物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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267話 望む取引

 ラナとスマルト家領主との舌戦は、ラナの勝利で終わったと言っていいだろう。とはいえ、その場の民衆の支持を得たくらいで、敵にトドメをさせるレベルの話ではない。

 

 そうである以上、二の矢三の矢を用意するのは当然だ。次に何をするのかは、今後に大きく影響するだろう。他の問題も残っているから、不必要に手の内をさらしたくない。それでも、確実に打撃を与える必要がある。

 

 つまり、バランスが大事だということだよな。色々と手段を検討していると、ラナに呼び出された。そして、ふたりになって話していく。

 

「レックス様、スマルト家の当主、死んだみたいですよ」

 

 軽い調子で言われて、思わず目を見開いた。いや、もう死んだのか? 何が原因だ? 多くの疑問が浮かび上がってくる。

 

 こっちとしては、都合が良いのだろう。だが、急だからな。相応に混乱もあるはずだ。まったく、どうなっているんだ。頭を抱えそうになるが、もう終わったことだから、頭を振って切り替える。

 

 そうだな。まずは状況を確認しないと。死んだということだけが分かったというのは、無いはずだ。なら、聞くのが先決だよな。

 

「おいおい、何があったんだ。貴族なら、そんな簡単に殺せないだろうに」

「どうにも、暴徒化した民衆の中に、魔法使いが居たみたいで。それで、ですね」

 

 まあ、魔法使いが居れば、大きく戦局は変わるよな。これまで戦ってきた敵はみんな三属性(トリキロ)以上だったはずだが、本来珍しいものなんだよな。味方でも、ラナやフェリシア、カミラは貴族ではあるが一属性(モノデカ)なのだし。

 

 なら、スマルト家の当主が殺されても、不自然ではないか。気になるのは、盗賊と一緒に居た魔法使いの存在だが。逃げたのか、負けたのか。死んでくれていた方が、考えることは減るんだよな。あまり良くない思考ではあるが。

 

「珍しいこともあるものだな。まあ、サラやジュリアの存在を考えれば、おかしなことではないが」

「ふふっ、そうですね。都合の良い方向に、転がってくれました」

「それで、スマルト領はどうなるんだ? 後継ぎとか、居るのか?」

「なんとですね、民衆はあたしに領を収めてほしいと言っているみたいなんです」

 

 分からない話ではない。というかむしろ、ラナに任せるために暴動を起こした人も居るだろう。無論、領主への恨みが一番大きいだろうが。

 

 民衆がラナを歓迎するのは良いが、今後がどうなるのかが問題だよな。気に食わない領主を殺すという選択をした民衆が、これから先に不満を抱えた時に、どうするのか。正直、あまり信じられない。ラナだって排除しようとするんじゃないかと思えてしまう。

 

 まあ、ラナが失敗する前提で考えるのも良くないか。俺も、できる限りサポートしないとな。

 

「だが、それでうまくいくのか? まあ、フェリシアだって他領を支配していたが」

「そういうものですよ。王家は確かに力を持っていますが、あらゆる貴族を抑え込めるほどではありませんから」

 

 実際、父を殺せという命令も、本気で反逆する気だったら無視できたと思う。力で押さえつけるのは、不可能ではなかったはずだ。

 

 そうでなくとも、ある程度の実力を示して、手出ししても損害が大きいと思わせることだってできただろう。なぜしなかったのかは、まあ単純なことだ。

 

「まあ、俺だってその気になれば逆らえるだろうからな。ミーアやリーナと敵対する気がないだけで」

「はい。ですから、問題ありません。強いて言うならば、他の貴族が勢力の拡大を嫌う場合に困りますね」

「フェリシアは、それを力で押さえつけていたな。ラナは、どうするつもりなんだ?」

「あたしの得意なやり方は、分かっていますよね。そういうことです」

 

 民衆への演説といい、スマルト家当主との舌戦といい、うまかったからな。そういう意味では、貴族らしい貴族だと言えるのだろう。正統派のやり口だよな。まあ、フェリシアの力づくというのも、ある意味正統派ではあるが。

 

「なるほど。人を扇動するのか。あまりやり過ぎると、後が怖い気もするな」

「レックス様がいるんですから、暴走なんてさせませんよ。それに、敵に容赦する気はありませんから」

 

 冷たい目で、手元を見ている。おそらくは、暴走した時のことを考えているのだろう。あまり無体なことはしてほしくないが、それよりもラナの安全の方が大事だからな。殺すことで守られるものがあるのなら、それで良いのだろう。

 

 ただ、少しでも良い未来が訪れるように努力するのは、忘れてはならない。ラナが間違えそうなら、俺が止める。俺が失敗しそうなら、ラナが注意する。そんな関係で居たいものだ。

 

「そうか。困ったことがあったら、頼ってくれよ」

「もちろんです。次は、カイトさんに報告をしましょう」

 

 それから、アードラ商会の本部へと向かう。そこでは、にこやかな顔を浮かべたカイトが待っていた。

 

「報告を受けましたよ。これで、ひとまずは安心ですね。ありがとうございます、お二方」

「あたしとしても、必要なことでしたから。これからも、良い付き合いをしましょうね」

「もちろんです。ラナ様もレックス様も、良い取引相手になるでしょう。無論、援助もさせていただきます」

 

 うん、良い成果だ。大きな商会の協力が得られるのなら、できることは増えるだろう。どこまで信頼できるのかは、まだ分からない。それでも、味方が増えたという事実は大きい。俺には、まだ敵が多いからな。

 

 カイトを通じて、良い関係を築ける相手が増えればいいが。まあ、期待し過ぎも良くない。ほどほどに、だな。

 

「助かる。金で解決する問題は、案外多いからな。そういう意味では、頼りにしているよ」

「商人としての情報網や、商品そのものも、ですね。最大限、利用しましょう」

 

 ラナは流石だな。よく考えている。単に金を要求するより、得られるものが多いかもしれない。無論、こちらから相手に利益をもたらす前提ではあるが。

 

 貴族としての名前や繋がり。あるいは、権力。そのようなものを使って、カイトにもいい思いをさせないとな。それが、真っ当な取引というものだろう。

 

「手強いことでいらっしゃる。だからこそ、信頼できそうですが」

「お互いに利益のある取引をしようじゃないか。それが、結果的に良い未来に繋がるだろう」

「素晴らしい考えですね。確かに、長続きする関係になりそうです」

 

 搾取するだけでは、悪印象をもたせるだけだ。それに、いま以上に関係が発展することもない。今後を考えるのならば、ある程度の善意をみせることこそが効率的なはずだ。

 

 それに、上から命令するような関係は好みではない。お互いに支え合えるのなら、それが一番だよな。

 

「レックス様は素敵な人ですよ。あたしだって、何度も助けられましたから」

「では、それにあやかりたいものですね」

「それは今後次第だ。だが、仲良くできると良いな」

 

 俺とカイトは、強く握手をした。さて、ひとつの問題が終わった。だが、まだふたつ残っている。しっかりと、気合いを入れ直さないとな。

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