私と君のアーカイブ   作:自産自消

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書いた当時は正月フウカがPU中でした。


イロハが先生と初詣をする話

 大晦日の夜。普段様々なことで多忙な生徒たちも、この日だけはそれぞれの家、あるいは友人の家で集まって思い思いに過ごしている時間帯。

 私も例外なくこの時ばかりは仕事を入れず、滅多に帰ることのない自身の家に帰ってカップ蕎麦にお湯を注いでいる。フリーズドライされた天ぷらが乗っている平均よりややお高めのものだが、これに夕方スーパーマーケットで買った海老天なんて付けてしまった日には堪らない。

 

“こういうちょっとした贅沢が心置きなくできるようになったのも、大人の特権かな……”

 

 5分の待ち時間を待ちきれずに、カップ麺を4分で開けてしまっても咎められない。それも大人の特権だ。

 まだまだ揚げたての熱を保っている海老天をホカホカの蕎麦の上に豪快に乗っけると、衣につゆがどんどん染み込んでいく。海老天を食い終わったら次は元々蕎麦についていたフリーズドライの天ぷらだ。これが一体何の天ぷらなのか未だに分かっていないが、美味しいからいいとしよう。ここにコトリがいたらその辺りの解説もしてくれるのだろうか。

 

“あー……美味い……”

 

 ズズッと啜ると空腹にその温かさがじんわりと効いていく。つゆのこの何とも言えない塩気と匂いが、否が応でも生物が逃れられぬ食欲というものを掻き立てていく。

 天ぷらにガブリと喰らいつくと、まだつゆに浸かった衣のジュワリとした食感と海老のプリプリした食感が口の中で濃厚な味と共に混ざり合う。割高ではあったが、これを味わえるのなら金を出す価値というものもあろう。

 

“いやー……極楽極楽……”

 

 日頃から激務に追われ、食事も落ち着いてとる機会もない。独りで、しかも自分の家で、ゆっくりと味わいながら食事したのはいつぶりだろうか。

 別に普段からとっている食事に文句があるわけではないが、たまには独りで、自分のペースで食事をしたいものだ。癒しとはそういう時間に生まれるものである、と私は思っている。

 

“別にテレビも何か面白いものがやってるわけでもないし……12時越えたら寝るかな……”

 

 いつからかお笑い番組を観ても笑えなくなったなぁ、とボーッと考える。机の上には既に空になったプラスチックのパックとカップ、そして先端が濡れた割り箸が残っているだけだ。

 かつてないほどの満腹感と満足感に浸りながらぐったりと寝転んでいると、充電器に繋いであったスマホが音を立てて震え出した。

 

“誰だ……? 何かあったのかな?”

 

 スマホの画面に映されていたのは「棗イロハ」。隙あらば私をサボりの道に引きずり込もうとする、怠惰で飄々とした万魔殿の戦車長。

 万魔殿の車庫内にあるイロハの秘密のスペースに上手く誘い込まれたこと数知れず。それでいて仕事自体は真面目にこなしているものだから、要領がいいと言う他ない。その頭の回転の速さを私にも分けてほしいものである。

 

“もう夕食は食べちゃったんだがな……”

 

 いつもよりも膨らんだ腹を叩きながらスマホを手に取り、「応答」をタップする。概ね年越しを一緒に過ごさないかという誘いだろう。そういう誘いは今日に至るまで何回か受けたが、シャーレという組織の性質を考えるとそう易々と受け入れることはできなかった。

 

『お世話になってます、イロハです』

“イロハ。どうしたの? こんな時間に”

 

 時計は9時を指している。年越しムードで生徒の大半が夜更かしをしているだろうことを考えても少々遅いと言わざるを得ない。

 電話の向こうから聴こえたイロハの声はいつも通り、気だるげをどこかに隠しているようなものだ。何かしらの仕事が入ったのだろうか?

