ウチのウララがえらいのチームに連れてきた   作:鹿頭

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プレシーズンは終わり、そして炎上へ

 

 

「貴女がメジロラモーヌさんね。ウララさんから話はよく聞いているわ」

 

 ゲート前での、ふたりのやり取り。

 キングヘイローとメジロラモーヌのそれは、穏やかなものだった。

 

「あら。どんな風に?」

 

「そうね……レースが大好きってウララさんは言ってたけれど?」

 

「私の愛と彼女の“それ“は異なる。けれど今は構わないわ」

 

「愛…?」

 

 キングヘイローは訝しんだ。

 

「……ウララさんとどういう経緯で知り合ったのか、全く想像がつかないわね。ウララさんに聞いても、なんだかよくわからないし」

 

『あのね! お絵描きしたの!』とはウララの談。キングには今ひとつ理解できなかった。

 

「勝てば、教えてあげてもいいわよ?」

 

「要らないわ。キングの走りには余分よ」

 

「───そう。結構」

 

 それはどこか獰猛さも感じさせる、魔性の笑み。

 

 アオハル杯プレシーズン第1戦、短距離部門が、幕を開けた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

「アオハル杯の反省会でーす」

 

 アオハル杯終了後、両チームの挨拶はどこかへ行ったオルフェーヴルの為に省略された。

 

 とはいえ反省会はしたいよね、という事でオルフェをウララとお守りのシリウスに探し出させて、トレーナー室で反省会を開いていた。

 

「はい、まずはオルフェーヴルくんから反省どうぞ」

 

「……不敬な」

 

「じゃあ代わりに答えます。アレは正直どっちが勝ってもおかしくはなかった。分けたとしたら場数の差かな。後一年有ったら勝ってたのはオルフェだったと思うよ」

 

「………」

 

 オルフェーヴルは歯噛みした。

 指摘は本人自身も理解していたからだった。

 故に、何か反論する事もなく苛つく結果となった。

 世紀末覇王に刻まれた敗北は、彼女に次なる勝利への渇望を高めていた。

 

「まぁ、次にオペラオーと当たる可能性は低いんですがね」

 

 オルフェーヴルはイラッとした。

 

「次、シリウスは根性負けですね、相手のペースに呑まれたのも悪い。いや、アレは…うん」

 

「……まだ何も言ってねぇぞ」

 

「今後に期待しましょう」

 

 シリウスシンボリはイラッとした。

 

「ウララは単純にスピードとスタミナだな。次からトレーニングでは重点的に鍛えていきまーす。目指せ坂路の鬼」

 

「わかったよ、トレーナー! わたし、がんばるね!」

 元気よくウララが答えてから。

 

「んん? はんろ?」

 

 ウララは首を傾げた。

 

「勝ったお二人にはにんじんを一箱贈呈します」

 

 そういうとダンボール箱に入ったにんじんを机に置いた。

 

「いらないわ」

 

「それよりもっと頑丈な鉄球を下さる?」

 

「ええー! にんじんいらないの!? どうしてー!?」

 

 ラモーヌと、ジェンティルの言葉にウララは驚いた。

 

「あら。欲しかったら食べて良いわよ、ウララちゃん」

 

 ウララの様子にラモーヌが答えた。

 

「ほんと!?」

 

「じゃあこのにんじんは冷蔵庫に入れとくのでみんな適当に食べてください」

 

 ウララの様子にトレーナーは箱を机から下ろした。

 

(しかし…頑丈な鉄球…?密度が高いって事でいいのかな…?)

 

 要するに、ジェンティルのぎゅってやっても圧縮されない重いものが欲しいわけだから……プラチナや金は価値が高すぎて盗難もあり得るから…パッと見わからない何か───待て。

 

「───いや、ジェンティルは上半身じゃなくて下半身の力を鍛えようか。踏み込みとか」

 

 腕力の癖して実に軽快な走りを見せるのがジェンティルドンナだ。

 それでは稍重以上からは厳しい。海外では良くてドバイだろうから、とトレーナーは答えた。

 

「……ええ。私のトレーナーは貴方。従いますわ、トレーナー」

 

 その時トレーナーは「あーそういやチーム名どうしよ、星の名前でしょ…」と思い出したが、

 特に思い浮かばないのでまた考えるのをやめた。

 たづなに小言を言われるまで、そう遠くない未来である。

 

(ほう)

 

(……ん?)

