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「…私は反対です! あの男とこれ以上関わるのは危険だ!」
公開処刑を利用したゲームを何とか死者抜きで切り抜けて数時間後、それを催したクリスト伯爵のいない場でナタルが不信と恐れを隠せない荒げた声を上げていた。
「…だからと言ってこのままぐずぐずしてたら、こっちはアークエンジェルごと向こうに証拠品としてボッシュートされてしまう可能性がありますぜーバジルール少佐ー」
『…先週に帝都ラクファカールを出発した、現在の帝国皇太子にして艦隊司令長官ドゥサーニュ・アブリアル殿下率いる艦隊が、パルミュラ王国のここアンティオキアに表敬訪問なされるまでー…』
両津がリモコンで出したニュースの空中映像には、現在の人類圏最高峰の戦力の一端が、一端とは思えない規模と統率でここパルミュラまでの道中にあるどこかの宙域を悠々と進んでいる姿があった。
「…そう言えば、伯爵に今回の彼の出場選手として協力を求められているリュール君は今…何処に…?」
「あの子は乗るか乗らないは別として、とりあえず伯爵が出すマシンがどのようなものか見に行ったわ…こっちとしてはこっちが情けなくなる…」
そのあまりにも余裕がなくなっている大人の命運と責任が、子供に圧し掛かりつつあるのを覚えつつもそれにほぼどうしようもない自分達の不甲斐なさを、マリューとスメラギは情けなく覚えていた。
「…これが、今回…伯爵のチームが乗る予定の“スピードリング”か…」
一方、リュールは伯爵が借りているその工房にて、彼がレーサーになることを自分に提案してきているそのマシンを見ていた。
スピードリングとは帝国生まれの競技向きマシンで、アーヴ語では
帝国と銀連諸国の関係がまだ友好的だった時代、その地上を超高速で進みながら魔術で派手な妨害も行うスピードリング競技は帝国外でも脚光を浴び、その時の経済効果も見込んでつけられたスピードリングは銀河中で普遍化した名称となっていた。
「…美しいですねこの子は…そして…それだけじゃない…触れているだけで…緻密且つ無駄がないのがわかります…これで乗るべき乗り手が出れば…」
リュールの他にも彼と同じモルゲンレーテで働きつつ学んでいたメンバーも居り、その内の一人である日光が惚けた表情で触れているそのスピードリングは、リュールのまだ戻っていない記憶にある最初の生で読んでいた漫画“GANTZ”に出てくるGANTZバイクと酷似していたが、銀色に輝く流水を思わせる形状と意匠をしていた。
「…まあ、乗るかどうかはわからないけど…君が乗ればこのマシンの性能は最大限生かせそうだけど…大会のルールでは一台に二人で乗り込むのがルールね。リュール君…あなたが乗るとして相方は誰が…?」
「あーセレーナ。そのことなんだけどー…」
その面子の中で中心になっているリュールは、その問いを受けて選んだそのもしもの場合の相手へ静かに振り向いた。
○
『…さー! とうとうやってまいりましたー! 本年度のエンパイア・ワールド・コンビ・スピードリング大会ー! 二つの大戦が繰り広げている間ですがお日柄も良くて戦いだけでなく平和な催し物も人々にしてもらいたという方々のご協力もあって無事に開催となりましたー!!』
伯爵にアークエンジェル組が大会参加への協力を求められた日の三日後、首都セレウキアの大都市としての規模にふさわしい開けた郊外の一角に設けられたその会場は、壮大且つ多様な規模を誇って多くの観客や人員が行き来して活気に満たされて賑わいが立ち昇っていた。
『さぁ! 出場選手のご紹介に行きましょう! まず始めはノルド連合王国から出場なされたダークホース系選手な新婚夫婦! ガレッソとトバリーのフォニー夫婦ー!!』
(…何故新婚夫婦と言う設定?)
