物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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140話 シュテルの気付き

 私は、レックス様に拾ってもらった恩義を返すために、努力を続けてきたわ。ただ、何もかもが足りないと思い知らされるばかり。

 

 結局のところ、私はただの平民でしかないわ。レックス様に見出されたのは、才能ではないのだから。

 

 考えたくはないけれど、ジュリアの幼馴染だからというのが大きいと思う。それでも、レックス様のお側にいられるのなら、嬉しいのは事実よ。

 

 私は、レックス様を敬愛している。それは間違いのないことだから。愛してくれて、支えてくれて、大切にしてくれる。ただの平民であると自覚できているから、余計に嬉しいのよ。

 

 だって、他に変わりなんていくらでもいるわ。それなのに、私を選んでくれたという事実があるから。何も持っていない私を。

 

 きっかけがジュリアだったとしても、ただの個人として私を好きで居てくれる。レックス様は、私をジュリアの付属品なんて思ったりしないわ。

 

 だからこそ、ご恩に報いたいという気持ちがあったわ。私にできることならば、何でもするつもりだったのよ。

 

 それでも、現実の壁は立ちはだかってくる。私は何の才能もない平民だという事実が。

 

「私は、レックス様のお役に立ちたいのに……。どうしても、負担ばかりかけてしまう……」

 

 レックス様は、神とすら思えるほどに強く、世界最強と言われているフィリス先生ですら倒してしまうほどに。

 

 そんな相手に対してできることは、あまりにも少ない。私程度の力ならば、薬指程度の役に立つかすら怪しいわ。

 

 なんて、無様なのでしょうね。助けられるだけ助けられて、その恩を返せないなんて。

 

 分かっている。レックス様は、私が幸せであれば、報われたと思ってくれる方であるはずよ。これまで何度も、私のために力を尽くしてくれた。その事実が証明。

 

 だけど、物足りない。私だけが幸せで、レックス様が幸福でないのなら。そんなものに意味なんてないわ。

 

 その心だけでは届かないのだと知っていても。つい求めてしまう。手を伸ばしてしまう。それが余計に、さらなる恩を生むと知っていてすら。私は、愚かなのでしょうね。

 

「魔力をもらっただけでは飽き足らず、私のせいで出た問題まで解決させて……」

 

 そもそも、私は魔法の才能なんて持っていなかった。それを、無属性の魔法に目覚めたジュリアに嫉妬して、無理をして、見咎められて、魔法を頂いたという形だったわ。

 

 にもかかわらず、今回もお世話になってしまった。私の魔力は、レックス様にはうまく運用できないという問題を。全て彼が解決するという形で。恥ずべきことよ。

 

「確かに、レックス様は誰よりも素晴らしい。それは間違いないけれど……」

 

 だからといって、何でも任せるのは、人として間違っているわ。そんなの、考えるまでもなく明らかなことよ。

 

 レックス様に恩返しをして、それから私の人生は始まる。それが、あるべき姿なのよ。

 

 だから、助けられ続けるなんて、論外でしかない。分かっていても、実力はついてこないわ。

 

「私はレックス様のしもべとして、強くならなきゃいけないのに!」

 

 レックス様の敵を、彼の代わりに始末する。大事な使命なのに。私のなすべきことは、単純なことなのに。

 

 それでも、届かない。原因は、明らかなのだけれど。

 

「足りない。才能も、努力も、何もかもが」

 

 才能のせいにするなんて、愚かなこと。レックス様を知らない人なら、言えるのでしょうね。いえ、彼に悪いところなんて、何も無いのだけれど。

 

 ただ、本物の才能を知っていれば、おのずと自分の限界は分かるわ。だからといって、努力を止めるなんて、ありえないことよ。

 

 それでも、私がもっと才能に満ちていればという思いは捨てられない。それなら、もっとお役に立てたはずなのに。

 

「私の力では、レックス様の偉大さを理解できない人達を排除できない」

 

 レックス様を恐れる人間達なんて、皆殺しにしてやりたいくらいよ。でも、実力が足りない。すべてを殺し尽くすには、遠すぎるもの。

 

「分かっているわ。借り物の力でしかないから、限界があるんだって」

 

 私の魔法は、自分で身につけたものではない。レックス様に頂いたもの。それを言い訳にするなんて、バカげているとは思うわ。だけど、事実だと理解できる。

 

 根本的な問題として、努力しても身長は伸ばせない。それと同じことなのよ。だからこそ、単なる強さを求めていては、ダメ。

 

「それでも、できることは……」

 

 諦めるなんて、ありえないわ。強さでお役に立てないのなら、別の道を探すだけ。ただ、知識の面ではフィリス先生やミルラさんが居る。私生活を支えるのには、ウェスさんやアリアさんが。

 

 なら武術と考えても、エリナさんやカミラさんの足元にも及ばないわ。だったら、私には何があるのかしら?

 

「レックス様が私の体を求めてくださるのなら、話が早いんだけどね」

 

 女としての私が必要なら、どれだけだって尽くすだけよ。どんな行為を求められても、拒絶なんてしないわ。

 

 ただ、レックス様なら、いくらでも女を選べるのかもしれない。だから、私は求められないのかもしれない。それは、頭に置いておくべきことよ。

 

 だとすると、私に何ができるのかという話に、戻ってしまうのだけれど。

 

「やっぱり、ジュリアが羨ましい。特別な才能を持っているのは」

 

 明らかに、レックス様のお役に立てるもの。かつては、嫉妬に追い詰められたこともあったけれど。でも、私が感情のせいで迷ったら、困るのはレックス様だから。

 

 かつて、私の苦しみを見過ごせなくて、魔法を与えてくれた時のように。だからこそ、別の道を見つけないといけないわ。

 

「私には、足りないものが多すぎるわ。力も、知恵も、権力も、財産も」

 

 そう。レックス様のお役に立つためのすべてが。だからこそ、頭を使わないといけない。新しい何かを、見つけないといけない。

 

「この私のすべてをレックス様に捧げても、少なすぎるのよ」

 

 能力で真っ当に勝負したところで、誰にも勝てはしないわ。そのまま突き進んだところで、無駄よ。だから、一歩立ち止まるべきなのよ。

 

「何ができるの? レックス様のために。今までのままじゃ、ダメなのよ……」

 

 魔法では、フェリシア様に勝てない。ジュリアのように、別の方向性も持っていない。権力では、ミーア様やリーナ様には及ばない。財産も、同じ。

 

 そもそも、レックス様を上回る何かを、私は持っていないのかもしれない。そう感じたわ。

 

「レックス様のお力で、すべては解決してしまうのかもしれないわ。それでも」

 

 ただ助けられるだけじゃ、自分が許せないのよ。レックス様のために、成果を残したいのよ。

 

「この世の何より尊い方を、もっと幸福にするために。もっと輝かせるために」

 

 私がもらった分以上の幸福を、返すために。でも、私には何も無い。そこまで考えて、頭に何かが思い浮かんだ。

 

「私じゃ足りないのなら、他人を利用するしかないわ。なら、人の心を勉強すれば……」

 

 大勢を操って、レックス様のために使い捨てる。それは、とても素晴らしいことのように思えたわ。なら、人を動かすための技術を、覚えるべきよね。

 

 待っていてくださいね、レックス様。必ず、あなたの力になってみせますから。

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