ウチのウララがえらいのチームに連れてきた   作:鹿頭

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《ハルウララ》という時代

 

「楽しかったー!」

 

 芝2400で行われた 〈にんじんぷりん〉初の模擬レース。

 

 結果はメジロラモーヌが1着。

 2着がジェンティルドンナ。

 オルフェーヴルは何がどうしたのかラチに突っ込んでから急加速しての3着。

 シリウスは急加速したオルフェーヴルに斜行を喰らって減速、4着。

 

 斜行による降着を認めれば当然順位は入れ替わるが、これは模擬レース。

 

 またオルフェ自身も『許せ』とオルフェなりの謝罪もあった。

 本当に謝る気あんのかコイツ?と苦々しくは思うも、この手の輩が素直になる事はないと知っているシリウスも口を挟む事はなく。

 

 そして安定の5着、ハルウララだった。

 

 

「いいぞハルウララー!」

 

「よかったよウララちゃーん!」

 

「良く頑張った!!!」

 

「流石ウララちゃん!!!今日も元気で可愛かったよー!!!」

 

 ターフ近くに偶々居たウマ娘やトレーナー達は皆一様にウララの健闘を褒め称える。

 

「みんなありがとー!」

 

 そしてハルウララはいつもの様に元気いっぱいに声援に応える。

 

「………」

 

 その光景を、ジェンティルドンナは自身の敗北よりも、苦々しく見つめていた。

 

「───純情可憐。いつもながら、気持ちのいい走りっぷりだな、ハルウララ」

 

 そんな、レースを終えた面々へ声をかけるウマ娘が。

 《皇帝》シンボリルドルフである。

 

「あ!カイチョーさん!」

 

「……見てたのか」

 

「ああ、見させてもらった」

 

 険しい表情で吐き捨てる様にシリウスは言い、オルフェの斜行劇を見ていたルドルフは災難だったな、と苦笑した。

 

「───失礼するわ」

 

 自分が負けた事。

 そして、敗者が勝者より讃えられる現実。

 

 数々の出来事の前に、今の自分では何を言うのか解らない。

 己の感情を抑える為にも、ジェンティルドンナは足速に去っていった。

 

「あら」

 

 ラモーヌがどこか面白そうに見送る。

 

「………フン」

 

 オルフェーヴルは去り行く背中を見送ると、踵を返し、自らもその場を後にしていった。

 

「またねー!」

 

 ハルウララが二人の背中に元気よく手を振った。

 

「しかし………」

 

 二人が遠ざかったのを見送ってから、ルドルフは口を開いた。

 

「キミとラモーヌなら兎も角……オルフェーヴルにジェンティルドンナが走っているとは青天霹靂だ」

 

 それはシンボリルドルフの率直な感想にして、このレースを目撃()た全てのヒト達が思う事だった。

 

「わたしたちね、アオハル杯に出るんだ!」

 

 その疑問にウララが元気いっぱいに答えた。

 

「そうか。アオハル杯に……」

 

 ルドルフは元気よく答えたウララに表情を崩し。

 

「ん? たち?」

 

 何か、聞き捨てならない事に引っ掛かった。

 

「…………シリウス?」

 

 ルドルフはどこか祈る様に幼馴染の名を呼んだ。

 

「私とウララ、オルフェーヴルにジェンティルドンナ、そしてメジロラモーヌでアオハル杯に出る」

 

 シリウスは面白がる様に答えた。

 

「な────」

 

「チーム名は〈にんじんぷりん〉だよ!」

 

 チーム〈にんじんぷりん〉結成。

 その報は瞬く間にトレセン学園中を駆け巡った……!

