物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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338話 ハンナ・ウルリカ・グリーンの決意

 わたくしめは、ミーア殿の命を受けてルース殿に協力することになりました。ルース殿から声をかけられる形になりましたが、元々の予定として、わたくしめはルース殿に申し出るつもりだったのです。

 

 とはいえ、わたくしめだけならば、ミュスカ殿は誘わなかったでしょう。ルース殿は、ミュスカ殿の価値をよく分かっておられる。ミュスカ殿の女性的魅力は、とても有用だったのですから。

 

 ミュスカ殿と行動することもありますが、とにかく様々な人から声をかけられていますね。競うように自分の魅力を表現しておられました。それだけでなく、意図的に他の人の前で声掛けされることもありました。おそらくは、競争心を煽っていたのでしょう。

 

 本当に、ミュスカ殿は計算高い方です。どうすれば自分の価値を高められるのか、よく知っておられる。ルース殿のためだと思えば、納得できることですね。どうにも、ミュスカ殿は一途なようですから。レックス殿だけを、男として見ているようなのです。

 

 少しだけ、ミュスカ殿に嫉妬してしまう部分はありますが。ミュスカ殿は、レックス殿に特別扱いされている。そんな気がする時もあるのです。他の人とは、向けられる視線が違っているような。

 

 だからといって、レックス殿がわたくしめを大事にしてくださる現実が消える訳ではないですが。思うところはあるのです。それも含めて、今は楽しいのです。青春を味わっていると言えば良いのでしょうか。

 

「ミーア殿下には、感謝しないとなりませんね。ルース殿の手伝いに派遣してくださったこと」

 

 ミーア殿下のおかげで、友人との時間を作れたのです。そして、友人たちの魅力を再確認できたのです。ルース殿は努力家なだけでなく、確かな計算高さを持っていると知れました。

 

 ミュスカ殿は、自分の魅力を高めるために努力を重ねている。今までは、見えなかった部分です。

 

 そしてレックス殿は、圧倒的な力を持ちながらも、自分の不足を知っている。わたくしめ達を、尊敬してくださる。誰もが最高の友人で、わたくしめの幸運を実感できましたね。

 

「やはり、わたくしめの友人たちは素晴らしい。近衛騎士たちとは、何もかもが違うのです」

 

 足を引っ張り合い、大した努力もせず、ただ人を馬鹿にするだけの人たち。わたくしめ達の、足元にも及ばない実力で。本当に、嫌になるものです。

 

 わたくしめの友人たちなら、お互いに影響を受けあって、良いところを取り入れあって、切磋琢磨できるのです。お互いを尊敬し合って、共に成長を喜べるのです。

 

 そして何より、わたくしめ達は手を取り合って助け合える。近衛騎士たちには、一生持ち得ないものですね。

 

「お互いがひとつの目標に向けて進む。それだけのことが、とても楽しいのです」

 

 今は、ルース殿がホワイト家の当主として立場を固めるために。きっと、わたくしめやミュスカ殿が困っていたら、ルース殿は手を貸してくださりますから。友人として、とても頼れる存在なのです。

 

 わたくしめに匹敵あるいは凌駕する高い実力を持っていながら、まだ先に向けて進むことができる。きっと、わたくしめもルース殿も、同じものを目標としているのでしょう。

 

「今みたいな関係を築けたのも、レックス殿のおかげですね……」

 

 いつかレックス殿に勝ちたい。そんな気持ちで、わたくしめとルース殿は繋がっていたのです。そして、レックス殿は突っかかるわたくしめ達を受け入れてくださった。だからこそ、友人として今を生きているのです。

 

 きっと、レックス殿以外の誰だったとしてもダメだったのでしょう。本当に、レックス殿には感謝したいですね。ミュスカ殿と友人になれたのも、レックス殿が紹介してくださったからですし。

 

 やはり、努力を重ねる人の周囲には、努力家が集まるのです。レックス殿もミュスカ殿も、手前味噌ですがわたくしめも。フェリシア殿やラナ殿、カミラ殿も同じでしたから。そして、ミーア殿下とリーナ殿下も。

 

 近衛騎士たちは、愚かな人の周りに愚かな人が集まる。そんな構図でしかないのですから。できるだけ早く、近衛騎士でなくなってしまいたいのです。あんな者たちと、同じだと思われたくありませんから。

 

 有象無象は、知ったことではないです。ですが、友人たちに近衛騎士たちと同じとみなされることだけは嫌なのです。想像しただけで、震えてしまうほどに。わたくしめは、大切な友人に誇れる存在でありたいのです。

