私と君のアーカイブ   作:自産自消

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先生たちが観た映画は「カサブランカ」想定です。
戦前の映画なんだよなぁ、あれ……。


イロハが先生と映画デートする話(※)

「先生、デートしませんか」

 

 ある日唐突に執務室に入り込んできたイロハが、開口一番にこう言った。

 デート。今までイロハから結果的にデートになるように呼び出されることは多々あったが、まさかここに来て直接誘われることになろうとは思わなかった。

 

“デート……? 今から?”

「いいえ? 先生も今はご多忙でしょうし、空いてる日があればですけど」

 

 無論私は目下仕事に追われている。何なら今日は本当に仕事に集中しなければ寝る暇が確実になくなるだろう。

 そんな状況下でイロハがモモトークで「今からそちらに伺います」とだけ送ってきたものだから警戒していたのだが、繰り出されたのはまさかの譲歩付きのお誘いだった。言っちゃ何だが拍子抜けである。

 

“どうしたの? いきなりデートだなんて”

「いやですね、マコト議長から『シャーレの先生を骨抜きにしてこい』と催促されまして」

 

 イロハは万魔殿の命によって私に近づいてきた。ファーストコンタクトでその事実をあっさりと白状して、しかしその極秘任務を放棄しているのか放棄していないのかも分からない振舞いを見ると、目の前の少女が何を考えているのかが分からなくなる。

 

「ということなので、こちらとしてはある程度目に見える実績が欲しいんですよね」

“あ、拒否とかはできないんだ”

「一応あの人は上司に当たりますからね。あんな人でも」

 

 辟易したようにイロハがため息をつく。ならばなぜ辞表を叩きつけないのかと思わないでもないが、何だかんだ言いながらイロハは万魔殿を離れないのだろう。私が生徒たちに手を焼かされながらもキヴォトスを離れることがないように。

 

“それでその実績として目ぼしいものが『デート』だったと”

「そういうことです。ただ、今の先生は本当に忙しそうなので。その仕事、多分今日中に片付けなければいけないものでしょう?」

“あ、あはは……”

「その顔を見れば分かりますよ」

 

 確かに疲労感はいつも以上にあるが、そこまで表情に出ていただろうか。最近は特にキヴォトスのあちこちを走り回っていたものだから、正直なところ休みが欲しいとは常々思っていた。

 

「……まあ、とにかく空いている日があれば教えてください」

“ああ、それなら明日大丈夫だよ”

 

 そう言うと怪訝な顔をされる。「正気で言ってるのか」とでも言いたげだ。

 

「…………それは、その山盛りの仕事が今日中に終わればの話ですか?」

“うん。一応明日には何の予定も入れてないよ”

「それ世間では『オフの日』って言ったりしません?」

“いや、本当に何の予定もないんだ。入れようと思えばいくらでも入れられるけど”

「……まあ、そういうことにしておきますけども。それで先生はどこがいいんです?」

 

 さて、肝心のデートについてである。それもリクエストは「私自身が行きたいところ」と来た。

 自由度が高くなると身動きが取れなくなると言われるが、全くもってその通りだと思う。夕食を何にするか訊かれて「何でもいい」と言ったら怒られたのはこういう理屈だったか。

 しばらく頭を回して考えるが、あまり思いつかない。イロハが私に任せるスタンスを表明した以上、これは自分で考えなくてはならないだろう。

 

「もしかして、なかったり?」

“いや、ないわけじゃないんだけど……”

 

 このままだと「やりたいことのない無味乾燥な哀しき仕事マシーン」だと思われかねない。遊園地のような行動的な場所にはあまり行く気にはなれないから、あまり動かずに楽しめる場所がいい。

 そうして1つ思いついた。座りながら、2人でも十分楽しめるもの。

 

“映画、かな”

「映画?」

“映画館、行きたい”

 

 半ば消去法のような気がしないでもないが、ここ数年は映画にもあまり縁がなかった。せっかくの機会だ。ここらで久しぶりに、昔の映画でも観てみたい。

 

