物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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31話 侵食する悪意

 カミラが襲われた事件があって、俺は警戒を高めていた。黒幕の目的は分からない。それでも、俺の親しい人が傷つかないようにしたいところだ。

 

 とはいえ、俺にできることは、周囲に俺が危険を察知するための道具を贈ったところで終わっていた。犯人が分からないと、どうしても後手に回ってしまう部分がある。なので、即座に対応できるように準備する形にした。

 

 そんな時間を過ごしていたのだが、また状況が進むことになる。きっかけは、メイド達が部屋にやってきたこと。

 

「レックス様、フェリシア様がいらっしゃったとのことです」

「またか? つい最近やって来たばかりじゃないか」

 

 帰ってすぐにとんぼ返りしたくらいじゃないか? また何かあったのだろうか。そう考えるが、まずは会うところからだよな。

 

「ご、ご主人さまとなら、わたしは、何度でも会いたいですっ」

「俺は最高なんだから、当然だよな」

 

 自分で言っておいて何だが、恥ずかしいセリフ過ぎる。でも、自信満々なのがレックスなんだよな。正直、キャラを演じるのはしんどい部分もある。だが、少なくとも今はやめられない。悲しいことだがな。

 

 できれば、アリアやウェスにも本音を伝えたい。俺にとって、大切な相手なのだと。だが、ブラック家でメイドに好意を示すのは、相当危険に思えるからな。今は無理だ。

 

「今回も、ウェスさんに衣装を整えてもらいましょう」

「が、頑張りますねっ、ご主人さま」

 

 ウェスの成長が嬉しくなるが、表に出せない。できれば、よくやったと言ってやりたい。ありがとうと言いたい。ずっと仕えてくれと伝えたい。いつか、本音が言えるように。そう祈るばかりだ。

 

 それから着替えを終えて、フェリシアを迎えに行く。なにか嫌な予感がするが、フェリシアと会える事実は嬉しかった。基本的には、もっと親しくなりたい相手だからな。困らされることも多いが。

 

「よく来たな、フェリシア。いったい何の用だ?」

「つれませんわね。久々の再会ですのに」

 

 そんな事を言うが、久々なんて大げさを通り越してウソでしかない。まあ、毎日会えるのなら、そっちの方が嬉しいが。

 

「からかうな。この前に会ったばかりだろう」

「それでも、すぐやってくるだけの用ですわよ」

 

 フェリシアにも問題があったのだろうか。そんな心配をしてしまう。もしケガでもしていたら。俺の力で治せるだろうか。

 

「……何かあったのか?」

「そう心配なさらず。軽く傭兵に襲われただけのことですわ」

 

 心臓が止まったかのように錯覚した。カミラに続いて、フェリシアまでも。怒りがふつふつと湧き上がってくるが、八つ当たりする相手も居ない。まさか、フェリシアに怒りを向ける訳にはいかないのだから。

 

「なっ! ……いや、今ここに居るということは、無事だったんだな」

「当然ですわよ。せっかくですから、わたくし達で討伐に向かいませんこと?」

 

 ずいぶんと気楽なものだ。正直、安心できたが。少なくとも、トラウマになったりはしていない。それが分かっただけでも。

 

 俺と一緒に討伐に向かうのなら、ケガをさせずに済むだろうな。闇の衣(グラトニーウェア)で守ってしまえば、フェリシアは安全なはずだ。なら、ひとりで討伐に向かわれるよりは都合が良い。ここは、受けておくべきだろう。

 

「つまり、まだ残党が居るんだな。分かった。ところで、どんな敵かは分かっているのか?」

「強いて言うならば、鷹の模様を()った衣装を着ていましたわね」

 

 鷹の模様というのは、『デスティニーブラッド』では印象的な模様だ。主人公であるジュリオに協力したり、敵対したり。物語にこまめに関わってきた集団である。

 

 特に覚えているのは、帝国の皇帝を襲撃する事件だよな。力こそ全てのスコルピオ帝国で、次代の皇帝になるためにとある人間が依頼したもの。結局、主人公が撃退してしまうのだが。それが、次の事件へとつながるんだよな。

 

「ということは、フリュー傭兵団か」

「ご存じですの?」

 

 原作では、何度も出てきたからな。名前は忘れられなかった。首領がブラッドと名乗っていて、本名は分からない。報酬次第で何でもやる、良くも悪くも傭兵らしい集団だった。

 

