物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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282話 策略の糸

 黒幕の正体はハッキリした。アズール家は、インディゴ領と隣接している地域の家だ。つまり、急拡大するインディゴ家の存在が邪魔だったのだろう。よくある話なのかもしれない。

 

 とはいえ、許す気はない。いくらラナが無傷だったといえど、殺そうとしたのは事実なのだから。俺の大切な人を狙っておいて、ただで済むと思われては困る。

 

 個人的な苛立ちより、むしろ見せしめとしての意図が強いかもしれない。この世界の人間は、弱みを見せたら突こうとしてくる。そんな相手に、甘い姿勢を見せても良いことは何も無い。下手なことをすれば、命が危うい。そう思ってもらわなくてはな。

 

 実際のところ、俺の考えは前世の感覚では罪だと思う。ただ、そんな弱さが許されない世界だからな。 言い訳かもしれないが、仕方のないことだ。

 

 ということで、アズール家をどう潰すかをラナと考えている。次を出さないためにも、しっかりと根切りにしておきたいところだ。

 

 おそらくは、何も知らない人も居るのだろう。それで、アズール家が潰れたら職を失う人も居るのだろう。だが、それでもやる。やらなくては、俺の仲間が危険な目に合うのだから。悲しいことではあるが、知らない人と大切な人を比べるつもりはない。

 

 ということで、ラナと相談しているところだ。まあ、後は具体的な手段を考えるだけなのだが。

 

「さて、相手が黒だとハッキリしたので、思いっきりケンカを売りましょう」

「まあ、当然だな。暗殺者を送り込む相手に、なあなあで済ませる意味はない」

 

 暗殺者を送っても反撃されないと思えば、それこそ何でもされるだろう。だからこそ、ここでちゃんと潰すのは大事なことだ。殴られたら殴り返すのだと思い知らせる必要がある。まるで蛮族だが、そういうものだ。

 

 話し合いで全て解決するなど、前世ですら夢物語だった。この世界でそんなことを追い求めるのは、愚かという言葉ですら軽いよな。

 

 結局のところ、力がなくては何も守れない。強く実感していることだ。

 

「そうですね。脅しで済むと思っているのなら、思い知らせる必要がありそうです」

「今回ばかりは、過激なことがあっても止める気はないな。無関係の人に被害が出るのなら、話は別だが」

 

 まあ、無関係と言っても、アズール家と関係ない人間と言うべきか。当主の家族とか部下に被害が出るのは、まあ当然のことだからな。当主だけ殺したとしても、アズール家の権力を奪う時点でな。

 

 そうなれば、恨みで余計なことをされないように、全力で叩き潰した方が良いだろう。可哀想ではあるが、そこで情を見せた結果として復讐されたやつなんて、歴史を学ぶだけでも何度も見るものだ。

 

 俺が恨まれるだけなら、まだ良い。だが、今回の主なターゲットはラナだろう。そう考えると、俺の甘さで被害を出させる訳にはいかない。そこは、妥協が必要なところだ。

 

「シュテルさんなんかが居れば、楽しそうですね」

「慕ってくれるのは嬉しいが、どうしてあそこまで極端になってしまったのだろうな……」

 

 俺が世界を滅ぼせと言えば、はいと言うんじゃないかという疑いがある。まあ、そこまででは無いと思ってはいるが。

 

 ただ、嫌いなやつを殺せと言ったくらいなら、普通に肯定されそうな気がする。実行も。言葉には、気を付けないといけないだろうな。

 

「あたしも実は同じ気持ちだって言ったら、どうします?」

 

 軽く視線を向けながら、声を上げてそんな事を言う。正直に言って、冗談でも怖い。ただ、ラナは俺に依存のような何かを向けているからな。完全にないとは言い切れない。

 

 まあ、俺を崇拝したいだけなら、そこまで強く止める気はない。それで幸せならという前提ではあるが。人の思考まで操ろうとするのは、問題だよな。実際に悪事を働かないのなら、それで十分だろう。ただ、気疲れくらいはするだろうが。

 

「感情そのものは否定できないが。ただ、やり過ぎないでくれよ?」

「レックス様らしいですね。さて、まずは大義名分を広めておきましょうか」

 

 ということで、まずはラナが演説することになった。まあ、以前もあった流れだな。今回も、それなりに人が集まっている。

 

