物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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186話 未来のための今

 ブラック家を取り巻く問題について、俺にできることは少ないと言っていいだろう。当主に任命されたのに何をと思うかもしれないが。とにかく、俺には知識も経験も足りない。

 

 ということで、ミルラやアリアにも協力を取り付けた。その場にいたウェスにも。3人とも、二つ返事で受けてくれた。ありがたいことだ。

 

 ただ、ウェスには無理をしてほしくないという考えもある。無論、他の二人が無理をして良いわけではないが。

 

 正確には、ブラック家に対する恨みや嫌悪感のようなものを押し殺してまで、俺の協力をしてほしくないといったところか。ウェスは、明らかにブラック家の活動の被害者だからな。

 

 とはいえ、本人がやる気を出してくれているのに止めるのは、問題だろう。俺がするべきは気づかいであって、余計なお世話ではない。だから、手を借りるつもりだ。

 

 そもそも、俺ひとりでは限界がある。猫の手も借りたい状況だというのが実情だ。だから、本音では心強いと思っている部分もあるんだよな。

 

 自分の考えだというのに、矛盾ばかりではある。それでも飲み込んで、前に進むしかないのだろうが。

 

 そんなこんなで、ブラック家に向かう準備はできたと言っていい。正確には、これ以上時間をかけても効率が悪いというラインではあるが。当然、完璧ではない。だが、仕方のないことだ。完璧を求めれば破綻するのは、珍しくもなんともないことなのだから。

 

「さて、行くんでしょ? バカ弟、準備はいいわよね?」

「姉さんを含めて、みんなには俺の魔力を受け入れて貰う必要がある。そうしないと、転移できないからな」

「はいはい、好きにしなさい。どうせあんたに、変なことをする度胸なんてないでしょ」

「撫で撫でしてくれるのなら、構わない」

「レックス様が望まれるのなら、私はなんでもします」

 

 当たり前のように受け入れてくれると、心が暖かくなるな。大切な人の信頼を感じるのは、いつだって最高だ。だから、これから先も続くように、まずは目の前の問題を解決しないと。

 

 とにかく、ブラック家をできるだけ良い方向に向かわせる。それが、俺と周囲の関係にとって重要になるはずなのだから。みんなの仲間で居て恥じない俺であるために、まだ立ち止まったりできない。

 

 これから先も、数多くの課題が待ち受けているだろう。そのすべてを乗り越えて、みんなと平和な日常を過ごす。そのために、今できることを、全力で。

 

「僕はもう受けているから、他の人だね」

「わたしも、ですねっ。ご主人さまの魔力、あったかいんです」

「私もでございますね。レックス様の魔力に、守っていただいております」

 

 ウェスには黒曜(ブラックバレット)を使えるようにするために、ミルラにはアクセサリーの機能を発揮させるために魔力を侵食させていたんだよな。

 

 どう考えても、闇の魔力は圧倒的な力を持っている。俺が変な気を起こせば、みんなを意のままにすることだってできるだろう。だからこそ、俺は誰よりも理性的でなくてはならない。みんなを傷つけないために。

 

「では、私も魔力を受け入れましょう。メイドとして、当然のことですから」

「じゃあ、始めるぞ。ちょっと、変な感覚があるかもな」

 

 ということで、魔力を送っていく。もう慣れたもので、すぐに終わらせることができた。カミラとサラ、アリアは、これで転移ができるようになったわけだ。その気になれば、どこに居るかも探ることができる。もっと言えば、どこに居ても傷つけることすらできる。

 

 だからこそ、絶対にみんなを裏切ることはできない。今みんなが俺の魔力を受け入れてくれているのは、信じてくれているからなのだから。俺はみんなを傷つけないと。

 

「ふーん。まあ、悪くないんじゃない?」

「これなら、撫でられなくても満足」

「さて、行くぞ。転移する先は、俺の部屋だ」

 

 魔力を送ったそばから、転移していく。その先には、またメアリが居た。もう、俺の部屋が定位置なのかもしれない。それはそれで、嬉しいような恥ずかしいような。俺を大事に思ってくれている証なのは、間違いないだろうからな。

 

「お兄様、帰ってきたの? お姉様と、メイドさんと、学校の人?」

 

 そういえば、みんな知り合いだったな。カミラは言わずもがな、アリアとウェスはメイドとして、ジュリアとシュテルとサラは学校もどきの生徒として、ミルラも同様だろう。

 

 自己紹介に時間をかけなくて良いのは、ありがたい。説明の手間が省けるからな。

 

「ああ、そうだ。今回は、しばらく滞在するよ。できれば、仲良くしてくれ」

「分かったの! メアリ、良い子にしてるね!」

「とりあえず、ジャンに顔を合わせておくか。母さんの様子次第では、紹介もしたいところだ」

「でも、レックス様のお母さんは……」

「何? 変なことでもあったの? ま、どうでもいいんだけどね」

 

 そういえば、カミラには説明できていなかったな。罪悪感もあるが、カミラはきっと本気でどうでもいいのだろう。それなのに、全部説明するのも違う気がする。というか、母が俺を男としてみているとか、どういう風に言葉にすれば良いんだよ。困るぞ。

 

「ちょっと、口では説明しづらいかな……」

「お母様、お兄様の絵ばっかり見てるの。ちょっと、怖いかも」

 

 つまり、症状は改善されていないと。メアリが怖いというあたり、相当だな。気が沈みそうになるが、今はダメだ。それよりも、ブラック家の運営を優先しないと。

 

「それは、大変でしょうね。レックス様、私の力は必要ですか?」

「アリア、心配しなくて良い。問題ないとは言えないが、あれは母さん自身がどうにかする必要があるだろうな」

「レックス様、私であれば、どんな愚痴でも言ってくださいね。聞くだけなら、できますから」

「助かるよ、シュテル。だが、大丈夫だ。今のところは、抱え込みすぎてはいない」

「それよりも、というと語弊がありますが。今はブラック家の運営を気にする必要がございますから」

 

 ミルラも同じ考えなのか。なら、俺の方針は間違っていないはずだ。母の問題も、いずれは解決すべきことではある。とはいえ、優先順位を間違えてはいけない。

 

 母につきっきりになって、結果としてブラック家の運営をおろそかにする。そんな事をすれば、母が苦しむ未来になるだけなのだから。それを分かっているのだから、母を優先するのは甘えでしかない。

 

「確かにな、ミルラ。家の問題が解決しないことには、他のことを対処しても、後で潰れかねないからな」

「レックス様、大変。これは、撫で撫では難しいかも」

「サラ、できるだけ時間を作るつもりだよ」

「それなら、メアリも! お兄様の手、暖かくて好き!」

「ああ、もちろんだ。とはいえ、忙しくなるだろうな。まずは、父が何をしていたか、確認しないとな」

「では、ジャン様のところへ向かいましょう。現状では、彼が最も詳しいはずでございます」

 

 ジャンには、本当に何度も助けられているな。その恩に報いたいところだが、今はさらに手を借りることになるだろう。悔しくはあるが、仕方のないことだ。

 

 ブラック家が良い方向に進めば、ジャンにとっても利益があるだろう。今のところは、それで納得するしかないな。その先では、必ず恩返しをするつもりではあるが。だが、まだ先の話だ。

 

 さあ、目の前の課題を一つ一つ解決していかないとな。

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