「どんな映画です? 先生の好きなロボット映画とか?」

“いや、そういうのにはしない予定。ちょっと待って、今調べる”

「あ、調べるのは私のいないところでお願いします。だってほら、面白くないでしょう?」

 

 事前のネタバレは重罪らしい。確かに何を観るかを知ってしまったらせっかくの映画デートの面白味が半減してしまうか。

 確か郊外に昔の映画を上映している小さなシアターがあった。後で上映表を少し調べてみるか。

 

「じゃ、そういうことで」

 

 そう言ってイロハは私に近づいてきて、徐に隣の椅子に座ってきた。そして机の散らばっていた書類を掻き集め、署名済みのものと未署名のものを何となく仕分けし始めた。

 

“えっ……?”

「面倒臭いんですけどね。あ、勝手に始めちゃいましたけどこれ、こんな感じでいいですよね?」

“いや、いいんだけど……え?”

「何驚いてるんですか。このまま限界まで働いて、明日体調崩されたら洒落になりませんよ」

 

 どうやらイロハは私を手伝ってくれるつもりらしい。サボり魔のイロハにしては奇妙な行動だ。思わず首を傾げてしまう。

 当番として何回か私の仕事を手伝ってくれたことがあるからか、仕分けを進める手つきは非常にスムーズだ。そういえばイロハと知り合ってから随分と経った。その間に何回顔を合わせ、何回仕事を共にしてきたことだろう。

 

「あ、夕方には帰りますからね」

 

 だからこそだろうか。そう私に釘を刺す瞳の奥に、どうしようもなく期待の念が籠っているように見えた。

 

“オッケー。じゃあ早く終わらせちゃおう”

「睡眠もちゃんととってくださいね」

“もちろん。明日は大事なデートだからね”

「……ふふ、何の映画を選ぶのか楽しみにしてますね」

 

 その後はイロハが地味な事務作業の手伝いをしてくれたこともあり、想定よりも遥かに早く終わらせることができた。

 久しぶりに主を迎えた仮住まいの部屋の中で、目当てのシアターの上映表を確認する。ラインナップは古い洋画で満たされている。どれも子供には荷が重いだろう。

 

“本当はイロハのことを考えて、ちゃんとした大きな映画館に行くべきなんだろうけど”

 

 イロハは賢い。私が自分の希望のみならず、イロハに慮って映画を選んだことなんてすぐに見透かしてしまうことだろう。そして、「これ、先生が観たかったものなんです?」と少し眉を顰めながら言うことだろう。

 

“だから、私の趣味全開で選ばなきゃな……”

 

 しばらく画面を眺めていると、目を引いたのは大昔テレビで観た覚えのあるトレンディ映画。ストーリーもとうの昔に忘れてしまったし、面白かったという記憶もない。ただただ理解ができずにボーッとしていたことだけ覚えている。公開された年代を見ると、今から70年以上は前のものだった。

 観たい。面白いか面白くないか、今なら分かるかもしれない。好奇心が強く刺激された。

 

“上映時刻は11時か。ちょうどいい、これにしよう”

 

 モモトークでイロハに時刻だけ報告する。するとすぐに『では待ち合わせは10時にシャーレの前で』と返ってきた。返信が思った以上に早かったので笑ってしまったのはご愛嬌というもの。

 

“それじゃ、早めに寝ないとな”

 

 しばらく使われずにすっかり冷えていた布団はすぐに温かみを取り戻し、潜った私を優しく包む。すると、先程までブルーライトを浴びていたとは思えない速さで眠気が襲ってきた。

 

“久しぶりに、熟睡できるかも……”

 

 明日何事も起こらないことを祈りながら、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 翌朝の9時半、シャーレのビルの前でいつも通り青い空を見上げながら待っていると、前方から軽い足音が聞こえてきた。

 

“や、イロハ”

