物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

221 / 622
220話 どの道を選んでも

 フェリシアの問題を解決しようとすると、おそらくは戦いになる。それを見越して、メアリとカミラも連れて行く。とはいえ、ただ連れて行っただけではダメだろう。ということで、ちゃんと顔合わせをする。

 

 3人とも、よく知っている間柄ではある。それでも、大事なことだからな。手順を踏むことも、仲を深めることも。

 

 結局のところ、それぞれが雑に力を振るうだけでは、みんなで戦う意味はないのだから。つまり、連携が大切になってくる。つまり、しっかりと会話するのが大事だろう。

 

 ということで、フェリシアをカミラとメアリの下へと連れて行く。そうすると、フェリシアはニッコリと笑ってから話し始める。

 

「お久しぶりですわね、カミラさん、メアリさん。レックスさんは、わたくしが貰っていきますわよ」

 

 思わず目を見開いた。状況を考えれば、とんでもない爆弾発言だ。いくらなんでも、めちゃくちゃだ。メアリもカミラも、フェリシアの方をにらんでいるじゃないか。

 

 いや、なにか理由があるのだろう。フェリシアは考えなしな人じゃない。おそらくは、今後の戦いに向けて必要だと判断したんだ。その詳細までは、俺には理解できないが。

 

 メアリは俺の腕に抱きついてフェリシアに舌を出しているし、カミラは俺の肩に手をおいて、強くつかんでいる。かなり緊張感があって、怖い。

 

「そんなのダメだもん! お兄様は、メアリのお兄様なの!」

「あたしのバカ弟なのよね。弟は姉のもの。そんなの、当たり前のことよ」

 

 この有様だ。フェリシアは余裕そうな顔を崩さない。だからこそ、ふたりは余計に苛立っているのだろう。もしかして、この場で感情を吐き出しあって、後に引っ張らないようにするためか? どうだろうか。正しいようにも思えるし、間違っているようにも思える。判断が難しいな。

 

 とりあえず、俺の意見は示しておくか。どうするのが正解なのかは分からないにしろ。

 

「3人とも、あまりケンカはしないでくれよ。ちょっと困るからな」

「フェリシアちゃんがお兄様を奪おうとするから!」

「あたしのバカ弟なんだから、奪うも何も無いでしょうに」

「わたくしこそが、レックスさんの一番なのですわ」

 

 三者三様に、自分の意見をぶつけ合っている。その中心にいる俺は、正直に言って腰が引けている。メアリもカミラもひっついていて、まず逃げ出すことはできないのだが。

 

 まあ、考えようによっては都合が良いのか。変に逃げ出して、問題を先送りにしなくて済むのだから。いや、それでも恐ろしいが。

 

「違うもん! フェリシアちゃんの敵をやっつけて、お兄様にもっと褒めてもらうんだもん!」

「実践経験もないのに、あたしに勝てるとでも思ってるの?」

「わたくしのために、レックスさんは戦ってくださるのですよ」

 

 鋭い視線を向け合っていて、できれば視界に入りたくない。まあ、不可能なのだが。3人の間に火花が見えるようで、いつ爆発するのかと気が気じゃない。あるいは、もう爆発しているのかもしれない。

 

 こういう状況での立ち回りなんて、俺には分からない。とりあえず、フェリシアにアイコンタクトを送ろうとしてみる。すると、うなづきながら微笑まれた。同時に、メアリに腕を引っ張られる。

 

「むーっ! お兄様! フェリシアちゃんばかり見ちゃダメ!」

 

 可愛らしい嫉妬だと言えれば良いのだが、メアリの瞳からは強い執着を感じる。腕にかかる力と言い、絶対に渡さないという意志が見えるようだ。なんだかんだで、痛くないように配慮してくれているのだが。

 

 そういうところが、優しさだよな。自分の敵を目の前にしても、俺に対しての気遣いを忘れない。だから、大好きなんだ。なら、そっちの方向性で攻めるか。

 

