物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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389話 戦略の意図

 王宮の地下には、邪神の眷属が封印されている。そして同時に、闇魔法使いが増えた件の黒幕がいる。だから、俺は地下に入るための手段として、一度罪人扱いされることになった。

 

 罪人として、禁足地にされるような危険地帯に押し込められる。そんな罰として、中核である王宮の地下に入り込むために。

 

 ミーアは、いずれ評判を挽回するために考えてくれるという。だが、少なくとも一時的には、俺は罪人となる。だから、周囲には敵が増えるのだろう。それを考えると、できれば取りたくない手段ではある。

 

 ただ、今のまま状況を放置すれば、どんどん闇魔法使いは増える。その被害だって無視できない。そして何より、邪神の眷属が解放されるかもしれない。つまり、王宮を拠点とするミーアやリーナに危険が迫るということなんだ。

 

 だから、俺としては納得しているつもりだ。みんなを守れるのなら、多少の傷くらいどうってことない。そのはずだ。

 

「さて、レックス君。準備は良い? なんて、そんな姿で万全も何もないわよね」

「まったく、姉さんってば。ただの拘束なんて、レックスさんを縛る枷にはなりませんよ」

 

 俺はミーアとリーナの手によって、拘束具を着けられている。いわゆる手枷と足枷だな。まあ、確かに魔法を使えば転移でも何でもできるから、そこまで封じられている感じはしない。

 

 転移にマーキングが必要なければ、こっそり侵入してこっそり解決するという手段もあったのだが。どうしても、闇魔法も万能とはいかないな。

 

 実際のところ、動きづらいのは確かだ。歩くのも面倒だと思う程度には。剣も振れないし、戦術の幅は狭まっている。それでも、並大抵の敵は倒せるにしろ。

 

「いや、普通に動きづらいし、手札がひとつ消えるんだからな? まあ、その気になれば壊せるとはいえ」

「ごめんね、レックス君。私には、他の手段は思いつかなかったの。許してとは言わないわ」

「姉さんってば、ずるいですよね。本当に許されなかったら、大泣きするでしょうに」

 

 ミーアは眉を困らせながら、こちらに頭を下げてくる。俺の発想力では他の手段は思いつかなかったのだから、仕方ない。

 

 禁足地にされるんだから、間違いなく監視はある。それをくぐり抜けて侵入する手段は、今の俺にはないからな。本当に、残念なことだ。

 

 リーナはこちらを心配そうに見ている。皮肉屋に見えて、なんだかんだで優しいんだよな。だからこそ、かつて救えたことは俺の誇りなんだ。リーナが今も生きているという事実は、俺の明確な成果なのだから。

 

 そんな大切な友達を救えるのだから、悪く思われるくらい耐えてみせる。それに、どうせもともと好感度は低かったからな。アストラ学園では、友達以外からは遠ざけられていたのだし。恐れられても居た。だから、今更と言えば今更なんだよな。

 

「許すよ。ミーアもリーナもな。俺を大切な友人だと思ってくれていることは、信じているんだから」

「大切な友人、ですか。レックスさんは、もう……。でも、いま言えることでもないですか」

「私達の絆が途切れないように、頑張るわ! それだけは、決して壊れない誓いよ!」

 

 こっちをまっすぐに見ながら、ミーアは強く頷いた。リーナはどこか、呆れたような顔をしている。ただ、ふたりとも笑っているあたり、ミーアの誓いは果たされるだろう。そう思えた。

 

 やはり、大切な友達とずっと仲良くしていたい。それが、俺の戦う理由なんだ。再確認できた。

 

「ああ。お前達と過ごす未来のためだ。このくらい、どうってことないさ」

「レックスさんは、もっと怒っても良いんですよ。下策も下策だと、みんな分かっているんですから」

 

 まあ、うまい策とはとても言えないよな。もっと良い手段がないかと、今でも思う。ただ、ジャンやミルラ、それにミーアも居て思いつかなかったのだから、本当に他の手段はなかったのだろう。だから、俺は納得している。

 

 それに、俺個人にどれだけ悪意を向けられたって、きっと耐えられる。親しい人さえ信じてくれているのなら。だから、大丈夫だ。

 

「いや、怒ったりしないさ。俺が怒るのは、大切な人が傷ついた時だけだ」

「まったく、甘すぎるんですよ。これからレックスさんが、どんな目を向けられるか……」

「他の誰が敵になったとしても、私達だけはずっと味方よ。それだけは、信じてほしいの」

 

