物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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288話 罠にかけられた獲物

 これから、俺とラナは同盟関係の宣言を民衆の前で行う。すでに見物人が集まっており、舞台裏に居てもざわめきが聞こえてくるくらいだ。

 

 やはり、大勢の前で話をすると思うと、ちょっと怖さもある。まあ、かなり台本を作り込んであるし、何度も練習をした。よほどのことがない限りは、失敗なんてしないだろう。

 

 あまり考えすぎても、良い結果は出ないよな。落ち着いていこう。噛んだところで、少々恥をかくだけだ。そう思えば良い。

 

 俺もラナも、パーティ会場で着ていそうな服だ。ラナは薄い青のドレスを着ていて、同じような色の瞳と溶け込んでいる。ピンクの髪も、よく映えているな。こうして見ると、気品を感じる。

 

「ラナ、準備はできたか?」

「もちろんです。レックス様こそ、大丈夫ですか?」

 

 穏やかな顔をたたえて、そんな事を言ってくる。まあ、準備はできていると言って良い。とはいえ、落ち着かない部分はある。やはり、俺の小市民的な部分が出ているのだろうな。

 

 ラナは笑顔を崩さないし、仕草も自然だ。内心はどうあれ、俺よりしっかりしているな。見習いたいものだ。

 

「本音を言えば、少し緊張している。慣れないものだな、こういうものは」

「そういうところも、らしいと思いますけどね。あたしは、好きですよ」

 

 クスクスと笑いながら言われるので、少し恥ずかしい。まあ、急に変わろうとしても無理だからな。好きと言ってくれるのなら、それで良しとしておこう。とはいえ、甘えすぎないようにしないとな。

 

 失敗すれば、ラナだって困るのだろうから。そういうのは、望むところではない。まあ、気合いを入れすぎても無駄だから、軽く深呼吸しておいた。

 

「とはいえ、貴族の当主としては格好がつかないからな。改善したいところだ」

「なら、あたしも手伝いますね。さあ、あたしの手を取ってください」

 

 そう言われて手を差し出されたので、こちらも手を合わせていく。小さい手だ。その手に、とても大きな物を抱えている。やはり、今後も手助けしていきたいよな。

 

 転生した俺は、みんなより人生経験が長いと言って良い。だからこそ、先達として道を切り開いていければ。そう思う。幸い、俺には圧倒的な力がある。だからこそ、あまり迷わなくて済む。

 

「お嬢様、失礼します。なんてな」

「レックス様が執事になってくれるのも、良さそうですね。まだまだ下手ではありますけど」

「言ってくれるなよ。これでも、かなり勇気を出したんだぞ」

「ふふっ、珍しいものが見れました。これは、自慢できそうです」

 

 楽しそうで何よりだ。とはいえ、自慢のされかたによっては、後が怖い。あまり無いとは思うが、可能性はあると言えるレベルなんだよな。実際、ギスギスしている姿は何度か見ているし。

 

 とはいえ、あまり疑ったところで、そこまで意味はないんだよな。まあ、少しくらいは言葉にしても良いか。

 

「あんまり挑発しないでくれよ。前みたいなのは、勘弁してくれ」

「努力しますけど、約束はできないですね。安心してください。あたしだって、仲良くしたいと考えていますよ」

 

 言葉の最後に、ニッコリと笑う。まあ、本心ではあるはずだ。ラナは基本的には良い子だからな。少し病んでいる部分はあるが、逆に言えばそれだけだ。

 

 俺に対する執着は感じられるにしろ、いたずらに人を傷つける人ではないよな。少なくとも、敵ではない相手は。

 

「なら、良いのか? さて、そろそろだな。行こうか」

「紳士らしく、エスコートしてくださいね」

「頼りないとは思うがな。行くぞ、お姫様」

「はい。どこまでも、着いていきます」

 

 手を合わせながら、舞台へと進んでいく。そこでは民衆が待っており、俺達の姿を見て歓声が上がった。

 

 そこでラナの目を見ると、頷かれる。いったん手を離して、俺は前を向いた。そして、腹から息を吸って話していく。

 

「ここに俺達は、ブラック家とインディゴ家の同盟を宣言する! お互いが支え合い、素晴らしい未来に進むことを誓おう!」

「あたし達の手で、皆さんの幸福を勝ち取ってみせます! 恩人である、レックス様とともに!」

 

 ラナの言葉は、予定していたものと違う。台詞を間違えたかのような焦りは感じない。とても堂々としている。これは、どっちだ? 間違えたと思わせないように、態度に出していないだけか? あるいは、何か狙いがあって台詞を変えているのか?

