物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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348話 どこかにある壁

 とりあえず、これから先に起こるだろう戦いに向けての準備は、一通り終わったように思える。少なくとも、俺の関わる分は。ということで、後は動きを注視するだけだな。

 

 ルースの中では、ハッキリした計画があるのだろうが。俺には伝えられていないからな。今のところは、待つことしかできない。まあ、アイボリー家に転移する予定ではあるので、侵食させておいた魔力をチェックはしたのだが。

 

 実行の段階になったら、流石に計画を教えてもらえるのだろうが。まあ、隠す理由は分かるからな。知っている人が少ないほど、漏れにくい。当然のことだ。

 

 結局は、ルースにとって本当の意味で信頼できる相手は少ないのだろうな。俺ですら、警戒されているのかもしれない。環境を考えれば、不思議はないのだが。ルースは父すら殺すことになったんだ。人間不信になるのは、まったくおかしくない。

 

 まあ、あまりルースを疑うのもな。アドリブでも合わせられるという信頼の形とも、解釈できるのだから。

 

 そして今は、現状についての報告会をしている。スミアが色々と動いていたようで、それについて聞いているところだ。

 

「ルース様、言われていたことは全部終わっちゃいました! 後は、実行を待つだけですね!」

「ええ。あたくし達が先に動くのか、相手の方が早いのか。いずれにせよ、準備は整ったわね」

 

 ようやく、本格的な動きが始まるのか。準備段階が長かったから、かなり気合いが入るところだ。ルースの今後に関わるから、確実に成功させないとな。

 

 さて、どうやって戦うのだろうな。ルースとは別々に行動するだろうから、気になるところだ。俺のやるべきことは、アイボリー家の当主であるユミルを討つことだろうからな。カールについては、姉であるルースが手を下すのだろう。

 

 正直に言えば、代わりに殺してやりたい気もするが。ルースの覚悟も計画も、邪魔できないからな。自分の手で兄弟を殺す感覚なんて、知らない方が良いのだが。

 

「なら、俺も戦う準備をしておかないとな。それくらいしか、できることがないし」

「私と合わせる訓練でもする? レックス君と一緒なら、すっごく楽しい時間になると思うよ」

 

 はにかみながら、こちらを見てくる。ミュスカは雰囲気が柔らかくなった気もする。どこか何かが変わったような感覚があるんだよな。今のところは、良い方向性だと思える。成長したということかな。

 

 俺も、みんなに成長したと思ってもらいたい。そのためには、しっかりとみんなに寄り添っていかないとな。俺に必要なのは、強さではないのだろうから。いや、心の強さは大事だろうが。もう、単純な強さを求める段階は過ぎたと思う。まだ先はあるにしろ。

 

 きっと、本当に求められているのは、優しさなのだと思う。みんなに優しいとは言われているが、きっと違う。俺は、みんながまっすぐに進めるように支えるべきなんだ。これまでのように、ただ近づこうとするだけでなく。

 

 ケンカをする勇気が、今の俺に足りないものなのかもしれない。どこかで、ぶつかり合いを恐れている気がするからな。

 

 まあ、まずは敵を倒してからだ。そうじゃなきゃ、お互い生き延びられないだろうから。

 

「わたくしめ達は、仲間はずれですか。いえ、状況を考えれば理解できるのですが」

「終わったら、一度ゆっくりと過ごしましてよ。あたくし達の日常を、楽しむのよ」

 

 ルースの柔らかい顔を見ていると、信頼を感じる。やはり、俺達との時間を大切に感じてくれていることは間違いない。なら、平和な日常を過ごせる輪を、広げていければ良いだろう。スミアから始めて、もっと多くを。

 

「私も、混ぜてもらいたいです! レックス様とルース様の姿を、間近で見たいですね!」

「今はまだ早くてよ。スミア、あたくし達の中に入りたいのなら、もう少し同じ時間を過ごすことね」

 

