ウチのウララがえらいのチームに連れてきた   作:鹿頭

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アオハル杯プレシーズン第1戦 ④

 

 

 

 ──アオハル杯プレシーズン第1戦──

 

    中距離 芝2200 晴 良

 

 揃って順調なスタートを切った!

 

 シリウスシンボリ、メジロマックイーン共に先行を得意とするウマ娘たち。

 

 普段のレースとは違い、コレは二バ立てのアオハル杯。

 両者は共に競るような勢いで加速していく──!

 

「マズイな……」

 

 トレーナー席じゃ居心地が悪いと戻らずにレースを眺めていた〈にんじんぷりん〉トレーナーが呟いた。

 

「どうしました、急に」

 

 自らのトレーナーの言葉を聞き漏らさなかったジェンティルドンナは意味を尋ねた。

 

「昨今流行りの第4コーナー曲がるまでのスローペースではなく序盤からハイペースで逃げられるとシリウスに分が悪い」

 

「それに───つまらない走り」

 

 語るトレーナーに補足するかの如くラモーヌが口を開いた。

 

「シリウスちゃん、負けちゃうの?」

 

 ウララが心配そうにトレーナーの顔を伺った。

 

「そうだなぁ……なにがあったんだか知らないけど、思いっきり不調っぽいしなぁ」

 

 推測は正しかった。

 

 ペースを崩されたシリウスがまごついている間にもメジロマックイーンはその天与と努力によって培われた暴力的なまでのスタミナを費やし、巡航速度を維持していく。

 

(怪物のようなスタミナ…これがメジロマックイーン!!!)

 

「────参ります」

 

「な───」

 

 第3コーナー回った直線!

 4コーナー差し掛かる前にマックイーンが更なる加速にかかる!

 

「早めに行った!」

 

「まるで全盛期じゃないか!!?」

 

 会場に居るこのレースの目撃者は驚きを隠せない───!

 

「私のッ……!」

 

(まだ速くなるのかッ!!)

 

「スイーツ解禁のために!!!!」

 

 走る、奔るメジロマックイーン!

 そのまま第4コーナー曲がってそのまま速度を維持し続ける!

 

「───はあぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 そのままゴールイン!

 メジロマックイーンの勝利だ!

 

「やりましたわ! Vですわ! スイーツ解禁ですわ!」

 

 喜びにわくマックイーン。

 その視線の向こうに居る彼女のトレーナーは首を横に振った。

 

「は?」

 

 マックイーンのトレーナーは首を横に振った。

 

「は?」

 

 マックイーンのトレーナーは首を横に振った。

 

「殺生ですわ!! あんまりですわ! スイーツ解禁の約束ではありませんでしたの!?」

 

 そんな約束した覚えない……とマックイーンのトレーナーは困惑の色を隠せない。

 

「そんなの───まさかまた私を騙しましたわねゴールドシップ!!!」

 

『いやアタシはなにも言ってないぞ…?』 

 電波を受信したゴールドシップは困惑した。

 

 真相は夢の中。

 憐れにもスイーツを禁じられたマックちゃんはその欲望から見た夢の中のアタシに騙されたのでゴルシ。

 

 ───場所は少し離れて。

 

「メジロって……個性的な方が多いのかしら?」

 

 ジェンティルが呆れたようにラモーヌの方を見る。

 

「……一緒にしないで」

 

 ラモーヌは真顔で答えた。

 

「アオハル杯、負けちゃったの…?」

 

「でもアオハル杯はお祭りみたいなものだから、誰か出てくとか、解散とかしない限りはこのメンバーで次の試合もあるぞ」

 

(とは言え───このメンツで負けか。勝つも負けるも下バ評がひっくり返る方が面白いね、やっぱり)

 

 ウララの切実な問いにトレーナーは内心を隠しつつ、さらりと答えた。

 

「ほんと!? じゃあまだまだ一緒にトレーニングできるんだね!」

 

「そうだぞ!」

 

 トレーナーは元気に答えた。

 

「私はトレーナーがトレーナーですので。出ていく選択肢はありませんが」

 

(エッ、なにその言い草は)

 

 ジェンティルドンナの発言にトレーナーは困惑を隠せない。

 彼自身の記憶ではそんな感じではなかったのだ。

 

 ───それは、いつかの出来事。

 

 ウララが補習で遅れる、という事でトレーナー室でメールの返信などの雑務をこなしていた。

 

 ウララが来なければ基本的に誰も来ないこの部屋に、ジェンティルドンナが出入りするようになってそう遠くない日だった。

 

『トレーナー。私は”最強”を目指しています』

 

『おーそうなんだ、がんばれよ』

 

 ジェンティルがなにやら言い出したのに、空返事を返すトレーナー。

 大量に来る出演依頼や取材申込を捌くのに忙しい。

 

 今は、またまた来ているグランドライブ再建計画協力の依頼に『こちとらセンターに立たせてぇんだよ〜』と思いながらお断りの文面を練っているので、

 ジェンティルの話をあまり聞いていないのだった。

 

『まずはティアラ路線にて国内を制し。その後海外へと考えています』

 

