《ハルウララ》と《オグリキャップ》が有馬記念に出走を表明する───のはちょっと待って欲しい、とURAから土下座があった。
『最悪向こう一年間の話題が全部持ってかれちゃうんで……ちょっとそれは勘弁してください…』と言われてしまっては、公表を控える他なく。
トレセン学園も交えた協議の末、URAにタイミングを委ねる事になった。
その際にエントリーの確約の言質と書面を貰っている。
オグリのトレーナーは『ちゃっかりしてるな……』と言っていたが。
ハルウララは未勝利ウマ娘だ。
何らかの理由で潰される……最悪の状況を想定したに過ぎない。
URAも関係各所との調整、宣伝、グッズ等の準備などなどやるからには最大限実施したい思惑もあるようだった。
樫本理事長代理は余り良い顔はしていなかったが、我らが偉大なる秋川理事長からは『期待ッ!』とのお言葉を賜っていた。
───残る問題はやはりウララだ。
オグリキャップとの会話以降、どうも精彩に欠ける。
「勝ちたい」というウマ娘の本能に欠ける……鈍い……彼女に突きつけられたオグリキャップの問いが、彼女の中で引っ掛かっているのだろう。
オグリが乗り込んでくるのは全く予想はしていなかったが、ウララが悩む事自体は予定通りだ。
とはいえ、徐々に違和感を覚えさせていく予定だったので、荒療治に近い。
これを乗り越えられるかどうかで、ウララが有馬記念に勝てるかどうかが決まる。
「ま、その前にアオハル杯なんだけどね」
いよいよアオハル杯プレシーズンの初戦だ。
どこと当たるかはよくわからないが、まぁ勝てるだろう。
いや、勝って欲しい。
そして、ウララ自身が勝てない事に疑問を覚えてもらいたい。
これはチーム戦なのだから、動機はどうあれ勝ちたいという意思を持てるきっかけとなれば。
そこで折れ───ると困るから、どうにかモチベも維持しつつなのだが、その辺は注意深く観察も忘れずに。
「さてさて相手は───」
そうして、今し方メールで送られてきた対戦相手をトレーナーは確認する。
「──チーム<GOGO!>か」
◆◆◆
「ようこそ!輝けるボク達の栄光の舞台へ!」
「───《世紀末覇王》。余が喰らうに相応しい」
「キミがオルフェーヴルか! 噂に違わぬ覇気を感じるよ!」
オルフェーヴルの睨みを正面から受け止めるオペラオー。
「だが!暴君の圧政は討ち倒されるのが物語の結末! 討ち倒すのは…このボク! テイエムオペラオーさ!」
「───言うではないか」
ニッ、と自信を湛える笑みを見せるオペラオーに、面白そうだとオルフェーヴルも口角を吊り上げた。
一方で。
「───あっ、今日はよろしくお願いします」
「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
「いやはや、大変ですね……」
「いえいえ……」
少し離れた場所ではトレーナー達が挨拶を交わしていた。
一方その頃。
「ご機嫌よう、キングヘイローさん」
ジェンティルドンナがキングヘイローの姿を認め、優雅に挨拶をする。
「あら、ご機嫌よう。ジェンティルドンナさん」
同じくらい丁寧に挨拶を返すキングヘイロー。
その後すぐ、ちょっと残念そうな顔を浮かべた。
「本当は貴女と決ちゃ……ゲフン。競いたかったのだけれど……」
キングはゆっくり顔を横に向ける。
「?」
誘導されるように同じ方向に顔を向けたジェンティルドンナ。
するとそこにあったのは。
「マイルを走るのは〜! ツインターボだ〜! 誰からでもかかってこーい!」
元気そうに拳を突き上げたツインターボだった。
「そ、そう…」
ジェンティルドンナは顔が引き攣った。
またまた、一方で。
「ラモーヌさん…!いえ。ここであったが百年目!!」
マックイーンは闘志を燃やしている。
と言うのも───某日の事。
『マックイーン。ダメよ貴女。人のレースの邪魔をしては』
ラモーヌがメジロでの集まりの際に、突然そんな事を言い出したのだ。
『───はい?』
一同は困惑する。
ラモーヌがレースを邪魔した者に対して侮蔑をする事は間違いない。
