと音もなく地を蹴ってその後を静かに追った。
「ぺっぺ! さっきのでソースが全身にかかって…それに砂が引っ付いて…」
「あらら、大変だねー。巻き込んでしまって申し訳ないからこっちで着替えをー…」
「バルトフェルド氏ー!? こちらにいますかー!?」
「!? バルトフェルドに…そのサングラスを外した顔…もしかして“砂漠の虎”!?」
「えぇ!?」
ちなみに、残される形となったキラとカガリは自分達に絡んでいた男の正体に気付いて驚かされることとなった。
「…ほう、こんだけの騒ぎの中で一番やばい気配をかぎつけて迷わずついていきやがったか…。あの見た目通りの齢で普通の小僧相応の経歴は過ごしてはいねえなぁ…」
一方、テロをほとんどばらされずに鎮圧されて騒ぎが市場のにぎやかさに戻りつつあった群衆の中で、太鼓腹の巨漢は小さくなっていくリュールの背を静かにだが獰猛な笑みで見つめていた。
(…ううぅ、また軽い気持ちで出たらこんな目に…)
数分後、連れ攫われた美女は市場の近くにある地下道と繋がる古びた倉庫の中で目を覚まし、自分をここまで誘拐したフードの怪しい連中と自分の浅はかさを恨んでいた。
「…王宮の方は警備が厚かったので無理だったが…、まさかこの本人に出てもらえたとは僥倖だったな…」
「ふん、所詮は我ら白人以外などこの程度だ。魔術や異教にすがるような連中などー…」
「今回、あの現場で誘拐してここまで連れてきたのも強欲で浅はかなジャッカルの魔術師だからな」
「だが、いかんせん原住民系は行動を起こす前に軒並み潰されるかしたため、我々が直接動かねばならなくなったがー…!?」
その美女を取り囲んでいるのは欧州系白人と思わしい他所のスパイやその協力者と思わしかったが、彼らの足元をするすると静かに水銀色の水たまりが這うように近づいてきているのに、彼らはそれが自分達の中心で目線の高さまで盛り上がるまで気づけなかった。
「…すみませーん。お喜びのところ悪いですけど放っておいたらこっちも巻き込んで色々都合が悪そうでしたのでボコり&とっ捕まえに来ましたー」
「っな!? な、何者だ貴様はー…ぶべえ!?」
「「「「「あぶぶぶーーーーーーー!!??」」」」」
その水銀の塊はリュールの形に変わり、彼は誘拐犯たちの首魁と思わしい人物と顔を向かい合わせる形で表れて彼らを驚愕させると、その直後にその身から伸び出た無数の水銀の拳で彼らを宣言通りフルボッコにして気絶させて無力化させた。
「……………」
「…さあ、お姉さん大丈夫ですかー…!?」
その光景に唖然としている美女にリュールは優しく手を伸ばすが、マスクとフードが外されて露になった彼女の面貌を見て彼の顔に驚きと強張りが生じた。
「姫様ー! ご無事ですかー!」
「そんな大声を出してその呼び名を用いるな! 世間にばれると厄介だぞ!」
(…まずい、この子と久々にこんな形で再会するなんて…もう救助隊もすぐ追いついてきたことも考えると、だいぶ早まってまずったかな?)
そして、自分達に向けて近づいてくる人の気配や声の内容、何より美女の正体とそれで誘拐現場で抱いた懐かしさの理由に気付いたリュールは顔を引きつらせて冷や汗を一筋流した。
次回、表向きは華やかだけれど裏側は色々きな臭ったりドロドロした舞台が中心になります。