───シリウスシンボリ。
メジロと並ぶ名門、シンボリ家のウマ娘だが、トレセン学園にも居るアウトローの頂点に立つ唯我独尊の開拓者───なのだが。
普通に成績優秀だったり、なんならトレセン学園にも居る不良ウマ娘のトレーニングの面倒を見たりしている面倒見のいいウマ娘だ……という噂が流れている。
尤も、成績優秀なのは事実なのだが。
「シリウスちゃんだ!」
「ようウララ。ホラ、口開けな。飴やるよ」
「ほんと!? わーい!」
部屋に入って速攻でウララの餌付けをするシリウス。
相当の手練れと見た。どうやら噂は真実らしいとトレーナーは判断した。
「あら。シリウスが来たのね」
「ラモーヌ。まさかアンタがウララの誘いに乗るとはな」
「ウララちゃんですもの」
「……そ、そうか」
シリウスの頬が引き攣った。
「あーはいはいシリウスシンボリさん。チームに入るのをご希望でしょうか。でしたらまずは動機を説明してください」
空気が弛緩した隙にすかさず切り込む。
他の連中に口を開かせてはウララのトレーニングの如くに進まないだろう。
「……それ居るか?」
「アオハル杯の理念を理解していない愚者ではないか見極める為よ」
オルフェーヴルが口を開いた。
トレーナーは目を覆った。
「オイオイマジかよ!一体誰なんだそりゃ!」
シリウスは一頻り笑うと、周りの異様な空気に気付いた。
「………マジかよ」
「あれはっ…! 私の言葉が少なかったために起きた小さな不幸…であって…ッ!」
ジェンティルドンナが手に握っていたコップを握りつぶしていく。
「そう面白いものではなくってよ、シリウスさん?」
そうして手を離すとそこにはガラス片──ではなく、圧縮されたガラス玉が転がっていた。
「それウチの備品なんだけど」
「あっ」
「ジェンティルちゃんはちからが強いんだね!」
無邪気に感心するウララ。
トレーナーは久方振りに心の中でヒトにこの力が向けられない事を三女神に祈った。
「えー……それでシリウスシンボリさん。動機は」
「どうせ、ルドルフでしょう?」
「話の腰を折らないでくれますか!? 今面接中!」
どのウマ娘も口を開けば茶々が入る。
これでは全く話が進まない。
トレーナーは嘆くように声を荒げた。
なら別の場所でやれよ……
シリウスはそう思ったが別に口には出さなかった。
「………あら。ふふ、良くってよ」
ラモーヌはどこか満足げに微笑んだ。
「へぇ……いや。そう、だな。ラモーヌの言う通りだ。暴君に至宝。そして貴婦人と来れば皇帝サマだって無視できねぇ。そんな面白い話、乗らない訳ないだろ?」
「───ふむ。貴様の格は不足ではないのか?」
オルフェーヴルが、そんな事をいった。
「あ?」
瞬間、目の前にいるウマ娘の頭の血管が千切れそうになるくらい浮かび上がったのをトレーナーは目にし頭を抱えた。
へぇ、と眉を上げたのはメジロラモーヌ。
面白いと成り行きを見守るのはジェンティルドンナ。
ハルウララは良くわからず飴を舐めている。
「格が足りぬ、と。王が言っているのだが?」
「面白れぇ……上等だ。表出ろ」
「良かろう」
今にもドアが外れそうな勢いで開け放つ天狼星に、玉座より立ち上がる暴君。
「待て待て二人とも……」
トレーナーは本日何度目かの溜め息を吐いてから、「決めるのはウララだって」と言った。
「あ?」
血走った眼。
その眼光は今にも喉笛を掻き切らんとするばかり。
トレーナーは動じず、続けて言葉を紡いだ。
「この三人はウララに誘われたんだ。だから最後の一人にもハルウララが決める権利がある。違うか?」
「………道理、か」
オルフェーヴルは席に座り直した。
「────チッ!」
シリウスシンボリは振り上げた拳の収めどころを探す様に舌打ちを放った。
「で、ウララ。シリウスシンボリさんがチームに入りたいんだって。どうする?」
「もちろん!いいよ!」
ウララの答えは当然、OKだった。
「後、全員に聞いてるけど。トレーニングは?見る?見ない?」
「いらねぇよ。ああ……ま、出来が良ければ使ってやっても良いぜ?」
「ヨシハイ決まり! みんなよろしく!」