 

『あー、先生って今多忙ですか?』

“別に忙しくはないけど……寮を訪れるとかはちょっと無理そう”

『そういう話じゃありませんって』

 

 目測が外れた。となるとますます分からなくなってきた。

 話の振り方がまずかったのか、イロハの声が少しだけ愉悦を含んだものになる。

 

『もしかして私に会いたかったんですか? 先生もなかなか情熱的ですねぇ』

“違うよ!?”

『そんなムキになって否定しないでもいいじゃないですか……』

 

 はぁ、とため息が聴こえる。でもここは強く否定をしておかないといけないと思った。

 

『まあ、こうして電話をかけているのは先生に用事があったからなんですが……』

“何の用事? 聞くよ”

『明日って空いてます? 初詣、一緒に行きませんか?』

 

 予想外だった。まさか大晦日のうちから元日の予約とは。

 いや、よく考えたら効率的なのか。どうにもキヴォトスの生徒は当日に予定を入れたがるから、ついつい元日の予定は元日のうちに入るものだとこちらも思い違いをしていた。

 

“初詣? いいよ? でもどうしたのイロハ”

『いえ、独りで神社に行くと人混みに揉まれて疲れそうなので、道連れに』

“道連れは勘弁願いたいなぁ”

 

 しばらく初詣なるものをしていなかったから、こういう機会を逃したくはなかった。仕事もそれほど多くない、十分行ける範疇だろう。

 

“分かった。待ち合わせ場所はどうする?”

『そうですね。神社の鳥居前だと絶対混んでるでしょうから、適当にコンビニ前に9時で』

“コンビニ前に9時ね、了解”

 

 20分前には着いていようと思った。時間ちょうどに着くようにしてもいいのだが、もしイロハが時間前に来た場合、彼女を寒空の中で待たせてしまうことになってしまうのが心苦しかった。

 

『では、そういうことで……あ、先生』

“うん?”

 

 そうして話も終わり、そろそろ電話を切り上げようとした時、イロハが私を引き留めるように、真剣そうな声を出してきた。

 

『去年はいろいろとお世話になりました。今年もどうぞよろしくお願い致します』

“今年は後少ししかないけど!?”

 

 スピーカーからイロハのいかにも楽しげな笑い声が聞こえてきたので、きっとわざと間違えていったのだろう。全く油断のならない子だ。

 それでも笑ってくれているのは嬉しいなぁと思いながら、互いに間違えずに挨拶をして電話を切った。

 

“さて、明日に備えて早く寝なきゃな……”

 

 被った布団は、少しだけ埃っぽかった。

 

 

 

 

 

 

「あ、先生」

“あけましておめでとう、イロハ”

 

 コンビニ前に来たイロハは、艶やかな和装……を着ていたわけではなく、いつもの軍服風の制服に加えてコートを羽織っていた。

 

「何か残念そうな表情ですね。着物じゃないのが不満ですか?」

“そういうわけじゃないよ!?”

「生徒がそんなポンポンと和装持ってるわけないじゃないですか。あれ高いんですよ」

“それはそうだね……”

 

 空は冬らしい水色に染まり、絶好の初詣日和だ。新たな年が始まったということもあってか、街全体が何となく神聖な雰囲気を醸し出している。

 

「さて、寒いですしさっさと行きましょうか、神社」

“そうだね、行こう行こう。露店とかやってるかな”

「何か食べてきたんですか?」

“軽くパン1個ね”

「そんなので大丈夫なんですか……」

 

 商店街を通ると、あちこちに「謹賀新年」の張り紙と門松を見かける。まだ朝方だからこそシャッターも多いが、きっと内部では店開きの準備が進んでいるのだろう。人通りは少ないながらも、人の動いている熱気を感じる。

 

“寒い寒い、手袋して来ればよかったかな”

「防寒対策はしっかりしないとダメですよ? あ、それとも手を繋いであげましょうか?」

“いやいや、そこまでするほどでは!”

