物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
私は光魔法が使える、特別な存在。そう言い聞かされて育ってきたわ。当時は、リーナちゃんをおとしめるだけの、つまらない言葉と思っていたけれど。
でも、光魔法が特別なのは、フィリス先生とレックス君の戦いで、理解できたわ。フィリス先生の魔法にも、レックス君の魔法にも、対抗手段があると思えたもの。
もちろん、魔力の差があるから、戦えば負けるとは思う。だけど、何もできないってことはないわ。少なくとも時間稼ぎはできる。そう、心が理解したの。
それは、光魔法の性質のおかげ。他者の魔力の影響を受けないおかげ。本当の意味で自分が特別だと理解できたのは、2人が居たからよ。
だからといって、うぬぼれるつもりもないわ。私にはみんなの力が必要だし、みんなと生きていたいって思いもあるもの。
私ひとりだけで生きていかなきゃいけないなら、特別なんていらないわ。心から、そう思うの。
ただ、自分が特別であるからこそ、手に入れられるものもある。それは、確かな事実よ。
「光魔法が使えるのは、私だけよね。少なくとも、レックス君の友達では」
レックス君と協力することで生まれた、新しい魔法。それが使えるのは、私だけ。もしかしたら、これから先も、多くの技を生み出せるかもしれないわ。
その時に、レックス君は私を必要としてくれる。王女としてではなく、光魔法使いとしてでもなく、ただの友達として私を見てくれる唯一の人が。
もちろん、彼だって何も意識していないってことはないでしょうけれど。ただ、私が何もかもを失ったとしても、きっとレックス君は友達で居てくれる。そう信じられるの。
リーナちゃんは、良くも悪くも私の力を意識している。ルースちゃんとハンナちゃんは、王女の私を意識している。もちろん、大切な友達だとは思っているわ。一緒に居たいし、同じ時間を過ごすのは楽しい。
だけど、レックス君は違う。私が、ただのミーアで居られる。そんな相手だと思えるの。だからこそ、自分の特別は嬉しいのよ。彼が、私を特別だと思ってくれるから。
矛盾しているって言う人も、居ると思う。でも、同じ立場になればきっと分かるわ。自分の弱いところを見せてもいい相手に、他の人と違うと思ってほしいって気持ちは。
「リーナちゃんには悪いけれど、今の立場に生まれて良かったって思っちゃうわ」
本当に、悪いことよね。リーナちゃんは、本人の立場にとても苦しんでいたもの。どうして光魔法を持っていなかったのかって。
そんな気持ちを知っていても、優越感を抑えきれないの。レックス君の特別になれるんだと思うと、笑っちゃいそうになるの。
「いけない子よね、私も。自分でも、分かるわ。でも、仕方ないと思うの」
だって、大切な人に特別だと思ってもらいたいという気持ちは、当たり前のものだから。レックス君は、私にとって最高の友達。ただのミーアを、心から求めてくれる人。それが分かるもの。
レックス君は、立場も実力も関係なく、誰かを認めている人だから。そうじゃなきゃ、ミルラさんやウェスちゃんは、きっと彼の傍には居なかった。
良くない考えよね。ミルラさんが魔法を使えないこと、ウェスちゃんが獣人であること。それは、何も問題のないことなんだから。
きっと、私の心のどこかにも、偏見がある。それは、いつかは向き合うべきことなのよ。
ミルラさんやウェスちゃんとは、仲良くしたい。それは間違いのない気持ちだけれど。
「もちろん、リーナちゃんだって大切な妹。それは本当だわ」
仮に魔法が使えないとしても、同じ気持ち。ずっと、隣で笑い合っていたい。そう思うの。ちょっとひねくれていて、皮肉屋で、素直になれない子だけれど。
それでも、努力家で、まっすぐで、確かな優しさを持っている子だから。そうじゃなきゃ、私と仲良くなんてできないもの。恨みのために、私を傷つけようとしていたはずだもの。
「だから、いろんなことで協力したいわ。他のみんなともね」
レックス君の姉妹とも、メイドさん達とも、ジュリアちゃん達とも、他の友達とも。みんなで一緒に協力することは、とっても素敵なんだから。
「みんなで仲良く幸せな未来を手に入れる。それは今でも変わらない目標よ」
少なくとも、生まれや育ちに関係なく。人間も、エルフも、獣人も。王族も、貴族も、平民も。手と手を繋いで、支え合う。それはきっと、とても幸せなことだもの。
「でも、本当にすべての人である必要はないわ。それは、分かるもの」
例えば、リーナちゃんをバカにしていた人。レックス君を傷つけようとした人。魔法を使えないだけで雑に扱う人。種族の違いを理由に、道具だと考える人。そんな人達とは、手を取り合う気なんてないもの。
「残念だけど、この世界には必要のない人も居る。それが現実だもの」
だからといって、必要ない人を殺せはしないのだけれど。どうやって見分けるのか。どうやって殺すのか。その手段は、確立できないもの。
仕方ないから、優先順位をつけることにするわ。幸せになってほしい人と、そうじゃない人。
全員が幸せな未来には、たどり着けない。だったら、嫌いな人に不幸を押し付けるのが、人って生き物でしょう? 私はこれまで、ずっと見てきたわ。醜い人間達を。
「だからこそ、いま友達でいてくれるみんなは、大切にしないとね」
誰かの幸せを願える人。手と手を取り合える人。まっすぐに頑張れる人。みんな素敵よ。ずっと一緒に居たいくらい。
「それに、新しい友達も増やしたいわ。きっと、レックス君だって喜んでくれるはずよ」
仲良くできる人が増えたら、幸せよね? それは、レックス君も同じ気持ちのはずよ。だから、頑張っちゃうわ。
「でも、ちょっと困る相手も居るかもね。私の役割を、奪っちゃう子」
私の代わりに、レックス君と協力する。そんな光景を思い描いて、気がついたら、手のひらから血が流れていたわ。
よっぽど、強く握りしめていたんだと思う。私の魔法で、すぐに治したけれど。でも、痛みはずっと残っているような気がしたわ。あるいは、心の方がもっと傷ついていたのかも。
その原因は、分かりきっているわ。私の特別を、奪われたくない。そんな気持ちが、心にトゲとして刺さった。単純な話なのよ。
「うん、光魔法使いは、私だけでいいのよ。私だけが、レックス君の光魔法であれば良い」
そうじゃなきゃ、困っちゃう。私の、一番の友達。その人が、遠くに行っちゃう。絶対に許せないことよね。
「もしレックス君の周りに光魔法使いが居たら、どうしちゃおうかしら?」
少なくとも、仲良くできないと思う。私はきっと、嫌いになっちゃうわ。どんなに、いい子だとしても。
「罪もないのに殺すなんて、いけないこと。でも、そうしたいと思っちゃうわ」
我慢すべき感情だと、分かっているわ。でも、心の奥に湧き出たドス黒い感情が、全身に回っていく感覚があるの。
ヘドロのようなものに、私の心が侵食されていく。そんな光景が見えた気がしたわ。
「ねえ、レックス君。お願いよ。私を罪人にしないでね?」
きっと、自分で自分が許せなくなるわ。それでも、立ち止まれない予感があるの。この予感を、本当にさせないで。
約束よ、レックス君。私を、ずっと特別だと思っていてね。そして同時に、ただのミーアを大好きで居てね。
破ったら、私はきっと。だから、ね?