物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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228話 カミラ・アステル・ブラックの渇き

 あたしは、フェリシアに誘われて、バカ弟やメアリと一緒に戦うことになった。それ自体には、特に不満はないわ。フェリシアに死んでほしいとは思わないし、暇つぶしくらいにはなると思っていたから。

 

 まあ、ちょっと腹が立つこともあるけれど。フェリシアの、バカ弟のことを一番分かっているかのような態度はね。弟を一番理解しているのは、姉なのよ。実際、バカ弟は戦いたくなかったのに、フェリシアが誘ったのだもの。必要なことなのは、分かるけど。

 

 それで、あたしが代わりに殺してやるかって思ったのよね。バカ弟は、人を殺したくないみたいだし。なんか、フェリシア達と戦果を競い合うことになったけど。

 

 実際のところ、誰が勝つかなんてどうでもいいのよね。どうせ、バカ弟の態度は変わったりしないわ。むしろ、殺しすぎれば距離を置かれるんじゃないの? ま、バカ弟のことだから、誰も見捨てられないのでしょうけど。

 

 所詮、フェリシアやメアリとの関係なんて、ただのじゃれ合いよ。本気で殺すつもりがあるのなら、何も言わずに殺す。それが正解だもの。

 

 実戦では、あたしとメアリが、敵兵のほとんどを殺すことになったわ。それは良かったのだけど、ちょっと問題もあったわ。単純なことなんだけどね。

 

「ザコを狩るのって、想像以上につまらないわね。でも、フェリシアに渡した敵も、程度は知れていたか」

 

 つい、ため息をついちゃうわ。あまり、褒められたことではないけれど。でも、仕方ないわよね。あんなの、草を苅っているのと同じなんだもの。ただ時間が過ぎるのを待つだけの、退屈な作業なんだもの。

 

 それに、敵の大将だって弱かった。あたしなら、何も考えずに殺せただろう程度には。そんなの、何の意味もないのよ。あたしの成長にも繋がらないし、心も満たされない。

 

「バカ弟の戦いとは、何もかもが違うわ。全身全霊をかけて、それでも負ける」

 

 贈られた剣を見ると、バカ弟の存在がどれだけありがたいか、実感できたわ。あいつがいるから、あたしには訓練する意味がある。まっすぐに努力できる。他の家に生まれていたら、あたしは今よりも弱かったでしょうよ。

 

 勝ちたい相手がいることが、どれほど幸せなことか。悔しい思いもしたわ。歯を食いしばったことも、眠れない夜を過ごしたこともある。それでも、目標こそが生きる意味だもの。

 

「やっぱり、バカ弟は必要よね。競い合う相手が居なきゃ、空虚なものよ」

 

 仮定とはいえ、想像したら震えそうよ。ちょっと強くなっただけで満足するあたし。あるいは、誰もいないところで立つだけのあたし。どちらにせよ、くだらない人生だもの。

 

 あたしの心が燃えているのは、バカ弟が居るから。人生が充実しているのも。あたしが手段を選ばなくても殺せない存在なんて、少ないのだもの。

 

「フェリシアも、確かに強いんでしょうけど。殺す手段は、いくらでもあるもの」

 

 どうしても、あたしの速さについてこられる存在は少ない。相手の死角から接近するだけで、軽く殺せるでしょうよ。だからこそ、フェリシアはライバルにはなり得ない。いえ、あたしの負け筋だって、あるのだけれど。

 

 でも、真正面から戦っても、あたしが勝つと思うわ。負けるとしたら、フェリシアとあたしの間に炎の壁が生まれた時。それを超える手段が無くなった時。

 

 ただ、決闘の作法に乗っ取る限り、あたしの方が有利なのよね。だって、こっちが状況を動かせるのだもの。

 

 まあ、フェリシアが勝ちやすい条件もあるでしょう。その場合、あたしは大抵負けるでしょうね。例えば、あたしが接近する前に炎の壁を作り出せる条件なら。

 

