物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
王宮の地下には、邪神の眷属が封印されている。そして同時に、闇魔法使いが増えた件の黒幕がいる。だから、俺は地下に入るための手段として、一度罪人扱いされることになった。
罪人として、禁足地にされるような危険地帯に押し込められる。そんな罰として、中核である王宮の地下に入り込むために。
ミーアは、いずれ評判を挽回するために考えてくれるという。だが、少なくとも一時的には、俺は罪人となる。だから、周囲には敵が増えるのだろう。それを考えると、できれば取りたくない手段ではある。
ただ、今のまま状況を放置すれば、どんどん闇魔法使いは増える。その被害だって無視できない。そして何より、邪神の眷属が解放されるかもしれない。つまり、王宮を拠点とするミーアやリーナに危険が迫るということなんだ。
だから、俺としては納得しているつもりだ。みんなを守れるのなら、多少の傷くらいどうってことない。そのはずだ。
「さて、レックス君。準備は良い? なんて、そんな姿で万全も何もないわよね」
「まったく、姉さんってば。ただの拘束なんて、レックスさんを縛る枷にはなりませんよ」
俺はミーアとリーナの手によって、拘束具を着けられている。いわゆる手枷と足枷だな。まあ、確かに魔法を使えば転移でも何でもできるから、そこまで封じられている感じはしない。
転移にマーキングが必要なければ、こっそり侵入してこっそり解決するという手段もあったのだが。どうしても、闇魔法も万能とはいかないな。
実際のところ、動きづらいのは確かだ。歩くのも面倒だと思う程度には。剣も振れないし、戦術の幅は狭まっている。それでも、並大抵の敵は倒せるにしろ。
「いや、普通に動きづらいし、手札がひとつ消えるんだからな? まあ、その気になれば壊せるとはいえ」
「ごめんね、レックス君。私には、他の手段は思いつかなかったの。許してとは言わないわ」
「姉さんってば、ずるいですよね。本当に許されなかったら、大泣きするでしょうに」
ミーアは眉を困らせながら、こちらに頭を下げてくる。俺の発想力では他の手段は思いつかなかったのだから、仕方ない。
禁足地にされるんだから、間違いなく監視はある。それをくぐり抜けて侵入する手段は、今の俺にはないからな。本当に、残念なことだ。
リーナはこちらを心配そうに見ている。皮肉屋に見えて、なんだかんだで優しいんだよな。だからこそ、かつて救えたことは俺の誇りなんだ。リーナが今も生きているという事実は、俺の明確な成果なのだから。
そんな大切な友達を救えるのだから、悪く思われるくらい耐えてみせる。それに、どうせもともと好感度は低かったからな。アストラ学園では、友達以外からは遠ざけられていたのだし。恐れられても居た。だから、今更と言えば今更なんだよな。
「許すよ。ミーアもリーナもな。俺を大切な友人だと思ってくれていることは、信じているんだから」
「大切な友人、ですか。レックスさんは、もう……。でも、いま言えることでもないですか」
「私達の絆が途切れないように、頑張るわ! それだけは、決して壊れない誓いよ!」
こっちをまっすぐに見ながら、ミーアは強く頷いた。リーナはどこか、呆れたような顔をしている。ただ、ふたりとも笑っているあたり、ミーアの誓いは果たされるだろう。そう思えた。
やはり、大切な友達とずっと仲良くしていたい。それが、俺の戦う理由なんだ。再確認できた。
「ああ。お前達と過ごす未来のためだ。このくらい、どうってことないさ」
「レックスさんは、もっと怒っても良いんですよ。下策も下策だと、みんな分かっているんですから」
まあ、うまい策とはとても言えないよな。もっと良い手段がないかと、今でも思う。ただ、ジャンやミルラ、それにミーアも居て思いつかなかったのだから、本当に他の手段はなかったのだろう。だから、俺は納得している。
それに、俺個人にどれだけ悪意を向けられたって、きっと耐えられる。親しい人さえ信じてくれているのなら。だから、大丈夫だ。
「いや、怒ったりしないさ。俺が怒るのは、大切な人が傷ついた時だけだ」
「まったく、甘すぎるんですよ。これからレックスさんが、どんな目を向けられるか……」
