物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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150話 迷いながらも

 国王から、俺自身の手で父を殺せとの依頼を受けた。正直に言って、思考がまとまらない。分かっている。大勢の生贄を捧げるような計画は、止めなくてはならないと。

 

 それでも、他の手段がないのかと考えてしまう。自分では、何も思いつかないのに。俺は、愚かなのだろうな。だが、それでも、父を殺さずに済むのならと思ってしまうんだ。

 

 俺の困惑は、国王には理解されているのだろう。だから、気持ちは想像できるとも言われた。だが、覚悟が決まりきらないんだ。

 

 そんな俺を見て、国王は穏やかな表情で言葉をかけてくる。

 

「レックスよ。今すぐに答えを出せと言っても、難しいだろう。だから、しばらくは待つ」

「大丈夫なのですか? 闇の宝珠(ダークネスクレスト)を使われてしまえば……」

 

 俺が悩んでいる間に状況が進んでしまえば、終わりだ。誰も得しない結末を迎えることになるだろう。

 

 そもそも、何を悩んでいるのだろう。この世界にやってきた時、俺は生き延びるためにブラック家に抗うと決めたじゃないか。その方向に進んでいるんだから、別に良いじゃないか。

 

 自分に言い訳することすら、できないか。もっと早く同じ状況になっていれば、悩まなくて済んだのに。兄が事件を起こしたタイミングなら、まだ良かったのに。

 

 出すべき答えなど、単純なものなのだろう。父に味方して、生き延びるビジョンなど見えないのだから。そもそも、どちらを選んだ方が多くが救われるか。知り合いだけでも、分かりきっているのに。

 

 ただ踏ん切りがつかないだけだと、自分でも理解できている。情けない限りだな。それでも、心の整理をつける時間があるのなら、ありがたいとは思うのだが。

 

「いや、闇の宝珠(ダークネスクレスト)に捧げるだけの生贄を集めるのなら、必ず兆候がある。まだ、準備が整うまでには、時間があるだろうな」

「分かりました。では、しばらく時間をいただきます」

 

 結局のところ、進むべき道はひとつだ。今ここで答えを出すほうが、正しいのだろうな。でも、どうしても言葉が出てこない。父を殺すと、宣言できない。くそっ!

 

「そうだな。今は、ミーア達と話していくと良い。少なくとも、月単位での猶予はあると見ている。本当に、急がなくていいぞ」

「では、失礼します」

 

 ということで、国王の私室から退出し、ミーア達の元へと案内される。ふたりは、俺の顔を見てすぐに駆け寄ってきた。

 

 よほど、ひどい顔をしているのだろうな。演技をするべきだと分かっているのだが、心がついてこない。俺は、ここまで弱かったのだろうか。今までは、もう少しうまくやれていたじゃないか。

 

「レックス君、話は、聞いたわよね。私はね、あなたがどんな道を選んだとしても、友達のつもりよ」

「姉さんも、たまには真面目な話ができるんですね。でも、同感です。私は、レックスさんについていくだけ。それだけなんです」

「私には、王女の立場もあるから。どこでも一緒ではないけれど。でも、あなたの答えは、尊重するわ」

 

 それは、俺が父を味方すると決めたとしても、だろうか。そう聞きたくなってしまう自分がいる。分かっているんだ。ミーア達の方を選ぶべきだってことは。

 

「ミーア……リーナ……」

「元気になって、とは今は言えないけれど。レックス君が笑顔になれる道を、探しましょう?」

「いつもみたいに、憎まれ口を叩けない。それだけで、レックスさんの気持ちは、分かるつもりです」

 

 そうだな。いつもの俺にならないと、心配をかけてしまう。優しい相手なのだから、負担はかけたくない。

 

 今、ミーア達はどんな顔をしている? そこに気を配れないのは、良くない。俺が追い詰められているのは事実だが、だからといって配慮を忘れては。

 

 まあ、俺が言うなという話ではあるが。普段の口の悪さに、気づかいなどあるものかよ。少なくとも、他人から見たら単なる暴言だろうに。

 

「まったく、俺が弱っているとでも? つまらない邪推だな」

「良いのよ。泣いても。叫んでも。私が、全部受け止めてあげるから」

「レックスさんみたいな人が、親を敵に回して苦しくないはずがないんです」

「そうよ。だからこそ、私はレックス君を許すわ。どんな道を選んだとしてもね」

「私にとっては、レックスさんは恩人なんですから。その恩を、返すだけです」

 

 ミーアもリーナも、明らかに俺を心配している。少し、悲しそうに見えるし。俺が父を殺せば、2人は得するだろうに。それでも、俺の心に気を使ってくれるのだ。ありがたい話だ。やはり、最高の友達だよな。

 

「そうか。物好きな奴らだ。好きにすればいいが」

「これから先も、私達は友達よ。それだけは、ずっと変わらないわ。だから、安心してね」

「まあ、人が人の代わりになるとは思いませんが。ですが、私はずっと味方です。それだけは、確かなことなんです」

 

 確かに、誰かは誰かの代わりにはなれない。仮にリーナが死んだとして、他の誰かが傍に居たって、悲しさは消えないだろう。

 

 俺にとっては、父にも代わりは居ないのだろうな。大勢を生贄にしようという悪人なのにな。くだらない悩みだ。

 

 それでも、心に整理をつけられない。父は、親として俺を愛してくれている。それが分かってしまう俺が、憎いくらいだ。無知でさえいれば、迷わずに済んだのにな。

 

 間違いなく、正しさはミーア達の方にあるのだから。国王の命令は、間違いではないのだから。

 

「リーナちゃんと一緒にいられるのも、レックス君のおかげだもの。とっても、感謝しているわ」

「どうせなら、私の方を選んでほしかったですけどね……なんて、冗談です。思い描いていた未来より、今の方が好きですよ」

 

 ミーアよりリーナを選ぶのか。それは、嫌だな。できれば、親しい人に優劣をつけたくない。その感情こそが、今の悩みを生んでいるのだと分かっていても。

 

 ああ、単純なことなのだな。できれば、全員が無事で居る未来が良い。だが、それは不可能だというだけだ。

 

 もう、誰かを犠牲にするしかない段階なんだ。なら、せめて犠牲が少ない方か、より好きな人が居る方を選ぶべきだろう。

 

 何も選ばなければ、すべてを失うのだろうから。それくらいなら、まだマシな道を進むしかない。簡単な話なのだがな。

 

 ただ、今の状況に至るすべてが、間違いだったわけではない。仮に父を犠牲にするのだとしても、これまでの道のりでは助けられた人も居るんだ。それは、俺にとっては救いなのかもな。なんて、本当に救われたのは、誰なのだろうか。

 

「そうか。なら、俺の行動にも、意味があったのだな」

「無いわけがないわ! レックス君は、自分を軽く見過ぎなのよ。私の、最高の友達。その人を、雑に扱わないでほしいわ」

「そうですね。レックスさんとなら、どんな道でも歩んでいける。そう思うんですよ」

「だから、いつまでも友達でいましょうね。ね、約束よ?」

 

 笑顔を向けてくれるふたりは、失いたくない。それだけは、確かな気持ちだった。

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