 

「近衛騎士のくだらない姿を見ずに済むのも、ありがたいことです」

 

 朱に染まれば赤くなると言いますから。わたくしめは、レックス殿やルース殿といった友人たちに染まりたい。近衛騎士と同じになるなど、想像すらしたくない。

 

 だから、今はとても幸せなのです。友人たちと協力して高め合う時間は、失いたくないのです。わたくしめは、胸を手で抑えました。

 

「もっともっと引き伸ばしたいと、思ってしまいますな」

 

 今みたいな時間が、ずっと続いてほしい。それが、わたくしめの本音だったのです。永遠に友人たちと過ごせるのならば、どんなことでもしたいと思うほどに。

 

 きっと、今のわたくしめは、誰かを生贄に捧げれば良いのなら、捧げてしまうのでしょう。レックス殿の友人としては、とても言葉にできませんが。

 

 本当は、ルース殿の苦境がもっと続けば良いと思っているわたくしめもいるのです。醜いこと、この上ない。

 

「でも、皆さんのためにも、しっかりと問題を解決しなければなりません」

 

 それを忘れてしまえば、わたくしめの感じている友情が嘘になってしまうのです。だから、裏切れない。わたくしめは、友人だけは失いたくない。他の何を切り捨てることになっても構わない。どんな苦難が待っていても、乗り越えるだけ。だから、ずっと。

 

 わたくしめは、拳を強く握りしめました。ルース殿の力になると。友人たちの剣であると。その誓いを胸に。

 

「わたくしめは、皆さんの誇れる友人でありたいのですから」

 

 それだけが、わたくしめの本当。憧れも理想もすべて失った愚かな女の、ただひとつだけの光。その光に焼かれるのだとしても構わない。わたくしめは、皆さんという光に救われたのですから。

 

「近衛騎士になどならなければ、もっと自由に生きられたのでしょうに」

 

 もっと気軽に、レックス殿に会うこともできたでしょう。フェリシア殿やラナ殿に、先を越されることもなかったでしょう。かつて近衛騎士になるために努力していたわたくしめは、本当に愚かでした。もっと大切なものがあるのに、見えていなかったのですから。

 

 近衛騎士という立場が、ただの友人と過ごすことすら妨害してくるのです。もう、許す気はないですね。たとえ地に頭を擦り付けようとも、わずかな慈悲も湧かない。その確信がありました。

 

「本当に、邪魔な人たちです。ミーア殿下も、きっと同じ気持ちなのでしょう」

 

 ですから、近衛騎士にはどうでもいい仕事ばかりを任せているのでしょう。信頼など、初めからしていない。それは、わたくしめにも分かるのです。ミーア殿下は、本当は近衛騎士を捨てたいと感じている。そのはずなのです。

 

「やはり、いらない。今の近衛騎士は、レプラコーン王国にも、ミーア殿下にも必要ないのです」

 

 愚かでくだらないガラクタが、いつまでも良い気でいることは許されるべきではない。いえ、わたくしめが許さないのです。他の誰が許したとしても、どれほど救済を求めたとしても、もはや結論は変わりません。

 

「わたくしめも、行動を起こすべきなのでしょうな。ルース殿のように、フェリシア殿のように、ラナ殿のように」

 

 わたくしめの力をもってして、現状を打ち破るべきなのです。もはや、言葉を交わす意味などないのですから。とはいえ、正面から切り結ぶだけでは、芸がありませんよね。レックス殿にも楽しんでいただける演目にするのが、わたくしめの役割でしょう。そうですよね、ミーア殿下。

 

「今のような楽しい時間を続けるためにも、邪魔者は消し去ってしまわなければ」

 

 今だけが、あなた達が平穏に過ごせるのです。命乞いをすることすら、認めない。ただ苦痛の中で死ぬことだけが、罪を贖う道なのですから。覚悟すらさせないまま、地獄に送ってやる。

 

「レックス殿を軽視するだけで、わたくしめ達の敵になるには十分なのですから」

 

 ですから、手を貸していただきますよ。レプラコーン王国における近衛騎士の歴史に幕を引くために。わたくしめが、導いてみせましょう。

 

「待っていてくださいね、レックス殿。あなたの友人として、敵を排除してみせますから」

 

 その未来を想像するだけで、心からの笑顔を浮かべられる気がしました。レックス殿の顔を思い浮かべて、近衛騎士の顔を思い浮かべて、わたくしは決断したのです。

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