物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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276話 過去と未来と

 とりあえず、ラナは王家に告発したようだ。俺も連名でサインしたとは言え、メインはラナになるだろう。まあ、そこは大きな問題ではない。インディゴ家が罰されるというのなら、話は別だが。

 

 最大の焦点は、敵に対してどのような沙汰が下されるかだよな。軽い罰なら、正直に言って困る。麻薬を王家が軽く見ているというのなら、とても大きな問題になるからな。

 

 まあ、だからといって今できることはない。もう書簡は送ってしまったし、王家に対して干渉しすぎるのもマズいだろう。あまり派手に動けば、周囲の貴族に危険視されるはずだ。

 

 結局のところ、こちらでできる対策は少ない。相手を攻め滅ぼすという手段は、普通は取れないからな。今回の事件だけならうまく行ったとしても、今後の周囲との関係への影響が大きすぎる。

 

 簡単に他者に武力を向けると思われたのなら、敵を増やすだけだろうからな。性急な行動はできない。

 

 本当に、難しいものだ。目の前に問題が転がっていても、最短で進むことはできないのだから。これが、立場を得るということか。分かっていたつもりではあるが、縛られるものだな。

 

 ということで、ラナと過ごす時間を作る。何もできないのならば、いっそ休む方がマシだろうからな。

 

「王家の沙汰が出るまでは、表立っては行動できないな。できるのは、策を練るくらいか」

「はい。告発した上で、あたし達が裁くわけにはいきませんから。少しは、ゆっくりできそうですね」

 

 ラナは落ち着いた様子で話す。そうなんだよな。俺達が勝手に判断するのなら、王家の立場が無くなってしまう。つまり、王家の心象を下げるということだ。そんな事になってしまえば、父を殺した意味すら無くなってしまう。それは避けたいよな。

 

 いや、サンクコストの類なのかもしれないが。損切りができないまま、かけた手間や対価を惜しんでいるだけなのかもしれない。いや、王家にはミーアやリーナも居る。損切りなんて考えて良い訳がない。

 

 人間関係で損切りなんてしてしまえば、単なる非道でしかないだろう。俺は、そうはなりたくない。なんて、貴族としては甘いのかもしれないが。

 

「そうだな。ところで、お前には今後の目標はあるのか? せっかくだから、聞いてみたい」

「あたしの望みは単純ですよ。レックス様と一緒に居られる時間を増やしたい。それだけです」

 

 まっすぐに見つめながら語られる。まさに理想だよな。親しい人と一緒に楽しく過ごせる時間は、何よりも価値がある。

 

 だが、俺はブラック家の仲間や領民を守る義務があるし、ラナだって同じだろう。いくら友達だからって、単に仲良くすることは難しい。自分の家の利益を考えながら付き合っていくしかないんだ。

 

 嘆きたくなる瞬間もあるが、立ち止まったりできない。そうしてしまえば、俺は失い続けるだけだから。父を殺すことになったのも、何もしなかったからなのだから。

 

「俺も同じ事を望んでいる。いるが、難しいよな。お互い、背負うものが増えてしまったからな」

「そうなんですよね。学校もどきで過ごしていた時間が、懐かしいです。戻りたいと思う瞬間も、ありますね」

 

 あれから、まだ1年も経っていない。ラナのように、俺も遠くを見ているのだろうな。短い期間で、いくつも事件が起きた。幸いと言って良いのか分からないが、犠牲は父だけで済んでいる。だけだなんて言って良いことではないのだが。

 

 それでも、失ったものに固執はできない。俺は、もう二度と失いたくないのだから。そのためには、前に進むしかないのだから。たとえ、どれほど苦しくたって。

 

「気持ちは分かるとしか言えないが、戻らない日々なのだろうな。悲しいことだ」

「まったくです。それもこれも、レックス様のお父様のせいだと思うと、少し憎いという感情はあります。レックス様には、申し訳ないですが」

「いや、当然のことだ。父さんは、間違いなく悪人だった。それは、誰にも否定できないからな」

「あたしが代わりに殺せたら、レックス様は苦しまなくて済みましたか?」

 

 澄んだ目で、こちらを見ている。きっと、気遣ってくれているのだろうな。だが、違う。強い意志を込めて、俺は首を横に振った。

 

「やめてくれ。俺は自分で選んだんだ。それに、最悪の場合はラナを恨んでいたかもしれない。そんな事、考えたくない」

「レックス様は、お優しいですね。でも、ダメです。それは、レックス様の抱え込むべきことじゃないんです」

「それって、どれだ? 父さんを殺したのは、俺が選んだことだ。悪事を働いていたのは、単なる事実だ」

「でも、レックス様の罪じゃないんです。悪いのはお父様で、命令したのは王家なんですから。レックス様は、強制されただけなんですよ」

 

 諭すように、そう告げられる。確かに、父は悪人としか言えない。だから、王家が命令を下すまでになってしまったんだ。つまり、王家を恨むのは筋違いだ。

 

 だが、それでも。俺には何かできたはずなんだ。最初から、父が悪人だなんてことは知っていたんだから。俺はただ、向き合うことから逃げていただけだ。

 

「そうだとしても、俺は父さんの息子だったんだ。止められなかったのも、気づけなかったのも俺なんだ」

「なら、レックス様に売られるまで何もできなかったあたしは、悪かったんですか?」

「そんなことはない! お前には、選択肢なんて無かったじゃないか!」

「同じことですよ。あたしは、無力でした。だから、何もできなかったんです。レックス様と同様に」

 

 こちらに手を伸ばしながら、語りかけられる。ラナに罪があるだなんて、とても言えない。だからといって、何が違うのかなんて説明できない。それなら、最初から俺には何もできなかった。それだけの話なのか?

 

 そうだとは思いたくない。違うのだと信じたい。だが、具体案なんて何も思い浮かばないのも事実だ。結局のところ、できもしない事にすがっているだけなのか?

 

「それは、確かに……。だが、だったら俺はどうすれば良かったんだ?」

「過去なんて、もう変えられません。だから、今はあたしと一緒に事件を解決してください。それからは、また手を取り合いましょう」

 

 握手の形にした手を差し伸べられる。俺は、それを掴む。そうだな。失いたくない気持ちだけは、本物だ。後悔を捨てることはできないとしても、前を見るしかない。

 

 また何度でも悔やみたくなるのだろう。それでも、今の俺も、これから先の俺も、みんなを守るために生きるべき。それだけのことなんだ。単純な話なんだよな。

 

「そうだな。悔やんだところで、父さんは帰ってこない。分かっているんだ。なら、未来のことだよな」

「大丈夫ですよ。あたしもジュリア達も、絶対に死んだりしません。レックス様を悲しませたりしません。信じてください」

 

 目を合わせながら、強い声で告げられる。俺の不安は、理解されているのだろうな。だから、つい過保護になっていることも。

 

 みんな、それぞれに強くて賢いんだ。俺が何もかもする必要なんてないくらいに。フェリシアだって、強敵を打ち破った。ラナは、俺よりも的確な策を練れている。

 

 だから、信じていかないとな。以前にも、約束したのだから。無論、盲信は避けるべきだが。ミルラやジャンに頼りすぎた時のような失敗はゴメンだ。

 

「分かった。努力するよ。まずは、インディゴ領に平穏をもたらそう。それからは、また仲良くできたら良いな」

 

 その言葉に、ラナは温かい笑顔を返してくれた。今までのように毎日会えないとしても、再会を楽しみにすれば良い。だから、今の問題も、これから先に起こるだろう事件も、みんなと力を合わせて解決してみせるさ。

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