物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

132 / 622
131話 エリナの法悦

 私は、レックスの師として、あいつがどこまで強くなるのかを見たい。それだけが、今の目標だ。

 

 かつては、自らが最強になることを目指したこともあった。力で成り上がれるスコルピオ帝国で、皇帝を目指したこともあった。

 

 だが、今は違う。自分の人生のすべてを捧げてでも、レックスを強くしたい。その先には、誰も見たことのない光景があるだろうから。

 

 とはいえ、まだ今は、レックスの剣技自体は、私ほどではない。まあ、音無し(サイレントキル)をまともに扱えている時点で、年齢を考えれば、おかしいくらいなのだが。

 

 私が同じ年の頃なんて、まともな剣技とは言えない棒振りをこなしていたからな。レックスの体ができあがれば、自然と私を超えるくらいの才能はあるだろう。

 

 ただ、その程度では物足りない。明らかに、空前絶後の才能なんだ。それの行き着く先が見たいという欲求なんて、剣士なら当たり前のものだろう。

 

 無論、それを自分で超えたいと思うのも、普通ではあるのだろうが。ただ、レックスには闇魔法がある。だから、剣技なんて、何の意味もないものにできてしまうんだ。

 

 いや、レックスの師として、つまらない諦観に支配されるべきではない。魔法使いとして、己の限界を超えた存在だって居るのだから。

 

 カミラやフェリシアは、私が知るどんな一属性の魔法使いよりも強い。むしろ、二属性の持ち主ですら、並ぶ相手は少ないだろう。

 

 そんな相手がレックスのそばに居るのに、私が立ち止まるなんて、論外だろう。闇魔法を相手にしてすら通じる剣技を目指す。それくらいで、ちょうど良い。

 

 私自身が研鑽を忘れてしまえば、レックスの師としてはふさわしくない。どこまでも成長を続ける弟子なのだから。ちょっと見ない間に、別の技を身に着けているなど珍しくもないのだし。

 

 そのためにも、殺し合いとはいかなくとも、戦いの経験は必要だ。それも、誰でも殺せるようなザコではなく、本気で苦戦するレベルの敵との。

 

 なら、ちょうど良い相手がいる。私にはない技術を持っていて、レックスの剣技の役にも立ちそうな相手が。

 

「カミラの剣技は、とても興味深いな。一度は、見てみる価値があるだろう」

 

 それも、遠くから見るのではなく、実際に体感する形で。カミラの剣の振り方自体には、見るべきところはない。ただ、私とは別の才能がある。それは、否定のできない事実だからな。

 

 自分より優れた人間の、優れた部分を理解できない。そんな傭兵は、すぐに死ぬだけだろうな。逃げるべき敵からは逃げる。どうしても逃げられない時は、相手の弱点を探る。そうしてきたからこそ、何よりも、運が良かったからこそ、私は生きているんだ。

 

 なにせ、フィリスと戦場で相対していれば、私は死んでいただろうからな。そんな戦場を引かなかっただけでも、運が良いと言えるだろう。

 

 とはいえ、依頼前に状況を探ることもしていたが。勝ち目の無い側の依頼は受けない。それは徹底していたからな。

 

 ただ、今のレックスには必要のない技術かもしれない。良くも悪くも、知り合いのために動く人間だろうからな。

 

 例えば私が窮地に陥ったとして、勝算など考えずに助けに来るのがレックスだろう。それは、誰でも分かることだ。

 

 そうなると、やはり戦闘技術を伝えるのが手っ取り早い。強くなれば、勝てる相手は増えるのだから。レックスの性格にも合っているはずだ。

 

 やはり、カミラの剣技を知る価値はあるだろうな。

 

「レックスが目指すべき、剣と魔法の融合を形にしているのだから」

 

 私には、魔法は使えないからな。獣人でありながら剣だけを頼りに身を立ててきたことは、誇りだった。だが、今では口惜しいな。ただ、嘆いてばかりはいられない。

 

 とにかく、レックスのさらなる成長のためには、魔法と剣技の組み合わせは重要だ。レックスほどの才能を持っていて、わざわざ魔法を制限することになど、何の意味もないのだから。

 

「だからといって、カミラを参考にされてはな。あくまで、レックスの師は私だ」

 

 そうだ。私が育てあげることに価値がある。レックスの成長だけを望むのならば、もっと多種多様な剣を覚えるべきなのだろうが。

 

 だが、そんな事は許せない。レックスの剣の土台には、私の存在がある。そうでなければ。

 

 ならば、魔法と剣技の融合であっても、私が指導するべきなんだ。そのためにするべきことは、単純だ。

 