『海外ねぇ……そういやオルフェが来年フランス走るとかウララが言ってたなぁ』

 

『……それ、本当でして?』

 

『えっ? あ』

 

 ──散漫に過ぎたか、と反省し、PCを閉じた。

 

『あー…公表まではあんまり言わないでね?』

 

 オルフェちゃんね、ふらんすぱん?を持って走るんだって!と出だしは妙な話ではあったが、もう少し詳しく話を聞くと“凱旋門賞”を走る意味だったとわかった。

 

 話を聞かされた当初は、何故ウララに話したんだアイツ…と思いつつ、なにがどうしたらフランスパンになるんだよウララ…と渋い顔になったのはいうまでもない。

 

 それに、裏でなにやらコソコソと海外遠征の計画(L'Arc)も動いてるみたいだからそれの影響もあるのかねと、そんな感想を持っていた。

 

『……貴方は勝てると思いますの?』

 

『凱旋門賞?』

 

『ええ』

 

『ふむ……』

 

 トレーナーは少し考え込んでから。

 

『慢心とか油断で2着ってオチになりそうだけど……その辺のマインドセットちゃんとすれば勝てんじゃね』

 

 オルフェとは担当契約結んでないから関係ないけどねぇ、と言いながらお茶を飲んだ。

 

『洋芝も問題ないと?』

 

『ダートすら走破し得る強力な脚だからねぇ。ロンシャンでも走れるでしょ』

 

『では───私でしたら?』

 

『ジェンティルが?』

 

『ええ』

 

 トレーナーは黙り込むと、それきりしばらく天井を見上げていた。

 

 ジェンティルドンナが痺れを切らすかどうか、と言った頃合いで口を開いた。

 

『重バ場が走れるなら可能性は…?』

 

 と言いつつ、『でも、ふしぎなことに軽快な走りだからなぁ、ドバイにしとけドバイ』と付け足すと、トレーナーはパソコンに再び目を移した。

 

『……なるほど。よくわかりました』

 

 ジェンティルドンナはトレーナーに近づいて。

 

『やはり、私の担当になってくださる?』

 

『えー…ハルウララのトレーナーはやめとけってこないだ言ったばっかじゃん』

 

『あら。私ひとり勝たせられないで、ハルウララを勝たせられると?』

 

『ジェンティルドンナは誰がどうやったってGI獲れるウマ娘だろうに』

 

 トレーナーはバツが悪そうにしていた。

 

『……またそういう事を言う。私を情熱的に口説いたのはどこのどなただったかしら?』

 

『やめとけやめとけ、あーだこーだ言われて鬱陶しいぞ』

 

『なら。私の走りで、《ジェンティルドンナのトレーナー》に看板を掛け替えて差し上げますわ』

 

『いや、流石にそれは無理じゃないか?』

 

 澄み切った瞳でトレーナーが言い切ったその時。

 

『噴ッッッ!!!』

 

 ジェンティルドンナとトレーナーを隔てる机が煎餅の様に叩き割られた。

 

『ヒェッ』

 

 トレーナーの心臓がキュッとなった。

 

『ああっ、失礼致しましたわ。少し手が滑ってしまいまして……』

 

『お、おぉ』

 

『それで───ああ。私のトレーナー。よろしゅうございますね?』

 

 こんな強引な経緯でトレーナーになったのであの言い草には言い分もあったのだが。

 

(まぁいいや…うん)

 

 トレーナーは命が惜しかったので黙っていた。

 

「……ラモーヌは?」

 

「熱の行方を、まだ見ていないもの」

 

 今日のラモーヌは全体的に機嫌が良いらしく、笑みを浮かべていた。

 

「そっか。後はオルフェもシリウスも尻尾巻いて逃げるようなウマ娘でもないだろうから……よし、次頑張ろうな!」

 

「───誰が尻尾巻いて逃げ出すって……?」 

 

 シリウスシンボリが目に見えて苛ついた様子で帰ってきた。

 

「おつかれさま、シリウスちゃん!」

 

 氷嚢を脚に当てているハルウララがシリウスに手を振る。

 

「───痛めたのか?」

 

「うんにゃ、念のため冷やしてるだけ。時間的にもうぼちぼちかな」

 

 シリウスにはウララのトレーナーが答えた。

 

「……ならいい」

 

 シリウスは安堵の息を吐いた。

 

「あー、シリウス…なんていうか…調子悪かった?」

 

「チッ」

 

 トレーナーの疑問にシリウスが答える事はなく、

 その様子にしばらくほっとくか、勝手に立ち直って勝手に努力するタイプの連中だしな、と目線を外した。

 

「で、だ。勝敗は決まっちゃったけど───ラモーヌはどうする?」

 

 ターフを見れば、キングヘイローが既に準備をしている。

 

「わざわざ聞くのね」 

 

 彼女は穏やかに微笑むとその笑みのままターフへとゆっくり歩を進めていった。





Q キミマックイーンにならなにしてもいいと思ってない?

A ……

Q 負けたんだけど

A ちゃんとアオハル特訓した?

次回 プレシーズン終了、そして炎上
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