「すみません、待たせちゃいましたか」

“ううん、私が早く来過ぎちゃっただけ”

 

 白いTシャツにデニム生地のスカート。簡素ながらも清潔感のあるいかにも若々しいコーデに身を包んだイロハの姿は、普段の制服姿を見慣れている私からしたら非常に見違えて見えた。今日がいい天気なのもあり、ほんのりと光り輝いて見える。

 

「先生はいつもの白衣ですか」

“いやぁ、これくらいしかなくってさ”

「どうせ下はスーツでしょう?」

“何だかもうこれ着てないと落ち着かなくって”

 

 一方私はいつもの白衣にスーツという何とも面白くない出で立ちだ。服を選ぶのが面倒だったというのもあるが、変に着飾ってイロハと歩いているところを誰かに見られたら私的な関係を必要以上に疑われてしまうのだ。

 私が生徒と個人的に会うことは多々あるが、誰と会うにしてもこの服装は崩していない。イロハが特別というわけにもいかないのだ。

 

「……面白みのない人ですね」

“あはは……ごめんね”

 

 呆れたようにイロハがため息をつく。苦笑いしかできない。本当ならちゃんとした服を揃えて臨みたかったが、こればっかりはどうしようもない。

 

「で、映画でしたっけ? どこの映画館です?」

“ああ、郊外にあるところだよ。案内するね”

 

 そうして2人で歩き出す。休日の街は私服姿の生徒たちで賑わい、喫茶店のショーウィンドウの向こうは歓談に包まれている。紅茶の匂いまで感じ取れてしまいそうだ。

 

「映画の後は、何か予定あるんです?」

“ああ、少しいいレストランを予約してるんだ。そこで一緒に食べようよ”

「何のお店です?」

“んー……フランス料理?”

 

 調べたところ値段も手頃で評判もそこそこに良かった。料理の画像も見る限り、ハズレではないとは思う。

 

「何でそこで疑問形なんですか」

“いや、行ったことないし”

「行ったことないところに連れてく気ですか」

“前々から行ってみたかったんだよね”

 

 リーズナブルな値段とは言っても高いものは高い。今日は奮発する日だと決めているから出せるお金であって、普段の食事はコンビニ弁当かファストフードで済ませている。

 ……最近カイテンロボの新しいフィギュアが出たから、という理由ではない。その出費に押されて節約せざるを得なくなったわけでは断じてないのだ。

 

“ほら、今日は私が行きたいところに行く日でしょ?”

「……フランス料理、お好きなんですか?」

“それも食べたことないからさ、チャレンジチャレンジ”

「はぁ……付き合いますよ。ダメだったら言いますからね」

 

 イロハは呆れ果ててはいるものの、その言葉に乗せられた感情は決してネガティブなものではないことは分かっていた。

 仕事でもない限りは本当に嫌なことはきっぱりと拒絶するのがイロハだ。それがあれこれ言いつつも付き合ってくれるのは、つまりそういうことだろう。

 

「今回の映画のチョイスと言い……先生はお洒落なものが好きなんですね」

“自分ではそうでもないと思ってるんだけどな”

「私、ドレスとか着てきた方がよかったですかね」

“いやいや、イロハの私服姿もすごくきれいだよ”

「……口では何とでも言えます」

 

 そう言ってそっぽを向いたイロハの耳がいつもよりも赤く見える。ワインレッドの髪に日光が反射しただけではないだろう。

 大通りを離れ、少し奥まった路地を行く。ここに入ると喧騒も収まり、「知る人ぞ知る」と呼称されそうな個人経営の商店なんかも立ち並んでいる。

 その中にぽつりと立つ、通りの中では大きめの建物が今回の目的地だ。

 

「こんなところに映画館があるものなんですね」

“ね。私も昨日初めて知った”

「かなり昔の映画でしたっけ。そりゃあ大きなところでは扱ってませんよね」

 

 今ではBDもある。映画も自宅で観られる時代だ。こういう小さな映画館は、いずれ時の波に浚われるだろう。

 