 ルースはすぐに断った。どこかで、スミアを信じられていないのだろうか。俺としては、信頼に足る相手なのだが。何を警戒しているのだろうな。流石に、スミアが裏切るとは思いたくないが。

 

 とりあえず、少し様子を見てみるか。ルースとスミアの反応に、気をつけたい。

 

「割と仲良くなれたと思うけどな。俺としては、歓迎したいところだ」

「私も、別に構わないよ。レックス君が気を許すのが早いなとは、思うけどね」

 

 ミュスカは少し寂しそうだ。まあ、原作の知識もあって、ミュスカを疑っていた期間は長い。だから、思うところがあるのは仕方のないことだ。

 

 というか、しっかり謝っていなかったかもしれない。なら、ちゃんと頭を下げないとな。実際、無実の罪だったのだから。

 

「警戒していたのは悪かった。本当は、もっと早く信じるべきだったんだよな」

「ううん。私がレックス君に色々と狙っていたのは事実だから。仕方ないよ」

 

 微笑みながら言う言葉に、とても驚いた。目を見開いていたかもしれない。ただ、嬉しくもある。今の言葉は、きっとミュスカが本当の意味で心を開いてくれた証なのだろうから。

 

 やはり、ミュスカを信じてよかった。素直に、そう思える。

 

「おや、初耳ですな。ミュスカ殿は、初めからレックス殿に好意的だったように見えましたが」

「あたくし達が突っかかるから、巻き込んだのかもしれなくてよ」

「ううん。レックス君は、間違いなく私だけを警戒していたよ。今は、信じてくれているけどね」

「レックス様の過去、気になっちゃいます! もっと聞きたいですね!」

「スミア、遠慮というものを覚えたらどう? あたくし達の関係を考えなさいな」

 

 ルースの目は、どこか冷たい。どうしてなのだろうな。スミアが俺達の関係に入り込むことを、拒絶しているように思える。そんな事をする理由なんて、思い当たらないが。

 

 まさか、スミアの裏切りの兆候をつかんでいるとか? いや、無いだろう。少なくとも、俺だけはスミアを信じてみせる。俺は信じることでだけ、前に進めるんだから。

 

「しっかり働いてくれていると思うけどな。ルースは、なにか物足りないのか?」

「そうね。まあ、レックスさんが気にすることではなくてよ」

「大丈夫です、レックス様! もっともっと頑張って、しっかり信頼を手に入れちゃいますから!」

「なら、良いが。スミア、心配事があったら、気軽に言ってくれよ」

「レックス君って、やっぱりスミアさんには甘いよね。どうしてなんだろう?」

 

 ミュスカは首を傾げている。さっき言われたこともあって、少し怖い。スミアに対して甘いのに、どうしてミュスカには違ったのかと聞かれているような。

 

 ただ、俺は仲間をまっすぐに信じると決めたんだ。その道に従っているだけ。とはいえ、言い訳だよな。ミュスカが傷ついた事実は、変わらないのだろうから。

 

「推測するに、仲良くしたいのでありましょうな。好みなのでしょうか」

「そんな、照れちゃいますよー! レックス様の気持ちを奪えるなんて!」

 

 スミアは、こちらの手を握ってきた。感極まったかのように、頬を赤らめながら。その姿を、ルースは冷ややかな目で見ていた。

 

「……スミア。分かっているわよね?」

「もちろんです、ルース様! あなたの邪魔には、なりませんから!」

 

 低い声で語るルースに、元気いっぱいに返すスミア。その姿に、どこか不穏さを感じている俺が居た。気のせいだと思いたいのだが。

 

「ふふっ、嫉妬しているのかな? なんて、私も同じなんだけど」

「勘弁してくれよ……。少なくとも、今回の事件が終わった後にしてくれよ……」

「それもこれも、ルース様次第です! 私のせいじゃありませんよ!」

 

 そう語るスミアの目は、どこか挑発的に見えた。特に、ルースに対して。そんな姿に、俺は不安を隠しきれていたのだろうか。

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