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「…さあ、どうぞ」
「「「「「……………」」」」」
リュール達がアークエンジェルクルーやレジスタンス妖怪狸達の元に戻って数分後、今度は彼らと共に迎賓館の一室へモンテ・クリスト伯爵に招待されていた。
「…我々をこのようなお祝いの場に招かれて光栄に感じます。ですが…どのような理由で?」
「当然の質問ですね。ノリエガ司令。それならば…まずはこのままこの星が今…密かに進んでいる道をそのままにすれば、あなた達にどのような影響を及ぼすかのお話に入るとしましょう…」
警戒を隠せずにいるアークエンジェル側に対し、微笑みを崩さないままクリスト伯はその背後に映像を映し出した。
その映像にはこの国パルミュラと帝国の交流の歴史のものが映し出されていた。
「…この国が帝国と長らく友好を保ち、その交通の良さと存在する遺跡のおかげで栄えてこれたのは知っての通り、それ故に近くにはあなた方の内の元気が過ぎる身内の心配性で賑やかになりすぎたことがあったのも事実…」
「…ええ、その通りです…」
「………」
それと並行してクリスト伯が、第4次大戦開戦後に銀連軍がここパルミュラを保証占領として侵攻したことに触れ、マリューは後ろめたい表情を示したのに対し、ナタルは苛立ち始めた表情を浮かべる。
「…それでー、先に僕らが聞いていた話は本当ですか?」
「ええ、リュールさん。論より証拠という言葉もあります。それにつきましてはこちらの映像も添えて…」
「…これは!?」
クリスト伯はそれに構わず背後の映像を操作するが、今度は帝国の外務省高官とここパルミュラの親帝国派に属する同国首相の人目を避けているそぶりで懇談している姿が映し出された。
「…昨今のバビロニアの洪水よりも激しく急な移ろいやすい情勢により、祖国と同胞を守ろうとする人々の中にはあえて表向きでも国を売る罪人にもならんとする悲壮な方々がおられます。そして、その人々に属するこの国の首相閣下は、その先達とみなしているハイド伯国や
「!? それはまさか!?」
「ええ、彼らはこの国に住まう人々の安全を実益と絡めて、この星も…今この銀河で最も大きく安全な国の一部にすることをもくろんでいます。それも…今の調子でいけば、あなた方が順調に宇宙へ戻れる算段が付く前に、血も表向きは流さないままで…。あなた方が今だにこの星の政府の調査のための使者からの接触を受けていないのも、それに関係してのことでしょう…」
その映像と説明でナタルは思わず顔を大きくひきつらせて椅子から立ち上がりかけ、他のアークエンジェルに元から士官として乗っていたメンバーも驚きと恐れを表情に隠せなくなる。
帝国が血のバレンタイン後に行った経済報復が銀河連合、特に対プラント交戦状態にある各国へ与えた深刻な被害、その裏で経済報復を巡り各国が行う工作活動、特に諜報における帝国の精密且つ凄惨な報復が知っているためで、自然と恐れを滲ませた視線はこの場で唯一の(生物学的な意味での)アーヴであるリュールに向けられる。
「(…ああ、懐かしいなこの嫌な視線…)つまりー、このままだと僕らがいる間にこの星は帝国領になってしまって、僕らは帝国へのお土産にされてしまう可能性が大なので、それが嫌だなーって感じの帝国内部の一部の人達の御頼みとかであなたはこちらに接触をなさって来たとー?」
そこで親しくなった面子から負の感情を向けられるという久々の感覚に既視感を覚えつつ、リュールはそれから逸らそうという意図もあって話の本題に入ろうとする。
「その若さで中々のご慧眼です」
「…それでー、どうして我々に
「…実は今現在、そのパルミュラ併合計画を進めているのは、帝国現内閣…特にその大手スポンサーを務めている防衛産業界ですが、その彼らが自国の技術の優位性を示すために参加選手たちの多くを支援しています。彼らが支援する選手の機体がこの大会で他の勢力から出ている選手のそれらを抑えて優勝すれば、国防技術の面からしてもこの星の多数派に帝国への併合を納得させるうえで有力な材料になるわけです。逆に、その彼らを抑えて好成績、特に優勝となればその納得の材料を減らせて併合までの時期を遅らせ、この国の独立維持派には打開策を作り出す上で必要な時間を稼ぎ出せるうえで…。個人的なメリットでしたらー…」