シリウスとオルフェが同じ様な事を言ったので、トレーナーは喧嘩は似た者同士だからなのかな、と思い、これからの未来に不安を覚えた。
「じゃあアオハル杯の距離決めです!」
トレーナーは部屋のホワイトボードをガラガラと動かし、マーカーを手に取るとボードに距離名を書いていった。
・ダート
・マイル
・短距離
・中距離
・長距離
この五つを走るウマ娘を、アオハル杯出走に当たって決めねばならないからだ。
「ダートは当然ウララかな」
「うん!」
ちからいっぱいに返事をするウララ。
「適性的にはオルフェーヴルが走れそうだけど……いいよね?」
「許す」
「待て待て」
シリウスが待ったをかける。
「王の裁定に不満か、貴様」
暴君はシリウスを睨みつけた。
「チゲェよ。ウララがダートには異論ねぇよ。けどな、オルフェがダート走れそうって根拠は少し気になった。説明してくれるか?」
「なるほど、確かに」
ジェンティルドンナが声を上げた。
「ん?勘」
「は?」
「ウソウソ。キミらのデータは当然トレーナーならある程度は見れる訳だけど、オルフェーヴルの走りのパワーはダート向きだ。洋芝もいけるんじゃないかなと踏んでるけど」
「無論。王は場所を選ばぬ」
「………へぇ」
感心したシリウスは手のひらを向けて、先へと促した。
「次は短距離! だけどスプリンターいないよねぇこのチーム。適性的にはラモーヌが一番になりそうだけど……良い?」
「根拠は?」
「ん?桜花賞トライアルのフィリーズは短距離でしょ? イヤだった?」
試す様な笑みを浮かべるラモーヌに、何でもない風にトレーナーは返した。
「良くってよ」
ラモーヌが軽く息を吐いた。
「マイルは……ジェンティルでいいか」
「……何なのかしら、その決め方」
「中距離はシリウスで長距離はオルフェーヴル」
「待て待て待て、全部根拠を述べてけ」
ジェンティルドンナが声を上げ、シリウスもまた止める。
トレーナーはふむ、と一息ついてから、再び口を開いた。
「まずはジェンティルドンナ。その類稀なる力はマイル〜長距離までいけるだろう。短距離は逆に空回りしちゃうかもしれないけど……そうだね」
そう言うとトレーナーはシリウスに話を向ける。
「シリウスシンボリ。中距離以外走った経験どれくらいある?」
「他の距離じゃ経験が足りないって、か?」
「少なくとも確認できる限りではね。あのシンボリルドルフとの併走でも、中距離がメインだろ」
「………良いぜ。今回はアンタに従ってやる」
「ま、折を見て変える可能性もあるから。流動的なのがアオハル杯だからね」
フン、とやや不満げな表情をみせるシリウスに、トレーナーは苦笑した。
「となると必然、長距離かマイルだ。正直甲乙付け難いが……」
「はい?」
「ほう?」
やっべ地雷踏んだとトレーナーは心の中で舌を出して。
「………マイルはどちらかというとティアラ路線。それならジェンティルドンナの方が適任だろう、と」
そして、さも何もなかったかの様に続けた。
「同じ理由で長距離はクラシック路線のウマ娘が
そういうと、マーカーを置いた。
「異論ある人?」
「貴方……それだけ分析できて何故───」
「ヨシ次!チーム名! 候補ある人!」
ジェンティルドンナが怪訝を隠せぬ表情で問いただすも、トレーナーは遮った。
答える気が全くない訳ではないが、ウララがいるこの場でする事でもないと思っていたからだ。
「雑事は任せる」
暴君は目を閉じた。
「……ふ。古今東西、芸術には疎いのが暴君のお約束なのかしら」
それに嗤うはメジロの至宝。
「あら。芸術家気取りのメジロの至宝さまは高尚なセンスを持ち合わせていらっしゃるようですのね。是非とも拝見したいものですが?」
また、貴婦人も嘲笑を浮かべる。
トレーナーはまた始まったよと天を仰いだ。
「………そうね。私に勝てば披露してあげてもよくってよ?」
「言いましたわね。なら────」
「〈にんじんぷりん〉はどうかな!」
ハルウララがまたまた元気いっぱいに声を上げた。
「よい、許す」
オルフェーヴルはすぐさま肯定した。
「……マジかアンタ」
信じられぬとばかりに暴君を見るシリウス。