(…ああ❤️ これほど多くの群衆が私を先輩の妻と見ている…❣❣)
そうして最初に出てきたのは、金色のショートシャギーヘアーに髭を生やした男ガレッソに任務の都合で変装したロイド・フォージャーと、その彼のスパイとしての後輩で銀髪の美しいが冷酷な女スパイと同僚に畏れられつつも内心はロイドにぞっこんな銀髪美女フィオナ・フロストが変装している、どこかのテニス系お嬢様みたいなトバリー・フォニーであった。
その後各選手達の紹介は続いていく。
『…スピードリング競技黎明期からの王者たる帝国からの最後の出場選手は帝国で話題の
「かー、こんな時期でも祭りを楽しみたいってのは何処にも大勢いるもんだなー」
(…これまで入手できた情報によれば、
そして、最後に近づいた頃に帝国からの出場選手の最後のメンバーは、アジア系の活発且つスポーティーな美貌をしたレヴィと、それとは対照的に北欧系白人に近くもそれよりもはるかに美しいエルフ型アーヴの同世代で誰かを探していそうな表情を浮かべているリーメアリーであった。
「…結局ここまで来たわねぇ。一番の負担はあの子達に掛けることになったけど…」
そうして続々と入ってくる出場選手達とそれでますます沸き立っていく会場の様子に、何故かレースに用いられるカーのスタッフたちに混じるマリューの悩める姿があった。
『…さー!! ついに最後の出場選手のご紹介です!! 今回は何と近日にて“帝客十三武海”の一角に加入して今大会の新規大手スポンサーにもなられているモンテ・クリスト伯爵のご推薦です!! 全く無名のこのお二人はどのようなレースを我々にお見せくださるんでしょうかー!?』
「…………」
続く実況の声をマリューの背後で、同じ整備員の格好をしているキラが目元を暗くした微妙そうな表情で聞いていた。
「…あ、あのーキラさん…こんないつ身元がばれるかわからない危険な舞台でも皆のためにあの二人は出てるんだから…そんな顔しないで応援しましょ? 実際にスピードリングの成績はあなたよりも
「…昨日も徹夜で作業していたから疲れが残ってるだけです…」
それをマリューが何とか宥めようとしていると、その最後の選手二名がついに入場してきた。
『期待のダークホースたるその選手がついにご入場! リュッカ選手とミッカ選手だー!!』
そうして変装しているキラとマリューが整備スタッフを務めている最後の選手は、金髪に髪を染め上げて肌は小麦色の褐色にした、前者の男性はアーヴ系で後者の女性は地上系だがどちらもクール系の美貌を突き詰めたような十代半ばの少年少女であった。
『…胃が痛い…』
『…心情はともかく外面はこういう場が子供の頃から慣れきったような振る舞いにしか見えませんけど…』
その二人である、手を振って微笑んで近くの席の女性観客にスマイルを送って黄色い喚声を上げさせているリュッカに扮しているリュールは電脳内では腹を抱えていそうな苦笑いを浮かべ、静かな微笑みを浮かべているミッカを装っている日光は彼に電脳越しで訝しんでいた。
「くっそー! バルバトスとストライクを落とすために地上まで降りたと思ったら何でこんな見世物般若パンダみたいな真似をしないといけんのだー!?」
「まーそう言うなよ。ほら、あそこに目の保養にはうってつけの的が大勢いるぜー」
(なんであの
先に入ってきた選手の中には別人名義ながらプラントより出場してきたうなるイザークとにやけたディアッカの姿もあるが、その後者に整備スタッフの一人として変装して入っているセレーナは会話こそ聞こえていないものの微妙そうな顔を浮かべていた。
『さー! この選手達を祝福するレース場での戦女神達の歌も加わります! その最先頭はかの帝国で既に挑戦者たちを成功へ導く女神としても名を馳せている彼女です!!』
そして、競技場に設置されたそのステージに銀河各国から集ったレースクイーン達が上るが、その中で一番目立つのはリュッカ(リュール)にとって色々な意味でなじみ深いあの存在であった。
『銀河の半分を統べる帝国で第二の名門スポール宗家令嬢にして既に各界で名を馳せているレイカ嬢です!!』
「「「「「うわぁああああああああああああああああ!!!!!」」」」」