「必死になって拒絶しないでくださいよ。悲しくなります……よよよ」

 

 イロハが私の背中に体重を預けてくる。「おいおいおい……」というもはや泣き真似かも分からない声の振動が背中越しに伝わってくる。

 

“手は繋がないからね!”

 

 そう言ってやると、イロハはつまらないといった表情でまた私の横に戻ってきた。

 

「手強いですね……」

“さすがにね、手を繋ぐのはダメだよ。でも心配してくれてありがとうね”

「いえいえ、それほどでも」

 

 神社に近づくにつれて、人だかりができていく。ざわざわどやどやと、私たち2人は人の流れに呑まれていく。

 

「やっぱり歩きにくいですね。神社の開くギリギリを狙ったつもりだったんですが」

“同じことを考えてる人はたくさんいたってことだね”

 

 人混みの中に生徒の声も聞こえてくる。友人と初詣に来ているのだろうか。こういう特別なイベントでの何気ない一時が、いつか大人になった時に自分を支えてくれることを、私は経験上知っている。

 

“イロハも友達と来たらよかったのに”

「……え、それ言います?」

 

 心底意味が分からないと言わんばかりに私を見上げてきた。その表情の苛烈さに思わず言葉に詰まる。堪えきれなくなって慌てて話題を変えた。

 

“そういえば、昨日電話をかけてきたのは何だか珍しいなって思ったんだよ。いつもはモモトークでしょ?”

「……気分ってものがあるんですよ、私にも。モモトークだと何だか味気ないじゃないですか」

“ああ、文面だけだからね、確かに”

 

 そんな話をしながら鳥居をくぐるころには、四方八方人だらけになっていた。参拝客のゆっくりとした歩みに合わせて、私たちも本殿に進んでいく。

 縁石にはかつてこの神社に寄付をした人の名前がずらりと彫られている。確か10万円寄付をしたら名前入りの提灯も垂らしてくれるのだったか。

 

「名前がこんな形で遺ることが嬉しいんでしょうかね」

“そうかもね。ロマンだよ、ロマン”

「それ、誰かの受け売りですか?」

“え? ああ、そうかも。ロマンって言葉が好きな生徒がいてさ”

 

 ふぅんと鼻を鳴らし、イロハはそれ以上何も言わなかった。何となく気まずい雰囲気になりながら階段を上ると、賽銭箱の前にずらりと行列ができている。この神社はどうにも広く、人の往来でふとした時にイロハを見失ってしまいそうだった。

 

「すみません、ちょっと逸れそうか不安です」

“あ、そう? じゃあ私の服の裾を掴んでなよ”

「袖でもいいですか?」

“いいよ”

 

 イロハは私の袖を中の右腕ごとぎゅっと掴んできた。体温が福越しに伝わってくる。

 行列の最後尾に並び、そのまましばらく私たち2人は雑談をしていた。今年の目標だとか、年越しの瞬間は何をしていたかとか、万魔殿で今晩パーティがあるらしいとか……取り留めのないことをぽつぽつと話していると、不思議と私は寒さというものを感じなくなってきた。

 

「先生も来ませんか、パーティ」

“うーん、遠慮しておくよ”

「だろうと思いました。ただ、後でイブキには個人的に挨拶しておいてくださいね」

 

 そんな特に残念でもなさげなイロハの頬は赤く、寒さのせいかその笑みもどことなくぎこちなかった。

 

“寒くない?”

「それほどでも。私はほら、ちゃんと防寒対策していますので。カイロもあるんですよ」

“カイロ持って来ればよかったな。ついつい忘れちゃって”

 

 そう言うと、イロハはコートのポケットの中から携帯カイロを取り出して、私の手にぎゅっと握らせてきた。その手はこの冬に見合わないほどに熱かった。

 

“これ、イロハのカイロじゃないの?”