「私が何かをつかみ取って、レックスに教える。それが理想だろう」

 

 カミラとの戦いの中で、魔法と剣を組み合わせる要点を抑える。できることならば、カミラには実現できていない領域まで。

 

 自分が使えない能力を分析するのは、難しいだろうな。だが、そんなことで立ち止まるのは、ありえない。レックスの師として、情けないところは見せられないのだから。

 

 ただ、取らぬ狸の皮算用と言って良い。私が何かをつかみ取れなければ、机上の空論でしかない。

 

「まずは、戦ってからだな。それから、考えていくべきことだろう」

 

 ということで、カミラと戦った。結果的には勝ったが、一歩間違えていれば、負けるどころか死んでいる可能性すらあった。

 

 まあ、それはいい。剣技に死の危険性はつきものだ。それを完全に排除しようとしては、強くなれない。というか、実戦で死ぬだろう。

 

 結論としては、カミラの技は、正確には剣技と魔法の融合ではないな。

 

「なるほどな。基本的なところは、抑えられたと言って良い」

 

 要は、魔法で身体能力を上げて、それを利用して力の差で押し切る。厳密には違うが、似たようなものだ。

 

「カミラの剣は、必ずしもレックスが目指すべきものじゃない」

 

 というか、もっと先があるだろう。良くも悪くも、カミラの魔法は幅が狭い。だからこその一点集中は、確かに見るべきものだった。

 

 ただ、レックスとは明確に才能の方向性が違う。それは明らかだ。

 

「レックスならば、もっと幅広い魔法が使えるのだから」

 

 単純に身体を強化するだけではなく、相手を妨害したり、仕込み武器のような役割を果たしたり、色々とできるだろう。そのためには、基礎となる剣技も重要だが。

 

「ただ、レックスの参考になる部分もある。魔法を剣の威力や速さに上乗せするのは、正しい方向性だ」

 

 まあ、無音の闇刃(サイレントブレイド)でも、部分的には実現できているが。あの技は、ただの剣では切れないものを切れる。それだけでも、魔法があってこその剣技だろう。

 

 ただ、そんなところでは収まらないはずだ。剣技の強化の方向性でも、搦め手の方向性でも。

 

 基本的には、単純なことでいい。小さな闇の刃(フェイタルブレイド)を発生させるとか、闇の衣(グラトニーウェア)を変化させたものを敵に使って、妨害に利用するとか。

 

 後は、闇の衣(グラトニーウェア)で身体強化の代わりができれば良いか。そこまで達成できれば、大きいはずだ。

 

「これならば、レックスはもっと強くなるだろう。今でも、私よりは強いのだろうが」

 

 闇魔法が、圧倒的すぎる。まあ、他の人間の闇魔法を知った限りでは、どうやっても勝てないのはレックスくらいだろうが。

 

 ミュスカが相手ならば、手段はある。そもそも、私は魔力を持たないからな。魔力を奪われることに、警戒しなくて良い。

 

 アイクが敵だとしても、的を絞らせなければ勝てるだろう。その程度には、弾は遅い。

 

 というか、闇魔法の性質は、本来は魔法使いを殺すことに特化したものだろう。レックスの才能が異常なだけだ。

 

 だからこそ、レックスに魔法を使われた時点で、勝ち目が消えてしまうのだが。

 

「いずれは、剣技でも私を超える。そうなる瞬間が、楽しみだな」

 

 そもそも、身体能力では私を超えそうなのだから。同じ技術を持っていれば、勝つのはレックスだ。その上、才能だけなら、私より遥かに上。期待しない方がおかしいだろう。

 

「私が抵抗しても、レックスが望めば、組み伏せられて終わりなのだろうな……」

 

 無理やり押し倒されて、屈服させられる。そんな未来も、容易に想像できる。

 

「ダメだな。許されないことだと分かっているのに、感情が抑えきれない……!」

 

 正直に言って、息を荒らげてしまいそうだ。頭に熱が登る感覚があるし、胸の鼓動も早くなる。

 

「ああ、レックス。どこまでも強くなってくれ。その上で、私を求めてくれ……!」

 

 そんな瞬間が訪れたら、今までの人生で得た喜びなど、ゴミのように感じるかもしれない。そんな予感があるんだ。

 

「レックスに付けられる傷なら、甘美なのだろうな……」

 

 噛みつかれるのも良い。引っかかれるのも良い。あるいは、押しつぶされるのも。考えただけで、興奮してきそうだ。

 

「責任を取ってくれよ、レックス。私に、おかしな感情を植え付けたことの」

 

 どんな未来があったとしても、お前から離れたりしない。遠ざけるなど、許せない。分かっているよな、レックス?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。