物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
商会への襲撃を防ぐと決めたので、その準備をする必要がある。まずは情報を整理しないとな。守るべき相手が誰で、敵が誰なのか。
おそらくは盗賊だと思うから、情報なんて無いのかもしれないが。組織だった大盗賊ならともかく、小規模な部隊ならな。そこまで細かく追跡できない気がする。魔法があれば、話は別だろうが。
とはいえ、俺の想定しているような魔法は、そこらの魔法使いは習得していないんだよな。結局のところ、情報は望み薄なのかもしれない。
まあ、俺が調査すればいいことでもあるか。闇魔法を使う前提でなら、手段なんていくらでもある。
というか、ラナの知っていることを聞くだけだからな。少なくとも今は、あまりできることはないかもしれない。
それで、インディゴ家に場所を移して話をすることになった。メイド達も連れてきているが、今回は話に混ざっていない。
「今回守る相手は、アードラ商会といいます。インディゴ家の隣あたりで活躍している様子ですね」
「レックス様に贈るもの、何か買えたりしないかしら」
「そんなのより、どんな相手かの方が大事じゃない?」
「何を言うのよ、ジュリア。レックス様より優先すべきものなんてないわよ」
シュテルはどうしてここまで極端になってしまったのだろう。最初の方は、ジュリアをたしなめる側だったのに。いつの間にか逆転しているんだが。
いや、感謝してくれているのは分かるんだ。だが、どこか狂信者っぽさを感じる。俺の意思を優先してくれるタイプだから、安心して見ていられる部分はあるが。
シュテルのことだから、俺が死ねと言ってしまえば嫌ってくると思うんだよな。あくまで、恩返しとしてなのだろうから。流石に、試す気はないが。
「たぶん、ブラック家で手に入る物がほとんど。あまり期待できない」
「いえ。少数生産の高級品を扱っているんですよ。だから、襲うのにちょうど良いんですよね」
ついにサラが真面目な話をしてしまった。これ、良くない流れから誘導しようとしているよな。いつも撫で撫でと抱っこばかり言っているが、あれも状況を考えてのことらしい。
まあ、当然か。初めて出会った頃は、普通に敬語だったからな。俺に甘えて良いと理解してくれたからなのだろう。実際、本心というか、素を出してくれているのは嬉しいし。信じてくれているんだよな。
それにしても、少数生産の高級品か。大量に売るタイプの商人なら、運ぶ人員も相応のものが必要だ。管理にだって手間を取られるだろう。そういう意味では、悪くない選択なのかもな。盗賊を褒めるなんて、もってのほかではあるが。
ただ、アードラ商会は護衛を用意していないのだろうか。そんな訳無いよな。なら、それなりに強い魔法使いが敵なのかもしれない。案外、根が深い問題なのかもな。
「なら、謝礼に何か要求するのも、悪くないですね」
「とりあえず、まずは成功させてからじゃない? いや、勝てるとは思うけどね。普通の盗賊って、大して強くないし」
「それでも、失敗したら撫で撫でが無くなる。ちゃんと頑張る」
シュテルはちょっと行きすぎな気がする。注意した方が良いのかとも思うが、ジュリアに注意されたら素直に引くんだよな。今回も、それ以上は言わなかったし。
となると、今のところは大丈夫だろうか。サラも普通の状態に戻ったし、そこまで心配しなくて良いのかもしれないな。
それよりも、失敗しないようにするのは大事なことだよな。注意していても防げないことだってあるんだ。意識するのは、前提条件とすら言えるだろう。
「ああ、いい心がけだ。俺も油断しがちだから、気をつけないとな」
「はい。レックス様が傷つけば、みんな悲しみますから。もちろん、あたしも」
「その気持ちは嬉しいが、俺だってみんなが傷つけば悲しい。それは忘れないでくれよ」
「もちろんだよ! もう二度と、レックス様を悲しませたりしないから!」
「私だって、全力を尽くします。他の誰でもない、レックス様のために」
「撫で撫でと抱っこのために、戦うだけ」
みんなが俺のためにと言う状況は、健全なのかどうなのか。まあ、俺のために自分を犠牲にするようには見えない。だから、俺が気をつけていれば良いんだろう。みんなをちゃんと守れるように。
実際、好意は嬉しいからな。そのせいでみんなが困ったりしないかが気になるだけで。俺のために頑張る状況が幸せだというのなら、それで良いんだ。大切なのは、みんなの幸福。俺の価値観を押し付けることじゃない。
ただ、ひとつだけ言い聞かせたいことがある。それは伝えるべきだよな。
「なら良いんだ。お互い、最後まで生き残ろうな。この事件だけじゃなく、ずっと先まで」
「そうですね。それで、アードラ商会なんですけど。かなり大きな商会なので、破綻したら影響が大きいんですよね」
大きな会社が倒産するようなものか。そう考えると、かなり大変だな。従業員も、そこと仕事をしている人達も、客も。いろいろなところに問題が波及するだろう。
「インディゴ家にも影響が出るほど、と考えて良いんだよな」
「そういうことです。ですから、あたしとしても優先したかったんです」
だから、俺が悩んでいる時に提案してきたのか。まあ、そうだよな。食い詰め者が大勢出るだけでも、インディゴ領は困るのだろうから。隣の領が荒れてしまえば、大きな問題だよな。
「確かに、そこまでだと怖いよな。なら、さっさと解決してしまおう」
「そうだね。レックス様にも、早く安心してもらいたいし」
「私達に任せていただければ、どんな手を使っても目的を達成してみせます!」
「むふふ。ご褒美、楽しみ」
サラを含めたみんなに、ご褒美をちゃんと考えておかないとな。ラナや俺のために、危険な仕事を任せているのだから。
さて、結局は敵を倒すのが方針ということになるだろう。そのためには、まず敵を見つけるところからだよな。
「じゃあ、動き始めないとな。その商人に、接触するところからか?」
「そうですね。隊商の動きに合わせる必要があるでしょうし、協力は必要でしょう」
そうなんだよな。敵の動きが読めるのなら、話は早いのだが。今回は、情報が足りていない。そうなると、隊商と連携するのは前提だよな。襲ってくる相手の動きから、元を断ち切る必要があるだろう。
隊商が全滅させられるほどの敵となると、ただの盗賊とは考えづらい。もちろん、ただ強い個人が中核の可能性だってあるとはいえ。
ただ、どこかで誰かが糸を引いている気がする。アードラ商会の動きを知ることもしているのだから。ただ強いだけの盗賊なら、そこまではできない気がするんだよな。
「レックス様に失礼を働くようならば……」
「大丈夫じゃない? ラナ様が行くんだから、その関係者だって分かるでしょ」
「分からないなら、どうせ潰れる商会」
「そうですね。ですから、きっと大丈夫だと思いますよ。それに、あたしだって許す気はありませんから」
なかなかに過激なことを言っている。だが、貴族に無礼討ちされる平民は珍しくないはずだ。そう考えると、サラの言うことは合っているよな。状況を読めないのなら、大して優秀とは言えない。
「とりあえず、いきなり喧嘩は売らないでくれよ……? まあ、そこまで心配していないが」
さて、アードラ商会の主は、どんなやつだろうな。会う瞬間を、楽しみにしておくか。