「2つあるので、いいんですよ。ほら、握ってると温かいですよ」

“本当だ。じゃあ遠慮なく”

 

 手の中にあるカイロをダッフルコートの中にしまうと、右腰が温かくなってきた。化学反応というものはありがたいものだ。

 賽銭箱が近づいてくる。私とイロハはそれぞれ財布から5円玉を取り出す。「ご縁がありますように」というゲン担ぎだっただろうか。

 

「先生は、何をお願いするおつもりですか?」

 

 ありふれた問いだが言葉に詰まる。初詣に来ていながら何も考えていなかった。

 まあ、「先生」という職業上、私の願うことは決まりきっている。

 

“『生徒のみんなが幸せに過ごせますように』、かなぁ”

「先生ご自身の幸せとかは願わないんですか? 『5000兆円欲しい』とかどうです?」

“私は十分満たされてるから。イロハは?”

 

 訊き返すと、少しばかり私から目線を外される。イロハ自身も何にするか考えてなかったのだろうか。

 そうして出た答えは、やはりというか、イロハらしいものだった。

 

「『もっとサボる時間が増えますように』……でしょうか」

“あはは、イロハらしいね”

「ついでに『先生が健康でいられるように』とも願っておきますよ」

“お、嬉しい。ありがとうね”

 

 賽銭箱の前には太い麻縄がぶら下がっている。この縄を揺らせば、上方に引っ付いている鈴が揺れてカランカランと音を立てるという仕組みだ。

 

「何であるんでしょうね、この鈴」

“さあ……?”

 

 5円玉を投げ込んで目を瞑り、二礼二拍一礼。心の中で何回も、「生徒たちが幸せに暮らせますように」と、いるかも分からない神に願った。

 そうして一呼吸して目を開けると、先に願いを終わらせていたらしいイロハがこちらを見つめていた。

 

「真剣そうでしたね」

 

 賽銭箱の前から立ち去る際にそう声をかけられる。

 

“真剣だよ。もしかしたらこれでイロハたちが平穏無事に暮らせるかもと思うと”

「平穏無事なんて、キヴォトスからは程遠い四字熟語ですね」

“まあまあ、それは確かにあるけども”

 

 本殿から出ると、私たちが先程まで並んでいた行列はその長さを増しているようだった。最後尾からここに至るまで、およそ20分はかかるだろう。

 

“早めに来ておいてよかったよ。ありがとうね、イロハ”

「いえいえ、目論見が当たってよかったです」

 

 そう言うイロハは、何となく自慢げだった。

 

 

 

 

 

 

「ではお礼代わりに、おみくじ代おごってください」

“いいよ、100円だっけ?”

 

 「先生も引きましょうよ」と言われたが、元から私もやろうと思っていた。何なら渋るイロハを説得する準備もしていたところだった。ちょうどいい、今年一年の運試しだ。

 おみくじはまさにくじ引きの箱の中に詰まっており、持ってみると確かな重量と共に細く硬い何かがカシャカシャと音を立てた。

 100円玉を入れ、思い切ってえいやっと箱を逆さまにして揺らす。出た番号を窓口の神主さんに言うと、対応した引き出しからおみくじが手渡された。

 

「では先生、100円玉下さい」

“はい。これで頑張って”

「おみくじに『頑張る』とかあります?」

 

 そしてイロハも同じようにおみくじを手に入れる。結ばれたおみくじは解くのに苦労する。手渡された時点で中が見えなくていいという利点はもちろんあるが。

 私が結び目に悪戦苦闘している最中、イロハは先に解けたようだった。表情からしていいものだったのだろう。

 

「先生、私が解いて差し上げましょうか?」

“いや、ごめん、もう少しで……できた!”

 

 しわのついたその薄い紙をペラペラとめくっていくと、「大吉」や「小吉」といったようにその年の運勢が漢詩と一緒に書かれている。私の場合、今年の運勢は……。

 

「私は吉でしたけど…………うわ」

“大凶……!?”

