物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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393話 闇に染まらずとも

 大きな流れに一区切りついて、俺は用意された自室でくつろいでいた。そんな中、急に闇の魔力が観測できた。気を張りながら魔力の出ている方を見ると、ミュスカが居た。

 

 いつの間にか、俺の転移魔法も使えるようになっていたらしい。ミュスカの成長を、強く感じるばかりだ。相変わらずの清楚な笑みを浮かべていて、穏やかな気持ちになれる。

 

 ずっとミュスカは良い子を演じていた。だが、今は演技だけではない気がするな。ところどころ、本心も見せてくれているような気がする。それに、どこか陰が抜けたような気も。

 

 だから、今のミュスカはこれまでよりもずっと親しみやすい。なので、落ち着いて話をすることができた。

 

「久しぶりだな、ミュスカ。そういえば、お前は大丈夫だったのか?」

「大丈夫って、何が? なんてね。事情は聞いているよ。私は問題ないかな」

 

 ミュスカは笑顔で大丈夫だと告げている。邪神の影響を受けていないか、少し気になったからな。闇魔法使いには、邪神の誘惑が訪れる。そんな話があるのだし。

 

 とはいえ、ミュスカの様子に違和感はない。だから、本当に問題ないのだろう。ひとまず、安心できた。

 

「なら良いんだ。邪神の眷属に負けたりしないでくれよ」

「私が負けることは、あり得ないかな。だから、安心してくれていいよ」

 

 ミュスカは胸の前で握りこぶしを作りながら、明るい様子で返してきた。負けることはありえないというのは、表現としては強い気もするが。特にミュスカは、邪神の眷属に一度負けているのだし。

 

 まあ、こちらを安心させようという言葉だということは分かる。それでも、気をつけてほしいものだ。

 

「油断はしないでくれよ。ミュスカに何かあったら、俺は泣くぞ」

「泣いているレックス君は、ちょっと見てみたいかもね。でも、私は強いから」

 

 堂々とした態度で、そう返事をされる。かなりの自信が見えるな。実際、以前には新しい魔法をいくつも使っていた。だから、成長しているという実感はあるのだろう。

 

 それにしても、いつの間に成長したのだろうな。ちょっと見ない間に、びっくりするくらい強くなっていた。

 

「まあ、確かに前より強くなっているよな。何か秘訣でもあったのか?」

「ふふっ、自分を見つめ直しただけだよ。本当の私が分かったからね」

 

 満面の笑みで言っている。ミュスカは演技をしていたことを認めてから、ちょっと雰囲気が変わったよな。以前はただ優しい様子だったのだが、どこか悪さを表に出しているような。

 

 まあ、ミュスカの本性を考えれば、悪さを抱えていても当然なのだが。実際、俺を破滅させようとしていたらしいし。疑っていたのは正しかったと、ミュスカ本人の言葉で証明されてしまった。

 

 だが、今は強く信じることができる。本当の意味で、ミュスカと友達になれたのだろうと。いい転機になったよな。

 

「羨ましい限りだ。俺なんて、ずっと迷ってばかりだからな」

「私にどう対応するかも、ずっと迷っていたくらいだもんね?」

 

 からかうように、ミュスカは告げる。実際、俺はずっと迷っていた。ミュスカは本心では俺に悪意を抱えているのではないかと。同時に、できることならば信じたいと。

 

 中途半端なままで、結局はミュスカを泣かせてしまったんだよな。だから、俺は信じると決めた。いま思えば、危うい判断ではあったのだろうが。それでも、信じてよかったと思える。

 

「悪かったよ……。許してくれとは、言いづらいが」

「もちろん、許しているよ。今あなたが私を大切にしてくれていること。それが一番大事なんだから」

「ありがとう、ミュスカ。今こうしてお前と過ごせること、本当に嬉しいと思っているよ」

「私の魅力に溺れちゃった? 今なら、レックス君を騙せたりしてね」

 

