物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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130話 カミラ・アステル・ブラックの激情

 あたしは、バカ弟が憎いと思っていたこともある。あたしが欲しかったものを、全部持っていたから。だけど、今は違うわ。

 

 いえ、好きとかそういうのじゃないけれど。バカ弟は、あたしに従うべき。あたしだけを考えるべき。あたしに尽くすべき。それだけよ。

 

 もらった剣を大切にしているから大好きとか、何も分かっちゃいないわ。あたしにとっては、便利な道具。ただそれだけなのよ。

 

 そもそも、命を預ける道具を好き嫌いで選ぶほど愚かじゃないわ。雷閃(サンダーボルト)は、切れ味が良くて、魔法を補助してくれて、刃こぼれもしない。そんな剣を使わないなんてやつ、バカだけなのよ。

 

 というか、弟の一番は姉であるべきなんて、誰が言うまでもない当然のこと。それを分かっていないバカ弟には、困ったものよね。だからといって、見捨てたりはしないけれど、あたしは、優しい姉なのよ。少なくとも、レックスを弟って認めてはいるのだから。

 

 バカ弟の居場所は、あたしの傍だけでいい。でも、それを邪魔するやつも居るのよね。まったく、道理の分かっていないやつよね。

 

「エリナが居る限り、あたしの剣は、バカ弟に注目されない。ふざけた話もあるものね」

 

 バカ弟は、あたしだけを見ているべきなのに。それが、姉弟ってものなのに。せっかくあたしという先達がいても、エリナが居るから、あたしには頼らない。

 

 そんなの、許せる訳がないでしょう。バカ弟の人生は、あたしのものなのに。どこまでも、あたしと一緒にいるべきなのに。

 

 姉に従うことこそが、弟の幸せなのよ。それを理解しないなんて、おかしいわ。

 

「それに、あたしには居なかった師匠。腹立たしいにもほどがあるわ」

 

 あたしは求めても手に入れられなかったもの。それもあるけれど。何よりも許せないのは、あたしを見もしない女が、バカ弟に気に入られていること。

 

 もう、怒りで頭がどうにかなりそうだった。あたしよりエリナを優先するバカ弟も、あたしの権利を奪おうとするエリナも、ふざけている。

 

 そんな時だったわ。フィリスが、あたしとエリナが戦うことを提案してきたのは。

 

「良い機会よね。あたしとエリナの戦いは。誰が一番なのか、バカ弟に思い知らせてやるのよ」

 

 そして、姉弟があるべき姿に戻るのよ。あたしを尊敬して、あたしに従って、あたしを愛する。そんな弟に。

 

 バカ弟が素直になるのなら、あたしだって可愛がってあげるつもりよ。姉として、当然の義務なんだから。

 

「バカ弟は、あたしのことだけ考えているべきなんだから。それを、理解させてやらないとね」

 

 そう決意して、エリナとの戦いに挑んだ。だけど、思い通りにはならなかったわ。結局、あたしは手のひらの上で踊らされているだけ。

 

 速さでも威力でも、何もかもが勝っているはずなのに。それでも、あたしの剣は届かなかった。

 

「負けた……! あの忌々しい女に! バカ弟の前で!」

 

 どっちが剣士として格上か。バカ弟の答えは、決まっているわ。つまり、あたしよりもエリナを求めてしまうでしょう。少なくとも、剣の師としては。

 

「このままじゃ、エリナにバカ弟は……。奪われてたまるものか。バカ弟は、あたしのものなのよ」

 

 バカ弟のいない人生なんて、どれほど空虚なものか。想像するまでもないわ。あたしを見ないバカ弟を、遠くから眺めているだけ。そんな生き方は、絶対にごめんよ。

 

 あたしに可愛い顔を見せてくれて、貢ぎ物をしてくれて、嫌われたくないって思ってくれる。そんなバカ弟だけは、絶対に失いたくない。

 