“まあ、風情ということでね。お付き合い願いますよ”

「はいはい、ご一緒しますよ」

 

 中に入ると、つい先程までうとうとしていただろう受付の店員がハッと顔を上げて私たちを出迎える。これから観る映画の名前を言ってお金を差し出すと、「あちらのシアタールームで上映します」と大きな扉を指し示された。

 埃を被った自動販売機がゴウンゴウンと唸っている。菓子パンやポテトチップス、そしてペットボトルのジュースなんかをここで買うのだろう。ポップコーンやチュロスといったナウでヤングなものではないという事実が、またこの映画館の寂れた原因を際立たせて見えた。

 

“ジュースとか、いる?”

「いえ、大丈夫です」

 

 言われてみると私も喉が渇いているわけでもない。ましてやこの後に昼食が待っている以上、何某かを食べて腹を膨らませるわけにもいかないだろう。

 重々しい引き戸を開けると、暗闇がそこに広がっていた。ともすれば互いの姿すら見失ってしまいそうだ。どうやら座席も自由らしい。人の気配のしない上映室の中で、少しずつ歩を進める。

 

「どこがいいですかね、先生」

“どうせ自由ならスクリーンが一番よく見える位置にしよう”

「じゃあ前方ど真ん中ですね」

 

 そうして席に座ると、視界一杯をスクリーンが占領する。しばらくすると頭部がカメラになったスーツ姿の何者かがパントマイムをし始めた。これが流れるのはどこも変わっていないのか。

 

「恋愛映画、なんですか?」

 

 イロハがポツリと私に訊いてくる。

 

“うん、多分”

「どんな映画かも知らないんですか」

“昔……私が子供の頃に観たことがあったけど、よく分からなかったんだよね”

「映像も白黒でしたし……かなり古い映画なんですね」

 

 人が入ってくる気配はない。あの店員も今は眠りこけているだろう。だから上映が始まるまでは話すことができる。

 

「……分からないことだらけですね、今回のデートは」

 

 イロハと目が合った。スクリーンの輝きにイロハの顔の左半分が照らされている。

 

「面白いじゃないですか、先生」

 

 そして映画が始まった。ダンディな主人公が、かつて愛し合った女性と偶然再会してしまう。にじり寄る戦火に怯えたか、もしくは新しい男でも見つけたか……ある日突然消えた彼女が、仕事場で若い男と一緒にいるところを見かけてしまったのが物語の始まり。

 

 ムーディーな音楽に乗せて、仄暗い雰囲気の中で映画が進む。主人公たちのいる地にも刻々と戦争の影が忍び寄る中、偶然ヒロインたちの亡命の鍵を手にしてしまった主人公の葛藤。握り潰してしまえば、彼女は自分のものでいてくれる。自分にあの時と変わらぬ愛を囁いてくる彼女を前に、主人公はどう動くのか……。

 ふと、イロハの方を見る。目を細めながらスクリーンに釘付けになっているその表情からは、映画を楽しんでいるかも分からない。

 

 そしてクライマックス、主人公がヒロインを逃がすか否かという場面で飛び出す名フレーズ。何かの小説で見たあの文句はここが出典だったかと独りで勝手に納得する。

 そしてエンドロールが流れ、暗転した画面に大きく「END」と筆記体で記される。隣から小さくため息が漏れるのが聴こえた。その直後、暗闇が突如として光に包まれる。

 

『上映は終了しました。足元に気を付けてご退場ください……』

 

 腕時計を見ると、もう既に12時を回っていた。もう1つ、今度は大きくため息をついたイロハが背伸びをしながら立ち上がる。眉を顰めているところを見るに、どうにも何事かを言いたくて仕方ないようだ。

 

「……行きましょうか」

 

 トーンの低くなった声に煽られるように、受付の「ありがとうございました」という声を背中で受け取りながら映画館を出る。先程までの暗闇に目が慣れていたのか、外界の燦々と降り注ぐ日光が眩しい。