「そう言いつつ、なんだかんだで手助けするんだもんな。メアリは良い子だよな」

「え、えへへ……。じゃないよ! そんな言葉で、メアリは騙されないの!」

 

 一瞬顔がゆるんだと思ったのだが、甘くはなかった。本音ではあるので、受け取ってもらえた方が良かったのだが。とはいえ、可愛らしいものだ。さっきまでの執着は、遠くに行ったように思える。

 

「いくらなんでも、死なれたら寝覚めが悪いものね。仮にも、知り合いなんだし」

 

 ちらりとフェリシアの方を見て言う。カミラには情があるのだと、今のセリフだけで分かるな。それなら、致命的な事態は避けられるかもしれない。ただ、連携が難しいようだと、かなり困ってしまうんだよな。

 

「ありがとうございます、お二方。流石は、レックスさんの血族ですわね」

「お兄様の妹だもん、当たり前だよ。でも、それとこれとは話が別!」

「そうね。死んでほしいとは思わないけど、不愉快なのは事実だもの」

 

 メアリはふくれっ面をしているし、カミラはしかめっ面をしている。実際、不愉快な気持ちはあるのだろうな。そこまで好かれて、嬉しいやら悲しいやら。

 

「誰がレックスさんのパートナーかなんて、簡単なことですわよ。ね、レックスさん?」

 

 ウインクを飛ばしてくるのだが、頷きはできないぞ。その先の未来は、容易に推測できるのだから。分かっていてやるあたり、フェリシアにも困ったものだ。

 

「姉や妹と幼馴染では、役割が違う。どれが良いかなんて、言葉にするものじゃない」

「優柔不断ですこと。でも、構いませんわよ。これから先、誰が一番かは白日のもとに晒されるのですから」

 

 余裕そうに微笑むフェリシアからは、確かな自信を感じる。実際、俺はフェリシアを最大の理解者だと思っている。ただ、だからといって、姉や妹よりも明確に優先できるかと言われるとな。優柔不断なのは事実だろう。それでも、どうしたら良いものかは分からない。

 

「そう簡単に、思い通りになると思わないことね。あたしもメアリも、ただの間抜けだと思っていたら痛い目見るわよ」

「お兄様は、誰にも渡さないもん! フェリシアちゃんにも、お姉様にも!」

「なら、ここで決着をつけてみる? あたしは、いつでも良いわよ」

 

 カミラからは、冷え冷えとした空気を感じる。それに合わせて、メアリも鋭い雰囲気を背負う。やはり、血を感じるな。どこまでいっても、ブラック家の人間だということなのだろう。それでも、大切な家族なんだ。傷つけ合うことを許せるはずはないよな。

 

「ふふっ、力をもって示すのは、わたくし達の流儀ですものね。悪くありませんわ」

 

 フェリシアも、薄く笑いながら圧力をかける。このままなら、本気で戦いになりかねない。なら、俺が止めるしかないよな。

 

「やめろ! お前達の力なら、冗談では済まないんだからな!」

「ごめんなさい、お兄様。でも、メアリの気持ちは、ウソじゃないから」

「そうね。誰がきっかけなのか、しっかり思い知らせてやってもいいけれどね」

「ふふっ、楽しい時間が待っているかと思いましたのに。でも、レックスさんを泣かせる訳にはいきませんものね?」

 

 みんな、矛を収めてくれた。だが、火種が消え去った訳じゃない。仕方ない。リスクはあるが、対策を打たなきゃ、大変なことになるだろう。意を決して、言葉を告げる。己の罪を自覚しながらも。

 

「なら、戦場での成果で、競い合ってくれよ。だからといって、無理も足の引っ張り合いも許さないからな」

 

 その言葉に、3人の目に火が灯ったのが分かった。これで、俺も罪人だな。仲違いを避けるためだけに、他者の命を利用するのだから。ため息をつきたくなったが、何もできなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。