だが、それにしては穏やかではあるし、それに加えてメジロマックイーンがそんな事をする筈はない。
『どう言う事……ですラモーヌさん? 私には、何のことなのか』
恐る恐る真意を問うマックイーン。
場には重々しい空気が流れる。
永遠にも思える沈黙の後───ラモーヌによって、爆弾が投げ込まれた。
『聞いたわよ。貴女。たい焼きレースに乱入したんですって?』
『───っ!』
『!!!』
声を押し殺すパーマーとドーベル。
アルダンは衝撃を受けた顔のまま固まっている。
『しかも全部食べたみたいね』
パーマーはうずくまった。
ついに吹き出すも、うずくまらず耐えるのはメジロドーベル。
アルダンは少し正気を取り戻した。
『たたたたたたい焼き…レース!!?そんなものある訳ありません!!!』
他の面々とは違い、どんどんと青ざめていくマックイーン。
その様子に、さしもの一同も様子がおかしいな?と思い始めていく。
『ゴールドシップとナカヤマフェスタが見たって言ってたわ』
『バカな───誰もいなかったはず!?』
『───マックイーン、体重計に乗ろっか』
パーマーが背後からマックイーンの肩を掴む。
『違います! ゴールドシップの罠ですわ!』
『なら、体重計に乗ろう』
パーマーがニッコリと満面の笑みを浮かべている。
『後生です!後生ですわ!私は───』
そのままマックイーンはパーマーに連れて行かれた。
少ししてから『増えてるじゃん!!!』
『何かの間違いですわ!!!』と怒鳴るような叫び声が聞こえてきたのだった。
『姉様がマックイーンさんの買い食いを咎める為とはいえ、あんな冗談を言われるだなんて、珍しいですわね』
アルダンが物珍しそうにラモーヌに語りかけるが。
『………ないの? たい焼きレース』
『姉様───!!!?』
叫ぶアルダン。
今度こそドーベルはその場にうずくまった。
なお───実際は。
ゴルシとナカヤマがモツ鍋を食べに街に繰り出した時に、たい焼き屋の前で葛藤するマックイーンを目撃し、マックイーンがたい焼きをパクパクするかどうかゴルシとナカヤマが賭けたのが真相だったのだ。
ちなみに賭けは成立しなかった。
二人とも同じ方に賭けるのでは賭けにならない。
「───スイーツ禁止の恨み! ここで返させていただきますわ!」
などなど、そんなことがあったからか。
ビシッと指を差すマックイーン。
いつもなら優雅に笑って受けて立つのがメジロラモーヌ…なのだが。
「………私、短距離よ?」
「へ?」
梯子を外された気分のマックイーンは、しばらくその姿勢のまま固まっていた。
「……悪かったな。中距離は私だ」
少し離れた場所から聞いていたシリウスが気まずそうに呟いた。
───更に一方では。
「エルの相手は──ウララちゃんデスね!」
「うん…よろしくね!エルちゃん!」
「ケ?」
ハルウララがいつもと違ってなんだか元気が無いように見える。
その様子にエルコンドルパサーは首を傾げた。
「───何と言う事だ!」
突如として横から滑るように現れたオペラオーが嘆く。
「ああ! 一体どうしたんだウララ君! 無論ボク程ではないが、このレース界を照らす君がそんな調子だなんて!」
「そうデスよ! どうしちゃったんデスかウララちゃん!」
「ちょっと……かんがえごとしてるの」
「ケェ!? ウララちゃんが考え事をするなんて一体ど───ぐふっ」
「なるほど! 今、君は岐路に立たされているんだね」
オペラオーはエルを押し退けた。
「きろ?」
「君の人生の選択という事さ!……ボクは少しウララ君と話がある! 長距離とダートを後回しにしてくれないか!」
オペラオーが高らかに叫ぶ。
「ならターボが一番乗りだぞ!」
ツインターボがそれに呼応するように雄叫びを上げる。
「……ええ。構いません」
ジェンティルドンナはいつでも準備が出来ている。
彼女に否はない。
「よーし!!!ターボがかぁぁぁぁつ!」
そう言って右手を突き上げるのだった。
(この子、もしやウララさんと似たタイプ……?)