 

「…………何ですか、あれ」

 

 ゆっくりと誰もいない路地を歩きながら、イロハが呟く。

 

「あんな女、主人公とくっつかなくって正解ですよ。顔がいいだけで……」

“あ、あははは……”

 

 主人公は結局、ヒロインを戦火から逃した。「自分はいつまでもお前のことを思っている」と言い残し、傍らにいた男に「頼んだぞ」と託し、自分は戦争の渦中で逃げずに生き続けることを選ぶ。なるほど、これは幼き時分の私には理解ができないわけだ。

 

「キヴォトスの外では、あんな女性が好かれてるんですか」

“いや、そういうことはないと思うよ……多分……”

「先生はああいう女性がお好きなんですか」

“あ、それはない。誓ってもいい”

 

 実のところ、私もヒロインの行動が鼻についた。世紀を跨ぐほど昔なのだから倫理観も違うだろうが、それでも今観てしまうとどうしても眉に唾を付けたくなる箇所は出てきてしまう。

 しかしそれにしても怒り過ぎだろう、と私の半歩先を行くイロハを眺めながら思った。やはり女性だからこそ殊更に苛立ちを覚えてしまうのか。

 

「……あの愛の言葉だって、嘘に決まってます。媚びを売るためにそう言ってるだけ」

“そういうものだよ”

 

 何が本当で何が嘘かなんて、当事者たちにも分かってはいないだろうけれども。あの主人公の愛による献身は、決して嘘ではないのだろう。

 明るい通りに出ると、また朝以上の喧騒が私たちを出迎えてくれる。喫茶店のテラスも開放され、昼食を食べながら談笑に勤しむ子供たちの声も華やかだ。

 

「…………そうじゃない人も、いますよ」

 

 その中でも、イロハの言葉は一言一句聞き逃せなかった。しかし、その言葉はきっと私が聴こえてはいけないものだろう。

 だから私は、聴こえなかったふりをした。

 

“……あー、お腹空いたな。そろそろ行こうか”

「フランス料理屋に?」

“うん。ここからもう少し歩くことになるけど”

 

 今から歩き出せば、予約の時間に十分間に合うだろう。仕事に忙殺される中で磨かれたスケジューリング能力が活かされた瞬間である。

 

「それで、その後はどうするんですか?」

“うーん、あんまりやりたい娯楽っていうのが思い浮かばなかったんだよね”

「えー……じゃあ映画観てご飯食べて終わりですか」

 

 キヴォトスに来てからというもの、ありとあらゆる経験をしている。それはたとえば美食であったり、遊園地でのレジャーだったり、ピクニックなんかもそうだ。ゲーセンなんてしょっちゅう行っている。

 だから、私は現状娯楽の面で言うと満たされ過ぎているのだ。その中で「映画」というものが私の数少ない「最近遠ざかっていた娯楽」だったわけで。

 

“まあまあ、でもどこかに行って楽しむっていうのがデートの全てじゃないでしょ”

 

 しかし、この場において私のやりたいことは他にある。

 

“その後はイロハと一緒に、ぶらぶらゆっくり街を歩きたいかな”

 

 それは、イロハとの時間を満喫することだ。

 今回のデートも、日々仕事に追われる私を見かねて連れ出そうとしたというのが真相だろう。だからこそ、私は眼前の少女を何とも愛おしく思っていた。

 

「…………そんなことでいいんですか。せっかくのお休みなのに」

“うん。だってそれが私のやりたいことだし”

 

 これは、間違いなく私の本音だった。

 しばし見つめ合っていると、イロハが根負けしたようにまた大きくため息を吐いた。

 

「……分かりました。分かりましたよ」

 

 そして、イロハが躍るようなステップで私の先を行く。

 

「じゃあこの後も、もっと私を楽しませてくださいね、先生」

 

 そう言って陽の光を浴びながら笑う彼女は、どの映画のヒロインよりも美しく見えた。

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