 

『〈にんじんぷりん〉? へぇ、ウララちゃんのチームですか! ウララちゃんもやる気なんですね! 私も頑張り……え?オルフェーヴルさんにメジロラモーヌさん、ジェンティルドンナさんにシリウスシンボリさん!? なしてー!?』

 

『ワケワカンナイヨー!』

 

『う、ウララちゃん…大丈夫、なのかな…?』

 

『何がどうしてそうなるのよー!?』

 

 ルドルフの耳はそんな声を聞いた気がした。

 

「そう……なのか?」

 

「ええ」

 

 信じられぬとルドルフはラモーヌにも問いかける。

 ラモーヌが肯定したのを聞くとしばし黙った。

 

「………まさか、キミがこの手の騒ぎに興味があるとは。驚天動地とはこの事を言うのだろうな」

 

「情熱的なお誘い。断るのは無粋でなくって?」

 

 ラモーヌの言葉は揶揄う様だった。

 

「い、意外な一面だな」

 

 さっきから驚きっぱなしの表情を見せるルドルフ。

 その様子を眺めていたシリウスは得心した。

 勘違いさせてんなラモーヌ、と。

 

 誤解を解くべきか。

 それとも盛大に乗っかるべきか、と頭を悩ませてると。

 

「おさそい?なんの?」

 

「ウララちゃんが私をチームに誘った時の事よ」

 

「なるほど! さっきからその話をしてたんだね!」

 

「そうよ」

 

「そ、そうだったのか」

 

 ───シリウスは衝撃を受けた。

 一つはあのラモーヌが素直にネタバラシをする事。

 そしてウララがあの程度の話を理解していなかった事。

 世話焼き気質のあるシリウスはウララの成績が心配になった。

 

「ウララ、今度国語の勉強見てやる」

 

「えー! おべんきょう!? なんで!?」

 

 シリウスの調子が下がった。

 

 

◆◆◆

 

「───はい、確かに受理しました」

 

「ありがとうございます、たづなさん」

 

 一方その頃、トレーナーはアオハル杯のチーム申請の紙を事務室にて提出していた。

 

「あの……大丈夫、ですか?」

 

 たづなはチームメンバーの個性豊かな面々の面倒をアオハル杯とは言え、見なければならなくなった〈にんじんぷりん〉のトレーナーを心配する。

 

「ウララが居なかったら速攻で解散するチームですよあんなの」 

 

 その顔は真剣であった。

 

「あ、あはは……」

 

 気の利いた言葉は出てこず、たづなは苦笑いした。

 

「ちなみに予算とか増えたりしないですかね」

 

「アオハル杯はやはり非公式なので……その」

 

「ですかぁ、理事長はいつお戻りで?」

 

 トレーナーはあの理事長なら『特例ッ!』とか言って予算増やしてくれないかな、と淡い期待を抱いていた。

 

 にんじんジュースだけならまだしも、最低でもメジロの舌に合うレベルの紅茶を定期的に用意するとなると財布の心配をし始めなければいけなかった。

 

「私の方針に異論がある、という事でしょうか」

 

 口を挟んだのは、理事長代理の樫本理子だった。

 

「予算が有ればトレーニングの質も良くなるかな、と思ったので」

 

 嘘である。

 一気に増えた四人の嗜好品代に充てる気満々であった。

 

「管理教育体制になれば貴方の様なトレーナーは淘汰されます。そうすれば────」

 

「《ハルウララブーム》を終わらせられる?」

 

「っ─────」

 

「……トレーナーさん」

 

「トゥインクル・シリーズ開闢以来未だかつてない()()()()()()()()()時代。馬鹿げた時代だ。貴女が終わらせてくれるというのなら喜んで賛同しますよ」

 

 それどころか、世界中どこを見渡しても、そんな事例はない。

 負ける度に人気が増え、負ける事を誰からも願われる。

 一つの地域を()()()()()()()()()()()()()、レースの歴史に現れた───特異点。

 

 それが《ハルウララ》という時代。

 

「それは───」

 

「ただそれは!」

 

 樫本理子が何かを言いかけるも、トレーナーは畳み掛ける様に話を続けた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが出来ますか、他ならぬURA幹部職員だった貴女に」

 

 引退ではダメだ。

 それでは、いずれ、どこかの誰かが必ず第二のハルウララに成ってしまう。

 それでは、()()()()()()()()()()()()()

 

「…………」

 

「話す事が無いなら、失礼させて貰います」

 

 トレーナーは何かを言いかけては止めるを繰り返す様になった樫本理事長代理に頭を下げた。

 

「お見苦しい所をごめんなさいね、たづなさん」

 

 そう言ってトレーナーは愛想笑いをした。

 

「いえ……」

 

 振り返る事なく、足音を大きく立てて部屋を後にする。

 