 そうよ。なら、やるべきことはひとつだけ。考える必要もないことよ。

 

「負けたままじゃ、いられないわよね。あの女に、目にもの見せてやるのよ」

 

 単純な答えよね。あたしが弱いから、バカ弟を奪われそうになるのだから。あたしの方が上だって証明できれば、あたしが奪えるのよ。

 

 バカ弟の心も体も魔法も、すべてをあたしのものにする。その目標は、今だって同じなのよ。だったら、迷う必要なんてないわ。

 

「この屈辱は、絶対に忘れないわ……! 何があったとしても、よ」

 

 バカ弟の前で恥をかかせた罪は、絶対に償わせるのよ。まずは、それから。次に、バカ弟にエリナなんて必要ないと思い知らせてやるのよ。

 

 姉弟2人だけで、生きていけば良い。どんな敵も葬り去って、その先で。まあ、フェリシアやメアリなんかは、別に居ても良いけれど。セルフィだって、あれはあれで役に立つもの。

 

 ただ、あたしの立場を奪おうとするものは、必要ないわ。エリナにふさわしい立ち位置は、バカ弟の愛玩動物。それなら、許してやってもいいわ。

 

 ただ、今のあたしじゃ足りない。何の対策もしないままに挑んで、勝てる相手じゃない。そこを間違えるほど、あたしはバカじゃない。

 

「とにかく、強くならないと……。あの女に勝つためにも、バカ弟を奪われないためにも」

 

 どうやって強くなるのか。屈辱だけど、エリナを観察するのも、ひとつの手よね。後は、剣の振り方を見直さないと。素早さも剣の威力も、あたしが上回っている。なら、鍛えるべきは技術なんだから。

 

 とはいえ、ただの剣技を学ぶつもりはないわ。あたしの目指すべき道は、もっと違うものなのよ。

 

「まずは、エリナに勝つところからよ。誰を見るべきなのか、しっかり教えてやらないと」

 

 バカ弟に本当に必要なのは、あたし。それは、口で言うべきことじゃないわ。力をもってして、証明すべきことなのよ。

 

 あたしは、弱いままじゃ居られない。もう一度、バカ弟に助けられる訳にはいかないのよ。姉というのは、弟に守られるものじゃないわ。むしろ、守る側なのよ。

 

 だから、どんな手を使ってでも勝つ。魔法を使えない相手に、大人げない。そんな事を言う相手は、刻んであげるだけよ。とにかく、結果が全てなんだから。

 

「その後で、バカ弟の剣を、あたしで染め上げる。音無し(サイレントキル)なんて、忘れるくらいに」

 

 あたしに教わった技を使うバカ弟は、どれほど可愛いのでしょうね。想像しただけで、楽しくなるわ。その未来を本物にするためにも、立ち止まってはいられない。

 

 というか、エリナは本来、バカ弟の師になるべき存在じゃないのよ。それを、叩き込んであげないとね。

 

「魔法使いとしての剣は、あたしじゃなきゃ使えないわ。あの女とは、違うのよ」

 

 だから、バカ弟にふさわしいのは、あたし。ただ、勝たなきゃ空虚な戯言よ。弱い人間の言葉なんて、誰も聞かないんだから。

 

「そうね。もっと訓練を続けるだけ。あの女にも、バカ弟にも勝つ」

 

 エリナを倒すことなんて、ほんの少しの寄り道でしかないわ。あたしの目標は、レックスをギッタンギッタンにしてやること。泣かせて、その後で抱きしめてあげること。変わる訳にはいかないのよ。

 

「あたしの物語は、勝ってから始まるんだから。バカ弟を、あたしのものにしてからね」

 

 そうよ。あたしの人生は、まだスタートラインにすら立っていない。あたしとバカ弟がそろって、初めて生きるって言えるのだもの。

 

 待っていなさいよ、レックス。誰のものになるのが一番の幸せなのか、その身に刻みつけてあげるから。

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