「…すみません。個人的なメリットまで聞かされたら…僕個人としてはシャレにならない深みにはまりそうなので…どうしても説明なされたいなら僕は席をトイレで外すのでその間にー…!?」
その話がより深まろうとしたところで、リュールは直感で自分が関わったら周りを巻き込んで色々とますますやばくなる気配を感じたので席を強引に外そうとするが、それはテーブルをバンっと叩く音で潰された。
「能書きなどいい加減にしていただきたい! そのようなことが出来るわけがない!」
ナタルの苛立ちとそれで必死に隠そうとしている恐れの震えを宿した手がテーブルを派手に揺らした。
「…当然の問いですね。ならば…その証拠として一つのゲームをしてみましょう」
それにクリスト伯が余裕ある微笑みで返すと、彼らがいる部屋が大きく揺れ出した。
「…!? これは…部屋ごと動いて…!?」
マリューが窓を見ると一行がいるこの部屋ごと浮遊して移動を開始し、やがて帝国の租界にある群衆が大勢集まる広場の近くに止まったのを目にした。
「さっさと処刑しろぉ!」
「親戚の子の仇だぁ!」
「野蛮な公開処刑反対ー!」
そこに集う群衆の大半が殺気だって怒号を上げており、彼らに囲まれている移動台の上には複数名の囚人とそれを拘束している覆面とフードをした刑務官、および巨大なクレーンとそれに吊るされている複数の縄があった。
「…あれは? 今から何をー…!?」
それに戸惑うマリューの背後に、スッと新たな人物が現れて彼女を驚かせる。
「クリスト伯爵、ご希望のメニュー表が届きました」
「ありがとうモラン百翔長、君が読み上げると言い」
「!? 帝国軍の…!?」
マリューの背後に現れた、見た目はコーカソイド系エルフ型アーヴを思わせて星界軍の軍服に身を包んだ、男装の麗人という言葉が似合う彼女にナタルは思わず立ち上がるが、モランは構わず紙のメニュー表を広げて読み上げ始める。
「今回、あちらの壇上に上がった方々はいずれも“絞首刑”の判決を受け、本日にてそれを執行されることになった方々です」
「「「「「!!??」」」」」
「…故郷では死病に犯された娘を救うためでぇ仕方なくぅ…ううぅううぅ!!」
「まず一人目、難病に犯された娘の治療のためにそれを治せる病院がある帝国へ入国を決めたものの、出発する前に血のバレンタインとザルカバス宣言における第一級危険指定国に母国が定まったことでそれを取り消され、その後に娘を治療させたいがために密入国をして反社会組織に接触したものの、それを察知して通報しようとした帝国士族の少女を二名殺害したことが発覚した男です」
「わ、私の旦那はぁ偶々死んだだけよぉ! それがぁ前妻の子供達にはめられただけよぉ!!」
「次に二人目、難民出身でここパルミュラの貴族の男性に第二夫人として婚姻しましたが、財産の相続権が亡くなった本妻が産まれた嫡子に法律上限定されていたため、自身の子に継がせるために夫を毒殺し、その後に嫡子を事故死に偽装して殺害しようとしたものの失敗して罪が明るみになった女です」
「やかましいぞ馬鹿共! 死刑が嫌なら初めからすんじゃねえ!!」
「最後の三人目、ここパルミュラの迷宮を稼ぎ場とする冒険者ですが、自分に依頼を出した官僚が実は昔に身内を正当防衛で殺害されたことによる逆恨みを抱いており、その官僚に危険な魔獣がいることを伏されて探索任務を課せられ、どうにか生還したものの同行していた古い仲間を全て魔獣に殺され、その後に真実を知って激高してその官僚と一族を皆殺しにした男です」
「「「「「………………」」」」」
「いずれもが人倫を大いに踏み外した凶悪犯です」
その重い罪状と、何よりそれらを機械のように淡々と読み上げていくモランの静かだが大きな声が、アークエンジェル側には特に深い沈黙を強いる。
「…さてと、今回のゲームの本題の入るとしましょう。彼らの今宵の死が定まったものか、それとも幸運がしのぐのかというもので…」
そこでクリスト伯は赤い一通の封筒と三枚の伏せられたカードを机上に並べた。
「実はとある高貴な方より赦免状を頂きました。残念ながら一名分しかありませんが…故にゲームの説明に入りましょう。こちらの三枚のカードには彼ら三人の名の頭文字を書いてあります。公平にくじ引きで選ばれた一名の命をこの赦免状で救うのです」