 暫く歩いてから立ち止まる。

 

 一息、深呼吸。

 それから、大きく溜息を吐いて。

 

「盗み聞きとは悪いポニーちゃんだ」

 

「気持ち悪い事言わないで下さる?」

 

「おかしいな、フジキセキがやると大ウケなのに」

 

「キャラのいう言葉、ご存知?」

 

 本気で困惑した、と言う顔を見せるトレーナー。

 イラっと眉間に皺が寄ったのは、ジェンティルドンナだ。

 

「…………んんっ! で、どう思う?」

 

 それは先程までの会話。

 《ハルウララ》についての問いだった。

 

「レースの本質を忘れた大騒ぎ。私には理解できませんわ」

 

「流石は勝利至上主義者だ。いいね」

 

「愚弄のつもりなら、覚悟は出来ているのかしら」

 

 眉間に寄った皺は愚か、血管すら浮き出そうになる程の怒りを覚えて。

 

「いや。キミの様なウマ娘を探していた」

 

「な────」

 

 瞬間、顔が一気に赤くなった。

 

「ななな何を急にっ!?」

 

 急にそんな事を言われたジェンティルドンナは、意識外の言葉という事もあって、強く狼狽した。

 

「トゥインクル・シリーズは、《皇帝》シンボリルドルフを代表としてその歴史に名前を刻んだウマ娘は数知れず」

 

 それを知ってか知らずか、トレーナーは話を始める。

 

「キミの事だ。その内歴史に名を刻むだろう」

 

「……ええ、当然ね」

 

「───だけどね。皇帝は時代を創ったウマ娘ではない。決してね」

 

「無敗三冠。確かにそれは凄まじい偉業だ。だが、所詮は記録。必ず次の無敗三冠が現れるだろうし、なんなら九冠バだって現れるかもしれない」

 

「………話が見えてこない。もう少しわかりやすくしてくださる?」

 

「───そうだね。《みんなのアイドル》やオグリキャップ。彼女らと比較して、レースを走るウマ娘としてではなく、普通のウマ娘として考えろ」

 

 ジェンティルドンナはその話を否定したかった。

 だが、聡明でもある彼女が、否定できる様な話でも、なかった。

 

「シンボリルドルフは彼女らに並ぶ人気があるのか?」

 

「………ありませんわね」

 

 《みんなのアイドル》、そして《芦毛の怪物》。

 去年のGIウマ娘の名前を知らない人は多くても、その名前は誰もが知っている、まさに《時代の怪物》。

 

 それらに比べると《皇帝》シンボリルドルフは確かに強さでは上回っているかもしれない。

 

 だが、皮肉にも全てのウマ娘の幸福を掲げるシンボリルドルフが、彼女達よりこの世界に対して大きな影響力を持った事はない。

 

 もちろん、トウカイテイオーは否定するだろう。

 彼女がシンボリルドルフを敬愛しているのは有名な話だ。

 だが、それはあくまでこの学園の中の話に過ぎない。

 ジェンティルドンナは、それを理解せざるを得なかった。

 

「ですが、彼女達の物語も強さあっての───」

 

「だが時代はハルウララ(彼女)を選んだ」

 

「───!」

 

「そうだろう?」

 

「…………っ」

 

 ジェンティルドンナは今度こそ言い返せなかった。

 大井、笠松に続く、地方から始まった第三の怪物。

 だがそれは、彼女達の様なシンデレラストーリーではなく。

 

 ───燦然と輝く、負け組の星。

 

「強さこそが正義ならね。シンボリルドルフよりもトキ……もとい、無敗のまま引退したウマ娘の方が強い存在感をその歴史に刻んでいる筈だ」

 

「………《史上最も偉大なウマ娘》は無敗ですわよ」

 

「例えが悪かったな!」

 

 トレーナーはガシガシと頭を掻いた。

 ジェンティルドンナは少しスッとした気分になった。

 

「あー、君が納得できるかは別だけど、ウララは負ける度にその人気を増やし、今ではグッズの売り上げだけで一つの地域を救う位になった。だろ?」

 

「………ええ」

 

「オマケにそんじょそこらのOP戦で勝たせようもんなら大炎上間違いなし! 圧力を感じるね!」

 