「他の誰が敵になったとしても、私達だけはずっと味方よ。それだけは、信じてほしいの」
ミーアが俺を見る目は、少しだけうるんでいた。だから、不安もあるのだろう。当たり前だよな。友達を罪人扱いするのだから。ミーアだって、きっと苦しい。だから、俺はやってみせる。必ず、今回の黒幕を討ち果たすだけだ。
「ああ。だから、遠慮せずにやってくれ」
「分かりました。レックスさんの想いに応えるためにも、容赦はしません」
それから俺は、鎖に繋がれながら、玉座の間へと連れて行かれた。その中で、周囲の視線は厳しいものだ。侮るような目、汚いものを見るような目、そして嫌悪感が見て取れる。
だが、知ったことではない。俺には、最後まで信じてくれる仲間がいるのだから。それで十分だ。
周囲の視線を受けながら、ミーアとリーナは一番前に立って、堂々と話し始める。
「ここに来たるは、レックス・ダリア・ブラックです! 闇魔法使いが増えた事件の、重要参考人!」
「闇魔法使いを量産できるほどの魔法使いなど、限られています。ですから、筆頭容疑者と言えるでしょうね」
その言葉に、周囲の人達は満足そうにしている。本当に、嫌われたものだ。だが、ミーアとリーナが俺の最大の味方なんだ。だから、構わない。
もしかしたら、強がりなのかもしれない。諦めなのかもしれない。だが、俺が戦う理由はずっと変わらない。守りたい誰かのためだけだ。そして、今この場にいるほとんどの人間は、別に守りたいと思わない。それだけのことだ。
「だから、私達は決めました! 禁足地である王城の地下にて、おとなしくしてもらうと!」
「レックスが無実であるのならば、自然と状況は形になるでしょう。ねえ?」
「そうだ! レックス・ダリア・ブラックに懲罰を!」
「王家に食い込もうとした欲深き罪人に、裁きを!」
ブーイングのようなものと同時に、俺に対する悪意の言葉が叩きつけられていく。そしてミーアは微笑んで、俺をつなぐ鎖を手に持った。
「では、最後には私の手で送ってあげましょう。さようなら、レックス・ダリア・ブラック」
そのまま、俺は地下へと連れて行かれた。ミーアに離された後、後ろで扉を閉めたような音が聞こえた。目の前は真っ暗で、ほとんど何も見えない。軽く歩くと、足音だけが響く。そんな中に、大きな気配が広がっているように思えた。
「さて、ここからだな。確かに、強い魔力を感じる。邪神の眷属は、すぐそばに居るのだろうな」
その方向に進んでいくと、魔法陣のようなものを感じた。心臓の鼓動のようなものが聞こえて、同時に魔力が広がっている。間違いなく、邪神の眷属だ。
ということで、ミーアに対して通信していく。現状を報告するために。
「ミーア、聞こえるか? ここに、邪神の眷属を確認した。封印は、解ける手前だと言って良い」
「じゃあ、レックス君。3日後に封印を解除してくれる? そうしてから、王城の入口に転移させてほしいの」
何気ない口調で、そんな事を提案される。俺はどこかに、空恐ろしさを感じた。王城の入口に邪神の眷属など転移させてしまえば、きっと被害が出るだろう。犠牲者も、間違いなく出る。
にも関わらず、ミーアは平気で提案してきた。その事実が、とても冷たさを感じさせてきたんだ。
「だが、そうなってしまえば、王城に被害が……」
「ううん、レックス君への疑いを晴らすことも、必要なことだから。転移できる食料や道具は、私の私室においておくから」
言っている意味は、分かる。俺が地下に送られた直後に闇魔法使いの増加が止まれば、俺が黒幕だという話に信憑性が増す。だから、すぐに邪神の眷属を倒してほしくないのだろう。
そして、邪神の眷属が倒された段階で闇魔法使いが増えなくなれば、黒幕が何者かはハッキリする。王城の入口から現れたのなら、地下とは関係ないと思われる可能性が高い。
なら、どうするか。しばらく悩んで、俺は決めた。俺が黒幕だと思われたのなら、ブラック家のみんなに迷惑がかかる。そのために、ミーアの案に乗ろう。ただし、譲れないことだってある。
「……分かった。ブラック家のみんなに、迷惑はかけられないからな。だが、被害を減らす努力はしてくれ」
「もちろんよ! 無実の人を傷つけたりなんてしないわ!」
明るい声で宣言するミーアの声に、少しだけ安心している俺が居た。