 

 よりにもよって最悪の出目だった。つまり今年は厄年でもないのに最悪レベルになるということで。

 

「病気……早急に病院にかかるべし、治らないこともある? 不摂生のツケですねこれは」

“待人、来ず。恋愛、愛されない……すごいよこれ、悪いことしか書いてない”

 

 頭がくらくらしてきた。腹を撃ち抜かれる以上の何かが今年は待っているというのか。

 

「早く結びましょう。私も結びます」

“うん……そうだね……”

「結べば運がよくなるって話ですし、ね」

 

 優しく背中を叩かれる。まるで赤ん坊をあやすような手つきだ。大の大人相手に。

 がっかりしてしまう。今すぐ顔を覆ってしまいたい。こういうおみくじには大凶はないという噂は迷信だったのか。今まで一回も引いたことがなかっただけに嫌な予感がプンプンしてしまう。

 細く折り畳んでそれ専用の棒に結び付け、この運が反転することを切に祈った。

 

「災難でしたね、先生」

“うん……今年は大人しくしてるよ”

「先生が大人しくできるわけないでしょう」

“ぐぅっ……!”

 

 イロハは面白そうな目つきでこちらを見てくる。吉だったらしく、どうもご機嫌そうだ。

 

“イロハのおみくじにはどんなことが書かれてたの?”

「ん? いやでも、普通でしたよ。病気は長引くが完治する、商売は急ぐな、学問は成就する……」

“いいね。恋愛の欄とか、どうだった?”

 

 そう訊くと、イロハの足がガチリと止まった。それに合わせていた私の歩調も数歩遅れて止まる。

 

「…………それ、訊きます?」

“あ、ごめん。デリケートな話題だったね”

「全くですよ。セクハラですよセクハラ」

“ごめんごめん、本当に矯正局送りになるからやめて!”

 

 本当にそのつもりはなかったのだが、女子に向ける話題というものはもう少し考えておかなければならない。家に帰ってから深く反省するとしよう。

 

「……はぁ、全く。先生には特別に教えて差し上げます」

“え、いいの?”

「はい。教えて何かになることもないと思うので」

 

 そうしてイロハは1つ大きく深呼吸した。

 

「…………自分から仕掛けるべし、と書かれてました」

“へぇ、そんなこと書かれるんだ”

「私も意外でした。具体的なこともあるものですね」

 

 神社を出ると、参道はますます賑わっているようだった。これからお昼時、人がより活発になる時間帯だ。

 

「はぁ、まあ今回は釣果ありということにしておきましょう。先生の落ち込む顔も見られましたしね」

“そりゃ大凶だったら落ち込むよ……”

「きっといいことありますよ」

 

 イロハはこの後、パーティの買い出しがあるという。私はシャーレの仕事が待っている。

 正月だからと言って、仕事は手を休めてはくれないらしい。むしろ大晦日の仕事が少なかった分、その後は修羅場になることは確定していると言ってもいいだろう。

 「めんどくさいですね」とぼやくイロハは、いつもよりもダウナーなように見えた。

 

 しばらく2人で歩いていると、分かれ道がやってくる。ここで今回は解散らしい。

 

“それじゃあ、買い出し頑張ってね”

「先生もお仕事頑張ってください。……あ、すみませんもう1つ」

“うん?”

 

 少し間を置き、彼女は恥ずかしげに笑って言った。

 

「あけましておめでとうございます、先生。今年もよろしくお願い致します」

 

 そういえば、コンビニの前では確かにイロハから挨拶を返されてはいなかったなと思い返す。私も少し姿勢を正して、「今年もよろしく」と返事をした。

 そうして、私たちはその場で別れた。この後に待ち受けることを考えると憂鬱になるが、おみくじを結んだのだから何とかなるだろうというぼんやりとした自信があった。

 

「……先生の声を、一番最初に聴けてよかった」

 

 後ろから微かに、そんな声が聴こえた気がした。

 振り返ると、イロハの紅い髪が遠くに見えた。

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