物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
王家からの使いに対して、ある程度の対応を決めた。とはいえ、今後も考え続けるべきことだろう。状況に応じて、扱いは変化させるべきだろうな。
少なくとも、ジェルドやマリクが居なければ困る状況からは、できるだけ早く脱したい。理想としては、個人の負担が少なくなる環境ではある。今は、ジャンとミルラの負担が大きいからな。
ただ、理想だからこそ、実現は難しい。結局のところは、今まで通りの活動を続ける道しかないだろうな。焦って変えようとすれば、問題が噴出するのは目に見えている。
今のところ実行できそうな改善の手段は、人集めしかない。それだって、集めれば解決する問題ではないからな。仮に優秀な人材が集まったとしても、ブラック家の仕事に慣れてもらうまでには時間がかかる。それまでの間は、ミルラやジャンの負担が増えてしまうだろう。
やはり、直接的な力以外の部分では、俺は未熟だと言わざるを得ない。どこまでジャン達の邪魔をすることを覚悟して経験を積むべきだろうか。
勉強だって大切ではあるのだが、学ぶ相手も資料も見当たらないからな。まさか、ジャン達にさらなる負担をかけるなど、論外なのだし。
ということで悩みは尽きない。そんな状況の中、新しい問題がやってきたようだ。
ジャンとミルラが俺の部屋に向かってきて、難しい顔をしている。これは、何が起こったのだろうか。
「兄さん、ちょっと面倒な事態になっていまして……。来てもらえますか?」
「レックス様にも関わりのある事態だと、判断いたしました」
ふたりに案内されるがままに着いていくと、親子らしい男二人が居た。親は父と同年代、子供は俺と同年代に見える。
親の方は傲慢そうな印象で、子の方は甘やかされた子供に見える。さて、誰だろうな。
「この家は、私が来てやったのに迎えも出さないのか。ふざけた奴らだ」
「親父、本当にこんな家に価値はあるのか?」
ふたりの言い分からして、何か立場のある人物なのだろうか。少なくとも、原作で出てきたことはないはずだ。ミルラとジャンが俺に関係あるというあたり、貴族である可能性は高いのだろうが。
「ブラック家という名前だけで、十分だ。さあ、ブラック家の真の当主、シモン・リンカ・チャコールがやってきたぞ!」
名前を聞いても、何も分からない。真の当主というあたり、ブラック家の親戚筋である可能性が高いのだが。
というか、名字が違うな。別の家として、貴族と認められているのだろうか? とりあえず、会話から入ってみるか。
「王家の命については、聞いていないのか? 俺が国王に認められた当主なのだが」
「この私を認めない命など、知ったことか! お前のような小僧に、何ができる?」
これはまた、典型的な小物が来たな。とはいえ、油断は禁物。愚かなフリをして、俺の油断を誘っている可能性は否定できないのだから。
それに、あまりにも愚かだと、感情でバカな行動をされかねないのが怖い。駆け引きが通じない相手は、とにかく厄介だからな。想像もできないようなことをされると、対処できないかもしれない。
まあ、まずは情報を手に入れるところからだ。
「それで? お前は、当主になって何をするつもりなんだ?」
「栄達の道を走るに決まっているだろう! そんなことも分からないのか? 愚かなやつだ!」
なるほど。具体的なビジョンは何も無いと。俺も、気をつけなければならないところだな。
シモンは当主になるという目的が先行していて、その後を何も考えていない。だから、とてもではないがブラック家を任せることなどできない。
そもそも、俺が今の役割を放棄すれば、俺に味方してくれる人達を裏切ることになるんだ。だから、シモンに当主の座を渡すという選択肢はない。だが、安心できたよ。俺は心配しなくていいからな。シモンに任せた方が良い未来が訪れるんじゃないかと。
「親父、所詮は王家に媚を売っているだけの人間だろ? 力づくで十分なんじゃないのか?」
「よく言った、ストリガ! この私の力を見せてやろう!」
そう言ってシモンとその息子、ストリガはこちらに魔法を放とうとしてくる。だが、見るからに遅い。相手の魔法が発動する前に、こちらの魔法をぶつけられるだろう。
「なるほど。そう来るのなら、話が早いな。……ほら、抵抗してみたらどうだ?」
首筋に魔力の刃を突きつけると、相手は魔法を放つことを諦めたようだ。
「こちらが攻撃できない隙に……! この、卑怯者!」
なら、自分の実力がどの程度か、思い知ってもらうか。念の為に、ミルラとジャンには防御魔法をかけておいて。
「なら、好きなように攻撃してくると良い。それで、どうにかできるのならな」
「これでも、喰らえ! 魔法も持たぬ愚か者よ!」
シモンは、ミルラに向けて魔法を放つ。だが、俺の魔法は貫けない。本当に、嫌な予想ばかり当たってしまうな。ここまで何も考えていない相手だと、どうしたら良いのだろうか。
「……読めていたが、本当にそう来るとはな。どこまでも、くだらないやつだ」
「兄さん、どうしますか? ここで、ふたりとも殺しておきますか?」
ジャンの提案は、とても魅力的だ。すぐにでも乗ってしまいたいくらいには。だが、どうだろうか。今シモン達を殺しても、俺とミルラの気が晴れるだけだ。そのためだけに、来客を殺したという事実を広めるのは、釣り合っているのか?
ミルラが殺してほしいと思うのなら、考えるつもりではある。だが、それだけだ。俺の判断だけで殺すのは、ちょっとな。
「本音ではそうしたいのだがな。ミルラ、お前から見たメリットとデメリットを説明してくれ」
「メリットといたしましては、邪魔者が消えることでしょう。デメリットは、周囲の評判でしょうね」
その、周囲の評判が最大の懸念点なんだよな。ただでさえ、ブラック家の現状の評判は悪い。そこにトドメを刺しかねない気がする。どうなのだろうな。殺すにしても、状況を整えた方が良いだろうと思える。
少なくとも、周囲に言い訳ができるくらいの何かがほしい。そうでなくては、結局ミルラにも迷惑をかけてしまうだろう。
「まあ、そうなるよな。ジャン、お前なら、飼い殺しにできると思うか?」
「それが兄さんの望みならば。ほら、2人とも。命が惜しければ、僕に従うことですね」
ジャンはふたりに魔力の刃を突きつけている。冷え冷えとした空気を出しており、逆らったら本気で殺しそうだ。シモンもストリガも、怯えている様子ではあるな。
「悪いな、ミルラ。お前だって不愉快だろうに」
「いえ、私が提案したようなものですので。レックス様の今後を考えれば、少なくともレックス様が直接殺すことは避けるべきでございます」
「僕達の方でも、今後について考えておきますよ。兄さんが納得できるような形を」
これは、また気づかわせてしまっただろうか。できることなら、俺がどうにかすべきことなのだがな。ジャンとミルラには、負担をかけてばかりだな。本当に、早く人を集めて楽をさせてやりたい。
「そうか、頼む。手間を掛けさせるな」
「いえ、それが僕達の役割ですから。兄さんの役に立てるのなら、嬉しいんですよ」
「私も同感でございます。レックス様が望むすべてを叶えることこそ、存在意義なのですから」
「おのれ、レックス! この恨みは、絶対に忘れぬからな!」
「親父、抑えろ……! 俺達が勝てる相手じゃないんだ……!」
そう言いながら、シモンとストリガはジャンに連行されていく。さて、どうしたものだろうな。殺すにしろ、生かすにしろ、面倒が多そうだ。
次々と問題が増えるばかりで、頭を抱えたくなった。