 

 加えて───トレーナーの説明に興味を示していたのは、オルフェーヴルとシリウスシンボリだった。

 

(彼奴も目指すか。“頂き“を)

 

 ジェンティルドンナが目指しているのは凱旋門賞だろう、とオルフェーヴルは理解した。

 

(へぇ…ジェンティルドンナも海外路線、か。ぶつかる事もあるかもな)

 

 シリウスもまた、予感を感じていた。

 

「はい、反省会終わり。それではみなさま次頑張りましょう」

 

 トレーナーが手を叩いた。

 

「……えらくあっさりしてんな」

 

 シリウスが皮肉るように喋った。

 

「こんなの長々やるのなんか無駄無駄。というかキミらは勝手に立ち直るし、一人で反省して更なる鍛錬を積む側のウマ娘だろ」

 

「じゃあなんの時間だったんだよ」

 

「お約束だよ。大切だぞ!」

 

「………そうかよ」

 

 シリウスは頭が痛くなった。

 

「ところで。次はいつかしら」

 

 ラモーヌが口を開いた。

 

「何もなければ……宝塚記念の辺りじゃないかなぁ」

 

「何もなければ?」

 

「いやほら、一回やったし満足だろ! ほらおしまい! とかされたりするかもしれないじゃん」

 

「そんなに極悪か……?」

 

 シリウスがつぶやいた。

 

「だったら理事長代理に指名されてないよ」

 

 シリウスのやる気が下がった。

 

「……ん?」

 

 その時、トレセン学園中に放送が響く。

 

《連絡します。至急、トレーナーのみなさんは体育館に集まって下さい。繰り返します───》

 

「なんの放送?」

 

 ウララが首を傾げたが、それはこの部屋にいる全員が思っていることでもあった。

 

「さぁ……とりあえずコレで解散で。んじゃ後は適当に休んでてね」

 

 トレーナーはそういうと、部屋から出ていった。

 

 

◆◆◆

 

 

 

《はい、その件に関しましては──》

 

《テイエムオペラオーさんとオルフェーヴルさんのレースですよ!? どうしてトレセン学園だけでやってしまうんですか!!?》

 

《ですから、あくまで位置付けとしては学園内行事であって、観客を入れるような規模で取り組むことを想定しておらず、公開してしまうと精神面での負担も高く───》

 

《ならどうしてテイエムオペラオーとオルフェーヴルのレースなんか組んだんですか!!?》

 

《アオハル杯は、生徒の完全なる自由意志により参加、かつ厳正なる抽選の元に対戦チームは組まれますので今回は偶然、としか》

 

《そんな説明でレースファンが納得すると思うんですか!?》

 

《普段の併走でも、そういった光景はまま見られ───》

 

《その普段の光景が我々は見られないから問題なんですよ!!!》

 

《レースという形でウマ娘の皆さんの努力の結晶を、また、ライブという形で応援してくださっている方々への感謝の意を────》

 

《月刊トゥインクルです。オルフェーヴルさんはハルウララさんのチームに所属している、との情報もありますが、それに関しては───》

 

「超炎上してんじゃん!!!」

 

 トレーナー達は体育館へと集められ、そこでプロジェクターに映し出された記者会見を眺めていた。

 

 そう叫んだ、誰かの声を皮切りに、大人達はめいめいに騒ぎ始める。

 

「口止めがあった訳じゃないからな……」

 

「どうせロクに参加する事もないだろうから必要あるか?って思っていたが……なんだよそのビッグマッチ。知らないよそんなの。俺だって見てぇわ」

 

「みんな自分のレースに精一杯でアオハル杯はあまり盛り上がらないと思っていたのよね……」

 

「管理教育とかいうけど、どうせ理事長が帰ってきたら撤廃だろうしな」

 

「DTLみたいな組み合わせでレースやってたんならそりゃ燃えるでしょ……」

 

「そういや、ルドルフとシービーの併走もギャラリーが凄かったっけ…」

 

「多分たまたま通りかかったとかで見ちゃったんだろうね」

 

それは一件のウマッターの投稿だった。

 

《オペラオー先輩とオルフェ先輩がアオハル杯で走ってる!!!》

 

 その書き込みは(現在アカウント削除済み)瞬く間にレースファンに広がった…!

 

《それは本当です?》

 

《……マジかよ》

 

《夢じゃねぇよな!?》

 

《嗚呼、こんなにも世間を騒がせてしまうなんてなんて罪深いんだろうね、テイエムオペラオーというウマ娘は!》

 

《アオハル杯ってそんなガチなレースだったの!?》

 

 そうして気がつけば、トレセン学園の電話は鳴り止まず。

 

「SNSの使用に関しての指導を強化しようにもインフルエンサーとか企業のスポンサーとか抱えてる生徒が多過ぎて一律に対応出来ないし…」

 

「それに、理事長の認可があるとはいえ、生徒達が自主的に始めた行事だからな、廃止すれば反発も酷い。だから代理も渋々認めた訳だから……」

 

「あくまで学校行事でしかないアオハル杯にリソースを割きたくないのはいちトレーナーとしては賛同出来るが…」

 

「レース愛好家としては、な。しっかし、アオハル杯に反対していた理事長代理が、アオハル杯の件で謝罪会見を開くなんて皮肉だよなぁ」

 

「でも……アオハル杯の定着は困るわね」

 

「あれ、反対派だったの?」

 