 そこで、ラナは大げさに手を広げながら話し始めた。

 

「皆さん、聞いて下さい! アズール家の当主は、あたしに暗殺者を送り込みました! 人さらいや商会への襲撃で、利益を得られなくなったばかりに!」

 

 悲しそうな顔をして胸に手を当ててみたり、怒りに身を震わせるように拳を握ってみたり。かなりの演技派だな。何度かやって、慣れてきたのだろう。

 

 というか、今回も平気で事情を捏造している。分かっているのは、ラナを殺そうとしたことだけだろうに。

 

「ああ、噂になってた、あの? 共謀してたっていうのか?」

「やっぱり! 怪しいって思ってたのよ! 重税を課すばかりで、全然生活が良くならないんだもの!」

「そのくせ、ずっと贅沢ばかりしていた! アズール家は、俺達の敵だ!」

「ああ、その通りだ! アズール家を許すな!」

 

 俺の見立てでは、重税の話をした人がサクラなんじゃないかと睨んでいる。そこから、話の流れが変わったからな。もちろん、ひとりやふたりでは無いのだろうが。

 

 事前に噂を流す類の情報操作だって、していてもおかしくはない。商人であるカイトも味方につけたからな。商売のついでにうわさ話を流すやり口だって使えるだろう。

 

 少なくとも、かなり多くの手を打っているはずだ。そうでなければ、ここまで話を聞かれない。

 

「アズール家には、民衆から奪った財貨が溜め込まれているのです! 皆さんの苦しみを、まるで見ないまま!」

 

 両手を振り下ろして首を振りながら、そんな事を言う。同時に、民衆たちも大きな声をあげていく。

 

「俺達も、この流れに乗るぞ! 俺達の手で、未来を変えてやるんだ!」

「そうよ! ただ見てるだけの、情けない男なんて居ないわよね!?」

「スマルト家やコバルト家のように、潰れてしまえば良いんだ!」

「俺達がただ虐げられるだけの存在じゃないと、思い知らせてやる!」

 

 サクラらしき人は、何人か居る。その影響もあって、完全にアズール家を攻撃する流れになっているようだ。熱狂が広がっており、少し怖い。うっかり批判をしたら、タコ殴りにされそうな雰囲気を感じた。

 

「あたしが、皆さんを支えます! より良い生活を手に入れられるように!」

 

 そう言いながら、拳を振り上げるラナ。その姿を見た民衆から、歓声が上がった。もう、完全に手のひらの上だな。

 

「ラナ様! ラナ様!」

「俺達の手で、最高の領主を選ぶんだ!」

 

 ついでに、ラナが新しい領主に迎え入れられそうな流れになった。そのままラナはしばらく手を振り、そして去っていく。それからも、熱狂の渦は残ったままだった。

 

 結局、アズール家の当主は殺されてしまったらしい。その後、またふたりで話をしていた。

 

「うまく行きましたね、レックス様。三度、同じ流れを繰り返せました」

 

 うなずきながら言っている。言い回しからして、計算通りといったところか。まあ、そういう流れだったからな。

 

 それにしても、俺も気を付けないといけないよな。変に恨まれたら、暴動が起きかねない。制圧自体は簡単だろうが、それで解決する問題ではないからな。

 

「少なくとも今回は、完全に狙っていたよな。見事なものだ。民衆の中にも、配下を紛れ込ませておいたんだろう?」

「分かりますか。レックス様は、そういう手段が苦手だと思っていたんですけどね」

 

 苦笑しながら、そう言う。実際、苦手ではある。できれば取りたくない手段でも。だが、有用性は理解できるからな。対案がないのに反対するのはありえない。

 

 もはや、個人の好き嫌いで戦略を選べる立場ではないのだからな。俺にだって、非情な手段を取るべき瞬間はあるはずだ。

 

「思いつくかどうかで言えば怪しいが、見れば分かる部分もあるという程度だな」

「ふふっ、悪い人ですね。でも、そんなレックス様が大好きですよ」

 

 からかうような口調だ。まあ、実際にからかう意図はあるのだろうが。そういう言い方だよな。まあ、楽しい会話ではあるが。

 

「ラナが言うのか。いや、それでもお前は大好きだが」

「気づいちゃいました? あたしだって、悪い子なんですよ」

 

 俺を覗き込みながら言うラナの瞳に、どこか吸い込まれそうな感覚を覚えた。

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