そのアーヴでは正統派カラーである青色の流れるような長髪と紅玉を加工したような大きくも怜悧な瞳を主とする少女と大人の中間の極致にいるような美貌、子供の純真さと成熟し始めた若い女神の間にいるような魅惑的且つ清潔感のあるボディを赤基調の妖艶な意匠をしつつも気品さも両立したレースクイーン衣装で固めて入場したのは、アブリアルと呼ばれていた時期のリュッカ(リュール)と色々な意味で相方を務め合っていた幼馴染の少女で、彼女の姿を見て観客は国籍問わず大歓声を上げた。
「…マリューさん…あの子、何処の国からも人気があるんですね…」
「ええ、そうねキラさん。彼女は色々と銀連では悪目立ちしやすいアーヴの中では、スポールらしい気品と棘のある言葉をしつつも、ザルカバス宣言以降も帝国内外を繋ぐ事業を人道支援も絡めて幾つも後援して維持含めて成功させているから…反発の声以上に支持者も多いからー…」
「…そ、そうだったんですね…(…も、もしもリュールが…リュースのままだったら…私なんか絶対勝ち目なんてー…今はあの子ほどじゃないけどー…綺麗ですごい子が何故か増えてるけどー…)」
キラはその光景に女性としてのコンプレックスと安堵感、新たな悩みに苛まれている少女の悩みに苛まれてしまっていた。
『…さー! 全マシンがスタートラインに到着しましたー! 事前の説明通り出場選手全員に“無血無傷結界”をかけているのでレース外からのものや規定以上のものでなければ妨害もOK! 銀河最速のサバイバルレースがそろそろスタートになります!!』
「…ついに始まりますなぁ。本命はどちらになさってますか?」
それから出場選手達のマシンがスタート位置に止まり、秒読みに入ったところでその様子を見る各国要人達が集まるパーティー会場のような展望フロアがあった。
「出場選手のこれまでの成績を考えれば、貴方が
「血筋や遺伝子だけで勝敗が決まるなら世の中はここまで賑やか過ぎにはなっておらんしお前の娘も陰で机上に突っ伏すたびに机にひびを入れたりはせんぞレトパーニュ大公爵」
「あーら、結果が出る前から芳しくないそれが出た時のための備えをさっそくとは、鈍足と苦言を呈されようともそう言う者のためにも慎重さを忘れないジラルハネイらしい優しさですわ。あなたもさぞ助かってますわよねーゼスカハさん」
「そう言うお前の煽りの早さには文屋含めてさぞ銭回りがよくされているだろうな」
その一角で、表情こそ静かかにこやかなものだが交わし合う言葉には棘が見え合うその三人は、帝国人含めた他の要人達からも避けられていた。
「…お、おいあの三人…すごく魔力とか抑えてる状態で…近くの机が余震の始まりみたいに震えて…巡察艦の主砲にも耐えられるように設計されている窓も軋ませているぞ…」
「せ、せっかくあの帝国で…“御八家”と称されているあの名門の内の三人と直接接触できる機会を得たのに…! 業腹だが魔術師を雇って結界を掛けたのに…他の二人は体調不良になって医務室へ行ったし…」
特に、第4次大戦勃発以降は帝国と絶賛険悪冷戦中となっている銀連軍参加自由主義圏の要人達は、いつもならポーカーフェイスで隠せている怯えや引きつりの色を隠しきれずにいた。
『…この場にいる他所の連中は今にも失禁して運ばれそうな連中の世話に追われて手が大きく塞がっている状態だがそっちはどうだ?』
『ああ、既に“茨姫”含めて搭乗は終えて予定地で下ろす予定だ』
その様子を警護官という形でこの場に来ているルッチは冷ややかな眼差しで見つつ、秘密の電脳回線でパーティー会場の外と連絡を取り合っていた。
そうしている間に、エンジンを起動させて唸り声をあげるようにマシンを揺らしている選手たちの前に、金色の羽のような粒子を纏っているレイカが立って、粒子を旗状に固めて高く掲げていた。
『それではレディーーー…ゴウ!!』
「「「「「!!!!!!!!!!」」」」」
そして、レイカがその金色の粒子の旗を、空気を切るような速度で振り下ろすと、旗は粒子の波となって観客たちに降り注いで大いに沸かせ、同時にレーサーたちはアクセルを全開に起動させて幾つもの爆炎が彼らの幾人かを覆った。
次回、やっと本格的なレースのシーンに入ります。