「当たり前でしょ……無駄に脚を消耗させるような事は避けたいに決まっている」

 

「おいおい、生徒たちの自主性まで否定するのか?」

 

「……貴方ね、あんな一大レースを自分達の脚で行えると知ったウマ娘達は参加したがるでしょう? その先に有るのはURAとの対立。ほら、DTLと競合する訳だから」

 

「いやまぁ、理屈はわからんでもないが…考えすぎじゃないか?」

 

 トレーナー達が喧喧諤諤の様相をきたしている中。

 ほぼ当事者とも言っていい〈にんじんぷりん〉と〈GOGO!〉のトレーナー達は固まって話していた。

 

「……それで、どうします。アレ」 

 

「ああ、アレな。どうしよう……」

 

 トレーナー達がヒソヒソとしている中。

 

「みなさん、いったいなんの話をされてるんですか?」

 

 突然ひょっこりと駿川たづなが顔を出した。

 

「た、たづなさんっ!? あーいえ、その」

 

「オペラオーとオルフェのレースを撮影してたんですよ」

 

 口籠る他のトレーナーの代わりに、にんじんぷりんのトレーナーがなんでもない風に答えた。

 

「そんな事してたんですかトレーナーさん!?」

 

「え、うん」

 

「み、見せてください! 私は仕事でアオハル杯見れなかったんです!!」

 

「映像はメジロさんが持ってるから…」 

 

 たづなに詰め寄られたトレーナーは、メジロのトレーナーに映像を見せるように依頼した。

 

 こんな事もあろうかとメジロのトレーナーは映像を携帯に転送していたので、たづなはすぐに件のレースを見ることが出来た。

 

「───是非とも公開するべきです」

 

「理事長秘書としては?」

 

「…………」

 

「おい」

 

「だ、だってこんなレースがあったなんて判れば……ちょっと、どうなるか想像もつかなく…」

 

 トレーナーは呆れて大きな息を吐いていた。

 

「………いや、公開しても大炎上では?」

 

「それに公開すればそれこそ頑張って当たり障りのない会見をしている理事長代理を背中から撃つようなものでは……」

 

 他のトレーナー達も否定の色を隠せない。

 

 こうしている間にもプロジェクター越しに理事長代理がものすごく頑張っているのが見えるからだ。

 

 その立場と意見は違えども、ここまで世間の非難を浴びていると流石に同業者として同情するというものである。

 

「も、もし公開するとして……ハルウララさんの広報用アカウントから投稿するのが一番無難…じゃないかな、って」

 

 たづなはトレーナーの顔色を伺うように提案した。

 

「何が…どう無難なんですか…?」

 

 トレーナーの眉間に皺が刻まれるたびに、たづなの焦りも増していく。

 

「こ、公開するとしたら……ウララさんなら炎上しないかな……?」

 

「あのな、公開するならそれこそ堂々とするべきであって、大人なら生徒を挟むなどという無責任な真似はあってはならないの」

 

「それは───」

 

 トレーナーのその言葉に、たづなは暫く考え込む。

 それからパクパクと声にならない声をあげてから、反省の弁を述べた。

 

「そう、ですね。すみません、トレーナーさん。少し…熱くなっていました」

 

「わかれば…良いんですよ、たづなさん」

 

 トレーナーは眉間の皺を解いた。

 

「───映像の取り扱いは理事長に問い合わせましょう」

 

 静観をしていたツインターボのトレーナーがここで提案をした。

 

「公開、あるいは黙殺するにせよ大変なリスクを伴います。それに、これ以上理事長代理に負担を強いるのは〈ファースト〉の子達が可哀想ですから」

 

「そう……ですね。では、理事長に連絡を取ってみます」 

 

 

◆◆◆

 

 

「許可ッ!私の責任で公開するッ!」

 

 炎上の報を聞いた理事長は至急トレセン学園に戻ってきていた。

 

「通達ッ!もし他に撮影しているレースがあればトレーナー各位は速やかに提出するようにッ!」

 

 そう言ってから、秋川理事長はため息を吐いた。

 

「アオハル杯はウマ娘たちのためのものッ!観客を入れるのは避けたいッ!映像の後日公開で留めたいッ!」

 

「とはいえどうされますか、理事長」

 

 たづなの問いは必然のものだった。

 

「必然ッ!世間の目を逸らす必要がある!」

 

 当然理事長はそれに対して腹案があった。

 だからこそ、出張を切り上げてまで戻ってきたのだった。

 

「……まさか、有記念、ですか?」

 

「それはURAが泣いてきたからまだできない」

 

「で、では…?」

 

「無論ッ!プロジェクトL'Arcだッ!」

 

 凱旋門賞に、新旧時代対決の有記念。

 狂奔とも言える熱狂の、幕開けだった。

 

 




トレーナーたち「トゥインクル・シリーズにURAファイナルにアオハル杯にプロジェクトL'Arcに…やる事が…やる事が多い…!!」
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