「王に二言は無い。貴様ら意見があるなら申せ」
「構わないわ」
ラモーヌはあくまでもウララに賛同したとばかりに、ウララの方を向いて答えた。
「………先程までとはえらく違いますわね、メジロラモーヌ」
頬をヒクつかせながらラモーヌに投げかける貴婦人。
「ウララちゃんは別よ」
「────」
その答えにジェンティルドンナは今度こそ絶句した。
「……オイ、ジェンティルドンナ」
シリウスがジェンティルに近づき、耳打ちする。
「大将はハルウララだ。その時点でお前の負けだ」
「───っ…わかりましたわ」
天狼星の言葉に貴婦人は顔を歪めて。
「……ええ。受け入れましょう」
真っ直ぐにトレーナーへと答えた。
「ふ……」
それを嗤うは至宝。
「!!!」
平常なら───そんなもの無駄だと、不粋だと流せるジェンティルドンナだが。
「これとは別に…そうですわね。2400 でよろしいかしら? メジロの至宝さん」
強者の圧が。会話の流れが。
彼女の鬼を目覚めさせるには十分だった。
「不純ね」
魔性の青鹿毛は一旦、眼を閉じて。
「でも、良くってよ」
鬼婦人ジェンティルドンナを見据えた。
「踏み砕いて差し上げますわ」
それに貴婦人は気高く、獰猛に微笑んだ。
「シリウス、貴方。審判なさい」
「ハァ? 断る」
天狼星はラモーヌの圧を何でもない様に跳ね除けると、「コイツにやらせれば良いだろ、一応トレーナーだろ」
そういって、バッジを親指で指した。
「なになにー? 二人とも走るの!? わたしも一緒に走る!」
ハルウララが目を輝かせてはしゃいだ。
その時、ラモーヌの圧が霧散したのに、ジェンティルは出鼻を挫かれた思いだった。
「……ふむ。ウララ」
成り行きを見守っていたオルフェーヴルが口を開く。
「王と共に走る栄誉を下賜しようではないか」
「オルフェちゃんと? わーい!やろやろ!」
マジなんですの、とジェンティルドンナが絶句した。
「あー……待て。アンタ一人じゃウララが心配だ、私もついていく」
面倒見の良いシリウスはウララを純粋に(本人は否定するが)心配していた。
「シリウスちゃんも!? そうだ!じゃあせっかくだし、チームみんなで走りたいな!」
「ちょっ」
シリウスの気遣いはウララの純粋さに踏み潰された。
「───ええ。良くってよウララちゃん」
微笑むラモーヌに───。
「手を抜かれては困るのだけれど?」
怒りを隠せないジェンティルドンナ。
「────そう。不愉快ね、貴女」
「あら、杞憂でしたかしら。ごめんあそばせ?」
この空気にトレーナーは窓の外に鳥が何羽飛んでいるかを数え始めた。
「………ハッ、おもしれぇ」
それを見た天狼星は獰猛に口角を吊り上げる。
「入って正解だったな、こりゃ」
「ふん。誰であろうと王者はこの世に余だけよ」
暴君は我関せずと泰然と歩みを進めた。
「わーい!みんなでレースだー!」
そしてチームのみんなとはじめてのレースに大喜びのハルウララ。
結成!!チーム〈にんじんぷりん〉!
チーム〈にんじんぷりん〉
リーダー ハルウララ
トレセンに輝ける偉大なる光。
チームメンバー全員纏めても敵わない人気度を(現実でも)誇る。
地元の高知を救った。
オルフェーヴル
ゆかいなおうさま。
暴君とか言う割には筋が通っていれば納得する賢王。
誕生日も祝ってくれる。
後に阪神大笑典をやらかすCV日笠。
デビューしてない寄りのシュレディンガーの三冠状態。
メジロラモーヌ
愉快なお姉さん。
獲得している寄りのシュレディンガーの三冠状態。
レースへ懸けるは愛。
ウララのレースへの想いが愛へと芽吹くか。
それとも枯れるかを楽しみにしている。
ジェンティルドンナ
暴力担当。
『勝利至上主義』の彼女はハルウララに何を思うのか。
デビューしてない寄りのシュレディンガーの三冠状態。
シリウスシンボリ
お前には苦労人になってもらう。
獲得寄りのシュレディンガーのダービー。
海外はまだの雰囲気。
〈にんじんぷりん〉トレーナー
ウララは実は二人目の担当。
一人目が出てくるかは不明。多分出ない。
気性難の扱いは慣れてるが複数は無理。