 

 まあ、どちらにしても、止める訳にはいかない。俺が言葉を詰まらせれば、民衆は違和感を持つだろう。そうさせないように、続けていくだけだ。

 

「……? こほん。俺もラナも、これまでに何度も協力して、困難を乗り越えてきた! 同じように、お互いの家の苦境も乗り越えてみせる!」

「はい。あたしは、この命をレックス様に救われました。そのつながりは、絶対に手放しません」

 

 その言葉を言った後、ラナは俺の前にひざまずいて手を取る。完全に、予定にはない行動だ。

 

「おい、ラナ……?」

 

 俺が困惑したのを気にした様子もなく、ラナは俺の手の甲に唇を落としていく。まるで、忠誠を誓うかのように。そして、言葉を続けていく。

 

「これが、その証です。あたしは、あたしの全てをレックス様に捧げます。ずっと一緒ですからね、レックス様」

 

 そう言って、輝くような笑顔を見せてきた。民衆も、どこかざわめいている様子だ。

 

「ラナ様、騙されてるんじゃないか……?」

「見てみろ、あんなに笑顔じゃないか! 騙されてる人の姿かよ!」

「ラナ様の未来に栄光あれ! ブラック家に祝福を!」

「ふたりの未来に幸あれ! その絆は永遠だ!」

 

 今の流れを聞いて、確実にサクラだと理解できた。そうじゃなきゃ、今みたいな言葉が出てくるはずがない。そして、観衆が万歳を始めていく。複数の箇所から、どんどん流れが広がる。完全に、集団心理を利用しているじゃないか。

 

 間違いなく、はめられた。ブラック家で開催するのも、これを狙っていたからだ。俺の家で開催すると、ラナの立場が下みたいになる。意図的に、その状況を作り出したんだ。やりやがったな、ラナ。

 

「お前、狙っていたな……。もう引き返せないじゃないか……」

「言ったでしょう? あたしは、悪い子なんですよ。レックス様だって、騙しちゃうくらいに」

 

 そう言って、ラナは悪い笑みを浮かべる。心底楽しいというように。完全に騙された。もはや、俺とラナは対等な関係ではない。自分の立場を下にするために罠にはめるとか、読めるわけがない。

 

 何もかもが、想定外だ。だが、もう立ち止まれない。俺はラナの主として、堂々とするしかないのだろう。

 

「仕方のないやつだ。だが、俺達は仲間として協力し合う。それを忘れるなよ」

「もちろんですよ。お優しいレックス様の姿は、みんな見ていますよ」

 

 俺が困惑するのも、予定のうちか。まったく、とんでもない女狐だな。そんなやつだなんて、知らなかったぞ。

 

 その策略を利用して、俺に仕えようとする。ハッキリと分かった。ラナの依存は、とてつもなく根深い。なら、俺が受け止めてやらないとな。きっと、家族が信じられなかったことこそが、今のラナの根源なのだろうから。

 

 だったら、まずは今回の宣言を閉めないとな。予定はない言葉だが、なんとか思いついた言葉を口にしていく。

 

「後で覚えておけよ……。さあ、俺はラナの献身を無駄にはしない! 必ず、両家に最高の未来をもたらしてみせる!」

「あたしは、その道を切り開きます! 皆さん、見ていてくださいね!」

 

 その言葉とともに、再び歓声が上がった。これからだって、ラナとの関係は続く。それだけは、確かに嬉しいと思えた。

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