物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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168話 協力してくれる相手

 メアリと別れて、俺は父の部屋まで進んでいく。今でも、心のどこかに迷いはあるのだという気はする。ただ、みんな応援してくれているんだ。父を殺されるメアリですら。

 

 だから、何としてもやり遂げなくては。みんなの想いを背負うことこそ、俺の生き方だと思うから。そうだよな。

 

 俺はこれまで、みんなに支えられて生きてきた。だから、その分をみんなに返すまで、絶対に立ち止まったりしない。

 

 もちろん、あくまで理想であって、必ず実現できるとは言えない。ただ、高い壁だからといって、諦められないんだ。

 

 もはや立ち止まれないのだから、せめて理由がほしいという感情もあるのだろう。ただ、俺がみんなを大切にしている気持ちは本物だ。それだけは、何があったとしてもウソにしたくない。

 

 一歩一歩進む中で、ゆっくりと心の整理をしていく。そんな中で、通路に立つジャンを見つけた。もしかして、異変に気づかれたのだろうか。俺が父を殺そうとしていると。だから、邪魔をするために立ちはだかったのだろうか。

 

 できることならば、ジャンを敵に回したくはない。能力が優秀ということも、もちろんある。ただ、大切な弟だと思っているんだ。尊敬してくれて嬉しいと感じているんだ。だから。そんな祈りとともに、ジャンの顔を見る。

 

「ジャン、どうしてここに……」

「何も言わないでください、兄さん。僕は、兄さんの味方です」

 

 穏やかな顔で、そう告げられる。今の言葉から察するに、俺の目的は理解しているのだろう。あるいは、ハッタリや当てずっぽうという可能性もあるが。

 

 どちらにせよ、俺の味方だと表明してくれる言葉は、本当だと思う。これまでずっと、支えてくれた相手なんだから。疑いたくないだけかもしれないが。

 

「それはありがたいが、良いのか?」

「もちろんです。僕は兄さんを尊敬しているんですから」

「良かったね、レックス様。味方が増えたみたいで」

「そちらの方は、学校もどきの人でしたね。兄さんの協力者ですか?」

 

 ジャンには学校もどきの運営を任せている。だから、ジュリアのことも知っているのだろう。そうなると、どうするのが正解かな。

 

 とはいえ、隠し事をできる段階ではない。どうせ、俺が父を殺すことは、すぐに明らかになるのだから。ここでごまかしても、信頼を失うだけだろうな。

 

 仮にジャンが敵だとしても、信じる動きをした方が、効率がいい。なら、疑うのはやめよう。もしかしたら、父の側の人間かもしれないなんて、考えなくて良い。

 

「ああ、そんなところだ。それなりには、強いやつだ」

「レックス様と比べたら、それなりなのは仕方ないかな……」

「仲が良さそうで、何よりです。それで兄さん、僕も手伝いましょうか?」

 

 メアリにも、手伝おうかと言われたな。だが、俺としては反対だ。俺が背負うべき罪を、他の人に押し付けたくはないのだから。それなら、言うべきことは決まっているよな。

 

「やめておけ。仮にも肉親だろう。やらなくて済むなら、そちらの方が良い」

「でも、レックス様は……」

「ジュリアが気にすることじゃない。いずれは必要になることだったんだ」

「そうですね。兄さんの方針と、ブラック家の方針は対立していますから」

 

 ジャンから見ても、そうなのか。なら、俺の考えは正しかったのだな。いずれ父と敵対する未来が、早まっただけだというのは。なら、今のうちに終わらせておくべきだよな。

 

「だったら、後回しにしても良かったんじゃないの?」

「それは違う。都合の悪いことほど、先延ばしにするべきではないんだ」

「兄さんの言う通りですよ。後回しにすれば、状況が悪化することが多いですから」

「でも、良いの? レックス様は、本当は……」

 

 俺が父を殺したくないと考えていることは、ジュリアには気づかれているのだろう。だが、そんな事は関係ない。

 

 ここで逃げ出してしまえば、ジュリアにも責任が及ぶのは明らかだ。俺の監視の役割を、果たせていないのだから。そんな未来を避けるためにも、もう立ち止まれないんだ。なら、少しでも他の人の負担が少ない道を選ぶ。そうすべきだろう。

 

「余計なことを言うんじゃない。俺がやるべきことは、変わりはしないのだから」

「では、兄さん。ひとつだけ情報を。闇の宝珠(ダークネスクレスト)は、まだ起動していません」

「なるほどな。だったら、生贄を捧げられてはいないか」

「そうですね。ただ、あれの起動に必要なのは、正確には魔力なんです。人間から魔力を抜き出すことで、結果的に死ぬだけで」

「なら、気をつけるべきことがあるだろうな」

「というか、どうして死ぬことが分かるの? それって……」

 

 まあ、すでに犠牲者が居るのだろうな。やはり、客観的に見れば父は死ぬべき存在なんだ。それは、俺以外の人から見ても同じなのだろう。

 

 俺の情で、これ以上犠牲者を増やす訳にはいかない。なら、今回で父を殺す。それが正しい道だ。

 

「少なくとも、学校もどきの人間に手出しはさせていません。兄さんの味方になれる人にも」

 

 ジャンの言葉は、多少は気持ちを慰めてくれる。もし学校もどきの生徒が犠牲になっていたのなら、俺の責任だったのだから。学校もどきという計画を実行した俺の。

 

 だから、少しはマシだと思う。犠牲になった人には、申し訳ないと思うが。

 

「ちっ、やはり、ブラック家の当主ということか」

「でも、レックス様は違うよね? だったら、良いんじゃないかな」

「それで兄さん、話を戻します。魔力が必要ということは、つまり兄さんが魔力を注ぎ込んでしまえば……」

「闇の宝珠(ダークネスクレスト)が起動するということだな。分かった、気をつける」

 

 つまり、父の動きをよく観察する必要があるだろう。最悪の場合は、闇の宝珠(ダークネスクレスト)の力で、父が強化される可能性もあるのだから。

 

 まあ、魔力操作をしっかりすれば、大丈夫だろう。やはり、いざという時に平常心を保つことが、最大の課題だろうな。

 

「はい。兄さんにとっては、都合が良いかもしれませんが」

「違うな。俺は、他者から与えられた力を喜ぶ人間ではない」

「やはり、兄さんは素晴らしいです。その姿勢で、圧倒的な力を持っているのですから」

 

 ジャンのことだから、効率が悪いと言うかと思っていたが。だから、今の言葉は助かる。

 

「レックス様なら、普通に努力しているだけでも、強いもんね」

「そういうことだ。ジャン、通してくれ」

「武運を祈っていますよ、兄さん」

 

 ここから進んでいけば、もう父は目の前だ。さあ、心をまっすぐに。ただ、突き進むだけだ。

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