「「「「「!!!!????」」」」」
そのあまりに残酷な気まぐれの産物と言えるゲームは招かれた客の多くを震撼させる。
「…これは…本物じゃ! じゃがどうやって…!?」
「…金長様、今この場ではその由来への詮索は後にすべき問題かと…刑への執行の準備は今も進められています。我々には今…人命を救えるという善なる力を持っています。それを行使するのを…躊躇う理由がどこにあるのか!?」
周囲の動揺が声にも現れる中、それまで淡々としていたクリスト伯の声音に初めてそれ以外の色、憤りの念が混じり始める。
「いい加減にしていきたい! 人命をゲームに用いるなどどうかしている!!」
「…ゲーム…そうですナタルさん。これは我々も…操り手と駒…どちらの立場としても参加している…この世界というゲーム盤の一部です。アーヴ…正確には…魔と妖精の末裔たちが嘗て暮らしていた世界を起源とする神話によれば、肉の体をもって生きる我々は、創造者の長すぎる時間という苦痛を癒し、生を豊かにするために創造された演者だとされています。故に、こう感じられてたことはありませんか? 自分が誰かの意図に操られているという未知なる畏れ、同時に…自らの糸によって蠢く人々の姿を見て生じる優越感…。それは先祖があなた方の神の似姿として創造されたという神話を持つあなた達ならば特に顕著では…?」
招かれた側の恐れや憤りでクリスト伯の憤りは静まるが、言葉のやり取りが進んでいる間に、泣き叫ぶかよくて顔を引きつらせている死刑囚達の頭に布が被せらえて首元にロープが括られており、それを見据えてリュールは淡々とした表情で赦免状を手に取っていた。
「っ!? 止めなさいリュール君! 後悔するわよ!!」
「ゲームなんですよね? だったら…そのゲームにあるバグを利用する権利があるはずです」
声を荒げるマリューに対してリュールは見向きもせず、何やら赦免状に字を書きながらゆったりと折っていく。
「リュールさん、カードはこちらにございます。こちらから選ばねば彼らの内の一人は救えませんが…?」
一方、クリスト伯は彼の行動を訝しんだ。
「…執行!!」
「!!」
そして、クレーンが死刑囚の首に括られた縄を勢いよく釣り上げたその時、リュールはキッと見据えた表情で赦免状から作られた紙飛行機を、音を出さず、けれども風を切る速度で投げ出した。
「「「「「!!??」」」」」
「…これは?」
それに周囲の大半は困惑と驚きを同時に出し、クリスト伯が虚を突かれたという表情でその超高速で飛んでいく紙飛行機を追っていく。
そして、紙飛行機はクレーンを支える台座の支柱の何本かの真横を通り過ぎた時、リュールが術式を書いて掛けた魔術で真空の刃状をした高振動派を生じさせて支柱に大きな切れ込みを入れた。
「…うわぁああ!?」
「な、何だぁ!?」
すると、支柱はクレーンの重量を支えきれなくなって急速にずれていき、しまいには崩壊してクレーンはガゴンと大きく傾いた。
「ぎゃあ!?」
「いべぇ!?」
「痛いぃ!?」
クレーンでつるし上げられたロープも大きく揺れてつるし上げられた死刑囚たちは大きく揺れ、しまいにはロープとクレーンの繋ぎ目がちぎれて、三人とも悲鳴を上げつつもその身は生きて台座に振り落とされた。
「…な、何が起きたんだぁ!?」
「落ち着けぇ! とりあえず本日はもう運勢が悪いので処刑は中止だぁ! それと法に基づいて今回の事件は神が処刑をまだお求めになってないとして裁判はやり直す!!」
「んなぁ!?」
そのまま広場に驚愕と混乱は広まるがその流れで処刑はうやむやとなって流れてしまう。
「…とまあ、この星には“処刑執行後も生存していれば神が判決に不審を抱いている証なので裁判をやり直さないといけない”という宗教上の掟があるので、あの赦免状はああいう風に使わせてもらいましたけど、死人こそ出ないようにしましたがあなたも関わっていると知れたら都合が悪くなるのは目に見えてますから、我々含めて上手く追及されないように影の手打ちぐらいは出来ますよね?」
「「「「「………………」」」」」
「…
それをもって少し引きつった笑みを浮かべたリュールからのその要請に、周囲はしばしポカンとし、やがてその一人に加わっていたクリスト伯は素直な賞賛と拍手を上げた。
次回、これから主人公達が乗る新たなマシンの紹介がある予定です。