 本気で人を騙せる人間が言うと、冗談にならないんだよな。というか、俺だって原作知識がなければ、ミュスカをただの良い子だと思っていただろう。

 

 まあ、今なら大丈夫だろうが。仮に俺を騙すとしても、俺を傷つけようとしてのことではない。そう信じられる。

 

「いたずら程度なら構わないが、本気で騙そうとするのはやめてくれよ」

「レックス君に悪意をぶつけようとは思わないかな。それだけは、信じてほしいんだ」

「もちろん、信じるさ。他の誰でもない、お前に」

 

 まっすぐにミュスカの目を見て、約束した。すると、ミュスカは軽くため息をついていた。どこか呆れたように。そのまま、ジトッとした目でこちらを見てくる。

 

「そういうところが、口説いているって言われるところなんじゃないのかな……?」

「わ、悪い……。口説いているつもりはないんだ。いや、ミュスカは魅力的だが」

「色々と気にしすぎだよ。別に、口説かないことは魅力的じゃないっていう意味じゃないんだし。分かるよ、それくらい」

 

 優しい目で、俺を見ている。完全に、こちらの意図に気づかれているな。俺の考えていた通りのことを返されてしまった。言ってしまえば、余計なお世話ということなのだろう。

 

 女を口説くキャラだと思われているのは、悲しくはあるが。まあ、身から出た錆というほかない。

 

「言い訳としては、つたなかったか。これからは気をつけないとな」

「もっと口説きっぽい言葉を言っている姿が、想像できちゃうな」

「勘弁してくれ……。まあ、何度も注意されているから、直っては居ないのだろうが」

「別に直さなくて良いと思うよ。私は、面白いと思っているし」

 

 悪い笑みを浮かべながら言っていた。面白いなんて言い回しは、かなり怖いよな。人のことを娯楽として見ているような。特にミュスカが言うと、手のひらで転がせそうみたいな意味に聞こえる。

 

 まあ、転がされたところで、悪いことにはならないと思うが。今のミュスカは、俺を大切な友達だと思ってくれている。それは分かるからな。

 

「なかなかに悪女っぽいな。まあ、そんなところも良いとは思うが」

「言ったそばから口説くの、本当に面白いね。いっそ、本気にしてみようか?」

 

 上目遣いで、そんなことを言われる。ミュスカを本気で口説いたとなれば、色々と大変そうだ。人気者なのは分かっているからな。色んな方向から問題がやってきそうに思える。

 

 まあ、全く信じていないからこそ、今みたいな言葉が出てくるんだろうが。良くも悪くも、俺を強く理解されているよな。やはり、手のひらで転がされているのではないだろうか。別に構わないが。

 

「分かっていて言わないでくれよ……。いや、俺が悪いんだが……」

「可愛いね、レックス君は。もっともっと、見ていたいよ。闇魔法で、繋がっちゃったりして」

 

 闇魔法を応用すれば、監視みたいなことはできるからな。実際、俺だって通話の魔法を悪用すれば、友達のプライベートを全部暴くこともできるのだし。

 

 その気になれば、隠したい情報なんて全部丸裸にできるだろう。だからこそ、闇魔法を持つものには理性が必要なんだ。悪意を持てば、どんなことだってできてしまうのだから。

 

 まあ、ミュスカなら大丈夫だろうとは思う。今のミュスカは、自分の悪意を振り切れたように見えるから。

 

「恥ずかしいところを見られたら、困ってしまうな……」

「今更だよ。レックス君の良いところも悪いところも、みんな知っているんだから。いつか、私のことも教えてあげるね」

 

 そう言う瞬間のミュスカは、とても華やかな笑顔を浮かべていた。未来が楽しみで仕方ないというように。

 

 ミュスカが何を教えようとしているのかは分からない。それでも、期待を抱えて待っていよう。そう考えながら、俺はミュスカに頷いた。

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