「それなりに、名のしれた傭兵団らしいな」

「ではレックスさん、拠点を調べて討伐に向かいましょう。そのついでに、依頼人を探りましょう」

「じゃあ、いったん調査だな。とりあえず、拠点が分からないことには話が進まないからな」

「そうですわね。じゃあ、しばらくここに滞在しますわ。よろしくお願いしますわね」

 

 フェリシアが去っていき、俺はひとりで部屋に戻った。

 

「フリュー傭兵団を倒してしまえば、原作での事件が無くなってしまう」

 

 それが、俺にとっての大きな悩みだった。俺の大きなアドバンテージは、原作について知っていること。その知識を、無価値なものにしかねないんだ。フリュー傭兵団は、何度も原作に関わってきたからな。

 

「いや、それでも、フェリシアの危険を放置する訳にはいかない。原作崩壊については、諦めよう」

 

 原作の流れを保つためにフェリシアを見捨てるなんて、あり得ない。それに、フェリシアが死んでしまえば、どうせ原作は崩壊するんだ。その考えもあって、結論はすぐに決まった。

 

 それから次の日、フェリシアが俺の元へとやってきていた。何かあるのだろうか。まあ、ただの雑談でも楽しいけどな。

 

「結局、本拠地は分かったのか?」

「ええ。ですから、ふたりで討伐に向かいましょう。逢引ですわね」

 

 ということで、俺たちでフリュー傭兵団を倒しに行くことになった。何が何でも、フェリシアは守らないとな。

 

「物騒な逢引もあったものだな……。闇の衣(グラトニーウェア)。とりあえず、これで安全だろう」

「わたくしにも、防御魔法をかけるのですか。信頼なりませんか? なんて、冗談ですわ。ありがとうございます」

 

 そのまま、情報のあった拠点へと向かう。ボロボロな建物で、見張りがいる。そこで、そのまま突っ込んでいく。攻撃されても、闇の衣(グラトニーウェア)がある限りは大丈夫だろう。

 

 まっすぐ向かったので、すぐに敵に見つかってしまう。だが、武器を構えたりはされていない。

 

「なんだ、ガキふたりか? 迷い込んだのなら、帰りはあっちだぜ」

「あなた達の死神が、やってきましたわよ。獄炎(インフェルノフレイム)!」

 

 フェリシアの炎で、敵は灰になっていく。現実感のない光景が、人が死んだのだという実感を薄めてくれた。

 

「やべえ、こいつら、ただのガキじゃねえ! お頭を呼べ!」

 

 そう言って何人かが逃げ出していき、赤い髪の男が現れた。ひげを蓄えており、中年といった感じだ。ブラッドと名乗る、傭兵団のリーダー。原作でも、それなりの重要人物。だが、もう死ぬだろう相手だ。フェリシアが殺さなくとも、捕らえられたら、ブラック家かヴァイオレット家が殺すだろう。

 

 つまり、もう原作が崩壊することは確定してしまった。悲しいが、仕方ない。

 

「お前たちが、襲撃者か。ガキとはいえ、容赦はしない」

「わたくしを襲撃しておいて、よくもぬけぬけと」

「お前、フェリシア・ルヴィン・ヴァイオレットか!」

 

 そのまま、ブラッドは剣を取って攻撃してくる。魔法も放ってくる。だが、闇の衣(グラトニーウェア)の守りは抜くことができない。後はどうとでも料理できた。

 

 という訳で、剣をへし折って、ついでに両手足も折っていく。これで逃げ出せないから、尋問も簡単だろう。

 

「さて、これで終わりだな。誰からフェリシア襲撃の依頼を受けた。答えてもらおうか」

「レックス・ダリア・ブラックだよ」

「俺が?」

 

 心当たりがない。つまり、どういうことだろうか。少し困惑してしまった。

 

「当然、偽物ですわ。誰かが、レックスさんに罪を着せようとしましたのね。では、さようなら」

 

 そのまま、俺が止める間もなく、フェリシアはブラッドを燃やし尽くしていく。残ったのは、灰だけだった。

 

 これで、完全に原作知識があてにならなくなった。だが、問題はそっちじゃない。

 

 カミラを襲撃した犯人、フェリシアの攻撃を依頼した黒幕。どちらも、俺を狙っているのだろう。俺をおとしめるために、彼女達を危険にさらした相手。なんとしても、許しはしない。改めて、決意を固めた。

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