 ミーアが俺を見る目は、少しだけうるんでいた。だから、不安もあるのだろう。当たり前だよな。友達を罪人扱いするのだから。ミーアだって、きっと苦しい。だから、俺はやってみせる。必ず、今回の黒幕を討ち果たすだけだ。

 

「ああ。だから、遠慮せずにやってくれ」

「分かりました。レックスさんの想いに応えるためにも、容赦はしません」

 

 それから俺は、鎖に繋がれながら、玉座の間へと連れて行かれた。その中で、周囲の視線は厳しいものだ。侮るような目、汚いものを見るような目、そして嫌悪感が見て取れる。

 

 だが、知ったことではない。俺には、最後まで信じてくれる仲間がいるのだから。それで十分だ。

 

 周囲の視線を受けながら、ミーアとリーナは一番前に立って、堂々と話し始める。

 

「ここに来たるは、レックス・ダリア・ブラックです! 闇魔法使いが増えた事件の、重要参考人!」

「闇魔法使いを量産できるほどの魔法使いなど、限られています。ですから、筆頭容疑者と言えるでしょうね」

 

 その言葉に、周囲の人達は満足そうにしている。本当に、嫌われたものだ。だが、ミーアとリーナが俺の最大の味方なんだ。だから、構わない。

 

 もしかしたら、強がりなのかもしれない。諦めなのかもしれない。だが、俺が戦う理由はずっと変わらない。守りたい誰かのためだけだ。そして、今この場にいるほとんどの人間は、別に守りたいと思わない。それだけのことだ。

 

「だから、私達は決めました! 禁足地である王城の地下にて、おとなしくしてもらうと!」

「レックスが無実であるのならば、自然と状況は形になるでしょう。ねえ?」

「そうだ! レックス・ダリア・ブラックに懲罰を!」

「王家に食い込もうとした欲深き罪人に、裁きを!」

 

 ブーイングのようなものと同時に、俺に対する悪意の言葉が叩きつけられていく。そしてミーアは微笑んで、俺をつなぐ鎖を手に持った。

 

「では、最後には私の手で送ってあげましょう。さようなら、レックス・ダリア・ブラック」

 

 そのまま、俺は地下へと連れて行かれた。ミーアに離された後、後ろで扉を閉めたような音が聞こえた。目の前は真っ暗で、ほとんど何も見えない。軽く歩くと、足音だけが響く。そんな中に、大きな気配が広がっているように思えた。

 

「さて、ここからだな。確かに、強い魔力を感じる。邪神の眷属は、すぐそばに居るのだろうな」

 

 その方向に進んでいくと、魔法陣のようなものを感じた。心臓の鼓動のようなものが聞こえて、同時に魔力が広がっている。間違いなく、邪神の眷属だ。

 

 ということで、ミーアに対して通信していく。現状を報告するために。

 

「ミーア、聞こえるか? ここに、邪神の眷属を確認した。封印は、解ける手前だと言って良い」

「じゃあ、レックス君。3日後に封印を解除してくれる? そうしてから、王城の入口に転移させてほしいの」

 

 何気ない口調で、そんな事を提案される。俺はどこかに、空恐ろしさを感じた。王城の入口に邪神の眷属など転移させてしまえば、きっと被害が出るだろう。犠牲者も、間違いなく出る。

 

 にも関わらず、ミーアは平気で提案してきた。その事実が、とても冷たさを感じさせてきたんだ。

 

「だが、そうなってしまえば、王城に被害が……」

「ううん、レックス君への疑いを晴らすことも、必要なことだから。転移できる食料や道具は、私の私室においておくから」

 

 言っている意味は、分かる。俺が地下に送られた直後に闇魔法使いの増加が止まれば、俺が黒幕だという話に信憑性が増す。だから、すぐに邪神の眷属を倒してほしくないのだろう。

 

 そして、邪神の眷属が倒された段階で闇魔法使いが増えなくなれば、黒幕が何者かはハッキリする。王城の入口から現れたのなら、地下とは関係ないと思われる可能性が高い。

 

 なら、どうするか。しばらく悩んで、俺は決めた。俺が黒幕だと思われたのなら、ブラック家のみんなに迷惑がかかる。そのために、ミーアの案に乗ろう。ただし、譲れないことだってある。

 

「……分かった。ブラック家のみんなに、迷惑はかけられないからな。だが、被害を減らす努力はしてくれ」

「もちろんよ! 無実の人を傷つけたりなんてしないわ!」

 

 明るい声で宣言するミーアの声に、少しだけ安心している俺が居た。

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