物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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12章 未来のために
399話 紹介されるべきこと


 近衛騎士たちと共に戦う事件も終わり、俺はブラック家に戻ってきていた。メイド達の料理に心を落ち着かせたりしながら、久し振りの日常を過ごす。

 

 平和の価値を感じながらも、どこか退屈さも覚えていた。あまり良くない心境ではあるものの、仕方ない部分もあるだろうな。良くも悪くも、激動の日々を過ごしすぎた。今の俺は、言ってしまえば刺激に慣れすぎたのだろう。

 

 とはいえ、当面は刺激から逃れられないのだろうな。原作で待ち受けていた事件は、まだまだある。俺が歪みきってしまわないように、心を強く持ちたい。

 

 そんな中、いつも通りに雑務をこなしながら過ごしていると、秘書であるミルラから話があった。

 

「レックス様、私の方から提案がございます。よろしいでしょうか?」

 

 相変わらず、真面目な顔を崩さない。堅苦しい秘書に見えるが、とても親身に俺を支えてくれている。今の俺を支える右腕と言って過言ではないだろうな。

 

 秘書であるミルラと弟のジャン。このふたりが、実質的にブラック家を運営していると言って良い。俺の仕事なんて、方針を決めて判子を押す程度のものだ。

 

 できるだけ、ねぎらいたいところだが。とはいえ、あまり礼をしても恐縮する姿が見える。忠義心にあついと言えば正しいのだが。少し、申し訳無さもあるところだ。まあ、余計なことをして迷惑をかけるよりマシだと思うしかない。

 

「ああ、構わない。ミルラのことだから、俺やブラック家のことを考えての提案なんだろう?」

「もちろんでございます。レックス様のために一生尽くす心づもりですから」

 

 真剣な顔で言われて、少し困ってしまう。もちろん、助かるとは思っているのだが。正直に言って、仕事にのめり込み過ぎじゃないかと感じる。趣味とか、ちゃんとあるのだろうか。

 

 いや、仕事が多すぎて休憩できない可能性もあるのだが。ミルラが何をしているか、知らない部分も多いからな。無理をしていなければ良いのだが。

 

「とりあえず、休憩はしっかり取るようにな。仕事を任せている身で言うのも何だが」

「生涯レックス様に仕えるために、体など壊していられません。それに、レックス様の魔法もありますから」

 

 まあ、無くした腕を治せる魔法まで持っている。健康を維持するための魔法も、いくつか用意している。だから、最悪の場合の備えはあるのだが。とはいえ、だからといって無理をしてほしくはない。ミルラが替えの効かない存在であることもそうだが、何よりも大切な相手だからな。

 

 とはいえ、俺が命令するのも筋が違う気がする。あくまでミルラの意思が大事だからな。仕事が楽しみだというのなら、過労にならない限りは止めない。それも必要なことだろう。

 

「魔法はあくまで最終手段であることを、忘れないでくれよ。常用するのなら、止めるからな」

「かしこまりました。では、レックス様。本題ですが、私の母校である、アカデミーに興味はありませんか?」

 

 スヴェルアカデミーという学問機関が、ミルラの母校だ。魔法を使えない人の拠り所だと、軽んじられている場でもあるな。

 

 俺の知っている限りでは、かなり高度な技術を持っていたはず。だが、魔法使いを優先する価値観のせいで認められていない。そんなところだった記憶がある。

 

 科学的な研究をしており、先進的な理論を立てていると聞いた。前世で言う大学に近いな。

 

「確か、学問をかなり追求しているんだってな。なら、勉強になる可能性はあるか」

「素晴らしい向上心でございます。ですが、別の狙いですね。当てがあるので、何人かを雇ってみませんか?」

 

 どの分野のどんな相手を雇うかで、役割が変わってくるからな。一概には判断できない。とはいえ、ミルラが話を持ってくるあたり、ジャンも賛成しているのだろう。

 

