物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
フェリシアというか、ヴァイオレット家の敵は多い様子。その中でも、真っ先に攻めてくるのはネイビー家とのこと。詳しくはないが、当主のゼノンは自分の力に自信を持っている様子。
ということで、
つまり、相応に痛い目を見せる必要がある。相応というのがどのラインか、俺には分からないが。いずれにせよ、死人は出るだろうな。気が重いが、ここで手を抜けば、困るのはフェリシアだ。なら、俺のやるべきことは決まっているよな。
だから、俺達は戦いに向けて準備を進めていた。それなりに形になってきた頃に、フェリシアから呼び出される。いつでも戦えるように備えておけと言われていたので、いよいよ始まるのだろう。
部屋に向かうと、予想通りのメンバーが居た。フェリシア、カミラ、メアリ。このメンバーから考えても、確定と言っていいだろうな。
フェリシアは、こちらに向けて一礼すると、ゆっくりと話し始めた。
「さて、レックスさん。ネイビー家が動き出したようですわ。反攻に移りましょうか」
楽しそうに笑いながら、フェリシアは語る。さあ、いよいよ本番だ。みんなを守れるように、しっかりとやらないとな。おそらくは、難しいことなど何も無いだろうが。
「言われた通りの場所に、魔力は侵食させてある。そこから探った感じだと、手勢とともに来る様子だな」
ネイビー家の領内、その端の方にある、とある平原だ。見晴らしが良く、集団を相手に戦う上でちょうどいい場所だな。
一般的な軍事のセオリーなら、おそらくは狭い場所の方が良いのだろう。一度に戦う人数が減るからな。だが、俺達は魔法使いだ。その魔法を制限されない場所の方が、都合が良い。広範囲を何も気にせず吹き飛ばせる方が。
良くも悪くも、俺達の魔法は威力が高いことが多い。なので、建物の影に入ったら、倒壊して巻き込まれかねないんだよな。
「ま、やるべきことは単純よ。あたし達で、葬り去るだけ」
「メアリ、いっぱい敵を倒すよ! お兄様に、褒めてもらうんだ!」
カミラとメアリも、気合十分だな。固くなっている様子もないし、大丈夫だろう。なら、もう動き始めないとな。
「じゃあ、行くか。遅らせても、良いことは少ないだろう」
「そうですわね。では、参りましょう。わたくしの力を示す、良い機会ですわ」
フェリシアは、薄く微笑む。それを確認した後、俺は目的の場所に転移した。敵は大勢。1000人程度は居るだろうか。その先頭に、豪奢な格好をした魔法使いらしき男が居た。その男は、こちらを見て目を見開き、慌てた様子になる。
「貴様ら、どこから現れた! いや、たったの4人! ものども、かかれ!」
指揮しているあたり、当主でなくても重要な立ち位置だろう。なら、フェリシアに任せておくか。俺達は、露払いしておけば良い。
「では、皆様。予定通りに、頼みますわよ!」
そう言って、フェリシアは敵の方へと駆けていく。両手に杖を抱えているのに、中々に速い。まあ、魔法使いと言っても、固定砲台ではないからな。運動ができるのは当然か。そうじゃなきゃ、敵に対応できない。
フェリシアに向けて、敵軍が剣を向ける。邪魔させないと言ったことだし、片付けないとな。最低でも、無力化しないと。
「仕方ないわね。さて、雑魚狩りといきましょうか。
「メアリ、いっぱいやっつけるね!
「
カミラが素早く駆け抜けて敵を切り刻み、メアリが荒れ狂う竜巻を起こして敵を巻き込む。俺は、とりあえず防御魔法をかけて、その後攻撃に転じた。
多くの敵が倒れていき、その様子を見た他の兵たちは、逃げ出そうともみくちゃになっている。この調子なら、フェリシアの邪魔はされないだろうな。
「……は? 我が軍勢が、たったの3人に……? いや、まだだ! フェリシア・ルヴィン・ヴァイオレット! 俺と一騎打ちをしろ!」
呆けた顔をした後、首を振って叫びだす。そんな事を言うあたり、やはり当主のゼノンなのだろうか。どちらにせよ、こいつを倒せば、戦いの行く末は決まったようなものだろう。もう、ほとんど士気をくじいたと言っていいだろうからな。
「構いませんわよ。結果は、決まっておりますもの」
フェリシアは、令嬢然とした微笑みをたずさえている。本気で、勝つ未来しか見えていないのだろう。そして、フェリシアの態度からして、敵はゼノンで確定だろうな。間違いなく、顔は知っているだろうし。
「
ギャンブルで大逆転したような笑い方だ。ああ、一発逆転のチャンスを狙っているのか。属性の数だけで相手を計るあたり、本物を知らないのだろうな。なら、決まったようなものか。油断していては、
「……先手は譲って差し上げましょう。どの程度の力か、見せてみると良いですわ」
「後悔する間もなく、消えて無くなれ!
ゼノンは、よくある魔法を放つ。三属性を収束させ、その反発を爆発させる技。フェリシアに、魔力の爆発が向かっていく。だが、フェリシアは笑みを崩さない。そして、杖を前に突き出した。
「
火柱が立ち上がり、魔力の爆発がかき消えていく。明らかに、フェリシアは手加減している。火柱だって、人の身長より少し高いくらいだからな。本来なら、雲に届きそうな技なのに。
「……は? たかが
「芸のないこと。
もう一度、同じ流れを繰り返す。ゼノンは、腰を抜かしてしまった。手足をばたつかせ、必死に下がろうとしている様子だ。まあ、負けるはずのない相手に手も足も出なければ、当然か。
「ま、待ってくれ。お前を軽く見たことは謝る。だから、命だけは……」
「お断り、ですわよ。さあ、あなたが消えて無くなる番ですわ。
「ぎぃあああああ! こんな、ところで……」
火柱はゼノンを包みこんで、焼き尽くしていく。最後には、灰すらも残らなかった。炎の輝きを受けながら笑うフェリシアは、残酷ながらも美しく見えた。
「さて、終わりましたわね。残りの方々は、どうされますの? 敵討ちでも、目指してみますか?」
「投降する! 貴方様の配下として、誠心誠意仕えます!」
生き残りは、全員が頭を下げていく。ゼノンが焼かれた姿を見ているだろうからな。何がなんでも、生き残りたいのだろう。気持ちは、少し分かる。
「よろしい。期待を裏切ったら、分かっておりますわよね?」
「はっ! お前達、整列しろ!」
フェリシアの微笑みに合わせて、敵軍達が駆け出す。そして、きれいな隊列を作り、一斉に礼をした。これは、心をへし折ってしまったかな。
「さ、レックスさん。もう少し、付き合っていただきますわよ。しっかりと、自分の立場を教えて差し上げませんと」
たおやかに笑みを浮かべるフェリシアは、酷薄ながらも、目を離せなかった。