ジェンティルは対戦相手に不安を覚えた。
「───さて」
マイルの試合が始まろうとするのを見届けたオペラオーが口を開いた。
「ウララ君。オグリ先輩と何かあったようだね?」
「ケ!!? そうなんデスか!!?」
「エル君、少し静かにしてもらえるとありがたい!」
「ご、ごめんデス…」
なにもしらないエルコンドルパサーに、注意をしたオペラオー。
エルは大人しくし始めた。
「で、何があったんだい?」
オペラオーは優しい声音で、ウララに物語を語り聞かせるように尋ねた。
「くやしくないのか、って」
「ほう!そんな事を聞かれたのか」
オペラオーは得心したような表情を見せた。
「で。ウララ君。どうなんだい」
「よく、わかんないや」
「ふむ……」
オペラオーは考え込んだ。
暫くそうしていた。
そうして、考えに考えた結果、オペラオーが取った行動は。
「なら、ボクのレースを見ていたまえ!」
「オペちゃんの?」
ハルウララは、顔を上げる。
ウララは今日はじめて、オペラオーの顔を見た。
その顔は、とてつもない自信に満ち溢れている。
誰もがそう思う顔で、オペラオーは立っていた。
「普段の君ならターボ君の方が良いかもしれないが、今はボクの走りを見るべきだ」
そういうと彼女は太陽を背にして。
「なんてたってボクは最強!《世紀末覇王》テイエムオペラオーだからね!」
溢れんばかりの輝きを。
ハルウララに魅せつける様に。
「さて!次の試合はボクでいいかな?」
ある程度ウマ娘の驚異的な聴力で話を聞いていた全員は、次を長距離を行う事で合意した。
「………」
当然、話を聴いていたオルフェーヴルは、何も言わずにレースを見ていた。
「ぬおー!まけたー!」
ツインターボはゴール板を少し過ぎた辺りで倒れ込んだ。
(恐ろしい程見事な逆噴射……)
ジェンティルドンナはゴール板を過ぎたあたりで先にターボを待っていた。
「……くそー! オマエつよいな! でも次は絶対ターボが勝つ!」
「ええ。いつでもかかっていらして?」
貴婦人はたおやかに微笑む。
もっとも、見事なまでの逆噴射に勝った気がしていないが。
(ウララさんと同類ね……勝ちたい気持ちは彼女の方が一歩先んじてはいるけれど)
こうして、マイル戦はジェンティルドンナの勝ちで終わったのだった。
さあ。
次の試合が、始まる。
「───ハルウララ! 勝つとは! 勝利とはなんなのか!
このテイエムオペラオー伝説の新たなるオーバーテュアを!
その目でしかと焼き付けるといい!」
マントを翻し、オペラオーはゲートへと向かう。
「…………フン」
オルフェーヴルは何も言わなかった。
静かな彼女もまた、ゲートへと向かっていく。
だが、ゲートに収まろうとする直前にオルフェーヴルは口を開いた。
「テイエムオペラオーよ」
「なにかな、オルフェーヴル」
二人の間に、心地良い緊張が走る。
「加減はせんぞ?」
「当然だとも! 譲られた勝利ではウララ君に響かないからね!」
「───よく言った」
アオハル杯プレシーズン第一戦。
その長距離部門が、幕を開ける。
こう、アオハル杯だから各担当はいるんだろうけど可能な限りぼかす感じで…
ジェンティルは担当してるよねトレーナーきみって感じだから例外として
初戦ではチームGOGOは当たらないんだけど良い感じのメンバーだったから……