「良くも悪くも、同じ土俵で戦っていないものね。だから、フェリシアじゃダメなのよ」

 

 お互いが競い合って、成長し合える相手ではない。それだけは確実よ。だって、目指している先も、取ろうとしている手段も、何もかもが違うんだもの。

 

 あたしの道は、剣と魔法を極める道。その先で待っているのは、きっとバカ弟だけよね。今のところは、エリナも敵ではあるけれど。

 

「バカ弟なら、あたしの剣に反応した。打ち合えた。反撃してきた」

 

 思い返すだけで、体温が上がりそうよ。あたしの人生を賭けるだけの価値が、確かにあるの。楽しくて、苦しくて、そして燃え上がるような感情の先に。

 

「ただ刈り取るだけの作業じゃ、心が乾くだけなのよ」

 

 思考停止して、単純な作業を繰り返す。そんなの、何もたぎらないわ。鼓動さえも、収まってしまいそうなくらい。

 

 だから、あたしの息を熱くする時間が、余計に待ち遠しくなるの。愛おしくなるの。何度でも、思い描きたくなるの。

 

「ああ、早くバカ弟と戦いたいわ。つまらない戦いなんて、したくないもの」

 

 考えただけで、お腹に力が入るわ。血が煮えたぎりそうになるわ。あたしのすべてが、そこにあるのよ。

 

 どれだけでも努力して、それでも追いつけない。そんな相手、簡単には見つからないのよ。

 

 その気になれば、あたしはミーア王女もリーナ王女も殺せる。そんな確信があるから。あたしの全てを叩きつけられるのは、バカ弟だけなのよ。

 

「感謝するわ。あたしが超えるべき壁でいてくれて。そのおかげで、退屈しないのよ」

 

 拳を握って、気合いを入れ直す。そうすると、また努力しようって思えるのよ。バカ弟を驚かせるために。その先に、ギッタンギッタンにして泣かせてやるために。最後に、とっても可愛がってあげるために。

 

「もう、バカ弟のいない人生なんて、考えられないわね……」

 

 想像だってしたくないわ。あたしの生きる理由は、バカ弟でできているのだもの。それが、強く実感できたから。

 

「仕方のない姉だわ。弟がいなくちゃ生きていけないだなんて」

 

 逆なら、当たり前のことなんだけどね。きっと、バカ弟はあたしを必要としている。だから、このつながりは断ち切れないのよ。

 

 血なんて、もはや些細なものよね。あたしとバカ弟の間には、決して切れない鎖があるの。だから、これから先だって、ね。

 

「でも、ダメなのよ。ただ剣を振り下ろすだけで倒せる敵じゃ」

 

 もう、三属性(トリキロ)を倒すだけのことじゃ、何も満足できないの。あたしの渇きは、潤せないの。もはや、あたしにとってバカ弟は水よ。色んな意味でね。

 

「ねえ、レックス。あたしの剣を受け止めて。乗り越えて。そうしてくれなきゃ……」

 

 きっと、あたしの手には何も残らない。ただつまらないだけの人生が続くだけ。情けないことよね。自分の足で立っているとは、とてもじゃないけど言えないわ。

 

 でも、あたしにだって誇れることはある。バカ弟を、同じ気持ちにはさせない。それだけは、絶対に現実にできるんだから。

 

「いつか必ず、勝つ。その後でも、バカ弟はまた強くなるでしょ」

 

 あたしに負けたら、もっと努力するでしょ。そして何より、心が奮い立つでしょ。だから、あたしは強くなり続けていいの。努力した先の孤独なんて、恐れなくていいの。

 

「だから、ずっと一緒にいてよね。そうじゃなきゃ、あたしは……」

 

 きっと、笑顔を浮かべられなくなってしまうわ。まっすぐ立っていられないわ。

 

 でもね。あたしは、ずっとレックスの誇れる姉で居るのよ。それだけは、誓うわ。

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