「まさか、貴方───」

 

 わざと負けさせているのでは───そんな最悪の想像がジェンティルドンナの頭を過ぎるも。

 

「いや普通に負けてるんだ、残念だけど」

 

 死んだ目をしたトレーナーの目が物語っていた。

 

「そ、そう」

 

 若干引き気味のジェンティルドンナを尻目にいやー、こわいこわい。とひとごとの様に呟くトレーナーは、しばらくの間窓からターフを見つめてから、信じがたい事を口にした。

 

「ハルウララが勝つなら俺は有記念だと思っている」

 

「────正気?」

 

 そう口にしたジェンティルドンナを、責めるものは、居ないだろう。

 これはその類のものだ。

 

「ああ」

 

 だがハルウララのトレーナーは、強い決意を以て肯定した。

 

「────ッ!!!」

 

 その言葉は、勝利を絶対正義の旨とし、力を信奉する《貴婦人》ジェンティルドンナには到底受け入れ難い言葉。

 

 思わずハルウララのトレーナーの胸ぐらを掴んで寄せる。

  

「わかってるの?有記念はGIレース! 真の強者だけが集う祭典!そもそも────まさか」

 

「そう。人気投票。その枠にウララが入れば間違いなく当選する」

 

「理屈としては道理────」

 

 有記念などのグランプリレースの出走ウマ娘は投票によって決まる。

 時代に君臨するハルウララなら、『はしりたいなー!』とカメラの前で言えば、正当な不平不満を踏み潰して、出走できる。*1

 

「未勝利のウマ娘の初勝利がGIの、しかも有記念だぜ? そんなの誰だってそこに()()()()()()。それは宝塚記念じゃダメだ。年の瀬の熱狂の中でないと、()()()()()()()()

 

「理屈としては……理屈としては正しい、けど」

 

 理詰めで冷静になった理性で、掴んだ胸倉を離し。

 それから少しの逡巡の後。

 

「あのハルウララが有記念に勝てる訳がない!」

 

 当然の意見を放つ。

 あのハルウララが、負け続けているハルウララが勝てる訳がない───。

 

 ジェンティルドンナだけでなく、誰もが思う事だ───ただ、一人を除いては。

 

「だからキミの様なウマ娘を探していた」

 

「っ!」

 

「勝利に貪欲で、実力も伴う。ハルウララにはどれも未だないモノだ」

 

「まさか……」

 

 冷された理性が再び怒りで沸騰する。

 

「私に手伝えと!? ()()()()()()()()()に!? このジェンティルドンナが!!?」

 

「どの道、お前がいつかどこかのレースでハルウララに勝ったとしても、讃えられるのはウララだぞ」

 

「………」

 

 ジェンティルドンナには、その光景が容易に想像できた。

 

「別にレースに負けてやれって言ってる訳じゃない。ウララの勝ちたいって気持ちに火をつけてくれれば良い。実力をつけさせるのは俺の仕事だ」

 

 トレーナーはジェンティルドンナの目を見据える。

 

「この時代に終止符を打つんだ。俺たちの手で」

 

「───未勝利トレーナーの癖に」

 

 貴婦人はそう、何かを吐き捨てる様に言ってから。

 決意に満ちた表情でトレーナーを見据えた。

 

「もしも私が有記念で当たっても、手加減しませんわよ()()()()()?」

 

「もちろん。叩き潰せる位に鍛えるのがトレーナーの仕事だ」

 

 そう言って、手を伸ばして。

 

「ふふっ、むしろ、望む所ね」

 

 二人は、手を握った。

 

「これからよろしく、ジェンティルドンナ」

 

「ええ────」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!? ウララさんが蝶々を探しに消えていったのだけど!?」

 

「おっ、もうそんな季節か。追いかけるならなるべく芝生を走らせるようにしてくれ」

 

「ウララさんが商店街の手伝いに出かけたのですが!?」

 

「あ、それはスポンサーだからほっといて、後で埋め合わせのトレーニング考える」

 

「トレーナーさん!!!? ウララさんが───」

 

「トレーナーさん────」

 

「トレ────」

 

「さては私を騙したわね!!!?」

 

「騙してねぇよ!!!」

 

*1
現実では未勝利馬は出走不可能

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