 なら、基本的には前向きに考えておけばいい。俺の仕事は、ミルラやジャンといった仲間に裁量を預けて、その責任を取ることなのだから。

 

 まあ、ミルラやジャンだって間違えることはある。だから、確認も必要だな。

 

「ミルラが信頼できる相手だというのなら、構わない。とはいえ、ジャンにも見て貰うし、俺も判断するが。任せっきりは、良くないからな」

「かしこまりました。では、そのように。ミーア様に紹介状を用意していただきますね」

 

 当たり前のように言われて、かなり驚いた。仮にも王女に、ただの秘書が書類を用意させられるのか。俺の贈ったアクセサリーを使って、裏で通話をしている様子だな。まあ、有効活用してくれているのだから文句はない。

 

「おいおい、いつの間に紹介状なんて用意してもらえる関係になったんだよ。俺より近づいていないか?」

「ふふっ、私の仕事をお忘れですか? レックス様を雑務でわずらわせないために、私が居るのです」

 

 笑顔を浮かべながら、冗談めかして言われた。まあ、俺の役割は魔法を使うことくらいだからな。そういう意味では、正しい判断だろう。

 

 知らないところで何かが決まっていそうなのは、少しは怖い。だが、ミルラの忠誠も、ミーアの友情も疑うつもりはないからな。だから、大丈夫だろう。

 

「つまり、王家との交渉なりなんなりをしていると。助かりはするが、驚いたな」

「レックス様の手が必要であれば、事前に報告いたしますので」

 

 例えば知り合いに手を貸している時に、俺の予定が勝手に決まっていたら困る。とはいえ、貴族というのは先の先まで予定を決めているものだろう。前世でだって、社長というものは自分の意志だけでスケジュールを決められないという認識だったのだし。

 

 ある程度は相手の都合で予定が決まってしまうのは、仕方のないところだよな。まあ、納得だ。

 

「ああ、頼む。というか、今回の件は事後じゃないか? いや、責めている訳ではないが。空いているのが分かっていてのことだろうし」

「レックス様の予定は、すべて把握しておりますので。きっと、今回は楽しんでいただけると存じます」

 

 ミルラは柔らかい笑みを浮かべている。相当自信があるのだろう。アカデミーというのは、よほど面白い場所なのかもしれない。あるいは、ミルラの知り合いが。

 

 いずれにせよ、ブラック家の役に立つというのなら、俺に断る理由はない。

 

「なら、期待しておくよ。アカデミーには、連絡してあるのか?」

「ええ。教授や生徒の一部は、すでに乗り気なものもおります」

 

 勝手に話が進んでいる。今から俺が断ったとして、問題になったりしないだろうか。もう、受けるしかないんじゃないか?

 

 まあ、問題はないか。俺の意思だけが後回しにされているだけ。準備そのものに滞りはないだろう。そこは信じている。

 

「外堀を埋めるのがうまいことだ。まあ、悪くない。俺としても、手が必要なのは分かるからな」

「理解していただき、感謝いたします。今後とも、レックス様のために粉骨砕身いたします」

 

 そう言って、ミルラは深く頭を下げる。やはり、強い忠誠心を感じるところだ。ミルラの誇れる主であるように、頑張っていきたい。

 

 アカデミーでも、しっかり成果を出さないとな。せっかく頑張って用意してくれたのだから。

 

「さて、まずはアカデミーで何をするかを決めないとな。話す相手とか、候補は居るのか?」

「ええ。私の友人に、ちょうど良いと思われる相手がおります。紹介させていただきますね」

 

 ミルラは穏やかに微笑んでいる。その顔を見る限り、かなり信頼しているのだろう。ぜひとも会ってみたいところだな。

 

「ミルラの友人なら、期待できそうだな。楽しみにしているよ」

「ありがたき幸せ。では、計画を固めておきますね」

 

 もう一度頭を下げ、ミルラは去っていく。さて、アカデミーか。どんな場所なのか、楽しみにしている俺が居た。

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