物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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151話 ルース・ベストラ・ホワイトの哀願

 レックスさんは、今ごろ父を殺すかどうかの選択を迫られているのでしょう。あたくしは、彼が決断した時のための備えを、ミーア様に頼まれていた。

 

 必要な道具の準備、金銭の用意といった、裏側からレックスさんをサポートするための動きを。ですが、まったく気が進まなかったわ。

 

「ミーア様、恨みますわよ。あたくしは、反対でしたのに」

 

 どう考えても、レックスさんは傷つくでしょう。それに対する心配も、少しはあった。けれど、あたくしが最も気にしていたのは、別のこと。

 

 レックスさんに、あたくしの本心を知られてしまえば、きっと嫌われてしまう。だって、彼に父を殺させるための準備を進めているのだから。そんな中で、どうして仕事に熱が入るというのだろう。

 

 彼は、ただひとり、あたくしの実力に期待してくれている人なのに。それを失ったら、すがるものなど何もない。

 

「レックスさんがお父上を選んでしまえば、あたくしは……」

 

 そう。あたくしは、生きる理由の多くを失ってしまうと言って良い。結局のところ、家族はあたくしの味方ではない。四属性の魔法使いとして生まれた時点で、あたくしには期待していなかった。

 

 今では、ホワイト家の誰よりも強いあたくしであっても、何も求められていない。失望だけを向けてくるのが、家の者たち。そんな人達なんて、あたくしにとっても必要のないもの。

 

 だからこそ、レックスさんにだけは、あたくしの味方で居てほしい。そう思うことは、当たり前のことでしょう。

 

 そんな状況で、彼があたくしの敵になるかもしれない選択を迫る。それが、どれほどつらいことか。ミーア様には、分からないのでしょうか。

 

 彼女だって、レックスさんのことは信頼しているはずです。だけど、どうして追い詰めるようなマネを。

 

「レックスさんがどちらを選択するかなんて、ただの博打でしょうに。気の迷いは、誰にでもありましてよ」

 

 そう。うっかり情にほだされる可能性は、誰にだって否定できないはず。だからこそ、怖い。訪れるかもしれない未来が。待っているかもしれない先が。

 

 もちろん、どちらの方が可能性が高いかなんて、あたくしも分かっているわ。だからといって、0でも100でもない。ほんのわずかな可能性が、あたくしを怯えさせるのです。

 

「レックスさんなら、あたくし達を選ぶべきだと、理性では理解してくださるでしょう」

 

 どちらが正しいか。いえ。どちらの味方をすることが、彼にとって良い未来になるか。分かるはずです。ブラック家には、敵が多いのですから。あまつさえ、王家すら敵に回しかねないのですから。

 

 その判断ができないほど、レックスさんは愚かではないでしょう。同時に、あたくし達をどうでもいいと考えている訳でもないでしょう。

 

「それでも、衝動的に相手側を選ばれてしまえば……」

 

 そう。あり得る未来だ。死にそうな父を目の前にして、つい剣を下ろしてしまう。そんな展開は、容易に想像できる。

 

 レックスさんは、口調の割には情の深い人だ。敵意を見せていたと言って良いあたくしも、見捨てられないくらい。そんな人が、血のつながった相手の最後の瞬間に迷うのは、当然のこと。

 

 嫌で嫌で仕方ない。レックスさんが敵になってしまうのは。それでも、いや、だからこそ、具体的な映像が、脳に浮かび上がってしまう。

 

 父を殺せなかったレックスさんが、その流れであたくし達に敵対する。そんな想像をしてしまう。頭を振ってイメージを消そうとしても、余計に強まってしまう。だから、怖いのよ。

 

「あたくしは、レックスさんだけは失いたくない。期待してくれる、ただひとりの人だけは」

 

 あたくしは、ただ強くなろうとしていただけの、弱い女。そうだと理解できてしまう。

 

「お願いよ、レックスさん。あたくしから、離れないで……」

 

 誰も聞いていないのに、つい懇願(こんがん)してしまう。いつから、こんなに弱くなってしまったのだろう。いや、最初からよね。あたくしは、ずっと理解者を求めていたのだから。

 

「あたくしが今でも努力を続けられるのは、あなたが居るからなのよ……」

 

 そう。あたくしに期待してくれて、暖かく見守ってくれて、味方で居てくれる。そんな人が居たから。

 

 レックスさんの前でだけは、格好の良い女で居たい。そんな感情だけが、あたくしを突き動かしていたのに。

 

 本当のあたくしは、ひとりでなんて立っていられないのよ。レックスさんには、言えないけれど。失望されたくないもの。

 

「ねえ、ミーア様。レックスさんを追い詰める価値なんて、本当にあるのかしら?」

 

 彼だって、親殺しなんてしたくないでしょうに。あたくしとは、違うわ。相手を嫌っていたとしても、殺すことで心を痛める人だもの。

 

「ですが、もう賽は振られてしまった。後は、答えを待つしか……」

 

 そう。待つしかできない。少しは言葉を交わすこともできるのでしょう。ただ、決断に影響するとは思えないもの。

 

 結局のところ、レックスさんは迷ってしまう。ためらってしまう。どんなに、あたくし達を大切にしていたとしても。

 

「あたくし達で、代わりに戦えば良かったじゃない。少しくらい恨まれたとしても、納得してくれたはずだわ」

 

 ハンナさんや王家の力を使ったならば、レックスさんの父を殺すことだってできたでしょう。その未来なら、きっと理性で受け止めてくれたはずなのに。

 

 レックスさんは、人々を犠牲にすることを罪だと思っているわ。それは、間違いのない事実。だって、彼の敵を殺す手段なんて、いくらでも持っている人なのだから。それでも、周囲の彼を嫌う相手を、排除しない人なのだから。

 

 だからこそ、彼の父が死んだとしても、事情を説明すれば、それで良かったはずなのに。

 

「どうして、わざわざ彼の手で父を殺させるなんて……」

 

 そんなの、試し行動としても悪質だ。あたくしのために親を殺せるかなんて、絶対に言えない。いくら、親より自分を優先してほしいとしても。

 

 もし親の方を選ばれてしまえば、すべてが終わるのに。ミーア様は、嫌われることが怖くないのだろうか。

 

 レックスさんが、私達を敵にしてでも、父を選んだなら。想像しただけで、心の奥底まで凍えそうなのに。

 

「嫌よ。レックスさんと敵対することだけは。他の道なら、構わないわ」

 

 彼と同じ道なら、きっと幸せなのだろうと思えるわ。実際、アストラ学園に入学してから今までは、人生の中で最大の幸福を味わっていたから。

 

「あたくしの人生に、レックスさんは必要不可欠なのよ」

 

 だから、できることならば、どこまでもレックスさんに着いていきたい。それは本音ではあるけれど。

 

「でも、レックスさんが父を選べば、あたくしは味方できないわ。そんなことをしたら、ホワイト家に殺されるもの」

 

 そう。あたくしに力があったとしても、足りない。数で攻められても、からめ手を用いられても、あたくしだけでは対処できないのだから。

 

 あたくしは、レックスさんと一緒に生きたい。一緒に死にたいなんて、思えない。共に過ごす幸福な時間をこそ、求めているのよ。

 

「だから、お願いよ。レックスさん、あたくし達を選んで……」

 

 そうじゃなかったら、あたくしは暗闇に閉ざされてしまう。それだけは、確信できていた。

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