「みんな! チームに入ってくれる子みつけたよ!」
全く時間の経たない内に飛び込んで来た声は、ウララが次のメンバーを無事に見つけてきた報告だった。
さて今度こそキングかライスか。
仲良いだろうその二人。
早く声を掛けてあげなさい、と内心で祈る。
(今度こそ癖ウマ娘じゃありませんように)
最悪の選択肢はゴールドシップだ。
あんなの来られたら精神も肉体も鍛え直さねばならな────空間が歪んだかと錯覚する圧を感じた。
その姿が、一歩一歩と踏み出すたおやかな所作にすら、圧倒的な力を感じる。
曰く、ウマ娘の枠を遥かに凌駕する、万力の如き怪力。
触れる物皆吹き飛ばし駆け抜ける、
ジェンティルドンナ。その人であった。
「ウララさんからオルフェーヴルさんとあのメジロラモーヌさんがいらっしゃると聞いたのだけれど……本当にいらしたのね」
くすくすと笑うジェンティルドンナ。
その目付きは闘志にギラついている。
青いのね、と優雅に躱わすのはメジロラモーヌ。
闘志を受けて眼光鋭く返したのはオルフェーヴル。
そして続け様に杯をトレーナーに向ける。
差し出された暴君のコップににんじんジュースを注いでいるのはトレーナーだ。
「あ!にんじんジュースだ!わたしも飲みたい!」
「はいはい」
戸棚からウララ用のコップを取り出して、ジュースを注ぐ。
え、これ他のウマ娘分のコップも用意した方がいい感じなのかな、とトレーナーは思った。
「ゆっくり飲むんだぞ」
「はーい!」
コップをウララに手渡した。
「紅茶は無いのかしら」
それを見たラモーヌが呟く。
「そんな予算はない」
未勝利トレーナーにそんなお高いものを買う予算は降りない。
「なら、それは?」
「ウララ用に……」
にんじんジュースだってウララのモチベーションの為に自腹を切っているのだ。
「チーム、なのでしょう?」
ゾッとするような魔性を湛えた笑み。
コレに人は狂うのか、と自然と理解するも……今回に至っては『圧』そのものである。
「………努力するよ。口に合うかは保証出来かねるが」
「そう」
ラモーヌは薄い笑みを浮かべた。
非公式とはいえアオハル杯はチームだから……予算も増えるよね?と淡い希望を抱きながら、たづなさんに相談しようと決意しつつ、貴婦人に杯を向けた。
「いります?」
「……ええ、折角ですし。頂きます」
ジェンティルドンナはコップを受け取ると、口に運んだ。
「あら? これは中々……」
彼女の口に合ったようだ。
それなりに高いモノを用意しているから、合わなければ困るのだが。
「失望させないでちょうだい?」
「………」
ラモーヌの紅茶の事は後でメジロアルダンにでも相談しよう、と頭を掻いた。
「それで……ジェンティルドンナさん。ああ、どうぞお掛けに」
「ええ」
ジェンティルドンナを促すと、彼女はトレーナー室備え付けのパイプ椅子に腰掛けた。
「で、貴女はどうしてウララの誘いに?」
「先程も言いましたが……ここに暴君と至宝がいらっしゃるとウララさんが仰るものだから」
どこまでも自信に満ち溢れた笑みではあるのだが────
「アオハル杯の趣旨は理解されている?」
「勿論。圧倒的な力の齎す正義の下。確実な勝利を、刻む」
「お帰りはあちらです」
「なっ」
「……呆れた」
「ジェンティルドンナ……よもやそこまでとは」
失望の眼差しのラモーヌと、頭を振るオルフェ。
ジェンティルドンナはアオハル杯のチームを武道場か何かと思っていたらしい。
「……失礼。言葉が足りませんでしたわ。
アオハル杯に勝てば、理事長代理とやらが掲げる管理教育方針を踏み砕けるのでしょう?」
「……ジェンティルドンナさんは反対なんだね」
樫本理子理事長代理。
我らがちびっこ理事長、秋川やよいの代わりとしてやって来たURAの幹部……なのだが。
突然全てのウマ娘は睡眠時間から食事量、トレーニングの質から量全て徹底管理するべきだ、として代理の癖して理事長権限を振り翳し始めたのだ。
色々あって、アオハル杯で勝てばどうするかを決められる……という流れになったものの。
秋川理事長だっていつかは出張から帰ってくるだろうに。
当の理事長本人が止めていない辺り、何か妙な裏を感じるが。
「当然。"力"。何者をも凌駕する圧倒的な力こそが勝利を齎す。全て決められ、管理されるなど、不純そのもの。私には不要よ」
「なるほどね」
正しく彼女も強者なのだろう。
こういったウマ娘は、自分が何をどう鍛えれば良いかを理解している節がある。
そんな
このジェンティルドンナも、そう認識させるに十分なウマ娘だ。
「もしかして、貴方は賛成してらして?」
「ケースバイケースかな。強いウマ娘はほっといても強いし」
「流石はハルウララのトレーナー。よくわかっていらして」
「………そ」
月刊トゥインクルのインタビューにも載ってあったが、勝利を至上とする彼女にはハルウララは───否。
それなら、ウララの誘いに乗る事はない。
つまりは、彼女を勝たせてやれないトレーナーが良く映っていないのだろう。
「私と、オルフェーヴルさんと、メジロラモーヌさん。勝ちは決まったものではなくて?」
「生徒会とかでチーム組んでたら判らないんじゃないかな。ま、シンボリルドルフが管理教育に賛同するとは思わないけど」
反対の嵐吹き荒ぶ管理教育が、全てのウマ娘の幸福を掲げる彼女と迎合するとは到底思えない。
仮に賛同しようものならディストピア政治の始まりだろう。
「───ともかく。このアオハル杯はチーム戦。業腹ですけれど、私一人ではどうしようもない。でしたら、勝てるチームに入るのが道理ではなくって?」
「ちょっと前まで崖っぷちだった筈なんだけどねぇ」
オルフェーヴル!メジロラモーヌ!!ジェンティルドンナ!!!
これから海外に殴り込みに行くんですか?と言わんばかりの超豪華メンバーだ。
負ける気がしない。
チームを御せる気もしない。
「なんにせよよろしく。聞いとくけど、トレーニングは見る必要は?」
「結構───いえ。普段どんなトレーニングをしているのかを見てから判断させて頂こうかしら」
「そう? わかった」
「それに……ウララさんの頑丈さの秘訣も気になる事ですし?」
ハルウララというウマ娘は、それはそれは弱い……が。
他のウマ娘と比べても圧倒的なものが二つある。
その一つが、頑丈さだ。
何回も何回も全力で走っても、ウマ娘にありがちな骨へのダメージが全く認められないか、極めて軽微なのだ。
それは彼女の特異体質だ。
それが故に、何度も走り、そして負けを重ねても、選手生命が絶たれることは無い。
尤も、選手生命が絶たれない理由は別にあるのだが。
「で、あと一人か。ウララ、探しに───」
行ってきて……と。
そう言おうとした時、
「邪魔するぜ」
ガラリとドアを開けて闖入する者がいた。
「ハルウララがオルフェーヴルとメジロラモーヌに声掛けてたって聞いてな」
声の主を睥睨する暴君、至宝、そして貴婦人。
「来てみりゃ……オイオイ、マジで面白い事になってるな」
その視線を受けても尚も平然とするウマ娘。
────シリウスシンボリが立っていた。